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アイヌ民族の歴史に思いをはせる②  ~ウポポイ(民族共生象徴空間)を訪れて~

前回は、アイヌ民族の歴史について、その歴史を見つめてきた人々の記録をもとに触れてきました。(ご関心のある方は以下をご覧ください)

今回は「ウポポイ(民族共生象徴空間)」について、また、ウポポイの開業までの経緯や取り組みへの様々な思いがつづられた「ウアイヌコロ コタン アカラ ウポポイのことばと歴史」(国立アイヌ民族博物館編)からウポポイの開設までを探っていきたいと思います。


1.ウポポイ(民族共生象徴空間)開設までの背景

資料館建設に向けての背景には、歴史を語る語る人々が少なくなっていく現状や、アイヌ文化を観光に利用されることへの批判がありました。

1975年、アイヌ古式舞踊(参考までに動画を以下に貼ります)が重要無形文化財に指定されたことをきっかけに、同年、アイヌ民族の文化を自らの手で伝承・保存し、一般に公開して、アイヌ民族とその文化が正しく理解されることを目的に「アイヌ民族博物館」が開設されました。1990年には博物館の対象が、アイヌ文化全般に及ぶようになったことから、組織名称も財団法人アイヌ民族博物館に変更となっています。

この時代、国内、世界の先住民をめぐる情勢も変化を遂げていました。国連総会では、1993年を「世界の先住民の国際年」と宣言し、当時の北海道ウタリ協会の理事長野村義一氏が国連総会で記念演説を行っている。さらに1995年からの10年間を「世界の先住民国際の10年」と指定し、2007年には「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が国連総会で採択されました。

1994年には、萱野茂氏がアイヌ民族として初めて国会議員に選出され、1997年にはアイヌ文化の振興や普及啓発を明記した「アイヌ文化振興法」が制定されます。これにより「北海道旧土人保護法」は成立からおよそ100年後にようやく廃止となったのでした。

2008年には国連での先住民の権利に関する宣言を受けて、「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が衆参両院において、全会一致をもって可決されました。そして2019年に「アイヌ施策推進法」が制定されます。

2.アイヌ文化の観光利用

1892年(明治25年)の白老駅の開業以来、観光客は増え、1965年東京オリンピックが開催された翌年、日本が高度経済成長期のただなかにあったころ、白老観光コンサルタント株式会社の運営下で町をあげての観光アイヌ事業が開始されました。

荒井源次郎氏は著書「アイヌの叫び」の中で、ポロト湖畔のアイヌコタン(アイヌの集落)はポロト湖畔に移転を強いられたと語っています。また土産物店の経営、アイヌの人々の歌や踊りの観覧によって利益を得ていたのは大半が和人だったと記しています。また、観光客への説明などに、侮辱的な内容もあったと言い、これは人道問題であるとも言及していました。

3.ウポポイ(民族共生象徴空間)の特徴

(1)ウポポイ(民族共生象徴空間)について

今回私が訪れたウポポイ(民族共生象徴空間)ですが、の国立民族博物館のほかに、慰霊施設、伝統的なコタン(集落)、体験学習会館、体験交流ホール、フードコートなどいくつかの施設から成り立っています。アイヌ民族の文化、言語、歴史、食を含めた生活習慣などを総合的に体験し、知ることのできる空間になっています。ウェブサイトは以下になります。

(2)国立アイヌ民族博物館の特徴

①第一言語はアイヌ語

園内の各種表示や解説文は多言語表記をしていますが、基本的にアイヌ語を一番先頭に表示しています。

アイヌ語は2009年にユネスコにより「消滅の危機にある言語」と位置付けられました。また、現在アイヌ語だけで日常生活を送っている人はいないといいます。

また、アイヌ語には様々な方言があり、標準語は定められていないため、今回は各方言を尊重する姿勢をとったということです。

②非差別体験について

非差別体験の歴史的な事実は隠すことがあってはならないという思いはある一方、非差別体験を強調しすぎると、大人、そして大人から影響を受ける子どもにとってもいじめにつながる懸念があったといいます。そのため、時代、地域による様々な状況を伝える内容としたそうです。

③歴史の主体

各テーマはアイヌ民族を主語としたテーマで構成され、アイヌ民族自身が執筆した書籍や記事などが展示されています。

④時代による多様な職業紹介

現代のアイヌ民族の人々が伝承以外の様々な職業を持ち、国内外様々な地域に住んでいることがわかるよう、職業と各個人のプロフィール、などが紹介されています。

⑤民族、言語、文化の違いを認識してもらう

展示室までの導入展示では、世界のさまざまな民族の人々が登場する映像が流れます。和人の人々も世界の中の一民族であること、日本語、文化も多様であり、多民族の言語、文化も多様だと知る機会になってほしいとの願い、さらに、日本は単一民族ではないこと、またマジョリティとマイノリティとについて考えるきっかけとなってほしいとの祈りが込められています。

4.国立アイヌ民族博物館のバーチャル博物館について


移動が不便であったり、海外の人々など来館できない方にもアイヌ文化を知るチャンスがあります。

国立アイヌ民族博物館にはバーチャル博物館があります。この博物館は言語・文化の壁、身体的な障害を越えた、多くの人々が体験できることを目指していて、視覚的なものだけでなく、聴覚にも力を入れているといいます。また、英語、中国語、韓国語で解説を聞くこともできます。

まずは、バーチャル博物館から、ぜひ一度体験していただきたきたいと思います。以下がバーチャル博物館のURLです。

https://nam-vm.jp/matterport/?language=japanese

※参考文献


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