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時代も文化も言語も超えて・・・物語を橋渡しに、心の越境

by Bluepines

越境する、さまざまな文化の中で生きる・・・というのは、物理的に海外に住むことだけではないと思います。
むしろ大切なのは、心が越境することではないでしょうか。

インターネットの時代には、どこにいてもさまざまな言語や情報に触れる機会があります。円安とはいえ「海外に行けるのは特権階級」というのも過去のもの。
一方で体は海外に出ても、心は越境せず、日本語だけで生活し、現地の文化にまったく関わらずに暮らす人もいるでしょう。

心の越境の第一歩は、身近にあるはず。

私自身の第一歩は、児童文学の翻訳作品でした。
日本に生まれて教育を受けながら、外国語や文化に興味を持ったのは、子どものころ、児童文学作品を読んでいたからです。『ドリトル先生』や『メアリー・ポピンズ』シリーズ、アーサー・ランサム、アストリッド・リンドグレーンや、エリッヒ・ケストナーの著書の数々・・・
成人になった私が渡英して現在ロンドンに住んでいるのは、こうした物語が“心のふるさと”だったからだと思います。

今年の夏、家族でイギリスの湖水地方を訪れる機会がありました。大きな目的は、アーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』シリーズの舞台、コニストン湖でした。

戦前にアーサー・ランサムが物語を書いた舞台を、昭和の東京に住みながら日本語訳で読んだ私が、21世紀のロンドンに住み英語で読んだ息子と訪れる・・・そして一緒にコニストン湖を船で遊覧しながら、「あれがWild Cat Islandだ!」と喜びを共有できる・・・時代も文化も言語も超えて、“魂”に響く体験でした。

1930年代に書かれたアーサー・ランサムの作品は、現代っ子にはスピード感が合わず、物語の設定も子どもだけで無人島で夏休みを過ごすなど、時代に合わなくなって読む子は減っています。そもそも読書する子が減っている・・・という嘆きもあります。
一方で日本の漫画の浸透ぶりはすごい!アニメや漫画で育った30代・40代が、親となって子どもと一緒に読み直し・・・“心のふるさと”になっています。

文学にせよ漫画にせよ、子どもたちの心の“越境”の橋渡しをしてくれているのが翻訳者です。

『海外子女教育』誌で特集記事にした『はじめて読む!海外文学』という本には、英語圏だけでなく、ロシア語、韓国語をはじめ、さまざまな言語の児童文学を、翻訳者の方々が熱意を持って素晴らしいと紹介されています。

また、日本語から各言語に翻訳してくれる人たちのおかげで、日本の文化が世界に広がり、身近なものになっています。そして作家の李琴美さんのように、心の境を超えた作品を発表する作家もいます。

心はたくさん越境ができる。そして特に15歳くらいまでの心の越境体験は、人生に大きく影響を与える・・・

「ぐるる」でも、さまざまな物語を紹介していきたいと思っています。


コニストン湖の、なんの変哲もない小島・・・これがランサム愛読者にはたまらないヤマネコ島。


丘から望むコニストンの町と湖。(寒いイギリスの夏、奇跡的に晴天だった瞬間)

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