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グローバルヘルス業界でのキャリアの話

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なんだかんだキャリア形成に関する記事が増えてしまったので、まとめることにしました。
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記事一覧

プライマリ・ヘルス・ケアの専門家になるのは容易ではない

私は任地でプライマリ・ヘルス・ケア (primary health care; PHC) に関する仕事をしている。2018年のアスタナ宣言以降、グローバルヘルス業界ではPHCを再興しようというトレンドが若干あり、低/中所得国のPHC強化に焦点を当てたポジションやプロジェクトが若干増えている。私もそんなトレンドに乗り意気揚々とPHCの仕事を始めた訳だが(日本で家庭医をしていたこともあり、PHCは以前から関心領域だった)、つくづく難しい仕事だなと日々頭を悩ませている。 そこで本

JPO派遣制度への応募を検討している若者への、たった1つのアドバイス

先日、ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー (Junior Professional Officer; JPO) 制度への出願についてXで何気なく呟いたところ、普段よりもエンゲージメント⬆️だった。やはりキャリア系の投稿は需要があるんだなぁ… 私が外務省のJPO派遣制度に応募したのは5年以上前なので、試験の詳細は忘れており、試験対策等で気の利いたアドバイスをすることは難しい。じゃあ今更JPO受験に関する記事なんか書くなよ!と怒られそうだが、本稿ではJPO合格にも直結し、

保健システムのbuilding blocks別、アーリーキャリアの構築法

グローバルヘルス業界のキャリア形成に関する記事はいくつか執筆しており、とりわけ保健システム強化の分野を専門性を確立したければ、まずは6つのbuilding blocksの中から1つを選択すべし!と以前指摘した。 とは言え、building blocksの1つを選んでも、更にその下に小分野がいくつか存在し、その細かい小分野毎に求められるqualificationが異なる。グローバルヘルス業界は他の業界よりも専門性がより細分化している。その求められるqualificationを

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国際機関をクビになった場合の出口戦略(保健分野)

JPO試験に受かるのも大変ではあるが、JPO後も国際機関に残り、10~20年と働き続けるのは大変である。変な上司に当たってしまったとか、仕事で成果が出なかったとか、資金がなかった等々、日本に戻らなきゃいけなくなることもあるだろう。医療職の場合は臨床に戻るという手もあるのだが、可能なら国際協力や公衆衛生の仕事を続けたい(=再び海外に行くチャンスに恵まれた時に職歴的にプラスになる)とも思う。 そこで本稿では、国際機関を退職して日本に戻ることになった場合に、どのような働き口がある

「向こう5~10年で獲得したいスキル」を振り返る

WHOに入職する前に、こんな将来こんなスキルを獲得したい的なことをブレストして記事にまとめたことがある。 久しぶりに思い出したので、当時の考えが妥当だったのか否か、5年越しに振り返ってみたい。また当時見落としていたが重要なスキルについても検討してみた。 取り上げたスキル語学(特に英語以外の国連公用語) 過去5年間ほとんど勉強しなかった。JPO2年目にWPRO管内に異動してしまったので、英語以外の国連公用語を学ぶインセンティブが失われてしまったのだ。また専門知識を増やすこ

WHOの採用プロセスを理解する

最近ふと気づいたのだが、WHOの採用プロセスについて、このnoteで一度もまとめたことがなかった。まぁ自分が生き残るのに必死だったのと(これは今でもだが)、人様に能書きを垂れる程の記事を書ける自信がなかった、という理由はあるかもしれない。でも何度もWHOの採用プロセスを経験して、結果が良い時も悪い時もあったが、自分の中でノウハウが血肉化され、語れることが増えてきたと感じている。本稿では、その辺を中心にまとめた。 確かにWHOの採用プロセスは大枠では他国際機関と大差ない。じゃ

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国際機関における専門性の構築:直線的が良い?回り道が良い?

ツイッターでたまたま↓のような興味深い投稿を見つけたので、本稿でも少し考察してみたい。 要は専門性を構築するプロセスとして、特定領域で直線的に積み上げるパターン(左側)と、周辺領域も含めて多様な経験をする中で積み上がっていくパターン(右側)の2つがある、という話である。実際には右側のパターンが多いよね、というツイ主の意見には同意できる。そんな私も右側のパターンである。 一方でWHOには(他の国際機関は知らないが)左側のパターンの職員も、それなりにいる。例えば、WHO本部で

NPOが幅を利かせている国事務所で若手Pスタッフがサバイブするには?

本稿で取り上げるNPOとはNational Professional Officerのことである。国連の国事務所にはNPOと呼ばれるスタッフが大なり小なりいる。彼ら/彼女らは当該国の出身でinternational professional staffとは給与体系が異なるが、歴とした(日本的な言い方をすると)総合職である。他の国連機関の事情は分からないのだが、WHOの場合はNPOの多くは元保健省の役人である。入職する時点で既に保健省内に人的ネットワークを持っているので、それを

国際機関就活において、なぜ専門性が大事なのか?

国際機関で生き残っていくためには専門性が大事だ!!とよく言われる。私も耳にタコができるくらい様々な人から聞いてきたし、理解したつもりになっていた。でも自らの直近数年間のキャリアを振り返えると、専門性に対する認識が甘かったと反省することがむしろ多かった。 専門性を高めることに対する認識の甘さは、日本人がグローバルに活躍することを妨げる1つの要因になっている。多くの日本企業では未だにメンバーシップ型雇用を主としており、(特に文系は)新卒採用等で専門性が問われることは少なそうだ。

グローバルヘルス業界でサバイブするためにPhDを取得するべきか?

私もまだ若手であるつもりなのだが、グローバルヘルスを志す、特にWHO等の国際機関で働きたい若者からアドバイスを請われる機会がある。頂戴する質問の中で頻出なものの1つが「PhDは必要なのか?もし必要であるなら、いつ、どこで、何を取得するべきか」である。僕も悩んでいたので気持ちはよく分かる。そして僕が選択した道が正しい保証は全くない。ただ昔よりは語れることがそれなりに増えてきたので、現時点でも自分の考えをまとめておこうと思う。 もちろん大前提として、PhDがないよりある方が良い

ポストを作って国際機関で生き残る

幸いなことにJPOを卒業した後にtemporary appointmentという任期付き正規職員(仮)のような立場でWHOに残留することができた。率直に言って嬉しい反面、任期は1年間でその後延長できるか不透明なので、首の皮一枚で繋がっているようなものなのだ。就活は続けなければならない。 このポストは上司と交渉して、現職場に増設してもらったポストである。他の国際機関の事情はよく知らないが、JPOから空席公募を通じてWHOの正規職員に選ばれるハードルは高い。空席公募のボリューム

WHO「本部」で活躍できる人材とは?

諸事情がありWHO本部から某国の国事務所に異動することになった。その詳細についてはおいおい触れるとして、今回の一件はWHO本部に向いているのはどんな人材か?について深く考えさせられた。あくまでも私の経験に基づいた話で一般化できないかもしれないが、これから国際機関を目指す日本の若者の参考になるかもしれないので以下にまとめたい。 WHOの役割・機能を理解するFrenkとMoonは、WHOを含むグローバル・ヘルス・システムの機能を4つに分類している。 私もこの分類は正しいと思う

グローバルヘルスで専門分野ってどう決めるの?

3月は日本が春休みだからなのか、グローバルヘルスに関心がありジュネーブを訪問しに来た大学生・若者と話をする機会が多かった。現役WHO職員との懇談の場がセッティングされ、彼らのキャリア形成に関する悩み相談を聞くことになる。そこで気づいたのだが、彼らの、特に大学生の悩みの8割は「専門分野として何を選んだらよいか分からない」なのだ。まぁ確かに難しい。私自身も30半ばで、ようやく専門としたい分野がクリアになった。私が大学生の頃を振り返ると、キャリア構築に対する考えがいかに浅かったか(

UHCの専門家にはどうすればなれるの?

本稿で繰り返すまでもなく、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(universal health coverage; UHC)の達成は数あるグローバルヘルス・アジェンダの中でも最も重要な物の1つである。例えば、持続可能な開発目標(SDGs)の目標3.8はUHC達成である。また世界保健機関(WHO)の第13次中期計画(GPW13)では、UHC達成は3本柱の1つである。 日本は低中所得国がUHC達成を支援するために多大な資金援助をしている。例えば、2018年に日本政府は世界保健機関