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東海エリア、高校生の枠を超えて進化を続けるタツヲ焼きの"SEASON3"

シーホース三河ホームゲームで地元高校生が企画・販売を行う、人気アリーナグルメ「タツヲ焼き」。"SEASON3"は、「高校の部活動」という枠をはみ出した活躍を当時高校1年生たちがやってのけます。アウェーゲームの取材も含め、ライターの山田智子さんに取材・執筆していただきました。
※過去の記事をお読みいただけると楽しんでいただける内容になっていると思います。お時間のある方はぜひ一読ください。(シーホース三河note事務局)

タツヲ焼きシーズン年表

約束した時間の5分ほど前に高浜高校に到着すると、校門の前でふたりの高校生が待っていた。
「シーホース三河の方ですか? お待ちしておりました」
「今日は取材に来てくださってありがとうございます」
部員たちが待つ教室へ向かいながら、彼らがまだ1年生と聞いて驚いた。そして、初対面の大人にも物おじしない堂々とした態度に頼もしさを感じた。

2019-20シーズンに販売が始まったタツヲ焼きは、いまでは毎シーズン5000個以上を売り上げるシーホース三河の名物グルメになった。収益で子どもたちを試合に招待する地域への貢献が評価され、「第5回全国高校生SBP交流フェア」では最高賞の「文部科学大臣賞」に輝くなど多くの賞を受賞してきた。

しかし、彼らは決して満足することはなかった。「もっと多くの人を笑顔にしたい」と、オリジナルタツヲ焼きを作るワークショップを開催したり、新しいデザインの焼き型の増設したり。シーホース三河のホームゲームにとどまらず、販売場所を増やすなど活動の幅を広げてきた。
トッピングも、餡子やカスタードの定番からアウェーの高校生とのコラボレーションで誕生した惣菜焼きまで様々だ。

正直言うと、筆者は、タツヲ焼きプロジェクトも5シーズン目となり、そろそろアイデアが出尽くしたのではないかと考えていた。しかしそれは、全くの杞憂だった。高校生の可能性は、筆者の想像を軽やかに超えていった。

1年生から“主力”を担い、トラブルにも慌てず対応

2023年に入学した6期生は1学年上の先輩がいなかったため、1年生ながら“主力”として2023-24シーズンのホームゲームでの販売の第一線に立ってきた。歴代最多の11名という人数も強みだが、それ以上に一人ひとりが部活を通して実現したいことが明確で、時に喧嘩に発展することもあるほど活発なコミュニケーションを図っている。高浜市の高橋貴博さんによると、「一番元気で賑やかな学年」だそう。

パワフルな6期生は2024年3月2日の大阪エヴェッサ戦で目標である5000個を過去最速で達成すると、2年生に進級して早々の4月6日に国立代々木競技場 第二体育館で開催されたアルバルク東京戦でのアウェー販売で次なるステージへと進んだ。

この出張販売では3つの新たな試みに挑戦した。そのひとつが初の“カラフルタツヲ焼き”。トッピングではなく、初めて生地に手を加えたのだ。

「どちらのチームのファンにも喜んでほしい」とシーホース三河のチームカラーである「青いタツヲ焼き」とアルバルク東京のチームカラーの「赤いタツヲ焼き」(ともにカスタードクリーム味)を用意した。

赤いタツヲ焼き

「温度や時間を変えて、何通りも試し焼きをしたのですが、いつも通りの焼き加減と温度で問題なかったので、焼きに関してはそれほど苦労することはなかったです。ただ青は食欲が減退する色と言われているので、どれくらいの量を入れるかについては試行錯誤しました」と部長の西村響さんは話す。

期末テストの勉強に加え、4月27日佐賀バルーナーズ戦での親子招待の準備、新入部員勧誘プレゼンの準備などのタイミングが重なり、慌ただしく準備を進めていた中、さらに3月末に予期せぬ事態が発生する。

紅麹成分の含まれる食品による健康被害が問題になったのだ。タツヲ焼きには紅麹色素は使用していないが、「色素自体に抵抗感を持つ人がいるかもしれない」という気遣いから、赤と青以外にノーマルバージョンのタツヲ焼きも販売することを決断した。

ふたつ目の"初めて"はレンタルキッチンカーで調理したことだ。アウェーの会場では、それぞれ食品製造・提供に関する営業条件が異なる。例えば千葉ジェッツ戦では、会場内での調理ができなかったため、アリーナ近くのレンタルキッチンで製造・梱包し、会場では販売のみという方法を取った。今回はテントでプロパンガス調理ができなかったので、キッチンカーを手配した。

2024年4月6日 国立代々木競技場 第二体育館で開催されたアルバルク東京戦

部員たちは皆、キッチンカーでの調理を楽しみにしていたが、これが一筋縄ではいかなかった。
「ガス台に霜がついてしまい、火がつかなくて。タオルにお湯をかけて何回も拭いて、ようやく火がつくようになりました。開場前にもう少し多くストックを作っておきたかったのですが…」と準備中の西村さんは少し不安な顔をしていた。

開場と同時に、両チームのファンがタツヲ焼きを目掛けて走ってきた。多い時には50人近くが列を作ったが、それでも部員たちは慌てなかった。「列が3回折り返すくらい並んでしまって、開場前に準備していたタツヲ焼きがすぐになくなってしまったのですが、全員で声をかけ合いながらいつもよりミスなく焼くことができました。ガス台のトラブルがあった中でも順調に販売できたと思います」(西村響)。

彼らが落ち着いて調理できるのは、多い時には1日800個以上のタツヲ焼きを販売してきた実績と自信があるからだ。なるべくお待たせしないで販売できるようにと、「チューチュー」と部員たちが呼んでいる、生地を流し込む調理器具を収益で新たに購入するなど改善を重ねてきた成果でもある。
売上を伸ばし、その収益によって業務改善を行い、さらに売上を上げる。高校生たちは大人顔負けのビジネス手腕を発揮している。

ビジネスマッチングにより、新たな取り組みを実現

福祉科の生徒も多い高浜高校SBP班は、これまでもホームゲームに障害のある子どもたちを招待したり、高齢者福祉施設を訪問したり、福祉に関わる活動に積極的に取り組んできた。
アルバルク東京での出張販売では、初めてアウェーで障害のある子どもの試合招待を実施した。

事のはじまりは、1月まで遡る。高浜高校SBP班がファイナリスト15組に選出された「第7回日経ソーシャルビジネスコンテスト」の最終審査会。優秀賞を受賞した乳幼児向けインクルーシブブランド IKOU(イコウ)を製造販売する株式会社Halu代表の松本友理さんのプレゼンテーションを聴いた西村さんが、「一緒に何かできませんか」と声を掛けたのだ。

「IKOUポータブルチェア」は、運動機能障害により体幹が弱く、座る姿勢に困難を抱える子どもとその家族の「外出しづらい」という課題を起点に生まれた折りたたみ式のキッズチェア。アルバルク東京のホームゲームでは「IKOUポータブルチェア」が5台導入されており、先着順で貸し出しを行っている。

「最終審査会の時点で、アルバルク東京 vs シーホース三河の試合でのタツヲ焼き出張販売が決まっていたので、この機会にぜひIKOUポータブルチェアを活用して障害のあるお子さまをご招待する企画を実施したいとお話させていただきました」(西村響)

アルバルク東京の協力もあり、株式会社Haluと高浜高校SBP班のコラボレーションによる「IKOUポータブルチェア」を活用した障害をお持ちの子どもとその家族1組の招待企画が実現した。

参加したご家族は「今まではスポーツ観戦に行くのにもどうしたらいいかわからなかったのですが、今回の取り組みに家族で参加させていただき、一緒の席に並んで試合を観戦し、タツヲ焼きを美味しく食べて、とても充実した休日を過ごせました。
高浜高校の生徒さんたちの取り組みは、『立派だな』というのが一番の感想です。地域を笑顔にしたいと考えても、実現するのは難しい。高校生ならではの視点と思考で、とてもナチュラルに実践しているのが素晴らしいと思います。
このような生徒さんたちがいることが三河の強みになっているはずです。
タツヲ焼きは息子も一口食べたら、『もっとくれー!』とやみつきでした。また食べたいです」と感謝の言葉を口にした。

西村さんは「1歳のお子さまをご招待しましたが、試合を楽しんでいただけてうれしかったです。アウェー戦の観戦招待は、初めてのことでしたが、これをきっかけに、全国の子どもたちにも笑顔をお届けしたいと思いました。シーホース三河のホームゲームでもボーダレスで子どもたちに笑顔を届けていきたいです」と決意を新たにしていた。

高校生の枠にとらわれない、新たなチャレンジも

ところで、このビジネスマッチングのきっかけとなった「日経ソーシャルビジネスコンテスト」への出場も今年度初めて挑戦した試みだ。
毎年参加している「全国高校生SBP交流フェア」では、今年もプレミア部門「ゴールド」、特別賞「百五総研賞」受賞することができた。
しかしながら、経費を収益から捻出できるまでに事業として独り立ちし、業務改善・効率化やビジネスマッチングなど、高浜高校SBP班の取り組みは既に高校生の枠に収まりきらなくなってきている。そこで、高浜市の高橋貴博さんは「高校生のフィールドにとどまらず、大人のビジネスコンテストで力試しをしてみてはどうか」と提案。「日経ソーシャルビジネスコンテスト」にトライしたところ、応募総数462件の中から15組のファイナリストに選出された。

1月に開催された最終審査会に臨むにあたり、タツヲ焼きの立ち上げ時から伴走してきたシーホース三河の福澤孝さんがメンターとしてプレゼンテーションのブラッシュアップをサポートした。

「彼らはまだ1年生で、全速力で走り続けている活動を引き継いでがむしゃらに活動してきたところがありました。ですので、いま一度、このプロジェクトは誰のため、何のために行っているのか言葉にしましょうというところからはじめました」(福澤孝)

まずはグループディスカッションであらためて自分たちのありたい姿を話し合い、チーム全員で共通言語を作り上げた。
それだけではなく、福澤さんは相手のことを理解することの重要性を伝えた。「日経さんがこのコンテストをどのような目的で開催しているか知ることによって、プレゼンテーションでの訴求ポイントは変わります。この考え方は、今回のプレゼンに限らず、彼らが将来どのような職業についても役に立つ考え方ではないかと思っています」。
今回は残念ながら受賞には至らなかったが、福澤さんは「6期生は個性的な子が多く、グループワークでもぶつかることがあったのですが、コンテストやアウェー販売を経てチームワークが良くなっていくのがわかりました。結果よりも、新たな挑戦が彼らの成長につながったということに大きな意味があると思います」とポジティブに捉えている。

プロジェクトについて語る福澤

6期生は現在2年生。この1年間の経験を糧に、2024-25シーズンはどこまで活動を広げていくのか。きっとまた、我々の想像を軽やかに超えていくのだろう。


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