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支援チームから初の新GP。ハンズオンで目指す「新しいVC像」とは

グローバル・ブレイン(GB)で情報発信を担当している岡本です。

GBには投資先スタートアップをハンズオンで支援するValue Up Team(VUT)がありますが、昨年、そのチームリーダーである慎正宗さんが新たにGPとなりました。その慎さんに、キャピタリストとは異なるVUTという立場からいかにスタートアップ支援を行っているのか、また今後どうGBへ貢献しようとしているのかについて話を聞きました。


「これまでにないVC」に惹かれて

──入社の経緯をお聞かせください。

GB入社前はボストン・コンサルティング・グループ(BCG)やKurt Salmon(現アクセンチュア ストラテジー)などの戦略コンサルティングファーム、GUや三陽商会などの事業会社に勤めてきました。

コンサルティングファームではPEファンドの投資先企業へのハンズオン支援をリードしたり、前職の三陽商会ではスタートアップ企業のM&Aやオープンイノベーションに携わったりしてきたので、GBに入る前からスタートアップとの接点やハンズオン支援の経験はわりと多くあったんですよね。特に前職で数多くのスタートアップと仕事をする中で「スタートアップで仕事をするのも面白そうだな」とも考えていました。

あるとき、BCG時代の同僚であるGBの立岡さんと話す機会があり、投資先のハンズオン支援を専門に行うチームを立ち上げたいと聞きました。

PEファンドは投資先企業の株式のマジョリティーを保有する株主となることが多いので、投資後の支援専門チームを設けるところもありますが、VCは投資企業のマイノリティー株主であることが一般的です。そんなVCに、私がコンサルティングファーム時代に実施していたような、踏み込んだハンズオン支援ができるのかと当初は疑問に思っていました。

そこで実際に調べてみると、そういうVCは少なくとも日本にはなさそうだったんですよね。だからこそ、この話に興味を持ちました。

私は周りから「うまくいかないだろう」と思われる事業やプロジェクトに挑戦するのが好きなんです。そこにはアップサイドしかないので成功すればすべて成果になりますし、失敗しても極論誰も咎めないので、私からするとリスクがない。GBの構想は少なくとも日本のスタートアップエコシステムでは前例がなく、まさに「うまくいかないだろう」案件だったので、これは面白そうだと感じて入社を決めました。

慎 正宗:2020年にGB参画。投資後の支援を専門とするValue up teamを立ち上げ。チームのリーダーとして、投資先の投資後の成長支援をリード。

──困難な仕事は多く存在するなかで、中でもVUTへの挑戦を選んだのはなぜでしょうか?

前職で多くのスタートアップと関わる中で、皆さんの日々の頑張りを目の当たりにして非常に刺激を受けたのと同時に、VCも含めたステークホルダーから十分な事業支援は受けていないのではという感覚もあったんですよね。もしVUTという立場で自分自身の経験やネットワークをスタートアップに還元できれば、少なくとも自分たちが関わる支援先スタートアップの成長速度や角度を少しは上げられるのではと感じました。

また、私たちVUTは提供した支援に対して、スタートアップから一切の金銭的な対価をいただきません。そのため事業成長のために必要な戦略や施策を、金銭的な制約や契約範囲にとらわれずに提案・実行できます。株主としてお金と口だけを出すのではなく「一緒に手を動かし、伴走する」新たなVCの役割を産み出す仕事ができそうだと、わくわくする気持ちがありました。

VUTで活きる、コンサルティングファームや事業会社の経験

──改めて、VUTとはどのような支援を行うチームなのか教えてください。

営業支援、マーケティング支援、開発支援、OKR策定支援、起業家のメンタリングなど、VUTメンバーのケイパビリティが活かせる領域を中心に、多岐にわたる支援を行っています。外部パートナーも含めて15名のメンバーがおり、チーム立ち上げ以来累計で30社ほどのスタートアップに伴走してきました(2024年7月現在)。

──スタートアップ支援において、前職の経験が活かされていると感じることはありますか?

大企業の経営チームの1人として、多くの事業戦略や施策、プロジェクトにおける意思決定をリードしてきた経験は、スタートアップの経営者や経営チームの「意思決定プロセスの再設計や、意思決定の背中を押す支援」に活きていると思います。

スタートアップはある一定規模を越えてくると、これまで起業家1人で行ってきた意思決定プロセスから、経営チームや事業責任者、現場のリーダーなどと合意形成を図りながら進める形へ徐々に変わっていきます。この変化が意外と難しく、何を基準にどう意思決定すればよいのか判断しづらくなってしまうことも多い。そこを適切に行えるようサポートしています。

具体的には、まずスタートアップ側の経営会議やプロダクト戦略会議、マーケティング戦略会議などに参加させていただき、意思決定の選択肢を広げる働きかけをします。「より幅出しするとこういう案もあるのではないか」「逆にこういう考え方もあるのではないか」と、新たな視点や選択肢を提示するイメージです。

次に、幅出しした選択肢に対して「インパクト」や「フィジビリティ(実現性)」の観点から評価し、起業家を始めとするスタートアップのメンバーととも、に選択肢の優先順位づけを行っていきます。

たとえば、これはSaaSプロダクトを提供する支援先企業が「今後どの機能開発に注力すべきか」を決める際に利用したシートなんですが。

VUTはスタートアップのメンバーと議論を重ねながら、約30個の機能候補を挙げました。それらに対し、「機能を求める顧客ニーズの大きさ」「市場機会の大きさ」「競合優位性」「戦略適合性」「実現可能性」などの観点で、評価軸の項目出しと項目ごとの重みづけを行った上で合計点が高い順に優先順位をつけていきます。

この「選択肢を幅出しして優先順位つける」プロセス自体はどのスタートアップでも共通して行えますが、評価軸や評価項目、評価項目ごとの重みづけなどの評価基準は事業のフェーズやスタートアップが持つ組織カルチャー、意思決定に参加するメンバーの特性によって変わってきます。

結果として、合意形成や意思決定の行い方も企業によって変わります。それぞれの支援先に適した評価基準や意思決定プロセスを、先方の経営チームや参加メンバーとともに設計し、意思決定の関係者全員が妥協することなく腹落ちできるよう、合意形成を進めるのが重要です。

──かなり実務的なところに携わっているんですね。その他にも過去の経験が活きていると感じる場面はありますか?

GBには多くの大企業LP(Limited Partner:ファンドの出資者)とのつながりがあり、VUTではそうした大企業とスタートアップの協業を推進する支援も行っています。この協業支援の現場では、コンサルティングファーム時代の大企業にプロジェクトを提案してリードしてきた経験や、大企業の意思決定プロセスに関する知見や経験が活きていると感じます。

大企業とスタートアップの協業は、互いのニーズや視点、成果を求める時間軸のズレなどからうまく前に進まないケースが少なくありません。たとえば、大企業側が社内で協業を進めるために大きすぎる連携の“絵”だけを描いて、足元半年くらいの短期の具体的な目標設定や動かし方を考え切れていないと、いざ協業がスタートしても何からどう取り組むべきかが定まらず、議論が空回りして話が進まない事態に陥りがちです。

またスタートアップ側も、短期の売上や顧客獲得ばかり気にしすぎて、大企業に中長期でどのような貢献ができるかという視点が欠けてしまうと、小さな取り組みの話にしかならず、大企業側を本気で動かすプロジェクトに至りません。

そのため大企業側にいた経験や知見も持ちながら、スタートアップの現場で日々の実務をサポートしている私たちが、双方の間に入る通訳のような立場で動くようにしています。双方のニーズや視点、協業の目的やこれまでの取り組みや背景や文脈をくみ取って具体的な協業の進め方の落としどころや進め方を提案する。実際、約2年間止まってしまっていた協業案件が、私たちが支援に入ることで仕切り直されて改めて動きだした事例もあります。

スタートアップの“相棒”でいるために

──スタートアップの売上向上PMF支援など、VUTはさまざまな支援成果を上げています。成果をあげるために心がけていることは何でしょうか?

「Radical Transparency(徹底的な透明性)」です。私たちは、関わるスタートアップや大企業、すべてのステークホルダーとの間で透明性を大切にしています。

特にこだわっているのがアジェンダや議事録などのドキュメンテーションの徹底です。支援プロジェクトの全てのミーティングで基本的に私たちがアジェンダを作成し、ファシリテーションを行い、終了後には議事録を作成し関係者全員に共有しています。

議事録といっても単なる箇条書きや逐語録ではありません。「ミーティングの目的」「目的を達成するための論点」「何が議論されたのか」「何が決まったのか」「ネクストステップは何か」を明確に言語化して書き込みます。ミーティング中は、違和感やフィードバックがあれば遠慮なく発言してもらうよう促し、また決定事項はその場で確認して議事録に残します。

プロジェクトのすべてがドキュメントを通じて全ての関係者に共有されるので、「言った言わない」で揉めることは原則ありません。また、ドキュメントはミーティングに参加していない人が後から読んでも理解できるレベルで整理し、詳細に書きます。そのため誰がどのタイミングで加わっても、過去のドキュメントを読み込めばスムーズにプロジェクトに参画できるようになっています。

──無駄なやりとりや認識の齟齬がなくなって、やるべきことに集中できるわけですね。

はい。コミュニケーションにおいて、配慮はすべきですが遠慮はすべきではありません。変に気を遣って議論をあいまいにしたり、わからないことを放置したりせず、プロジェクトにまつわるすべてを明瞭にし、参加メンバーが常に共通認識を持ちながら取り組みを進めていくのが大切です。

ちなみに「徹底的な透明性」はVUTのチーム内でも意識しています。VUTでは誰がどんな業務をしているかを毎週全員で共有し、月1回は半期・月次の目標とその進捗状況の振り返りを行います。プロジェクトで各人に蓄積されたナレッジもすべてドキュメントに残しているので、メンバー全員がお互いの経験や知見を学べる環境があります。 

誰がどんな業務をしているかがすべて見える化されているので、「あの人はあんなに深くスタートアップを支援している、自分ももっと踏み込んでやらないと」と、刺激を受けながらチーム全体の支援の質を高められるんです。

──なかなか支援成果が出ず苦戦する場面もあるかと思います。そんなときにVUTは何を意識していますか。

スタートアップの現場に入って励まし合いながら寄り添い、できることを考えて少しずつ勝ちを積み上げていくことです。結局はこれに尽きます。

私たちは単なる壁打ち相手ではなく、必要であれば支援先メンバーと肩を並べて実務もこなす、本当の意味での"相棒"でいたいと思っています。口先だけでなく、実際にスタートアップの現場に身を置いて一緒に業務を行うことを意識しています。

VUTが大切にしている言葉に「先導・伴走・追走」というものがあります。支援の初期、仮にスタートアップ側のリソースやケイパビリティが不足している場合は、私たちが「先導」しながら、一緒に施策を進める「伴走」スタイルへと徐々に移行していく。スタートアップ側である程度の体制やケイパビリティが整い、自走できるようになってきたら、彼らの背中を押しながら「追走」する。苦戦しているときほどこの流れを意識しながら、スタートアップの方と一体となる支援を意識しています。

世界中どのVCも真似できない支援を目指す

──VCでは珍しい「キャピタリスト以外からのGP」となったいま、改めてどのようにスタートアップへ貢献していきたいと考えていますか?

日本のスタートアップが成功する手段の1つに、大企業との協業や大企業のアセット活用があると思っています。また大企業側でも新しい挑戦のパートナーとしてスタートアップと連携する動きが広まってきており、スタートアップと大企業の協業は今後もさらに活発になっていくはずです。

GBは数多くの業界・業種のトップランナーである大企業とのCVCの取り組みなどを通じて、日本の大企業とリレーションを築いてきました。この関係性を最大限に活用し、「スタートアップの成長支援」と「大企業のスタートアップ協業を通じたイノベーション推進」という両面で価値を生み出したいです。この取り組みによって「投資して終わり」ではない、投資後支援の領域で世界に類を見ないVCへと発展させていきたいと考えています。

──GBのチーム作りにも関与されるかと思います。どのようなチーム・カルチャーの組織にしていきたか展望を教えてください。

会社の規模が大きくなってもGBの良いカルチャーはしっかり残したいです。

GBは一言で言うと「グローバルTOP VCを狙うスタートアップ」です。急成長のために多くのプロジェクトやチームが生まれ、その中で成果を出し、生き残ったものが全社戦略の礎になっていく。こういった多産多死で適者生存な文化がGBにはあります。また、さまざまなバックグラウンドや専門性を持つメンバーが多くいる割には変な派閥や政治がない、“スーパー・ダイバーシティ”かつ“スーパー・フラット”な社風でもあります。

この文化や社風はできる限り維持しつつ、世界中どのVCも真似できない、真似する気すら起きないほどハイレベルなスタートアップ支援を行っていきたいです。

そのためにもやはりチームの透明性、チームメンバーの自立性、チームへの貢献意識は大切にしたいですね。メンバー全員で学び合いながら支援力を磨き続け、徹底したハンズオン支援の価値をスタートアップエコシステムに根づかせ、「お金だけでない支援」を当たり前にしていきたいと思っています。


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