ドバイ国際アートフェア「ART DUBAI 2024」レポート前篇:ドバイがデジタルアートの聖地になるとき
ドバイの高級リゾート地、メディナ・ジュメイラで開催されるアートフェア「ART DUBAI」は、2024年で18周年を迎えます。
このフェアは過去17年間にわたり、中東とその周辺地域(MENASA:中東、北アフリカ、南アジア)のアートを、国際的なアートの議論の壇上にのせるという重要な役割を果たしてきました。
フェアは4つのセクション、
コンテンポラリー、「BAWWABA」(アラビア語でゲートウェイを意味する)、モダン、
そして中でも興味深かった「デジタル」セクションに分かれています。
こちらではメタバース、人工知能、拡張現実、VRなど先端のデジタル技術を利用して制作された作品、NFTが公開されており、仮想通貨で購入することができるとか。
仮想通貨の国際的ハブとしてのドバイ
このデジタルセクションがアート・ドバイに初めて設けられたのは2022年。
実はこの年、ドバイでは今後仮想通貨のハブとしての独自の地位を築いていく上での礎となると思われる重要な出来事がありました。
まず仮想資産を規制する法律が施行され、
その法律により世界初となる仮想通貨の規制機関「仮想資産規制局(Virtual Assets Regulatory Authority)」通称「VARA」が設立されたのです。
規制というと自由な取引が妨げられるようなイメージを持つかもしれないけど、
このVARAが提供するのは、暗号資産にまつわるサービスやプラットフォームを提供する法人や団体(VASP)が運営されるうえでの「明確で包括的なルール」。
これにより投資家たちが保護され、より安全性が担保された取引を行うことができます。
またたくさんの仮想通貨取引所や暗号資産関連の会社は、
定まらない各国の規制に右往左往となんとか対応しながら運営されている場合が多いから、
このVARAが発表した明確なルールと枠組み、
そしてUAE政府の仮想通貨への友好的な態度は、
企業側にとってもありがたい話。
実際ここ数年で、
たくさんの仮想通貨関連の企業と、暗号通貨に特化したハイレベルな人材がドバイへと流入しています。
アート・ドバイにおいてNFTを公開するデジタルセクションが出現したのはこういった流れと完全に呼応しているように感じました。
アート・ドバイの「デジタルアート」セクション
アート・ドバイはフェアベースでありながら、各セクションにキュレーターが存在しています。
今回で3回目となるデジタル・セクションをキュレーションしたのは、
メタバース美術館「IAM-Infinity Art Museum」、
そしてキュレーションや出版のプラットフォームとしてロンドンをベースに活動する「Multiplicity-XXNFT」の共同ディレクターを務める
Auronda Scalera と Alfredo Cramerottiのふたり。
没入型アートから映像作品、立体、平面作品、
そしてアーティストの男女比率など、
バランスよく偏りがないように構成されており、
参加ギャラリーと展示作品も厳選されている印象でした。
個人的に気になったアーティストを
2つ備忘録も兼ねて紹介、、、。
スグウェン・チャン
こちらはロンドンのギャラリーHOFA Galleryのブースで、
中国系カナダ人のアーティスト、スグウェン・チャン(Sougwen Chung)の作品を展示。
スグウェン・チャンは
ロボットと共同しながら描くインスタレーション作品を2014年ごろから制作しており、
上記の写真はそのロボットの第5代目「DOUG_5」。
このシリーズは
アーティストとロボットの制作作業を公開するパフォーマンスからはじまり、
インスタレーション、ドローイングと展開していくのだが、この「ふたり」の制作作業は数分間の瞑想からはじまる。
アーティストは脳波を測定できるヘッドセットを介してロボットと「同期」し、ふたりはともに瞑想し絵を描く。
こちらのリンクで制作パフォーマンスの映像が見られるので気になった方はぜひ見てみてほしいです。
(ギャラリーのメーリングリストに登録する必要があるのでそれが嫌でなければ!)。
このパフォーマンスから、無機質さとは正反対のまるで牧歌的な印象を受けたことに驚きました。
アーティストの脳波に同期しているのはロボットだけなはずなのに、
アーティスト自身も瞑想により無防備な状態に身を晒すことで、
同じ空間に存在するロボットに身を委ねて何らかのエネルギーを受け取っているように見えます。
人と機械の共生の未来、
特に「ケア」の観点からテクノロジーとの未来を語る上で
非常に示唆的で重要な作品になるんじゃないかと思う。
LOOTY
もう一つ面白かったのが、
アートコレクティブのLOOTY。
ギャラリーではなく一つのコレクティブにブースが与えられているところからして異質なのだけど、
その展示内容も際立って異彩を放っていました。
ナイジェリア人のプロダクトデザイナー、チディ・ンワンバニ(Chidi Nwaubani)が主導するLOOTYは、西欧諸国の植民地支配によって奪われ、
そのままヨーロッパの美術館や博物館に保管・展示され続けているアフリカの工芸品を「取り返す」プロジェクト。
大英博物館などに展示されるアフリカの工芸品を3Dスキャンし、3D画像を作成し、NFTとして販売。
さらにそれらの収益をアフリカの若手アーティストに寄付することで本来アフリカが受け取るはずだった恩恵、そしてその所有権をデジタル技術によって取り戻していく。
かつての西欧諸国の戦争や強引な支配による略奪とは対照的な、
デジタル技術を介した非暴力的で合法的な「略奪」。
作品としてスマートでわかりやすい上に、NFTの利点がうまく活用されていることに、そうそうNFTでこういうのが見たかったという気持ちになりました。
NFTアートの未来とドバイという場所
NFTは2021年に全盛期を迎えたのち、大暴落を迎えした。(deepGambalはNFTのうち95パーセントは一円の価値もつかないことを2023年に発表!)。
圧倒的な供給の数に需要が追いついていないことに加え、取引所のFTXの破綻などが追い討ちをかけたと言われています。
多くのメディアで「NFTは終わった」と言われてますが、私個人的な意見としては、今は「量から質」への移行期間なのではないのかなあって。
これまでNFTというとコンセプトからしてよくわからないチープな画像に莫大な値段がついて、
一部を除く多くの人がその不条理さに首を傾げているようなイメージだったと思います。
その時代を抜けて、今後NFTはもっと誰もが納得できるものに転換していくはず。
今回のアート・ドバイの訪問はそんな予想をさらに確固としたものにしてくれた気がします。
もちろん今後アートワールドにおいて、
NFTの比重がどのようになっていくかは未知数だけれど。
けど、前述したドバイの暗号資産や新しいテクノロジーへの積極的な姿勢や、
ドバイの多国籍ぶりに象徴される異なるものを受け入れる懐の深さ(利益を追求したうえとはいえ)によって、
ドバイがデジタルアーティストやNFT収集家にとっての「聖地」のような場所になっていく未来はあり得なくないように思いました。
デジタルセクション以外にも素敵な作品が色々あったので、
次回レポート後半編としてコンテンポラリーとモダンのセクションについて、
特にグローバルサウスのアートについてメモしていきたいです。
ドバイのアートシーンはなかなか面白いのかも?
参考:
https://www.reuters.com/breakingviews/stars-align-uae-become-global-crypto-hub-2022-05-06/
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