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原因と結果をあべこべにして失策を打たないようにする方法(因果逆転のロジックチェック)CLR連載⑧

こんにちは。ゴール・システム・コンサルティングの但田(たじた)です。言葉で意思疎通するための「7つのCLR(※)」の、考え方と使い方についての連載8回目です。このシリーズは、TOC(制約理論)の知識の有無に関係なく、お仕事や日頃のコミュニケーションに役立つ内容なので、多くの方にお読みいただけたら嬉しいです。


はじめに

今回もレベル3のCLR=表現をより良くするためのCLRです。今回は「原因と結果の逆転のCLR」を詳しく見ていきます。(CLRのレベルについて詳しく知りたい方は連載4回目をご覧ください)

CLR(シーエルアール)とは…「Categories of Legitimate Reservations」という英語の略称で「言っていることが妥当で、筋が通っているかどうか」を検証するための7種類のチェックポイントのことです。
詳しくは連載1回目をご覧ください。

▼これまでの連載は、但田のマガジンからまとめてご覧いただけます。

CLR⑥原因と結果の逆転についての懸念
( cause-effect reversal reservation )

原因と結果が逆ではないか?を確認する

CLRの6つめは「原因と結果の逆転( cause-effect reversal )についての懸念」です。(※この記事では「原因と結果の逆転のCLR」と称します)
「原因と結果の逆転のCLR」は、2つの要素の因果関係が語られた時に「原因と結果が逆ではないか」を確認するCLRです。

このCLRは、具体例でイメージしてもらうとわかりやすいので、まずは図解を示します。

原因と結果の逆転を修正した例
(当社ジョナコーステキストより引用)

上記の例は、原因と結果の逆転を示すたとえとしてよく使われます。左の図を音読すると「もし、煙が家から出ているならば、結果として、家が火事である」となります。耳で聴くと、あまり違和感がないかもしれませんが、これは「目に見えたことを順番に述べている」のであって、因果関係としては正しくありません。

原因と結果の関係としては、右図の「もし、家が火事であるならば、結果として、煙が家から出ている」の方が正しいです。

このように、因果関係のロジックをつないでいると、原因と結果を逆に捉えてしまうことがあります。原因と結果を取り違えてしまうと、その後の防止策なども機能しないため、このCLRの観点が重要です。

「原因と結果の逆転のCLR」の質問の例:因果が逆じゃない?

「原因と結果の逆転のCLR」について相手に質問をする時の基本形は「原因と結果が逆ではありませんか?」です。

ここで、質問と合わせて押さえておきたいのが、質問をされた後の対応についてです。

CLRの元になっているTOC思考プロセスにおいては、ロジックをチェックするために、音読して違和感をチェックすることが推奨されています。
この「音読によるロジックチェック」はとても有用ではありますが、音読ですべてのCLRをチェックできるわけではありません。「原因と結果の逆転」は、その一例です。

先ほどの、火事と煙の左側の例を音読しても、違和感を持つ人は少ないのではないでしょうか。「あ、煙が出てる!あそこで家事が起きているみたいだ」というように、目に見えたことを順番に喋ることは、日常的に行われているからです。

火事と煙のケースでの因果関係を正しくとらえるためには、「火がつくと、そこから煙が出る」という事実を知っている必要があります。そして、もしも自分自身にその知識がなければ、調べたり、有識者に聞くなどして、事実を確認する必要があります。

音読だけを過信することは、CLRの有用性を損ねることにもつながります。この記事をご覧になった皆様には、「CLRは音読チェックだけで成り立つわけではなく、事実実態の確認も大切」ということを、ぜひご記憶に留めておいていただけたらと思います。

「原因と結果の逆転のCLR」は何のために使うのか?

「原因と結果の逆転のCLR」が大切なのは、因果を取り違えると、対策の打ちどころも間違えてしまうからです。下図でそのイメージをお伝えします。

原因と結果を逆転しやすい例
(H・ウィリアム・デトマー著『ゴールドラット博士の論理思考プロセス』
86ページの記述を参照し、筆者作成)

左図は、表出している3つの症状をもとに、虫垂炎という診断をしています。ここで手を打つべきは、原因である「虫垂炎」の方です。もしも、この原因に気付かずに、痛み止めや解熱剤を飲むなど、結果側にアプローチをしていたら、いつまで経っても病状は改善せず、どんどん悪化してしまうことでしょう。

「原因と結果の逆転のCLR」の観点を持っておくことは、このような致命的な取り違えを防ぐために、とても大切です

「原因と結果の逆転のCLR」でチェックする項目:実体がない要素は要注意

✔ 「目に見えたことを順番に言っているだけ」ではないか?

「原因と結果の逆転のCLR」でチェックすべきことのひとつめは、前述の通り、「目に見えた順番で記述しているだけなのか、それとも、因果関係なのか」です。さきほどの、火事と煙の図解がその一例ですが、下図のような因果逆転もよくあります。パッと見では、違和感がないだけに要注意です。

「因果逆転のCLR」で表現を精査した例
(H・ウィリアム・デトマー著『ゴールドラット博士の論理思考プロセス』 86ページ
図4.9を参照し、筆者作成)

✔ 目に見えない事象を、安易に因果関係扱いしていないか?

目に見えない事象を含めて因果関係を語る時にも、「原因と結果の逆転のCLR」のチェックが必要です。たとえば、「Aさんが仕事ができないから、○○案件がうまくいかない」といったケースです。この場合、本当に、「Aさんが仕事ができない」ことが原因なのか、しっかりと事実を把握する必要があります。

特に、人の資質や能力を因果関係に組み込もうとすると、正しいのか正しくないのかよくわからない、言ったもの勝ちな論理になりがちですので注意が必要です。なお、「目に見えない事象」を組み込んだ因果関係をチェックする際には、次回紹介する「予測される結果のCLR」が役に立ちます。

「原因と結果の逆転のCLR」の、ビジネスでの活用:本当に対処すべき原因を見付ける

虫垂炎の事例で示したように、表面的に見えている結果を、原因と取り違えて対処してしまうと、いくら対策を打っても根本原因を取り除くことができません。「原因と結果の逆転のCLR」の観点を持っておくことは、本当に対処すべき原因を見付けるために大切です。

以下の図解の左図では、業務がうまくいかないことは「Aさんが担当しているから」だと考えています。原因をAさんのせいだと考えた場合は、対処としては「Aさんを担当から外して、別の人にする」などが考えられます。

もしかしたら、それで問題が解決するのかもしれません。しかし、業務がうまくいかないと、すぐに担当替えをするという対応は、メンバーの士気への影響など、ネガティブな副作用も予想されます。業務プロセスがわかりにくかったり、判断基準が曖昧だったりしないか、そもそもの業務の進め方に何か問題がある可能性を考えた方が妥当ではないでしょうか。

原因と結果を取り違えて、対策を打った例
(筆者作成)

人による仕事の巧拙は実際にあるのでしょうから、左図のような因果の認識が100%間違いであるとは申しませんが、限られた人員を有効活用し、組織をより良くしていくためには、左図のように因果関係をとらえることは、あまり効果的ではないと私は思います。

「原因と結果の逆転のCLR」の私なりの使い方:愚痴を聞くときと、解決を考える時で切り替える

組織のマネージャーの方や、中小企業の経営者さんの悩みを聞いていると、よく出てくる決まり文句があります。「ウチの社員は考えない」とか「ウチの社員には主体性が無い」など、うまくいっていない現状を、そこにいる人の資質のせいにする発言です。
しかしおそらく、社員の方が考えなかったり、主体性に欠けるように見えるのは、その組織運営の結果であって、原因ではないことでしょう。

実際、私が中小企業支援をしていた頃も、社長さんから「ウチの社員は考えなくて…」と愚痴を聞くことが頻繁にありました。しかし、実際に社内会議や面談に参加して皆さんの話をよく聞いてみると、実は、それぞれに考えていたり、貢献意欲があったりするというケースがとても多かったです。

とはいえ、心を許す相手に、時には愚痴や悩みを言いたいというマネージャーさんや経営者さんの気持ちを、ロジックだけで断じるのもまた、誰も幸せにしないのではないかと思います。

私の経験上では、多くの場合、「ウチの社員は…」という愚痴をひとしきり吐き出した後は、皆さん「それでは、これからどうするか?」という視点に切り替わっていきます。そこからは、組織の運営のどこが「ウチの社員は考えない」といった状況を生み出しているのかを議論できるようになっていきます。

このように、改めて考えてみると、目に見えない事象が絡む因果関係において、何を原因とするかを考える際には、意志の問題を避けて通ることはできないと思います。

根本原因を「人の資質や外部環境のせい」にしている間は、とめどなく愚痴が出てくる一方で、自分は苦しくありません。一方、根本原因を「組織の運営や、自分のやり方のせい」だと認識しようとすると、直視したくない現状と向き合う苦しさが生じます。根本原因を直視して受け入れることは、時に、勇気や覚悟が必要です。

「可燃物があって、酸素があって、熱源があるならば、結果として、火が付く」のように、疑いようがないほど精緻なロジックを、人の気持ちなどが絡む実際の組織運営において組み上げることは、現実的には不可能です。

ロジックは私たちにとって大きな武器になりますが、ロジックだけで頬っぺたをひっぱたいたからと言って、人の心を動かせるわけではありません。時に非論理的な感情にも寄り添いつつ、冷静に考えるべき局面で筋が通った考え方ができるように、CLRを自分の引き出しに常に持っておけると良いのではないかと、私は思っています。

ここまでご覧いただきありがとうございました!
7つのCLRも、いよいよ残りひとつです。次回は「予測される結果のCLR」を取り上げます。引き続きよろしくお願いいたします。

▼CLR総まとめ記事も作成しました!

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