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【ストーリーとしての競争戦略編18:先見の明じゃない。】

今回のマガジンでは、一橋大学の楠木健教授の「ストーリーとしての競争戦略」について対話形式を使って解説していきます。本マガジンのこれまでの投稿は上記に入れています。

 前回のザゴール2編マガジンで製造から事業管理部への兼務となり、思考プロセスでの問題解決をについて学んだ紫耀(ショウ)は、関連子会社の社長をしている健にたまたま会います。お互いたまた本社出張だったようです。そこで、よい戦略とは何かについて議論を開始します。そして、オンラインで、勉強会をしていくことになり、オンラインで毎日実施しています。これでで第4章まで学びました。今回は第5章「キラーパスを組み込む」の第三回目(全4回)解説をします。

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🧒:おはようございます。

👱🏼‍♂️;おはよう。今日も5章を進めていこう。キラーパス、クリティカルコアの重要性についてこれまで解説してきた。今日はそのクリティカルコアの特徴と競争優位の階層について解説していく。

🧒;はい。クリティカルコアは、全てに一貫性を持たせる。そして、一見非合理に言えて他者が模倣したくないものになる要素があるということだったと思います。

◆バカな→なるほどもいいけど・・・。

👱🏼‍♂️;そうだね。盲点を衝くような「一見して非合理」なキラーパスがストーリーのクリティカル・コアとして組み込まれていることは前回でわかったと思う。戦略「論」としてこれに最初に注目したのは、おそらく吉原英樹さんという先生だそうだ。当時神戸大学にいらした吉原さんは『「バカな」と「なるほど」』という素敵なタイトルの本を今から二〇年以上も前に書いている。戦略が合理的な要素ばかりで出来上がっていれば、誰もが同じようなことを考えるので、独走することはできない。だとすれば、「バカな」と思わせる非合理の要素がありながらも、成功してみると人々が「なるほど」とうなずく、これが優れた戦略の要諦だ、という話だそうだ。

🧒;まさにキラーパスのことを言っているのですね。

👱🏼‍♂️;そいうなんだ。ただし、ここで話ししてきた「部分の非合理を全体の合理性に転化する」という論理は、吉原さんオリジナルの『「バカな」と「なるほど」』 (以下、短縮して「バカなる」)の論理と質的に異なるところがあるので、そこを強調しているのが本書なんだ。

🧒;つまり、ここで話ししてきた「部分の非合理を全体の合理性に転化する」という論理がポイントということですね。

👱🏼‍♂️;「バカなる」の論理は、事前の合理性と事後の合理性のギャップに注目している。つまりその時点では「非合理」に見えた行動が、その後の時代の変化の中で、合理性を獲得していくという「変化の先取り」の論理だ。一言でいえば、「先見の明」ってわけ。

🧒;なるほど、戦略が置かれた外部環境のコンテクストに合理性の判断があって、だからこそ事前の「バカな」が事後的には「なるほど」になるということなんですね。

👱🏼‍♂️;「先見の明」という論理の意味するところは、下記のように整理するとわかりやすいと思う。

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合理性を事前と事後に分けて考えると、右上のセルは「ただの成功」で、左下のセルは「ただの失敗」だ。この二つのケースでは、事前合理性と事後合理性にはギャップがない。環境変化の先読みをして、他社と違う方向に走ったものの、実際にはそのような変化が起きずに失敗してしまった、という「勘違い」 も左下に入る。

🧒;なるほど、それに対して左上と右下のセルは、外部環境のコンテクストが変化した結果、事前と事後の合理性にギャップが生じるというケースなのですね。左上のセルは、判断の時点では合理的に見える理由はあったのだけれども、結果的にはそれが非合理であったという外部環境の「読み違い」ですね。「時すでに遅し」というのも左上のセルに含まれるはずですね。

👱🏼‍♂️;そう。そして、「先見の明」は図の右下のセルのケースなんだ。ここでは事前合理性と事後合理性の間隙を衝くことによって、成功がもたらされているんだ。「先見の明」の論理は、外部環境の変化の先取りを前提にしている。それが楠木さんにとっては若干不満なところなのだという。

🧒:確かに、「バカな」が「なるほど」に転化する論理が先見の明であれば、戦略の成功は経営者の時機読解の能力にかかってきてしまいますよね。。。戦略が「バクチ」に近いものになってしまいます。

👱🏼‍♂️;ストーリーの戦略論は、部分的には非合理に見える要素が、他の要素との相互作用を通じて、ストーリー全体での合理性に転化するという論理に注目しているんだ。事前と事後のギャップではなくて、部分と全体の合理性のギャップに賢者の盲点を見出す

🧒;となると、先見の明とはどこが異なるのでしょうか?

👱🏼‍♂️;クリティカル・コアの論理が「先見の明」と大きく異なるのは、外部環境の変化に依存しないということにあるんだ。「先見の明」の論理では、外部環境に対して「受け身」の姿勢になる。部分非合理を全体合理性に転化するというクリティカル・コアは、ストーリー全体を構想することによって、その戦略が有効性を発揮するコンテクストを自ら意図的につくろうとする。だから、外部環境が「先見」のとおりに動いてくれるかどうかにそれほど依存しなくても、独自の競争優位をつくることができるんだ。

🧒;スターバックスの直営方式やマブチモーターの標準化、サウスウエスト航空のハブ空港を使わない運航、こうしたキラーパスはいずれも競争相手には非合理に見えていました。しかし、ストーリー全体についての構想を持っていた各社は事後の成功を待たずとも、ストーリーの文脈でキラーパスの合理性は事前から明らかだったということですかね。

👱🏼‍♂️;そう彼らには外部環境の(想定どおりの)変化を期待する必要はありませんでした。なぜならば、ストーリーを構想することによって、キラーパスが合理性に転化するメカニズムを自らつくり出しているからなんだ。

🧒;メカニズムを作り出す・・。相当強いですね。。

◆競争優位の階層

👱🏼‍♂️;さらに、単に競争優位を獲得するにとどまらず、どうやってそれを持続的なものにしていけるのか。これまでも多くの戦略論がこの問いに答えようとしてきた。この章のクリティカル・コアの話をこれまでの話と重ね合わせると下記の図にあるように、競争優位の階層を描くことができる。これまでのまとめに近い。

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競争優位のあり方には五つの異なるレベルがあり、持続性が低いものから高いものへと階層をなしている

🧒;この図を見ると、レベル0は単に「景気がいいから儲かっている」というもので、利益の源泉が丸ごと外部の一時的な環境要因に依存しているということですね。す。景気が悪くなれば利益が出ない状態に逆戻りしてしまうわけで、競争優位以前の段階です。レベル0では定義からして持続的な競争優位は期待できないのですね。

👱🏼‍♂️;そう、そして、一つ上のレベル1は、業界の競争構造に利益の源泉を求めるというスタンスだ。第2章で話したように、世の中には利益が出やすい構造にある業界もあれば、もともと出にくい構造に置かれている業界もある。業界の競争構造をよく理解すれば、参入すべき業界を慎重に選択することによって、利益を増大させることができる。

🧒;でも、第2章でも解説してもらったように、利益性の高い魅力的な業界は誰にとっても魅力的ですから、他社もそうした業界にはぜひとも参入したいと考えるはずです。一時的に魅力的な競争構造にある業界でも、他社が次々に参入してしまえば荒らされてしまいます。それこそよっぽどの「先見の明」がなければ、業界の競争構造だけに依拠して持続的な競争優位を確立するのは難しそうですよね。

👱🏼‍♂️;そう。このようにレベル0とレベル1は、企業の競争戦略というよりも、その企業を取り巻く外部要因に注目した論理にとどまっているわけ。レベル2以降が競争戦略の出番となるんだ。レベル2は個別の構成要素に競争優位を求める経営です。

🧒;これも第2章で聞きました。競争戦略の構成要素には、ポジショニング(SP)と組織能力(OC)という二種類がある。いずれもそれなりに競争優位を持続させる論理を含
んでいるんですよね。SPに基づく差別化はトレードオフの論理に依拠していたんですすよね。

👱🏼‍♂️:イヌであり、同時にネコでもあるということはできません。トレードオフ上ではっきりとした活動の選択をすれば、単に「他社よりも高品質」というような程度問題の違いと比べて、より持続的な違いをつくれるんだ。

🧒;それに対してOCを基盤とした差別化は、能力の暗黙性や経路依存性、時間とともに進化するというダイナミックな性格に持続的な競争優位を求ていました。勝ち残っている企業のOCが競争優位の基盤にあるということは誰もがわかっているのですが、その正体は小さなルーティンの積み重ねなので、成果との因果関係が他社にはよくわからないんですよね。

👱🏼‍♂️:そして、個別の要素を超えて、ストーリー全体に持続的な競争優位を求めるのがレベル3だ。要素を個別にまねすることはできても、それが複雑に絡み合った全体をまねするのはずっと難しくなるという考え方だ。第3章で強調したように、このレベルでの競争優位の源泉は、個別の要素の中にあるのではなく、ストーリーの一貫性が生み出す交互効果にある。

🧒;構成要素の間には相互依存や因果関係が張りめぐらされているので、いくつかの要素をまねしても、全体がきちんとかみ合って交互効果を起こさなければ、同水準の競争優位は達成できないんですよね。

👱🏼‍♂️;ここまでくるとかなり長期的利益が見込めるが、最上位にあるレベル4の戦略は、構成要素の交互効果をもたらすようなストーリーを構築するにとどまらず、「一見して非合理」なキラーパスにそのストーリ の一貫性の基盤を求めるんだ。

🧒:そもそも競合がまねしようという意図をすら持たないという「動機の不在」と「意図的な模倣の忌避」でしたよね。

👱🏼‍♂️;こうして比較すると、階層の上位に行くほど、競争優位の持続性の背後にある論理が強力になっているということがわかだろう。競争優位の階層にある五つのレベルは、どれか一つを選ぶというものではなく、積み重なる関係にあるんだ。利益ポテン
シャルが高い業界で、明確なSPと強力なOCを持ち、それが一貫したストーリーを構成し、キラーパスが効いていて、おまけに景気が良いとくれば、五つのすべてが満たされていたら、もちろん最強ってわけ。

🧒;レベル1や2でも、競争優位を十分に持続できていれば、ストーリーの戦略思考は必要ないということかと思いますが、しかし、近年の競争環境では、下位レベルの戦略で競争優位を持続させることが以前よりも難しくなっていますよね。競争優位の階層を上がり、ストーリーの一貫性やキラーパスで勝負することがますます重要になってきているということですね。

👱🏼‍♂️;その通り。今日は時間だ。今日は先見の明とクリティカルコアの違いそして、競争優位の回想について解説した。次回は、競争優位を作ろうとして、模倣だけしてしまった場合の問題。模倣の恐怖について解説する。

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今回はここまです。先見の明が受け身なのに対してストーリーにおけるクリティカルコアはメカニズムを作っていくという能動的な部分が異なっていましたね。また、競争優位の回想についても理解いただけたかと思います。次回は、5章の最後になりますが、キラーパスや優位を作ろうとして、また、ベンチマークだけして他者を模倣するリスク、そして気を付けることについて解説していきます。

*下記で、noteのコンセプトと、このマガジンとは別のものづくりに関連するマネジメント理論・書籍のリンクを記載しています。もしご興味あれば、覗いていただければ幸いです。

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