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「1973年のピンボール」の新たな視点

 この小説で作者が言いたいこと、テーマとしていることは、「同じことの繰り返し」だと考える。そして、作者がこの小説のひとつ前に「風の歌を聴け」を書き、デビューをし、この小説を書き、そこからバーを辞め、次の「羊をめぐる冒険」で専業作家になったことからもわかるように、作者はある種の覚悟を物語という形を借りて、この小説で告白しているのだと考える。それは、鼠の物語にも表現されている。鼠は物語の中で、ずっといた街を離れる決心をした。これを作者自身の話に当てはめると、作者はこの小説を書き上げた後、学生時代から営んでいたバーを他人に売却し、専業作家になったということになる。それまで長い間いた場所を離れ、専業作家になる道を選んだという決意の表明と考えることができる。しかし、鼠のセリフにあるように、いつかはまた同じ場所に顔を出しに戻ってくるかも知れない。つまり、作者にとっては、いつかまたバーを開くかもしれないということになる。これは、作者がラジオやエッセイでよく言っていることとも重なる。以上のように、この小説は一種の宣言小説と見ることができ、米津玄師の「砂の惑星」とも重なる。
 次に、「同じことの繰り返し」というテーマについて述べる。この「同じことの繰り返し」を象徴するものとして、物語には双子が登場する。これは、「同じもの」の象徴である。もうひとつ、繰り返しの象徴として「ピンボール」がある。それは、物語の中で明示されている。
 作者が言いたいことは、人生において大切なのは「同じことの繰り返し」であり、さらに、「同じことの繰り返し」を受け入れて変化していかなければならないということである。それは、次のようなセリフにもよく表れている。

「ずいぶん考えたんだ。何処に行ったって結局は同じじゃないかともね。でも、やはり俺は行くよ。同じでもいい」

1973年のピンボール (講談社文庫)

2023/01/23 本書二回目の読了後


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