日本に入門書がとても多い理由

 「日本には入門書の出版数が非常に多いわりに専門書の出版数はとても少ない」という話を学生時代に大学の先生から耳にした。もう20年以上前になる。その時に伺った理由は専門書市場の場合、日本語で書くと市場規模がとても少なくなるため英語で書くことがどうしても多くなるという最もな理由だった。その先生は英語で本を出すくらいのトガったグローバルに活躍する先生だったが、ほとんど多くの大学教授は論文こそ英語かもしれないが英語で出版できる方(つまり世界で売れる本を出せる)なんて一握りに過ぎないことを大人になって商売感覚がわかるようになってから理解できた。

  その後、5−6年くらい前にも「日本は入門書やノウハウ本が恐ろしく充実した国だが、専門書は欧米の翻訳本がかなりを占めている」という話をネットサーチしていたところ出くわした。理由が日本人は勉強好きでノウハウ本や実務系の入門書が売れるのでそのターゲット市場が確立しているとのことだった。言われてみれば日本の書店のビジネスコーナーには自己啓発系とその隣に実用書(実務のノウハウ入門書やスキルの入門書)の棚が並んでいる。どうしてこれらの本が売れるかと自分なりに出した答えは日本企業はゼネラリスト志向で人を育成するために必要とされると結論を出した。

  ニーズの1つ目として想定したのはメンバーシップ型の雇用形態では突然土地勘のない職種や業界(鉄道会社に働いていたのに子会社のデパート業に配属されるとか)に配属されることがあり、非常に短期間にキャッチアップする必要がある人が多くいる。しかも営業畑で15年過ごしたのにいきなり経理部門の課長を任されて慌てて仕事の何たるか(簿記だったりするが)を学ぶ必要性が出たりする。

  また延長線上ではあるが二つ目としてゼネラリストとして全体を把握したい欲望がたとえ自分とは無関係の職種の仕事内容であろうが理解をして隅々まで頭の中を整理したい(見えないことが落ち着かない)のだろう。もちろんいつどんな仕事を任されるかわからないが故に準備としての知識を蓄えておくということもあるだろう。

  そして最後にビジネスの流行を把握しておきたいという欲求、あるいは身だしなみみたいなものだろう。最近ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が流行っているが、ブラインドタッチもろくにできないおじさんたちがDXの本を買って熱心に立ち読みをしているから驚きだ(いや若い人もだよ)。フェルミ推定とかロジカルシンキングとか、仕事をする上で、どこで役に立てるんだろうという仕事術や知識を熱心に身につけている。つまり職務遂行能力を磨くことこそ日本企業で求められていることなのではないだろうかと。

  言い換えるとメンバーシップ型では専門力よりも総合力に価値が置かれる。それはジョブローテーション制度により年々異なった仕事にアサインされるためだ。そしてそれにキャッチアップして任務を遂行する必要があるため短期間でキャッチアップする能力を高める必要がある。このような背景より入門書(実務だったりノウハウやスキルだったり)が売れるのだと私なりに結論付ける。 

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