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#詩

湖畔

湖畔

 わたしの犬が死んだ日に
湖畔にうちすてられた
小舟のひとつに住むことにした
 
湖の上を行き交う無数の舟たち
青く香る
深い霧の向こうで
手を振っているひとがいる
 
  ( あなたは誰だったか
  ( わたしの母か
  ( それとも父だったのか
  ( 年老いた親族
  ( それともきょうだい
  ( 生まれてこない子どもだったか
 
湖畔の砂地から遠ざかると森がある
そこに咲く白い花を摘んで

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「冬から春へ」

「冬から春へ」

未分化の白い腕が木蓮の枝をいっぱいに抱えて。

 

 

原初の闇を匂い立たせる雪原に、そこはわたしたちの、(あなたたちの) 墓だと誰が。 誰が知っている。

 

見つめ合う瞳は小鹿の瞳、猟師に撃たれて血と命を流し続ける生物の瞳。腐り落ちた肉と血のあとに残った、いのちの 鉱石の

キュクロプスが森を歩く夜の、まばたきを忘れた瞳。

 

 

( 沈んでいく 青という遺跡

( 落ちていく 烏

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詩の途上

詩の途上

心が静かであるとき
洞窟の多くに眠る
鉱物たちの囁きをきく
声は
光の粒となって
金色の火の粉のように
砕け散る

心が静かであるとき
湖の中心に立っている
遠く――岸辺で
真っ白い鹿がこちらを見ている
月が昇る――水面が揺れる
鹿の黒い眼の奥に
青い水が湧いているのを見る

心が静かであるとき
時代と歴史と時間の流れる
金色の川に触れる
あたたかくも
冷たくもない水――
微生物、細胞の集合体――

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疾駆

疾駆

黒い馬の群れがわたしの影を乗せて駆けてゆく並走するように飛ぶ烏は淡く燐光し光は雪となって烏の尾となり最後には消えていく、どこに向かっているのかはわからないだがわたしは彼らに護られていて導かれている、導かれているのがわかる、仄暗い空にひかる星の名の神話を烏は歌った、狼たちの遠吠え、猛禽類の高い声、遠い海鳥の羽ばたき、

「ここに飼い慣らされた者などいない」

疾駆する者たちよある者たちによって最果て

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朝の遺構、夜の血脈

朝の遺構、夜の血脈

郷愁を知らず噛んだ舌から
裂く咲く朝焼けの色の花
透き通る茎に
流れる小鳥の血潮
溢れて落ちる
根を張って増えていく

( 朝焼けは夕暮れへと反転する
( 夜を呼ぶ者たちの白い手
( 揺れる 揺れる
( 茎の長い花の群れのように揺れる

尾羽から鈴の音
死んでゆく命の
誇り高く無垢の瞳
夜に似た静寂を孕んで
揺れる
やまたの舌
雷鳴が貫いた

反転する
わたしとあなた
鳥籠の中の囀り
「誰が殺した

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「karo」

暮れていく、と
落ちていく、は
同じ
クチナシの匂いがする

三日月の
かろやかさ
かろ
かろ、
という名の犬
みっつの
赤い翼
ほぐれる
横切っていく烏の(彼らはまっすぐに飛んでいる)(いろいろな視点があること)
ちいさな群れ

立ち尽くすあしもとからは
鈴の音がいつまでも
鳴いている
よるがくるね
よるがくるね
左の耳に囁く声
よるがくるね

(振り返ると赤い翼はもう白く消えていた)

(21

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