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【ストーリーとしての競争戦略編22:戦略ストーリーを読解する3 ”ガリバーの戦略を5Cで見てみる 後半”】

引き続き一橋大学の楠木健教授の「ストーリーとしての競争戦略」について対話形式を使って解説していきます。本マガジンのこれまでの投稿は上記に入れています。

前回のザゴール2編マガジンで製造から事業管理部への兼務となり、思考プロセスでの問題解決をについて学んだ紫耀(ショウ)は、関連子会社の社長をしている健にたまたま会います。お互いたまた本社出張だったようです。そこで、よい戦略とは何かについて議論を開始します。そして、オンラインで、勉強会をしていくことになり、オンラインで毎日実施しています。これでで第5章まで学びました。今回は第6章「戦略ストーリーの読解」の第3回目です。1回目はガリバーのアクションを純粋に羅列しました。今回は2回目の続きでアクションを戦略ストーリとして見直していきます。

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🧒:おはようございます。

👱🏼‍♂️;おはよう。今日は、6章の続きだ。ガリバーのストーリーの読解を続けていこう。前回は5Cでいう、競争優位(competitive advantage)、コンセプト(concept)、構成要素(Components)について解説した。今日は、一貫性(Consistency)とクリティカルコア(Critical Core)について話していこう。


◆ストーリ一の一貫性

👱🏼‍♂️;一貫性についても見ていこう。ガリバーの戦略ストーリーを整理したものが下記の図だ。ストーリーのクリティカル・コアである「買取専門」とゴールである「コスト優位」がさまざまな因果論理でつながっていることがわかる。

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🧒;結構複雑ですね・・。すごいな。。これを実践してしまうとは・・・。

👱🏼‍♂️;コスト優位へと向かう因果論理は、その時点で発生する直接的な効果と、やっているうちに徐々に効いてくるダイナミックな効果に分けて考えることができる。オークションでのBtoB取引に特化すれば、「展示場を持たない」「本部一括査定」「7-10日
間の短期在庫」が可能になる。これらの構成要素は人件費や展示場のコスト、在庫のコストとリスクを即座に大きく削減することになるから、コスト優位につながる直接的な効果といえる。

🧒;一方、ダイナミックというと・・。

👱🏼‍♂️;ダイナミックな効果とは、オペレーションが拡大するにつれてさらなるコスト低減が期待できるという論理を指している。店舗で相対査定をしないので、現場のオペレーションが複雑なノウハウなしでもできるようになる。加えて、展示場を持つ必要がないので店舗の規模は小さくて済む。こうしたことがフランチャイズ方式を活用した急速な出店を可能にし、買取台数拡大につながるってわけ。


🧒:おお。そうすると、本部一括査定による透明な価格決定や出張査定対査定をしないので、簡単なネットワーク端末を持っていけば出張査定ができる。ユーザーの満足や利便性を高め、これもまた買取台数の拡大に貢献するというわけですね。そもそも従来のやり方に比べてコスト優位を構築できれば、その分相対的に高い価格で買い取れるわけか・・・。好循環だ・・・。そして規模の経済になっていくと。

👱🏼‍♂️;改めてだが、戦略ストーリーの評価基準はストーリーの一貫性 (consistency)にある。一貫性の次元としては、ストーリーの「強さ」「太さ」「長さ」の三つがあったな。強くて太くて長い話であるほど「優れたストーリー」だといえる。ストーリーが「強い」ということは、因果論理の蓋然性が高いということだ。「うまくいけばそうなるだろう」という楽観的な期待に寄りかからなくても、オークションでの卸売に特化すれば、「展示場を持たない」「本部一括査定」「7-10日間の短期在庫」といった打ち手は論理的に実現可能だし、そうなればこれまでのやり方よりも確実にコストやリスクを下げることができまる。

🧒;次に太さですね。「太さ」とは、構成要素間のつながりの数が多いということを指していたと思います。要するに一石で何鳥にもなる構成要素があれば、ストーリーは太くなるということでしたよね。

👱🏼‍♂️;ストーリーのクリティカル・コアである「買取専門」は、コスト優位につながる「強い」打ち手であると同時に、ストーリーを「太く」しているんだ。小売をやめてオークションへの出品に専念すれば、いくつもの打ち手が同時に可能となるんだ。しかも、「買取専門」から出てくる複数の構成要素がお互いに必要とするような関係で結びついている。

🧒;なるほど。次は「長さ」の点ですね。ストーリーの長さとは、時間軸でのストーリーの拡張性や発展性が高いということを意味していたと思います。反対に、パスの間に強いつながりがあっても、将来に向けた拡張性がなければ、それは「短い話」で終わってしまいますもんね。

👱🏼‍♂️:すでに見たように、ガリバーのストーリーにはあちこちに「やっているうちに徐々に効いてくる」というダイナミックな論理が組み込まれている。さらに、ストーリーの長さとの関連でガリバーのストーリーの優れている点は、同業他社と比べて圧倒的に多い買取台数という基盤をつくってしまえば、その上にさまざまな事業展開が可能になるということなんだ。

🧒;例えばどんなものですかね?

👱🏼‍♂️:1998年に始まったドルフィネットはその好例だ。ストーリーの本筋からすればガリバーはBtoCには手を出せない、手を出すべきではないということになる。だが、ドルフィネットは一貫性を損なうどころか、さらに短期間在庫を回転させるために有効であり、ストーリーをより強くするのに貢献している。

🧒;なるほど・・。確かに、ガリバーの戦略ストーリーにはきわめて高い一貫性が組み込まれている・・。キラーパスも存在していますよね?

◆クリティカル・コア。合理性では先行できない

👱🏼‍♂️;前章では、ストーリーの「キラーパス」としてのクリティカル・コアの重要性について話したな。

🧒;はい。クリティカル・コアの特徴は、他のさまざまな構成要素とつながりを持つということに加えて、それが「一見して非合理」なことにありました。ストーリーから切り離してそれだけを見ると、競合他社の目では「非合理」で「やるべきではないこと」のように見える。しかし、ストーリー全体の中に位置づければ、強力な合理性の中核にある。この二面性がクリティカル・コアのカギだったと認識しています。

👱🏼‍♂️;クリティカル・コアの「一見して非合理」な側面が重要なのは、それが競争優位の持続性の源泉となりうるからだ。「普通に賢い」戦略家は、先行性や専有性に持続的優位の論理を求める。しかし、こうした論理の弱点は、できるものならまねしたい」という動機を持っているということです。これに対して「一見して非合理」というクリティカル・コアは、「動機の不在」という論理を意図している。真似したくないと思わせるけど、優位の源泉という矛盾を統合しているものなんだ。

🧒;この部分ガリバーはどうしたのでしょうか?また競合もどこを真似したくないと思ったのでしょうか?

👱🏼‍♂️;中古車業界はガリバーの設立のずっと前からある業界だよな。数十年にわたって、多くの企業が中古車を売ったり買ったりしていた。多くの中古車業者がごく普通にオークションでの取引に参加していた。

🧒:ですね。だから「なぜガリバーが独自のストーリーを構想できたのか?」という問いかけにはあまり意味がないですよね。ストーリー全体をつぶさに読み取れば、ガリバーの戦略にはコストとリスクを同時に低下させる強力な合理性があるのははっきりとしていますし。でも、ここで疑問なんです。それにもかかわらず、ガリバーが事業を開始するまで、なぜ同じようなことをやる企業が現れなかったのでしょうか。そこがキラーパスに関係している気がして。

👱🏼‍♂️:その通り。消費者への小売をせずにオークションで売却するという発想は、それまでの中古車業者にしてみれば、きわめて「非合理」なことに映ったはずなんだ。中古車販売のおいしいところは、販売が成立したときのマージンの大きさにあった。ところが、 ガリバーは大きなマージンが期待できるはずの小売からは手を引き、オークションでのBtoB取引に軸足をシフトしたんだ。

🧒;なるほど。わかった。一台当たりのマージンははるかに小さくなります。従来の中古車業者の目で見れば、これはビジネスの一番おいしいところをみすみす逃すことにほかならないのですね。そこは意図的に避けると。。でも、いま買取専門ってガリバーだけじゃないですよね。

👱🏼‍♂️トヨタの「T-UP」やハナテンの「アセスショップ」はいずれも「買取専門店」なので、一見するとガリバーと同じことをやっているように見える。しかし多くの場合、こうした「競合他社」は事業の軸足をBtoCの小売に置いている。T-UPにしても、小売のための仕入れを強化するためのチャネルです。T-UPで買い取られた車は、トヨタ系列の中古車展示場に搬送され、そこで従来のやり方で一般消費者に販売されています。戦略ストーリー全体を見渡せば、こうした「買取専門店」の事業の中身はガリバーとは似て非なるものなんだ。

◆一括査定の「非合理」

👱🏼‍♂️;そして、実は一括査定も非合理な戦略になっているんだ。だが、ここでは割愛する。是非本を読んでくれ。ここも買取専門つまりBtoCを重要視していないというところが肝になってくる。

◆なぜ「素人」なのか

🧒:わかりました。ところでもう一つ気になっていることがあります。初期のガリバーは急速な成長を実現するために、フランチャイズ方式で出店を加速していました。ガリバーはそれまで中古車業界の経験がない「素人オーナー」にこだわってフランチャイジーを募集したと思います。これもだいぶ思い切ったなと思うのですが、一貫性という観点からどうつながっているのでしょうか?

👱🏼‍♂️;いいポイントんだね。実はこれもまたストーリーの一貫性を補強する小さなキラーパスとして効いているんだ。通常、玄人オーナーをフランチャイジーにしたほうが合理的です。ストーリー抜きにしたらね。事実、ガリバーに追随したアップルやUSS系列のラビットは業界経験者を中心にフランチャイジーを集め、出店を急いだんだ。

🧒;でもガリバーはそれをしなかった。むしろ売人を排除したわけですよね・・。そこのなぜかという部分は気になりますね。

👱🏼‍♂️:なぜならば、業界経験者は車が一台売れたときのマージンのおいしさを実感として知ってしまっているからだ。

🧒;おお。。なるほど。高マージンのおいしさが身についてしまっているということですね。すぐにオークションに出すべきものをしなくなってしまうというわけですね。だってオーナーの利益は高マージンの方がよくなりますからね。

👱🏼‍♂️;現にそうした行動は、ガリバー以外の「買取専門」チェーンの業界経験のあるオーナーにはしばしば見られるそうだ。オーナーが買い取った車を自分の店先でひそかに売りさばいてしまえば、ガリバーの意図するストーリーは崩れてしまう。

🧒;だからこそ、そのマージンのおいしさがしみついていない素人だったというわけですね。

◆読解のまとめ

👱🏼‍♂️;よし。ゴール、コンセプト、キラーパスと踏まえた複数のパス(構成要素)、そこからにじみ出る一貫性についての解説は終わりだ。もう一度戦略ストーリーの5Cに戻って、ガリバーのストーリーが秀逸であるゆえんをまとめておこう。下記だ。

① 競争優位。(competitive advantage)なぜ利益が創出されるのか、その最終的な論理がはっきりしています。従来のやり方と比べてコストとリスクを同時に削減できるというのが、ガリバーの意図した競争優位の中身であった。

② コンセプト。(concept)ガリバーのやろうとすることは要するに何なのか、その本質が「買取専門」という言葉で明確に定義されている。

③ 構成要素。(Components)「買取専門」のコンセプトをコスト優位に結実させるためのさまざまな構成要素がストーリーに盛り込まれていた。「大型展示場での小売はしない」「一定期間以上の在庫は持たない」「業界経験のあるオーナーをフランチャイジーにしない」というように、「何をしないか」というトレードオフが明確されていた。

④ ストーリーの高い一貫性。(Consistency)さまざまな構成要素が強く太く長い因果論理でつながっていて、ストーリーの流れに無理や破綻がない。

⑤ 最後にクリティカル・コア。(Critical Core)ガリバーの「買取専門」はまさにキラーパスでした。バイサイドに軸足を置けば、小売では避けられなかったコストとリスクを抱えなくても済むし、標準化された基準に基づいて本部一括査定ができる。本部一括査定であれば現場での相対査定のノウハウが必要なくなるので、業界経験のない素人を使ったフランチャイズ展開で急速に出店できるし、出張査定での買取も可能になる。そうなれば買取台数を短期間で伸ばすことによって、規模の経済をテコにさらにコストを下げることができる。

🧒:ありがとうござます。上の5つが、ガリバーの戦略の読解というわけですね。

👱🏼‍♂️;そうだ。次回は、この読解から教訓を解説していこう。多くのことを学べるが、楠木さんは3つの論点から話をしているよ。次回で6章が終わるようにしたいと思う。

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今回は以上です。これまでの学んできた内容が前回と今回で詰まっていましたね。最後の①~⑤は後から見て分析すればその通りですが、考えながら実行し、さらに追加していくというものがたりがあったはずですね。試行錯誤してリスク取って進めていったという点もストいと感じています。次回は、この読解からの教訓を解説していきます。

*下記で、noteのコンセプトと、このマガジンとは別のものづくりに関連するマネジメント理論・書籍のリンクを記載しています。もしご興味あれば、覗いていただければ幸いです。

休憩がてら、番外編マガジンもあります。

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