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スタートアップ3社が語る、QAの「理想と現実」。各社なりの苦悩への立ち向かい方

QA(Quality Assurance:品質保証)エンジニアやテスターは、メガベンチャーなどサービスが一定成熟した企業で採用されるのが一般的でした。しかし近年は、アーリーフェーズのスタートアップでもQAが求められており、プロダクト成功のために欠かせないという認識が高まっています。

しかし、スタートアップにおけるQAのあるべき姿は確立されておらず、社内でどう振る舞い、貢献すればよいのか悩むQAエンジニアも多くいると聞きます。

そこで、スタートアップの各技術領域で働く方同士の交流の場である「GB Tech Meetup」では「スタートアップのQA」をテーマに勉強会を開催。株式会社ログラス QAエンジニア 大平 祐介氏、株式会社mov 執行役員CTO 大薮 永氏、株式会社リセ 取締役CTO 寄合 龍太氏をお招きし、各社のQA事情についてお話しいただきました。

本記事では当日のパネルディスカッションの内容をお届けします。(※モデレーター:グローバル・ブレイン株式会社 Value Up Team 二宮 啓聡


スタートアップ3社が語る、QAの「理想と現実」

──はじめに皆さんのQAに関する現状と、目指す姿を教えてください。

大平 祐介氏(以下、大平):ログラスでQAエンジニアをやっている大平です。ログラスは、企業内の経営データの収集・一元管理・分析を行うSaaSを提供しています。

大平 祐介:プロダクト開発が好きな、ただのテスター。2023年7月に株式会社ログラス入社。日々、プロダクト品質とプロセス品質の向上のため精進している。認定スクラムマスター(CSM®️)。

開発組織の体制はCTO/VPoEの下にEM(Engineering Manager)が複数名おり、その直下にフィーチャーチームがあって、その各チームにQAが1人ずつ在籍している形です。現在は2名のQAが在籍しており、あと1名募集しています。

ログラスのQAはプロダクトの品質向上にとどまらず、組織文化の醸成にも取り組んでいるのが特徴です。QAチームのミッションには「プロダクト組織のケイパビリティを向上させ…」と書いていますし、バリューには「組織の弱さに寄り添う」と掲げています。組織の足りない部分を補い、ケイパビリティを広げることを目指しているチームです。

大薮 永 氏(以下、大薮):movの大薮です。movは「日本のポテンシャルを最大化する」というミッションのもと、店舗支援事業とインバウンド支援事業を行っています。本日お話しするのは、店舗支援事業の中の「口コミコム」でのQAの取り組みについてです。

大薮 永:新卒でNTTdataに入社し大規模システム開発に従事するも、初期衝動が抑えられずスタートアップ起業、KDDI∞LABOに採択、CTOとしてプロダクトの立上げ。※現在は事業譲渡 フリーランスを経て株式会社movに参画し、プロダクトと組織の立上げに奔走、QAとスクラムの関わりに日々試行錯誤中。 

2020年にサービスをローンチしたときは、とにかくエンジニアがガンガン機能開発をしていくことがなにより大事だったので開発プロセスは重要視しておらず"スクラム風"のような体制でしたね。その後、シリーズAの資金調達などを経て組織が整いはじめ、2023年にQA専任メンバーが業務委託で参画したという流れです。

メンバーがチームに加わったばかりなので、実装が完了してからQAが関与するフローになっており、リードタイムが長くなってしまっているのが課題です。将来的にはQAも顧客への価値提供に注力し、全行程に積極的に関わって、リードタイムの短縮とサービス提供のスピード向上を目指したいと考えています。

また、社内には「QA=テスト」という認識がまだあり、両者の違いが定義できていません。本来、品質自体はチーム全体で責任を持ち、テスト設計や実施などを役割分担するのが理想だと考えています。

"十分に発達したQAエンジニアはPdM・スクラムマスターと見分けがつかない"という持論を持っています。顧客価値の提供にバリバリ注力するQAエンジニアは、PdMやスクラムマスターとまったく同じ目線で活動をしていくんじゃないかなと。

寄合 龍太氏(以下、寄合):リセのCTOの寄合です。リセは、AIによる契約書レビューSaaSの「LeCHECK(リチェック)」をはじめとした3つのリーガルテックサービスを提供しています。LeCHECKは0→1のフェーズを越え、10、100に伸ばしていく成長期プロダクトです。

寄合 龍太:沖縄県出身、在住。エンジニアとして受託開発、SES、大型案件のPM/PLを経験後、2020年11月に株式会社リセに開発統括マネージャーとして参画。現在は取締役CTOの傍ら、プロダクトオーナーを兼務してプロダクト開発の統括を行う。2021年7月にQAチームを立ち上げ。

現在、業務委託のQAメンバーが1名いまして、テスト自体はQAエンジニアだけでなく開発者数名も含めて実施しています。2週間に1度のペースでリリースをしていますが、さらにスピードを上げていくのが理想です。そのためにもQAテストは大部分を自動化し、人間が注力すべき部分に特化していきたいと思っています。

リセの主力サービスであるLeCHECKはレビュー精度が重要なんですが、法律の専門知識も必要になるため、QAだけで精度を十分に立証できていないという課題もあります。これから拡大していくQAチームではテストだけでなく、プロダクトの精度の定義も行っていきたいですね。

──ありがとうございます。各社のお話を聞いて思うところはありますか?

寄合:movさんがおっしゃった「QA=テストになってしまっている」点はリセでも課題だと感じています。

大薮:本来QAとは「品質保証」という戦略を指すと思うんですが、単なる作業として捉えられてしまうことが多いんですよね。戦略的な行為としての「QA」と、「QAさん」のように役職を表す言い方が同じように使われるため、認識がごっちゃになってしまう。

大平:たしかに。社内で議論する際には、「QAとは何を指すのか」「テストとは具体的にどこまでを行うのか」を定義しておくのが大切ですね。

QAは「ビジネスの成功」に貢献できるのか

──会場からチャットできている質問にもお答えしていければと思います。「QAのミッションをひと言で言語化すると何でしょうか。QAはどこに最大の責任を持つべきだと考えていますか?」ときています。

大平:スタートアップの初期段階では、「品質だけ」を上げるのではなく、顧客への価値提供の底上げや組織のケイパビリティ向上など、より広い視点でQAのミッションを捉えるべきだと考えています。

この役割は、スクラムマスターなどが参画したら細分化されていくでしょう。ログラスにはまだ正社員のスクラムマスターはいないんですが、仮にジョインいただいたら「人・組織はスクラムマスターが、技術はQAが最大化していく」イメージを持っています。

寄合:リセのQAは「『品質保証とは何か』を立案する」ことを目指したいです。ログラスさんと同様に、単に品質を上げるだけがミッションではないと考えています。

大薮:「顧客への価値提供にフォーカスする」をミッションとして欲しいです。ここには、機能開発だけでなく、プロダクトとしてどうあるべきかを考えるプロセス全体も含まれています。いわゆる「当たり前品質」をどこまで定めるかを決めるのも、QAに期待したいですね。

──QAの貢献の仕方に関連した質問もきています。「うまくQAができたとしてもビジネスとして成功する条件にはならないが、QAが失敗するとビジネスが失敗する条件にもなってしまうと思います。このあたりがQAの難しさだと感じますが、皆さんはどういう意見を持っていますか?」とのことです。

寄合:リーガルテックは顧客の重要なデータを扱うため、品質上の失敗は避けなければいけません。QAができていても必ずしもビジネスの成功条件にはならないかもしれませんが、QAが適切に機能していないとビジネスに大きな損失を与えかねませんので、組織的にQAをやっていくべきだと考えています。

大薮:同意します。QAをうまく行えば、開発のスピードを上げられ、ビジネスの成功につながります。「バグが0であること」だけが重要なのではなく、「どこまでの品質を担保すれば事業リスクを最小限に押さえられるか」を理解し、最適な「当たり前品質」を定義して、スピードを向上させることもQAに期待される成果です。

大平:QAエンジニアとしては、こういう質問をされること自体が悔しいですね。私もQAとして品質のレベルを慎重に検討し、スピード感を担保できればビジネスの成功につながると思っています。そこも単に根性で頑張るのでなく、エンジニアリングとして戦略立ててやるのが重要ですね。

QA担当者、いつからどう採用すべき?

──近年、アーリーフェーズのスタートアップでもQAメンバーを採用したいと考える企業が増えてきています。皆さんはいつごろからQAのことを想起していたのでしょうか。

大薮:movでは、私がジョインした当初からQAを意識していましたね。ただ、あまりにも初期にQA専任メンバーを入れると、「品質は見てくれているから気にしなくていいや」と思う開発チームになる懸念があったことも事実です。そのため、PMFを果たして組織が徐々に拡大していくタイミングまで待ってから、QA専任メンバーの採用に踏み切りました。

寄合:リセでQAを考えはじめたきっかけはいくつかあります。顧客の大切な法務情報を扱うサービスの特性上、品質保証は重視すべきと考えていましたし、私自身もQAのいるスクラムチームで働いた経験があったので、その効果を最大限活かしたいとも思っていました。少人数の開発では不具合への対応負荷も高まるため、QAメンバーを本格的に入れられれば開発効率を最大化できるだろうと。

大平:QAの採用タイミングは難しい問題ですね。QA特有の知識が必要なため、エンジニアだけでは品質保証が追いつかなくなってきたタイミングで採用を検討するスタートアップが多いのではないでしょうか。

ログラスの1人目QAメンバーは元々CTOと知り合いだったというご縁があり、参画しました。このメンバーは大手企業での経験があり、知見も豊富だったため、スムーズに馴染めたようです。採用はタイミングや方法だけでなく、カルチャーフィットも重要ですね。

──どのような選考をしているのかもお伺いさせてください。

大平:いまの話にも通じますが、スタートアップではカルチャーフィットも重要ですので、ソフトスキルを重視しています。QAメンバーの採用にあたっては、開発メンバーも巻き込んで「どのようなQA人材が必要か」を検討し、その人物像に合わせて面接の質問内容を設計しました。

カルチャーフィットが大切ではある一方で、テクニカルスキルも当然重要です。このバランスの取り方は各社さんも悩みどころだと思います。

大薮:私自身がQAに専門性がないので、業務委託のQAメンバーに面接に同席いただいていますね。業務委託のメンバーからすると複雑な心境かもしれませんが、採用の知見を蓄えていくためにこの形を取っています。

ちなみに私からもお伺いしたいんですが、ログラスさんの選考ではスクラム経験は重視されていますか?

大平:経験はなくても良いですが、アジャイルへの興味関心は重視しています。「前職でアジャイルをやっていた」と言う方の中には、単に「従ってやっていた」だけの方もいますから、「アジャイル系で好きな本はありますか?」といった質問で関心度を確認しています。少人数のスタートアップでは入社後すぐに活躍できるかが重要なので、一定の前提知識を持っている方のほうが望ましいですね。

スタートアップQAは、まだまだ発展途上

──採用後の目標設定や評価はどうされていますか?

大薮:まさに模索中です。ソフトスキルの評価は可能かもしれませんが、テクニカルな側面は難しい面があります。テストベンダーの評価指標は世の中にありますが、そのままスタートアップのQAには適用できないので悩ましいところです。

最終的には、QAメンバーがどれだけ顧客価値の提供に貢献できたかを評価の軸とするべきだと考えていますが、具体的な方法は今後入社するQAメンバーと一緒に検討していきたいと思っています。

寄合:リセでも同様です。QAメンバーと一緒にプロダクトにどのような品質保証を行いたいのかを議論しながら、目標設定と評価の仕組みを作っていきたいと考えています。

大平:どの企業でも評価の根底にあるのは「いかに価値貢献できたか」だと思うので、まだ体制が整っていないスタートアップに入るのであれば、自らの貢献をいかに適切に説明できるかが重要かと思います。

別の観点でQAの評価の難しさについて話すと、QAは学習したことが職場で直ちに活かせるわけではないため、モチベーション維持が難しい面もあります。一定規模の組織になったら、QAメンバーの技術評価とモチベーションの保ち方を考えはじめてもよいかと思います。

──同じスタートアップのQAといえど、フェーズや規模によって微妙に景色が変わってくると言えそうですね。それでは最後にひと言ずついただけますか。

大薮:スタートアップでのQAに関して奮闘されている方々と意見交換できて嬉しく思います。会場にはおそらくテストベンダーの方や、もう少し後ろのフェーズのスタートアップでQAを担当している方もいらっしゃるかと思いますので、ぜひご挨拶させていただき情報交換できれば嬉しいです。

寄合:リセはQAチームを擁していますが、プロダクトをさらに良いものに育て、事業を拡大していくためのあり方はまだまだ模索しています。今日のこの場が私たちだけでなく、皆さんの成長のきっかけとなっていれば幸いです。

大平:1時間では話し足りませんでしたね(笑)。QAについて採用やビジネスの文脈で話す機会は少ないので、とても有意義な時間でした。今後もこういったイベントやSNSなどで、皆で議論を重ね、高め合っていけたらと思います。本日はありがとうございました。

「スタートアップならではのQA」を極めたい方へ

スタートアップのQA人材に求められるスキルや、各社が直面している課題について赤裸々に話された本イベント。今回の内容を受けて、新たな挑戦の場としてスタートアップを意識したQAの方も多くいるかと思います。

グローバル・ブレインの人材採用支援子会社であるGBHRが運営する「GB Innovators Lounge(GBIL)」は、そうした意欲をもった方に向けた無料のキャリア相談サービスです。求職者に対する中長期的な機会の提供を目指しており、ご希望のキャリアや働き方などを伺った上で、300社を超えるスタートアップネットワークから求職者のニーズにマッチした求人のみをご紹介いたします。

今回のようなスペシャルイベントへのご招待もございます。詳細は公式サイトをご確認ください。

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