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グローバルヘルスで専門分野ってどう決めるの?

3月は日本が春休みだからなのか、グローバルヘルスに関心がありジュネーブを訪問しに来た大学生・若者と話をする機会が多かった。現役WHO職員との懇談の場がセッティングされ、彼らのキャリア形成に関する悩み相談を聞くことになる。そこで気づいたのだが、彼らの、特に大学生の悩みの8割は「専門分野として何を選んだらよいか分からない」なのだ。まぁ確かに難しい。私自身も30半ばで、ようやく専門としたい分野がクリアになった。私が大学生の頃を振り返ると、キャリア構築に対する考えがいかに浅かったか(そして浅いことに気づかなかったか)思い出され、恥ずかしくなる。

そこで本記事では、これからグローバルヘルスを志す若者が、専門分野をどのように絞っていけば良いか考察してみた。

Step 1. 心が動かされる課題をみつける(右脳を使って)

学生・若者向けの数あるキャリア・アドバイスの中で個人的に1番しっくりきたのは、(グローバルヘルスとは関係ないのだが)今はシリコンバレーでDrivemodeというベンチャーを起業しているYokichi氏の以下のブログ記事である。

彼が指摘するように、自分が経験したことがないものに情熱は湧きにくいのではないか?なるべく若いうちに現場で生の体験をするべきだと思う。それはバックパックを背負った独り旅でも良いし、NGOでのボランティアやスタディツアーでも良いと思うのだけど。座学で開発や国際関係を勉強しているが途上国に一度も行ったことがない学生がしばしばいるので、彼らが社会人になる前に背中を押してあげるのが良いだろう。

Step 2. 戦略的に分野を絞る(左脳を使って)

で…心動かされる健康課題が何となく見えてきたとして、それが出発点であることは間違いないのだが、それだけでは車の片輪だと考えている。この業界で生き残り飯を食っていくためには、戦略的に専門性を構築する必要があるからだ。その点について参考になるのがGreg Martinによる以下のYouTubeビデオだと思っている。

要約すると "subject matter" と "transferable skills" の2つを考慮しましょうという話である。ここで言う "subject matter" とは「やりたいこと」に近い。例えば感染症、母子保健、UHCなどの健康課題である。もう一方の "transferable skills" は「できること」に近い。例えば疫学、経済学、経営管理などの自ら武器となるハードスキルのことである。これら「やりたいこと」と「できること」のうまく重なった分野が、あなたの専門分野であるという話だ。とても腑に落ちる!

しかしこの動画で触れられていないが個人的に重要だと思う点が2つある。1点目は"subject matter" と "transferable skills" の組み合わせである。例えば感染症と疫学は相性が良いだろう。一方でUHCだったら経済学と相性が良いだろう。欧米のMPH課程では、専攻を選ぶと健康課題×スキルがある程度マッチするように履修科目が組まれていることが多いが、選択科目の履修など自分で選ぶ際には注意が必要である。2点目は労働市場を考慮していない点である。多くの場合にODAはイヤーマークされている。したがって潤沢に資金がある健康課題(=ポストがたくさんある)とそうでない課題に別れる。ポストが少ないと競争が激しくなるので、生き残るのも厳しくなってしまう。必ずしも業界的に重要な健康課題に資金が集まっている訳ではない(例えばNCDなど)のが、非常に悩ましい。

上記を踏まえた上で、Gregの考え方を拡張して以下の3点を考慮した方がよいのではないか、と最近は考えている。

当たり前だ!と言われればそうなのだが、あなたが1) 興味があり、2) 当該分野で働くスキルを持ち合わせており、3) 労働市場が拡大している、分野がオススメである、という話だ(上図の①に該当)。

しかし現実的には、上記3要素を全て満たせる分野がなかなか見つからないこともあるだろう。その場合にどの要素を取捨選択するかが問題になる。正解はないのだが、個人的にはまず「あなたの興味」をまず削るべきだと思う(つまり上図の①→②にシフトする)。こんな話をすると「まず情熱を持てる健康課題を探せと言ったのはどこの誰だ!」と批判されそうだが、ちょっと待って欲しい。我々は現実的にならなければいけない。競争が激しいグローバルヘルスの業界で生き延びなければならない。そのためにはハードスキルや労働市場の規模・成長性は軽視できないだろう。一方で人の興味は移ろいやすいので、仕事をしていれば興味が沸くこともあるかもしれない。どうしても興味が持てなければ、転職することもできる。逆にいくら興味のある分野でもスキルがなければ門前払いで職にありつけないし、労働市場が小さいとよっぽど他者と差別化しないと生き残れない。

(特に)医療系学生・医療者に気づいて欲しいこと

特に医療系学生や医療者に上記のような話をすると、表面的な理解に終始してしまうことがある。例えば「はいはい。とりま専門分野を決めればいいんでしょ」的な。なんか私の必死さが伝わらないのだ。

なぜそうなってしまうのか考えたところ、労働市場の需給バランスに対する認識の違いではないかと思った。医療業界は需要>>供給なので労働市場は売り手市場なのである。倍率の高い有名研修病院は一部あるが、例えばある医者が「○○科の専門医になりたい」と望めば、概ねそうなれる業界である。ところがグローバルヘルス業界は需要<<供給なので、労働市場は買い手市場である。競争に勝ち抜かなければあなたは選ばれず、なりたい自分にはなれない。選ばれるためにはスキルや実績が必要である。「なりたい」だけじゃダメなのだ。

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上記のような話はややもするとゲスい話として業界の先人から語られることは少ないが、綺麗事ばかり言って「こんなはずじゃなかった」と苦しむ若者を増やしてもしょうがないので、色々書いてしまった。


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