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酸素マスク・尿カテ・おかゆがしんどい…重症と思えない様子の父と首からの人工透析【総合病院E-ICU2日目】

「もしかして病院から急変の連絡があるのでは…いや、電話鳴らないで」もう24時間、頭の中でこんな葛藤を繰り広げていた。幸いスマホは一度も震えることなく朝を迎えることができた。

お昼頃、電車で3時間半かけて妹が地元に来てくれた。駅まで迎えに行ったその足で病院に向かう。ソワソワしながらやっとの思いで来た妹も緊張はピークの様子だった。

ICUは入室管理が厳重だ。入院初日にICカードを渡された家族しか入室できないようになっている。待合でカードをかざし、カメラ付きのインターホンを鳴らして面会を知らせると看護師さんが待合まで迎えに来てくれる。医療スタッフのカードでしか開かない扉を開けてもらいようやく病棟に入れるしくみ。

妹と一緒に父のもとに向かう。顔を見たお互いがゆるっと安堵していくのを感じる。週末で検査などはないが、初日から透析のために首から静脈のラインを取り、赤い管が機械と繋がれている。赤い色はもちろん血液だ。

夜に届いたのであろう輸血も実施されていた。ところがそれは予想を裏切るマンゴーのような黄色い液体だった。初めて見る血液の成分、へぇ血小板って黄色いんだ…などと妙に感心していると、妹が「これはうちらも献血に行かなくちゃね」とポツリ。ここら辺が私たち姉妹の違いをよく表している気がする。同じものを見ても、考えること感じることが全然違うのだ。そして父の入院中、私は妹のこの思考に随分助けられることになる。

父の周りにはたくさんの機械が繋がれた。顔色もずいぶん黒くなり、前日よりもうんと重症患者の見た目になっていた。 ただ不思議なことに意識も会話もしっかりしている。自分の状態はさておき、これから地元にしばらくいることになった私たち娘の生活の心配をしてくれる。何も心配しなくていいんだと伝えたかったけれど、それは無理だよな…と思った。父にとっては私らはいつまでも子供なのだから。

初めての入院、何か困ったことはないか?と聞くとポツポツ話し出してくれた。酸素マスクが苦しい・尿カテーテルが痛い・おかゆなんて食べられないなど。いや、これじゃなんだか一般病棟に良くいる病院嫌いのオヤジじゃないか。こんなに元気なのに、酸素を投与され、輸血され、透析まで受けているのが本当に信じられなかった。

父の主訴は身体の怠さと腹痛と下痢だった。まず最初に疑われたのはO-157などの食中毒だった。さまざまな細菌検査や血液培養に加えて消化器系の炎症を検討していると説明された。CTで見ると胆石の可能性もあるので、週明けに消化器の先生に診てもらう予定が決まっていた。

とにかく、なんらかの感染から炎症を引き起こし、それが血液に回って数値の減少や増加を引き起こしている。輸血で補充し、透析で血液を浄化しながら基礎疾患を突き止めなければいつまで経っても良くならない。

父本人もグレイ先生からそんな話を聞いたのだろう。数ヶ月前に行った家族旅行の時に生ものを食べたかどうか?私たちに聞いてきた。父は普段、生魚や生肉を食べない人だ。ただここ数年は食べられるものも出てきたようで、旅行の時はイカのお造りを少し食べていたような記憶があり、そう父に答えた。

原因はそれかなぁ…と考えている風だったので、思わず『お父さん。9月に食べたイカが、11月に感染を引き起こすかしら…』と素直に疑問をぶつけてみた。

私の父はほんとうにめんこい人なのだ。

ただ真面目な話、父も「原因不明」ということが悩ましかったのだと思う。あちこち痛いし苦しいし訳の分からない治療もされているけど、どうしてこうなったのかがわからない。だから一生懸命、思い当たるフシを考えようとしていたのだ。

そしてここから2週間。私たち家族はこの「原因不明」と、日々急速に進行する全身の炎症に振り回され、苦しむことになる。

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