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【地球列車旅第1章】ユーラシア大陸横断鉄道の旅 #4 北京〜ウランバートル

4日目 北京~(車中泊)

 朝5時に起き、ホテルを出る。今日はいよいよ国際列車に乗り、モンゴルへ向かう日だ。

 北京駅は昨日と同じように、各地から夜行列車でやってきた乗客がたくさんの荷物を持って行き交っている。
 そして昨日と同じように北京駅の駅舎の大きな時計を眺めるが、気分は昨日とは少し違っていて、いよいよ国境を越える列車旅が始まることに対する高揚感がある。

もうおなじみの北京駅

 6時55分、改札が始まりホームへ降りる。中国は日本と違い、待合室内にホーム別の改札口があり、そこを通り抜けた先に階段があり、それを下るとホームに行けるのだが、この階段の上からの眺めがとても良い。広い駅構内が一望できて、濃緑色の客車列車が何本も停車しているのが見える。

 しかし、僕がこれから乗るウランバートル行き快速列車は、中国国鉄お決まりの濃緑色の客車ではない。真っ白な車体に紫色の線が模様を描いている。
 異彩を放つこの客車、近づいてよく見るとモンゴル国鉄の車両で、キリル文字が書かれている。しかもかなり新しい車両で、銘板には2018年5月製造と書かれている。

 各車両の扉に1人ずつ真っ青な制服を着た乗務員が立っているが、彼女らもみんなモンゴル人で、北京駅6番線はもうすでにどこか異国の雰囲気が漂っている。

 僕が乗り込んだ「軟臥」という車両は、日本でいうA寝台車に相当し、通路に沿って扉付きの個室が10部屋ほど並ぶ。個室内には2段ベッドが向かい合わせに設置されている。
 軟臥は、中国国内の列車では基本的に編成中に1両しか連結されない上級クラスだが、国際列車の編成はこの車両しか連結されておらず、こういうところからも国際列車ならではの特別感を感じる。

 しかし車内に入ってみると列車はとんでもなく空いていて、各車両に1〜2人くらいしか乗っていない。いまやモンゴルに所用がある人はみんな飛行機を使い、丸一日もかけてのんびり走る国際列車など使わないらしい。そんなわけで、乗っているのは欧米から来た観光客などが目立つ。

 そんなに空いている列車だから、個室は1人でゆっくり使えるなと思って部屋に入ると、先客がいる。シンガポールから来たという20代半ばくらいの女性で、彼女も旅人らしい。
 31時間も女の人と一緒に過ごすのは悪い気分ではないが、気は遣う。向こうも居心地は良くないだろう。
 後で知ったことだが、客室内の清掃の手間を省くため、乗客が少ないと敢えて一つの部屋に集約しているらしい。

 7時27分、列車はゆっくりと動き出した。ウランバートルまで1,553キロ、31時間の旅が始まった。

軟臥の車内
これからロシアまではしばらくキリル文字の世界
東の空に日が昇る頃、北京を発つ

 列車は北京の街中を抜けると、次第に山間へ入っていく。結構険しい山と谷であり、狭い谷底を列車は縫うように走る。かなり狭い谷なので、複線区間にも関わらず、上下線が川の右岸と左岸に分かれて敷設されていて、対向列車が川の向こう側を走っている。

 3時間ばかり山間をゆっくりと走ると、次第に景色が開けてきて広大な畑と荒涼とした山が現れてくる。河北省から山西省に入り、平野に戻ってきたようだ。列車は速度を上げた。

山間の集落をかすめていく
対岸を走る反対方向の列車
険しい山々が続く
とうもろこし畑が広がる山西省を行く

 時刻は13時過ぎ。そろそろ腹が減ってきたので、食堂車へ向かう。
 真新しいモンゴル製の寝台車と異なり、食堂車だけは薄汚れた中国国鉄の車両だ。しかも食事している人は誰もいない。営業していないのかと思い、諦めて寝台車に戻りかけると、奥の厨房から白い割烹着を着たおっさんが出てきて何か言う。
 中国語で何を言っているかわからないが、どうやら何か作ってくれるらしい。
 席で座って待っていると、トマトと卵の炒め物と白米が出てきた。
 簡単な食事だが、変な時間にやってきた言葉の通じない外国人を追い払うこともなく、親切に食事を出してくれる。

他に誰もいない食堂車
可もなく不可もなくと言った味

 部屋に戻ると、列車は大同という駅を過ぎ、内モンゴル自治区に入った。先頭の機関車は電気機関車からディーゼル機関車に付け替えられ、景色も広々とした草原が広がってきた。
 晴れていたら絶景だろうが、あいにく小雨混じりの天気なので、車窓は霧に包まれて短調だ。
 食後ということもあって眠くなり、ベッドで横になって眠る。国境の街、二連に着くまであと5時間。


 20時過ぎ、二連に着く。この先は国境なので、まず中国の出国審査がある。
 ベッドに座り待っていると、制服を着た警察官のような人が車内に乗り込んできて、1人ずつパスポートなどを確認していく。空港の入国審査と違い、こちらがカウンターに並ぶ必要がないから楽だ。

 特段何か質問されることもなく出国審査はスムーズに終わり、あとは発車を待つ。もともと停車時間が長く設定されているので少しホームにも降りてみたいが、国境のピリピリとした空間で勝手なことをしたら、何をされるかわからないのでやめておく。

 退屈な数時間を過ごすと、列車は再び走り始めた。と思いきや、ゆっくりと工場のような建物に入っていく。
 窓から見ていると、10何両もの客車を1両ずつ切り離し、ジャッキの横に並べている。しばらくすると、隣の車両がジャッキで持ち上げられ始めた。唖然と眺めていると、僕が乗っている車両も宙に浮く。
 この作業、実は車体の下の台車を交換するためのもので、レールの幅が異なる中国とモンゴルの間を直通運転するために、わざわざ工場でこんなことをしているのだ。
 しかし乗客を乗せたまま車両を浮かせてしまうとは、日本では考えられない。
 同室のシンガポールの女性も通路に立ち、不思議そうに作業風景を眺めている。横に並んだ別の車両にも、所在なさげに通路に立つ人たちが見える。

台車が外される
どの車両にも人が乗っているが...

 1時間ほどして作業を終えると、列車は再び地上に降り立った。
 モンゴルの入国審査を終えると、闇夜の中を夜汽車は走り始めた。

○4日目 2018/9/1 北京→ウランバートル 1,553km
北京7:27【K23/023快速ウランバートル行き】ウランバートル(翌)14:35

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