「ウォルト・ディズニーの約束」アルコール問題家族の悲劇(2013年アメリカ・イギリス・オーストラリア映画)
「メアリー ポピンズ」の原作者と、ディズニー映画「メアリー ポピンズ」の制作にまつわる実話に基づく物語。
イギリスに住む原作者のトラヴァース夫人。頑なに「メアリー ポピンズ」の映画化を拒んでいる。
この人の性格が面白い。俗悪なものを嫌い、皮肉屋で、排他的。高慢で自己中心。とにかく嫌な女だ。こういう頑迷な女性はときどき見かけるが、決して一緒に仕事をしたくない。
しかし、ウォルト(もちろんディズニーのことだ)は、この女性の「メアリー ポピンズ」に魅了されている。何としても、映画にしたい。しかも、ミュージカル映画に。
トラヴァース夫人の嫌いなものリストのトップ10には、梨と赤いもの、酒と並んで、漫画(アニメ、カトゥーン)、ミュージカルが入っているだろう。
これではうまくいく訳がない。そうやって18年が過ぎ去った。
しかし、我々の目の前にはウォルトが作った「メアリー ポピンズ」の映画がある。この映画がどのように作られていったか、原作者がこの作品に込めたものは何だったのか、サスペンスが生まれる。
原作者のトラヴァース夫人が納得いくように映画の脚本を、一字一句読み合わせ、登場人物のキャラクタ設定を検討し、音楽、歌詞を直していく。その経過を全部録音テープに残すように夫人は言う。そしてスタッフは全てその通りにする。素晴らしい結末も作り上げ、みんなが満足、あとは劇場公開するだけ思ったその時、大きな問題が起こる。今までの努力はすべて水の泡。
さあ、ウォルトはどうやって夫人を説得し、映画化に漕ぎつけたのか。
「メアリー ポピンズ」(1964年)は素晴らしい映画だ。ジュリー・アンドリュースの英国アクセントが気持ちいい。音楽もダンスも最高だ。それらの一つ一つを作っていく過程を見ているだけで胸がいっぱいになる。
そして、バンクス氏。一家の主、お父さんが銀行で働いていること、2ペンスをめぐるエピソード、最後に、破れた帽子をかぶったまま凧を上げる、喜びにあふれたバンクス氏の姿・・・。
そうだ、この映画はお父さんのバンクス氏が救済される映画だった!
それらすべての意味を明瞭に悟ったとき、トラヴァース夫人も俺も涙を抑えることができない。
アルコールに侵された父親と家族の姿。いつの時代にも同じことが繰り返される。アルコールは依存性の強い危険な毒物だ。安易に酒ぐらい、というべきではない。酒は飲むべきでない。
酒を飲んでだらしなく無様な姿をさらした翌日、平然と職場に現れ、昨夜のことは全く覚えていない、という馬鹿が俺の周りにも何人かいる。俺は酒を一切飲まないから、そいつらの醜態をはっきり記憶しておく。何と言われようが、二度と同じ宴席には行かない。
しかし、そのアルコール依存の悲しい父親がいたから、「メアリー ポピンズ」が生まれ、ミュージカル映画が生まれ、この「約束」(日本語のタイトルは馬鹿みたいだ・・原題: Saving Mr. Banks 直訳:『バンクス氏の救済』)が生まれたわけなので、いいこともあったとしておこう。
人間の行いの善悪など誰が諮りうるだろうか。
嫌な人間は最後まで嫌な人間だが、愛すべき嫌な人間もいることを学んだ。
他人にこの映画を勧めたくて、とにかく書き留めておく。
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