国際機関就活において、なぜ専門性が大事なのか?

国際機関で生き残っていくためには専門性が大事だ!!とよく言われる。私も耳にタコができるくらい様々な人から聞いてきたし、理解したつもりになっていた。でも自らの直近数年間のキャリアを振り返えると、専門性に対する認識が甘かったと反省することがむしろ多かった。

専門性を高めることに対する認識の甘さは、日本人がグローバルに活躍することを妨げる1つの要因になっている。多くの日本企業では未だにメンバーシップ型雇用を主としており、(特に文系は)新卒採用等で専門性が問われることは少なそうだ。大学(院)で何を専攻したかで配属が決まるわけでは必ずしもなく、むしろ仕事を選り好みせずに何でもやる人材が評価されそうだ。

実は医療従事者でも専門性に対する認識が甘いことがある。臨床では医者なら初期研修後は専門科を選択するし、耳鼻科医になったら心臓外科手術はできないことぐらい分かるはずである。でも何故かグローバルヘルスとなると、専門分野はまだ検討中です!という返答を耳にする。まぁ私もそうだったのだが、そもそもキャリアパスがあやふやなので、どんな選択肢があるか分からない、分からないものは選べない…と悩む若者も少なくない。

何はともあれ、グローバルヘルスを志す若者に、専門分野を構築することの重要性を理解してもらいたく、本稿を執筆した。


なぜ専門性が大事なのか?

ジョブ型雇用だから

改めて言うまでもないが、国際機関はジョブ型雇用である。まぁ国際機関に限らず外資系の民間企業も概ねそうだろう。国際機関が求人を出すときは ジョブ・ディスクリプションに職務内容や募集している人材像(過去の経歴やスキル等)を明記する。数ある応募者の中から、職務を遂行するのに最も適した経験やスキルを持ち合わせてるだろう者を採用する。つまりジョブ型採用で選ばれるためには、ジョブ・ディスクリプションとあなたの専門性がマッチしていることが重要なのだ。

まぁ国際機関とざっくり書いてしまったが、機関毎に専門性を細かく見る、その濃淡はありそうだ。WHOのような専門機関では非常に細かくみられ、求人も疫学専門家や臨床検査専門家など分かれている。他の援助実施機関では保健専門家のような広い括りで求人が出されるが、ポジション名だけで早合点してはいけない。例えば、UNICEFなら母子保健や予防接種が、世銀等の開発銀行なら保健システム強化に強い人材を暗に探している場合が多い。

課題解決できるから

専門家を名乗るということは、ある技術的領域の課題は概ね解決できる、ということを意味する。仮に、あなたが地域事務局や本部で働いていたとして、国事務所からコンサルトされる立場だったら、この課題解決できる技術的領域がないとお話にならない。WHOでは地域事務局に居を構える専門家達は、国事務所に社内営業をしている。自らの専門性をアピールし、その専門性が役立つ課題を発見&技術的支援を行うことで、自らの価値を証明する=組織でサバイブする。

国レベルで仕事をするとなると、ソフトスキルを含む幅広いスキルが求められるが、技術的専門性が重要であることは変わりない。経験豊富で専門性が高いことが政府カウンターパートやステークホルダーから認知されれば、彼らからの信頼を得る一助になるだろう。国際機関では、こうした専門家個人の力によって案件を獲得することが多い。

また、最悪、誰もあなたを助けてくれなかったとしても、その課題を「独力で」解決できるであろう。国際機関は組織がサイロ化しており、個人事業主の集合体のような様相である。建前上は同僚や他のチーム、組織の他レイヤーと協働して国からの要請に応えることが推奨されているが、実際にはバラバラに動いている。もちろん二つ返事で協力してくれるナイスな人々も多い一方で、中にはメールの返事すらよこさない人もいる。

仕事を選ぶことができる

あなたが一度ある領域の専門家として周囲に認知されると、その技術的領域の案件を中心に振られることになる。仮に別の領域の仕事が舞い込んできても、「私には専門性がない」と主張して断ることができるかもしれない(立場にもよるが)。良いか悪いかは別として、自分の専門分野内の仕事だけしていれば安定して成果を上げられる可能性が高まり、組織でサバイブできる可能性も高まるだろう。

逆に目立った専門性がないと、ジェネラリストとみなされ、様々な技術的領域の仕事を振られてしまうかもしれない。専門性の幅を広げるという意味では良いかもしれないが、深さを追求することは難しくなるかもしれない。また専門外の案件に手を出して、上手く仕事を回せれば良いが、失敗して炎上するリスクを負うことになる。

専門性があるとアピールするには?

じゃあ我々求職者が、雇用主に「私は専門性があります!」と効果的にアピールするためには、どうすれば良いのだろう?一言で言うと、あなたの学歴~職歴に一貫性がある(と見せる)ことだと思う(注1)。例えば、あなたが疫学専門家を雇いたいと思った際に、以下の4人の求職者しか選択肢がなかったとする。あなたなら誰を採用するだろうか?

  1. 疫学修士あり+疫学職務経験あり

  2. 疫学修士あり+疫学職務経験なし

  3. 疫学修士なし+疫学職務経験あり

  4. 疫学修士なし+疫学職務経験なし

まぁ順当に考えたら①だろう。③もアリだが、①よりも豊かな実績がないと①を制して採用されないかもしれない。②は大学院を修了したての若者であれば、若手向けフェローシップ等で採用されるかもしれない。でも他分野で職務経験を重ねていた人が、やっぱり疫学の仕事がしたい!といきなり応募しても、簡単には採用されないだろう。④は言うまでもなくダメである。

もちろん過去の職歴を振り返って、全部が全部ジョブ・ディスクリプションに関連する職歴ではないかもしれない。むしろ大抵そうならない。だからこそCVを書き方を工夫する必要がある。英文CVは主要な経歴を1~2ページ程度にまとめる(注2)。経歴が浅い頃は書くことがないと頭を悩ませがちだが、ある程度経験を積むと、逆に何を強調して何を削るかに頭を悩ませる。CVに関連の薄い経歴を書いたことろで雇用主に評価されないからである。

戦略的に専門性を構築するためには?

昨今のキャリア論は、故スティーヴ・ジョブズによる"connecting the dots"のスピーチで言われるように、目指すべき将来像から逆算してキャリア設計することに否定的である(ように私は感じる)。しかし個人的には、向こう数年間の方向性を定めて、それに向けて能動的に準備することは大切だと思っている。例えば、多くの純ジャパにとって欧米大学院の修士ぐらいなければJPOに合格することは難しいだろう。目の前の仕事をこなす毎日を繰り返したところで、夢には近づかない。

専門性を確立する第一歩は、早めに分野を絞ることだと思う。個人的には、大学院に進学する前にある程度は分野を絞って、大学院では同分野を中心に勉強するのが良いと思う。大学院をモラトリアム期間にするのはおススメできない。大学院は高額な自己投資である。時間も取られるし、ホイホイと何個も修士号/博士号を取る訳にはいかない。まぁ人生どのタイミングでやりたいことが見つかるか予測できないこともあるのだが、仮に修士号で専攻しなかった分野にキャリア・チェンジしたいとなると、新しい分野で追加の修士号を取らざるを得なくなるかもしれない。

ちなみに公衆衛生学は学際的分野なので、公衆衛生をやりたい!と言うだけでは専門分野を絞ったことにはならない。MPHを取得するにしても、専攻が大事である。専門分野の決め方については昔記事を執筆したので、そちらを参照して欲しい。

JPOプログラムの課題

私はJPOプログラムの卒業生なのだが、上記の観点から問題を内包していると思う。もちろん運営側の外務省の方々も頑張ってくれているので批判めいたことを言うつもりはないのだが、どうしてもJPOが各々の専門性と関係ないポストにアサインされてしまうことがある。運よくサバイブできれば良いが、JPOが自らの専門性と関係ない仕事を押し付けられて、パフォーマンスが上がらず、上司からの評価も芳しくなく、JPO卒業後の就活に困る…ようだと外務省もJPO自身もお互い不幸である。

現役/未来のJPOにアドバイスできることがあるとすれば、自らに何が期待されているのか上司や同僚との面談から理解し、自らの経験やスキルとのギャップを早期に認識することである。重大なギャップがある場合は、早めに上司と相談した方が良いだろう。あなたのジョブ・ディスクリプションを、あなたの専門性に少しは重なるように修正してくれるかもしれない(注3)。


注1:GO三浦氏が↓のYouTube動画で、ブランドは「行動」と「一貫性」で構築されると指摘していたが、国際公務員としての専門性を確立する(=ブランド人材になる)ことに通じる。

注2:国連のPHPの場合は長々と細かい経歴について書けるが、関連する経歴を強調するという原則は変わりない。
注3:ここら辺は正直上司による。国連の上司ガチャについては、それだけで1本記事が書けるので、いつか投稿したい。

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