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その因果関係、本当につながってる?(因果関係のロジックチェック)

こんにちは。ゴール・システム・コンサルティングの但田(たじた)です。言葉で意思疎通するための「7つのCLR(※)」の、考え方と使い方についての連載5回目です。このシリーズは、TOC(制約理論)の知識の有無に関係なく、お仕事や日頃のコミュニケーションに役立つ内容なので、多くの方にお読みいただけたら嬉しいです。

はじめに

今回からは、単独の文章に使うCLRではなく、複数の文章の組み合わせの話がでてきます。今回は「因果関係のCLR」を詳しく見ていきます。

CLR(シーエルアール)とは…「Categories of Legitimate Reservations」という英語の略称で「言っていることが妥当で、筋が通っているかどうか」を検証するための7種類のチェックポイントのことです。
詳しくは連載1回目をご覧ください。

▼これまでの連載は、但田のマガジンからまとめてご覧いただけます。

CLR③因果関係の存在についての懸念
( causality existence reservation )

原因と結果…因果関係が存在するのか?を確認する

CLRの3つ目は「因果関係の存在(causality existence)についての懸念」です(※この記事では「因果関係のCLR」と略します)。

「因果関係のCLR」は、因果関係として表現されている2つの要素のつながりが「本当に因果関係なのか?」を問う時に使います。なお、因果関係とは、前回お話したとおり、「原因と結果の関係」のことです。

CLRの考え方の元となっている「TOC思考プロセス」では、因果関係がある2つの文章を「もし~ならば、結果として~である(If… , then…)」と音読します。このように音読して、耳で聴いて違和感を覚えるかどうかをチェックすることは、簡易的な因果関係チェックとして有効ですので、ぜひ試してみてください。

紛らわしい「相関関係」と「因果関係」

因果関係と混同されやすいものとして相関関係があります。相関関係は、2つの要素が、お互いに関係し合っている状態を指していますが、因果関係は、「原因」側が「結果」側に影響を及ぼしており、関係は相互ではなく一方行です。また、因果関係は時系列で並べたものとも混同されやすいですが、ただ時間に沿って並べてあるだけでは、因果関係とは異なります。

※相関関係と因果関係の違いが、丁寧に説明されている記事がありましたのでリンクしておきます。

「因果関係のCLR」の質問の例:つながってる?

「因果関係のCLR」で表現を精査した例
(H・ウィリアム・デトマー著『ゴールドラット博士の論理思考プロセス』
80ページ図4.5を参照し、筆者作成)

「因果関係のCLR」について相手に質問をする時の基本形は「つながっていますか?」や、「因果関係が遠くありませんか?」です。

CLRの考え方の元となっている「TOC思考プロセス」では、上図のように、単独の文章をボックスに書き、それを矢印で下から上につなぐことで、因果関係を表現します。ボックスの下側が「原因」で、上側が「結果」です。

先ほどご紹介した音読方法で読み上げると、上図の左側は「もしも税金が上がっているならば、結果として、私は新しい車を買うことができない」となります。この音読を聴くと、「あれ?ロジックのつながりが少し遠い感じがするな」と、違和感を覚える方も多いかと思います。

そこで、右の図のように、中間の要素を補うことで、より違和感がない因果関係で説明することが可能になります。

とはいえ(毎回言っていますが)、このような質問をそのままするのは、上図のようにロジックの記述をチェックする時ぐらいで、日常の中ではあまり使いません。

実際に誰かが語った因果関係に対して違和感を覚えた時には、「今おっしゃったお考えを、もう少し詳しく教えてもらえますか?」などと質問して、相手の意図を探ったりするのが現実的な使い方だと思います。

「因果関係のCLR」は何のために使うのか?

「○○を食べれば、ダイエットできる」とか、「○○を大切にすれば、病気が治る」など、世の中には「因果関係っぽい説明」が溢れています。
因果関係のCLR」を意識するようになると、相関関係を因果関係と取り違えて、不本意な買物や意思決定をするリスクを減らすことができます。

とはいえ「因果関係のCLR」では、音読してロジックのつながりが遠いかどうかをチェックする程度なので、実は「因果関係のCLR」単体では、十分な効力がありません。「違和感を覚えた因果関係を、具体的にどう改善するか?」については、レベル3のCLR(「原因不十分」「追加的な原因」「因果の逆転」「予想される他の結果の存在」)が、とても役に立ちます。これらのCLRも順次取り上げていきますので、ぜひ続編にご期待ください。

「因果関係のCLR」でチェックする項目:つながりがわからないことを放置しない

相手が因果関係っぽく「○○だから、××なんだよ」などの口調で喋ることはよくあります。しかし、相手の話をしっかり理解しようとすると、「相手の言っている因果関係がいまいちピンと来ない」ということもまた、しょっちゅうあります。

聞き流すだけの世間話であれば、それでも良いかもしれませんが、仕事上ではそうもいきません。因果関係で説明したことに対して、聞き手が了承すれば、話し手は、自分の考えが理解されたと解釈するはずです。そうなると、後になってから「実はよくわかっていない」とは言いにくくなります。因果関係を理解できていないと「どういう目的のためにその仕事を依頼されているのか」といった、仕事の背景もよくわからなくなってしまいます。

「因果関係のCLR」も、実務上は「明瞭性のCLR」と同様に、相手の言いたいことをしっかり理解するためにも、しっかり意識に置いておきたいCLRです。

「因果関係のCLR」の、ビジネスでの活用:お互いのロジックの距離感の違いを意識する

私は、因果関係でロジックをつないで考える研修をよく担当しているのですが、受講者の職責や立場によって、「原因と結果のロジックを、どれくらいの距離感でつないでいくのか」は、かなり違っています。

因果関係をどれくらいの距離感でつなぐべきかということに、一律の正解があるわけではありません。例えば、入社したての人に、ある業務の内容を説明する場合は、かなり細かく因果関係を説明しないと、理解してもらえないかもしれません。

一方で、大きな会社で企業全体の戦略を話す時に、現場作業のひとつひとつの因果関係から説明しようとしたら、到底、全体像まで辿り着けなくなってしまいます。

大切なのは、その人が置かれた立場や、その人が見ている業務範囲の大きさによって、ほど良いと感じる因果関係の距離感が違う、ということを理解しておくことです。

たとえば、ある部門のマネージャーさんが語る「○○が××だってことは、△△になるってことだろう」といった因果関係の説明が、若手社員にとっては、ロジックが飛び過ぎているように聞こえて、さっぱり理解できないといったことはよくあります。

同様に、上司側は要件だけを報告して欲しいのに、報告する部下が因果関係を事細かに説明しようとしすぎて、話がかみ合わないようなケースも日常茶飯事でしょう。

「ちょうど良い」と感じる因果関係の距離感は、人によって違うということを理解した上で、相手が理解できるように話ができているかをセルフチェックする上でも「因果関係のCLR」は役に立ちます。

なお、ロジックツリーを「因果関係のCLR」でチェックしながら作り込んでいくと、「どこまで精緻にすれば良いのか?」が分からなくなってしまうことがあります。因果関係は、細かくつなごうとすると、どこまでも細かくしていけるからです。

このような時は「関係者が理解できる程度でOK」という言い方を、私たちはしています。たとえば、日頃一緒に業務を行っているチームメンバーに何かを伝えるためのロジックツリーであれば、メンバー間で理解できる程度でOKです。もしも、ここで求める要件を「業界知識ゼロの人でも理解できるように」などとすると、ロジックが相当細かくなってしまいます。

因果関係を精査する視点は大事ですが、あくまで、目的はそのロジックツリーを使って、関係者と合意形成したり、意図を理解してもらうことです。因果関係をキレイにつなぐことに執着しすぎて、目的を見失わないようには注意しておきたいところです。

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ここまでご覧いただきありがとうございました!
次回からは、レベル3のCLRということで、「因果関係のCLR」で違和感を覚えた時に、どうロジックを改善するかの具体的な観点をご案内していきます。まずは「原因不十分のCLR」を取り上げます。引き続きよろしくお願いいたします。

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