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だれもが自らの意志で、選択し生きることができるように①スウェーデンに学ぶ施設から地域への移行

長く福祉の分野で仕事をしてきました。すでにある福祉のシステムの中で、利用する人たちのために、できることをと、力を尽くしてきたつもりですが、現実には、システムに課題を感じることもありました。

今回は施設福祉と地域サービスをテーマに、書いていきたいと思います。現在の日本の福祉システムの中では、本人が望み、地域で自分自身で生活したい、と思っても実現できない場合も多いのが現状です。

実現のためには、地域でのサポートシステムが十分に整備されることが不可欠ですが、地域での福祉システムへの転換はまだ、これからというところです。

施設福祉から地域福祉への完全な転換を図った例として、スウェーデンのケースを取り上げ、改めて今後の日本のあり方を考えてみたいと思います。


1.スウェーデンにおける、施設から地域サービスへの転換

(1)法制度の変遷

1982年に社会サービス法が制定され、高齢者、障がい者、児童、公的扶助、依存症患者の保護など、福祉に関する法律が統合され、コミューン(日本でいうところの市町村)が、在宅サービス、日中活動、サービスに関する相談機関等支援に対する関する責任を持つこととされました。

1994年に施行された「機能障がい者を対象とする援助及びサービスに関する法律」と「介護手当に関する法律」です。尊厳を守るための自立した生活の確立、自らの意志で生活を決定し、社会に参加すること、そのために介護が必要不可欠なものとして認識されました。

また、これらの法律により、介護を中心とした必要な援助、サービスの内容を具体化し、介護手当、経費助成が受けられるシステムが確立しました。

自己決定の原則に基づき、本人が介護者を雇用することができ、また家族も介護者として雇用の対象となるという、ユニークなシステムになっています。

(2)家族の位置づけ

スウェーデンは、他国に比べて、福祉や介護に関する過程の責任は緩和されており、家族がケアの直接的な担い手となることは限られていると言います。家族が介護を行う場合にも手当の対象になるなど、障がいのある人々の生活の保障は個人・家族の問題でなく、社会の課題とされています。

2.スウェーデンの政策に影響を与えた、アメリカの法律


スウェーデンのこれらの政策は、1990年に発効された「障害を持つアメリカ人法」(Americans with Disabilities Act:以下ADA)に影響を受けたとされています。

この法律は、アメリカでの全国的な障がい者運動をきっかけとして制定されました。これらの運動による改善の内容は、生活、差別などにおいて、障がいある人の現状を多くの人に伝えることによって実現されたと言われています。

ADAは雇用、公共サービス(教育機関、医療など)、および公共交通機関、民間企業によって運営される施設へのアクセス、およびサービス提供、テレコミュニケーションの領域で障がいを理由とする差別を根絶する包括的な義務の実行を求めています。障害を持つ人の雇用も含めた、完全な社会参加を目指したと言えるでしょう。

しかしながら、アメリカではADA成立後、就労に関しては、採用には、いまだハードルがあり、就業率、所得の面でも課題が山積していると言います。法的な保護だけでなく、実践のためには、広く社会の理解が進み、その上でたゆまぬ努力が必要であることを物語っています。

3.権利擁護を確実なものとするための法律

再び、スウェーデンの法律の話に戻ります。1994年には「ハンディキャップ・オンブズマンに関する法律」が施行されました。オンブズマン制度は高い見識と権威を持つ第三者(オンブズマン)が行政に対する苦情を受け付け、中立的な立場から、原因究明と是正措置勧告をすることにより、問題を解決するものです。この法律には、障がいのある人々の社会参加と差別の解消に向けた、ハンディキャップ・オンブズマンの担う役割が規定されています。

その後、宗教、性的指向、民族、性別などの差別に対応する、オンブズマンもが設置され、2009年には、統合して「差別禁止オンブズマン」として活動しており、「差別と侮辱予防、平等促進」の学校ガイドブックを出しています。また各学校は、平等・差別扱い禁止計画を作成することが求められているそうです。

4.余暇の重視

スウェーデンでは就労とともに余暇の保障が重視されています。そのため、障害を持つ人、地域住民が対象の演劇クラブ、アクアビクス、乗馬、ディスコなどの活動があり、地域で交流できる場所となっています。余暇活動のための移動支援として、ガイドヘルプ(付き添い、歩行の介助など移動支援を行う)を利用することができ、国内外の旅行の際もガイドヘルプの同行の依頼ができます。

5.日本での取り組み「改正障害者支援法」

2024年4月に改正障害者支援法が施行されます。改正法は、障がいのある人々の地域生活や就労の支援の強化、自身が希望する生活を実現することを目的としています。

具体的には①地域生活の支援体制の充実、②多様な就労ニーズ に対する支援及び障がい者雇用の質の向上の推進、③精神障がいのある人の希望やニーズに応じた支援体制の整備などが掲げられています。

施設や病院で過ごしている障がい者数について、厚生労働省は2026年度末までに5%以上削減するという目標を決めました。

この法律が、地域福祉への大きな転換点となり、だれもが自分の望む生活を送るという、あたりまえのことが、実現していくことを望みます。日本でも、モニタリングと必要に応じた見直し、また、権利保護のためのオンブズマンが十分に機能できる体制づくりが重要と感じます。

入所施設も希望する人にとっては大切な生活の場です。ともすれば、日々の生活が時間的な管理のもとにパターン化させられてしまったり、閉鎖的であるがゆえに、個人の尊厳が守られない、という状況が生まれてしまう現実を踏まえて、住空間、生活環境、そして職員の意識、倫理の問題などへの大作もしっかりとっていかなくてはならないと思います。

また、介護を社会課題ととらえ、家族の負担軽減をはかるということも、大事な視点です。

厚生労働省が、令和4年3月28日に発表した「障害福祉分野の最近の動向」によれば、障がいを持つ人の人数について、総数は964.7万人、内訳は以下のようになっています。

身体障がい→436.0万人(内65歳以上は74%)
知的障がい→109.4万人(内65歳以上は16%)
精神障がい→419.3万人(内65歳以上は39%)

このうち施設入所の人数、割合は以下の通りです。

身体障がい→7.3万人(1.7%)
知的障がい→13.2万人(12.1%)
精神障がい→30.2万人(7.2%)

上記のデータから、自己決定、自立した生活という面で最も困難な状況にある知的障がいのある人々のための施策については、スウェーデンの例も含め、次回また取り上げていく予定です。

※参考文献
・高島昌二、スウェーデン社会福祉入門―スウェーデンの福祉と社会を理解するために、昇洋書房
・新 世界の社会福祉3、編集代表:宇佐見耕一、岡 伸一、金子光一、小谷眞男、後藤玲子、原島 博、旬報社
・ADA(障害を有するアメリカ人法)われわれが学んできたもの、リチャード・K・スコッチ、2017年7月8日早稲田大学での講演より

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