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グローバルヘルス業界でサバイブするためにPhDを取得するべきか?

私もまだ若手であるつもりなのだが、グローバルヘルスを志す、特にWHO等の国際機関で働きたい若者からアドバイスを請われる機会がある。頂戴する質問の中で頻出なものの1つが「PhDは必要なのか?もし必要であるなら、いつ、どこで、何を取得するべきか」である。僕も悩んでいたので気持ちはよく分かる。そして僕が選択した道が正しい保証は全くない。ただ昔よりは語れることがそれなりに増えてきたので、現時点でも自分の考えをまとめておこうと思う。

もちろん大前提として、PhDがないよりある方が良いのは当然である。しかし本稿ではPhDの有無が論点なのではなく、キャリア形成における優先順位の話なのである。例えば30歳でJPOに挑戦しようと考えた時に、四大卒の22歳から8年間の準備期間がある。この期間を実務経験と学業・研究にどれくらい割合で配分したら、その後のキャリア形成にベストだろうか…そんな話なのだ。

私見で恐縮だが、PhD取得を優先すべきか否かを判断する軸として、以下があると考えている。これらを総合的に判断して、希少なキャリア準備期間を何に費やすか決めることをオススメしたい。


1. 研究志向か?実務志向か?

そりゃ当然だ!と言われそうだが、あなたが主に研究を通じてグローバルヘルスに貢献したいのか、実務を通じて貢献したいのか、によってPhDの重要性が変わってくるだろう。前者なら若いうちにフルタイムで(できれば欧米の)博士課程に進学するべきだし、後者なら進学を遅らせたりパートタイムで取得しても良いだろう。やっぱり三十路前後でフルタイムの博士課程に入らないと英文原著論文は量産できない。良い歳して英文原著論文の本数が少ないと、その後のアカデミック・キャリア暗雲が立ち込めるだろう。

周りの国連職員の話を聞いていると、国際機関で働きながら博士課程を修了するのは容易ではない…と皆が異口同音に言う。ドロップアウトする人もいるし、修了できたとして論文を量産するのは難しい。自らフィールド調査に出かけられるほどまとまった休暇は取れないので、調査会社に委託するか、二次データを利用することになる。仮に論文を書けたとしても、きっとプライベートや一部仕事を犠牲にしているのだろう。

2. 専門性を高めたいか?

英米の博士課程はコースワークがしっかりしており、PhDを取得する過程で専門性を高める、特に技術的スキルを磨くことができる。また研究する過程で文献レビューや仮説検証を繰り返すので、専門性は否応なしに高まるだろう。政府や国際機関の専門家パネルの構成員の多くは一流の大学研究者である(分野にもよるが)。

となると将来アカデミックなキャリアに進みたいか踏ん切りはつかないが、将来実務家になったとしても通用する専門性を獲得したいので、博士課程に進学したいと考える若者もいると思われる。しょせん1~2年間の修士課程を修了したところで、得られるスキルは心許ない。いや、でも研究は苦手で…という人には実務家向けのDrPH等の学位も用意されている。

まぁ専門性を磨くにあたって、博士課程に進学するのが良いのか、実務を通じて磨くのか…どちらが良いのか正直私には分からない。各々のおかれた状況にもよるのだろう。かく言う私も自身のキャリアを振り返って、MPH取得後に米国に残って医療経済学のPhDを取るべきだったかも?と思わない訳ではない。WHOの同僚や上司に有名大学のPhDホルダーがいれば尚更である。でも実務を通じて最前線の知見を吸収できていることは事実である。また医療経済学のPhDと一概に言っても、よくある費用対効果分析で論文を書いても保健財政政策の専門性は高まらない。同分野では、第一線の専門家がアカデミア外に多いことも事実である。

そんな研究と実務の間で迷っている若者に1つオススメできるのは、もしPhDを取得すると決めたならば、WHO Collaborating Centreに指定されているような、WHO等が発注しているコンサル案件を積極的に受注している研究室の指導教官の下で博士課程を過ごすことである。例えば私は過去に、オーストラリアにある某大学に某国の非感染性疾患(NCD)の政策評価を発注したことがある。研究室の教授が成果物の質に責任を持つのだが、実際に手を動かしていたのは博士課程の学生だった。そうしたコンサル案件を通じて実務に繋がるスキルを身につけることができるだろう。

3. どの機関で働きたいか?

WHOや世銀はPhD保持者が多い傾向がある。一方でUNICEFやIOM等のフィールド業務中心の国際機関でPhD保持者は相対的に少ない印象がある。特に緊急人道支援系のポストはフィールド経験が重視されそうだ。またWHOでも国事務所で技術的支援に従事している職員でnon PhDは結構いる。一方で本部職員は規範的業務に従事することが多いので、PhD保持者が多い。

4. 医者か否か?

例えば、あなたが感染症専門医+MPHのバックグラウンドだとして感染症疫学の実務がしたい場合は、PhDは必須ではないかもしれない。一方で、もしあなたがnon MDであるにも関わらず感染症疫学の仕事がしたい!となると、感染症疫学のPhDがあった方がキャリアのアップサイドがあるかもしれない。勝手な印象論で恐縮だが、WHOや世銀ではMDもしくはPhD (またはその両方) を持っていた方が良さそうだ。

5. 大学で働きたいか?

①の論点と若干被るのだが、もしあなたが何らかの理由で国際機関等を退職することになった場合に、PhDがあると大学に就職するという道が開けるかもしれない。国際機関の雇用は流動的で10~20年働き続けられる保証はないので、プランBを用意しておくという意味でも、PhDを取っておいて損はないだろう。

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