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ロックダウンが教えてくれた人生で本当に大切なもの

新型コロナウィルスの被害が大きかったイギリスもようやく峠を越えて日常に戻りつつあるかと思ったら、秋になってまたロックダウンに突入。

とはいえ、2度目のロックダウンで感染流行がおさまってきたし、ワクチンのニュースも入ってきたので、この冬さえ乗り越えれば何とかなるかとトンネルの向こうに光がかすかに見えてきた感じもあります。

これでまた元の生活に戻るのかという感じもしますが、私自身にとって、今年はこれまで当たり前に過ごしてきた生活を変える思いがけないきっかけになりました。

そんなイギリスの状況を我が家の様子もまじえて報告します。

春のロックダウン

他のヨーロッパ諸国と比べて少し出遅れて3月末にロックダウンに突入したイギリスでは、その1週間が命取りになったのもあるのか、新型コロナウイルスの感染がなかなかおさまらず、重症者数も死亡者数もうなぎ上りに増えてしまいました。

被害がひどかったことや、パンデミックによる初めてのロックダウンという異常事態に戸惑う人もたくさんいました。食料品や医薬品のための買い物や運動のための外出は自由だったのですが、高齢者などなるべく外出しないようにアドバイスされていたので困る人もいるのではないかと心配です。

自宅がある通りは普段は両隣の人とハローとあいさつをするくらいの付き合いしかなかったのですが、道路の両側の家50軒くらいでWhatsup(LINEのようなもの)グループを作って、情報交換や相互ヘルプの仕組みを作ろうということになりました。私もお買い物の手伝いなどヴォランティアできますよと申し出ましたが、幸い、そこまで困っている人はいなかったようです。それでも何かあった時に連絡してすぐ駆けつけてくれるネットワークがあるのはこちらも安心です。

仕事も学校も在宅で

仕事については、私は以前から在宅勤務なのであまり変わりはありませんが、オフィス勤務の人もほぼ全員が在宅勤務になりました。最近は何もかもオンラインだし、打ち合わせや会議もリモートでできるので、在宅勤務に移行するのにさほど問題もないようです。うちの連れは「もう通勤する毎日には戻りたくない」と言っています。彼はもともと何かと理由をつけては週に1,2回はリモートワークをしていたのですが。

学校も休校になったのですが、こちらについては学校により、また先生によって対応にかなりのばらつきがありました。Zoom、TeamsやSkypeなどを使ってオンライン授業を行うケースもあれば、メールなどで先生が課題を出しそれを生徒が自宅で学習するというやり方もあるというように。

春からの1学期は結局ずっと休校のまま夏休みに突入し、学年末の中学卒業のGCSE試験、高校卒業のAレベルの試験までキャンセルになりました。日本でいうと大学入学共通テストがキャンセルになったようなものです。大学入学を決める成績をどう決めるかでひと悶着がありました。

夏休みが終わってようやく小学校から大学まで通常通り開校して、感染防止対策を取りながらも何とか教育が継続できていて一安心といったところです。

我が家の日課


うちは子供一人の3人家族です。これまでは2人がそれぞれ職場や学校に行き私が1人で家で仕事をしていたのですが、春から夏の間、ずっと3人でそれぞれの部屋に引っ込んで仕事または勉強をしていました。普段は朝食と夕食だけ3人一緒ですが、ロックダウン中は3食の食事のほか、時間が合う日はお茶の時間も一緒にくつろぐこともありました。

それまで週末以外は私が夕食を担当していましたが、みんなが家にいるのだから食事の準備は交代にしようということになりました。息子の場合は慣れないので教えながら少しずつレパートリーを増やしてもらいました。朝食はいつも3人で共同で用意します。パン担当、コーヒーとオレンジジュース担当、卵担当というように。

朝食後はこれまで通勤通学時間でしたが、これがなくなったため家族で散歩することにしました。ロックダウン中運動のための外出は許可されていたので、1時間くらいルートをいろいろ変えて近所を散歩しています。

4月から6月にかけて、イギリスには珍しくいい天気が続き雨がほとんど降らず、毎日青空だったのはラッキーでした。街のあちこちにある公園、野原、川べりの散歩道など様々な散歩コースのバリエーションをその日の気分で選んでいます。今は息子が学校に行く時にバス停まで一緒に歩いていき、その後2人で散歩を続けています。

これまでの生活との違い


我が家には2台車があるのですが、最初の1ヶ月くらいは車に乗ることもほとんどありませんでした。ある日、重いコンポスト(腐葉土)を買うために車に乗ったら2台ともバッテリーが上がってしまっていて、レスキューサービスを呼ぶ羽目になりました。そのうち私の自動車は保険が切れてしまったので、そのまま乗らないことに決めました。

もともとは通勤用に買った車ですが、私はここ数年は家で仕事をしています。それでも子供をスクールバスのバス停に連れていくため、2.5km離れたジムに行くため、買い物に行くためなどに車を使っていました。けれども今はその必要がありません。週に2回行っていたジムには行けなくなったけど、毎日散歩しているし庭仕事もするので運動量は今のほうが多いかもしれません。考えてみれば運動するために車に乗ってジムに行くのって本末転倒なんですが、それが当たり前になっていました。

その他これまでと変わったことは、家族3人が一緒に過ごす時間が増えたことです。毎朝の散歩はもちろん、3食の食事やお茶の時間を共にするようになったこと、時には食事の用意や後片付けも含め。掃除や洗濯などの家事も一緒にやることもあります。

そんな中、3人でさまざまな話をする時間が増えて、家族の結びつきが深まったことを感じます。これまでは朝食と夕食の時間くらいしかみんな一緒に過ごすことはなかったのですが。それでもうちはほかの、特に日本の一般的な家庭に比べると一緒に過ごす時間が多い方だったでしょう。私が育った家庭では、夕食の席でもテレビがついていたし、日本に帰国して姉一家の家に行くといつもテレビがついています。

うちでは昔からテレビを置いていないので、食事の席では一日の予定やその日にあったこと、世の中で起きていることなどについて色々話をします。ロックダウン中には散歩やお茶の時間など、そういう機会が多くなったのです。

そんな中、最近は口数が少なくて口を開けば冗談めいたことか悪態ばかりついていたティーンエージャー男子が、ぽつりぽつりと心の内を話すようになったのも小さな驚きでした。休校中はスマホアプリやSNSでコミュニケーションは続けているものの、学校などで友達と会うこともなくなったのもその理由かもしれません。

思えば、たぶんあと数年で大学にでも行くようになると巣立っていくだろう一人息子です。私もそうだったように、ティーンエイジャーになると親には自分の本当の心のうちを話す機会もなく家を離れて戻らなくなってしまうのだろうと何となく感じていたので、このタイミングで信頼のおける友人のような立ち位置で悩みを打ち明けたり相談したりできる相手になれたことは思いがけなくうれしいことでした。

ロックダウン生活で失ったもの

ロックダウン生活で失ったものは自由に外出したり、ショッピングに行ったり、レストランで外食したり、友人と会ったりといったことですが、それについてはそう苦ではありませんでした。友人とはメールやLINE、電話などで連絡を取り合っています。

私にとって一番辛かったことは春、秋、冬と、3人で日本に帰国予定だったのを諦めざるを得なかったことです。高齢の母や家族、友人に会うこともできないばかりか、日本で約束していた仕事もキャンセルしなくてはなりませんでした。また、7月に予定していた2週間の家族旅行(今年はスペイン)もキャンセルしました。

人生で本当に大切なもの

旅行ができないことをのぞけば、私はあまり不都合も感じずにロックダウン生活を過ごしている、というよりは、むしろ以前より心身ともに健やかな気分です。

朝の散歩で自然に触れ、適度な運動をし、仕事のあいまには庭仕事をして、毎日3度料理に手をかけて規則的な食事をする、家族で助け合い、話し、笑う。時には食事当番や後片付け、掃除洗濯などの家事を誰がするかでもめたり、些細なことで口喧嘩もするけど次の食事の席では仲直りしたり。

シンプルな生活を送るうちに、人生で本当に必要なもの、毎日に幸せをもたらしてくれるものが何かがわかった気がします。以前はファッションブティックなどでショッピングを楽しんでいましたが、着飾って出かけるところもないので、いつもそのまま庭仕事のできる服を来ています。こうなると「買う」楽しみって何だろう、ただの手間ではないかと思えてきました。

これまでは家族ホリデーで毎年ギリシャ、トルコ、イタリア、モロッコなどに出かけていました。でも、天気のいい日に家の近くのビーチに行って散歩を楽しみ、庭でおいしいアルフレスコ・ランチを囲んでいると、わざわざ外国に出かけてまで同じことする必要があるのだろうかと思えてきました。特に最初のロックダウン中の春は神様の思し召しのように好天が続いたからもあります。

庭も、我が家の場合どちらかというと花木が中心なのですが、今年はトマトやきゅうりなどの野菜も栽培することができました。いつも春と夏に旅行に出かけるため、水やりが必要なものはあきらめていたのです。ほかにも畑にはラディッシュやレタス、水菜、リーク、さやえんどう、豆、アスパラガスなどが収穫できます。

室内で頭を使って仕事をした後、息抜きに庭で土に触れることは私にとっては貴重な時間です。夏が終わった今は天気に恵まれないのですが、少しでもお日様が出たら仕事を放り出して日光浴がてら庭仕事をしています。

幸い我が家の3人はコロナにも感染せず、元気で毎日を過ごしています。愛する家族が健康で、時にはけんかをしながらも一緒においしいご飯を食べておしゃべりする。そんな何気ない毎日が私にとっては人生で本当に大切なものだったのだなと感じることができたのはコロナのおかげかもしれないと、朝の散歩中、大きな空をながめながら思いました。

いつも読んでもらってありがとうございます。