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パン職人の修造50 江川と修造シリーズ イーグルフエザー

大木が帰ろうとする鷲羽と江川を呼び止めた。

「お前達には修行も兼ねてベーカリーベークウェルのヘルプに行ってもらう、江川が次に空いてる日に鷲羽も行ってきて良い。江川、決まったらメールくれよ」


「はい」

帰りの電車で江川は修造に質問した。

「ヘルプってどんな事をすれば良いんですか?」

「そうだな。ベークウェルって5店舗ある町のパン屋さんなんだけど、そのお店がイベントとかしたら沢山のお客さんに来てもらえるからその分沢山パンがいるだろ?だから手の足りなさそうな所を手伝ったりするんだよ。店の人にに頼まれた仕込みや成形をするんだ」

「へぇ〜僕初めてです。どんなのかなあ。。それに、、鷲羽君と一緒なんですよ」

江川は不安そうに少し涙目で言った。

「それは、、頑張ってね」そこに呼ばれていない修造はそう言うしかなかった。


——-

さて、江川は空いてる日を大木にメールした。
すると大木がベークウェルの地図と持ち物、日時を書いて送り返してきた。


大木はホルツで仕事中の鷲羽に、この日に江川とベークウェルに行く様にと言ってきた。


なんで俺が江川と行かなきゃいけないんだ。
鷲羽は心の中で愚痴をこぼした。
あのキラキラした江川をずっと見てなきゃいけないのか。

うんざりだ。

——-

ベークウェルはお洒落な設計で、敷地が40坪、店と工場は半分ずつに分かれており、店部分の三分の一はイートインスペースだ。

お店にいる3人の店員さんに挨拶して中に案内して貰う。

江川と鷲羽は別々に着いてその店の店長に挨拶した。

「店長の杉野です。来てくれて丁度良かったよ。明日から3日間、開店5周年の創業祭があるんだよ。今日は2人ともよろしくな、あそこにいる塚田って子が指示してくれるから」

2人は同時に塚田を見た。

細身の塚田の制服はうす汚れていてヨレヨレしている。それがなんだかやる気のない様子に見えた。
表情もどこか頼りなげだ。

塚田はぺこっと頭を下げて2人にバゲットの成形を促した。

「おい!ちゃんとやっとけよ!」
塚田に罵声とも言える言葉を残して店長がどこかへ行ってしまったので、工場の中には塚田と、焼成のところに三田、仕込みのところに辻と言う従業員、そして江川と鷲羽の5人になった。


「塚田さんって幾つなんですか?」と気さくに江川が質問した。

「25です。元は本部にいたんです、、こちらに来て1年目になるんですがもう辞めようと思っていて」

まだ話し出したばかりなのに塚田は何故かやめる事を言い出した。

「なんで?」なんだか自分が普段目指してるものと違いすぎて帰りたくなった鷲羽が聞いた。

「それは、、」塚田はチラッと店長が出て行った跡を見た。

「あの人が嫌なの?」江川もそちらを見て言った。

「はい」

パワハラかなんかか?
もうさっさと仕事をやってしまって帰ろうと決めた鷲羽は「何が修行だよ、1日損した」と呟いて突然黙々と仕事をしだした。

鷲羽の険しい表情を見て、江川はそこからなるべく遠ざかって塚田と一緒に成形しながらしつこく質問した。

「何が嫌なの?」ホルツやパンロンドにはいないタイプの塚田が珍しかったのだ。

「ここにいても何も解決しない」

「例えば?」

「おい!江川。そんなやつほっといてさっさとやろうぜ。やる気のない奴は辞めたらいい」

「鷲羽君、そんな言い方しないで」江川はオロオロした。

修造ならこんな時なんて言うだろうと考えていると塚田が言った「やる気ないわけじゃないんです」

「ならなんで辞めるんだ」要領を得ない会話に鷲羽はイライラした。

「ここには問題が沢山あるんです」と突然後ろから声がした。

仕込みをしていた女性が話しかけて来たのだ。

「あ、急にごめんなさい。塚田さんもヘルプの人達に中途半端に言わないでよ」

「ごめん」

「ここは経営者は別にいるんです。店長は目が行き届かないのをいい事にサボってばかりいて」

「注意すればいいだろ?」

「無駄ですよそんなの」

もう1人の焼成の担当三田も話しかけて来た。

「店長はすぐにキレるんです、注意なんてしたら1日中機嫌悪いですよ、それに二言目にはお前達は効率が悪いってキレてます」

「えー!嫌だなあそんなの」

「だから辞めるのか」

「それもあります」

「問題を解決しないと次に入ってきた人も同じ事になるんじゃないかなあ」
江川の言葉に乗せて、鷲羽は塚田に言った。
「例えばお前が受験生だったとする。第一志望に受からなくて第二もダメで第三なら受かった。こんなとこに入りたくなかったとずっと不満に思うか、自分がこの学校のトップを追い抜いて更に上を目指して学校の格を上げるか。要は気持ち次第だろ」

「ここって色々問題あるんだよ。例えばさ、それ、店長どうのこうのより袋の中のクリームは綺麗に使い切ろうよ。ほらこれを使うとすごい綺麗に使い切れるぞ」

鷲羽は窓拭き用の小さな四角いワイパーを持ってきて洗って搾り袋を持っている三田に渡した。

ワイパーの薄くなっている部分で搾り袋を押していくと袋の中のクリームが綺麗に使い切れた。

「スケッパーって使い込んでるうちに先が凸凹してくるけどこれなら密着する。さっきから気になってたんだよ」

「ほんとだ!」

3人はしぼり袋の中のクリームが綺麗に使いきれているのを見て「へぇ〜」っと言った。


つづく

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