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「冬から春へ」

未分化の白い腕が木蓮の枝をいっぱいに抱えて。

 

 

原初の闇を匂い立たせる雪原に、そこはわたしたちの、(あなたたちの) 墓だと誰が。 誰が知っている。

 

見つめ合う瞳は小鹿の瞳、猟師に撃たれて血と命を流し続ける生物の瞳。腐り落ちた肉と血のあとに残った、いのちの 鉱石の

キュクロプスが森を歩く夜の、まばたきを忘れた瞳。

 

 

( 沈んでいく 青という遺跡

( 落ちていく 烏の群れの夕暮れの羽音

( 涸れ果てた 水脈に咲く花々

 

 

窓辺の椅子の上で眠る一切の記憶

とりこぼされた硝子の欠片たち

はなびら

キリスト が欠けた古い十字架

ヤドリギの実

蛇の舌

あなたの小指の爪

硝子瓶に詰め込んだ小鳥の巣

 

あらゆる忘却のうちに種は生まれ、ただ闇の中をひたすらに泳ぐ魚たちの 尾びれに 銀色の星を散らして霧のように踊る。