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発達障害や知的障害ってどうやって診断されているの?心理学におけるDSM-5の重要性


初めに


最近、発達障害または発達症害グレーゾーンという言葉を頻繁に聞くようになりました。背景としては、コロナ禍や働き方改革など働く環境が大きく変わる中で、それに順応できずにいる社会人が大勢いることが理由の一つとして挙げられると思います。

発達障害者に対する倫理的配慮や、働きやすい環境の整備が求められる一方で、発達障害と診断されるほどの障害レベルにはない、いわゆる発達症害グレーゾーンの方々が大勢いることも大きな懸念だともいます。なぜなら、障害レベルに達しないがために、周囲からの理解や配慮が不足していたり、通常の社会人と比較されたりすることで、生きづらさを感じる場面が増えているからです。

しかし、ASDやADHDなどの精神症状がどのように診断され、発達症害または発達障害グレーゾーンと判断されるかについては、一般的にはあまり知られていないように感じます。この記事では、精神科医がどのような基準でこれらの症状を診断し、判断しているかについて解説し、生きづらさを感じている人々が自己理解を深められるようにすることを目的としています。

発達障害に特化した検査ってあるの?


特定の疾患や状態を診断するために開発された、特定の目的に特化した検査のことを「特異的な検査」と表現します。例えば、糖尿病を診断するためには、血液中のグルコース濃度を測定する血液検査が用いられています。こうした特異的な検査を行う事で、特定の疾患や状態が存在する場合には高い確率で検出される傾向があります。

一方で、発達障害においてはこうした特異的な検査は存在しません。なぜなら、発達障害には多因子性(遺伝的、環境的、神経生物学的な要因)、症状の多様性(さまざまな症状)、臨床的診断の複雑さ(症状、行動、発育歴、家族歴など)な側面があり一概に判断することが難しいからです。

では、特異的な検査が存在しない状況下で、精神科医がどのように発達障害を診断しているかというと、これらの障害を診断するための臨床的なガイドラインに沿って診断を行っています。具体的には、精神障害の診断と統計マニュアルであるDSM-5が用いられます。

DSM-5の目的


DSMの正式名称は「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」であり、日本語に訳すと「精神疾患の診断・統計マニュアル」となります。このマニュアルが掲げる目標とは、「精神医学に共通言語を与える」ことです。

精神科医それぞれの基準ではなく、統一された基準に基づいた治療がおこなわれる環境を整えることを目的としているのです。実際に、DSM-5の「本書の使用法」の欄には、下記の目的が記載されています。
①熟練した臨床家の精神疾患の診断を助けること
②治療計画に繋げること

特に精神疾患の場合、血液検査や画像検査などの結果が目に見える検査だけでは、症状や程度を正しく把握することができません。そのため、医師は来院者の行動や心理状態などを診たうえで、診断をおこなう必要があり、その際に基準となるのがDSM-5(第5版)というわけです。

DSM-5の代表的な精神症候群の例


①神経発達症 (Neurodevelopmental Disorders):
発達の初期に始まる障害であり、個々の神経系の発達に関連するものです。主な神経発達症には、注意欠陥多動性障害 (ADHD)、自閉症スペクトラム障害 (ASD)、学習障害などがあります。これらの障害は、社会的な相互作用やコミュニケーション、学習能力などに影響を与えることがあります。
患者の特徴: 神経発達症の特徴は、個人によって異なりますが、注意力の欠如、衝動性、過活動、社会活動な難しさ、コミュニケーションの困難、独特の興味や行動のパターンなどが一般的です。

②統合失調症スペクトラム障害 (Schizophrenia Spectrum Disorders):
現実感覚や思考、感情、行動に影響を与える精神障害です。統合失調症スペクトラム障害には、統合失調症自体だけでなく、他の関連する障害も含まれます。主な特徴としては、幻覚、妄想、混乱した思考、社会的引きこもりなどが挙げられます。
患者の特徴: 統合失調症スペクトラム障害の特徴は、現実感覚の喪失、幻覚、妄想、思考の混乱、感情の鈍麻、社会的な引きこもり、異常な行動などが一般的です。

③双極性障害 (Bipolar Disorder):
気分の極端な変動に特徴があります。気分の高揚期(躁期)と気分の低下期(うつ状態)が交互に現れます。躁状態では興奮や無謀な行動が見られ、うつ状態では意欲の低下や絶望感が強くなります。
患者の特徴:双極性障害の特徴は、気分の極端な変動です。躁状態では高揚感、興奮、無謀な行動が見られ、うつ状態では憂鬱、意欲の低下、絶望感が強まります。また、躁状態とうつ状態が交互に現れることもあります。

④抑うつ障害 (Depressive Disorders):
気分の持続的な低下や興味や喜びの喪失、自己評価の低下などが特徴です。一般的なうつ病や季節性情動障害などが含まれます。
患者の特徴: 抑うつ障害の特徴は、持続的な憂鬱感や喜びの喪失、自己評価の低下、エネルギー不足、集中力の低下、睡眠障害、食欲変動などが一般的です。

⑤不安障害 (Anxiety Disorders):
過度の不安や恐れが日常生活に影響を与える精神障害の総称です。一般的な不安障害には、全般性不安障害、社会不安障害、特定の恐怖症などが含まれます。
患者の特徴:安障害の特徴は、過度の不安や恐れ、身体的な症状(心拍数の増加、息切れ、動悸など)、緊張、不安による日常生活への影響などが一般的です。

⑥強迫性障害 (Obsessive-Compulsive Disorder, OCD):
強い不安を引き起こす強迫的な思考や行動が特徴です。例えば、強迫観念(不安を引き起こす強い思い込み)や強迫行動(特定の行動を繰り返すこと)があります。
患者の特徴:強迫性障害の特徴は、強迫観念(不安を引き起こす強い思い込み)や強迫行動(特定の行動を繰り返すこと)、またはその両方があります。強迫的な行動を行うことで不安が和らぐ場合があります。

⑦心的外傷後ストレス障害 (Post-Traumatic Stress Disorder, PTSD):
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、強烈なトラウマ体験後に発生する精神障害の一種です。PTSDは、戦争、自然災害、事故、暴力的な事件、虐待など、極度のストレスや恐怖を伴う出来事によって引き起こされることがあります。この障害は、そのような体験によって引き起こされた心的外傷に関連しています。
患者の特徴:個人によって異なりますが、多くの場合、トラウマ体験によって引き起こされた強い恐怖や無力感、または絶望感がみられます。また、トラウマの思い出を避けようとする傾向や、過度な興奮状態や反応性の増加も見られます。

⑱パーソナリティ障害(Personality Disorders):

パーソナリティ障害は、個人のパーソナリティの持つ特徴が極端であり、日常生活や社会的相互作用に支障をきたす状態です。一般的なパーソナリティ障害には、回避型パーソナリティ障害、反社会的パーソナリティ障害、ナルシスト性パーソナリティ障害などがあります。
患者の特徴: パーソナリティ障害の特徴は、個人のパーソナリティに関する偏りや問題行動、他人との関係における難しさなどが含まれます。これにより、社会的・職業的な機能に支障をきたすことがあります。例えば、回避型パーソナリティ障害の患者は、人との関わりを避け、自己否定的な思考や恐れにとらわれる傾向があります。

まとめ


このように、DSMで各精神症状の診断基準が明確に規定されることにより、精神科医は一貫性のある診断を提供することが可能となります。これにより、異なる医療機関や専門家の間で診断が一致しやすくなり、患者への適切な治療とサポートが実現します。

一方で、特異的な検査方法が存在しない状況からも明らかな通り、発達障害または発達障害グレーゾーンの診断は精神科医にとって非常に困難な課題です。なぜなら、原因の複雑化に加え、個々の患者の症状や経験の多様性も考慮しなければならないためです。

実際、専門家の意見によると、発達障害と診断されたにもかかわらず、薬物療法や認知行動療法で改善しなかったケースは少なくありません。こうした場合、心のトラウマが併存している可能性も考えられます。

そのため、専門家による正しい判断が実現するためにも、一人一人がご自身の病歴や発育歴などの身の上のことを含め、しっかりと把握した上で、医師による診断を受けることが重要だと思います。

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