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【GK Report 特集:社会課題とデザイン】多様性社会における公共トイレのかたち

【お知らせ】GK設計は、株式会社LIXILと熊本赤十字病院との共同研究として、医療・防災環境における仮設空間-可動式アメニティブース「withCUBE」の利用検証開始。https://www.facebook.com/GKSekkei.inc/posts/839836310109396
 【お知らせ】国際赤十字社会イノベーションセンター「Red Social Innovation」の情報共有サイトに、日本赤十字のオープンイノベーションの取組みとして、避難所で発熱した患者の感染対策ための「withCUBE」の活用が掲載されました。https://red-social-innovation.com/en/solution/kumamoto-hospital-how-to-integrate-innovation-within-a-healthcare-facility/

かつて公共トイレは4K(汚い・臭い・暗い・怖い)と椰楡される存在でした。しかし近年では、トイレが施設のイメージを左右するだけでなく、その施設のサービスを体現し集客にも影響することから、公共トイレの整備が重要視されています。

 本コラムは、GK Report No.37 において人と都市環境の多様性に応える公共トイレ開発におけるGK設計の活動をまとめたものをご紹介致します。

1. 人の尊厳を支え、多様なニーズに応える

 人が生きていく上で 「排せつ」は必要不可欠な行為であり、多様な人々が活動する公共空間においても守られるべき、人の尊厳の一つです。公共トイレは、他者と共棲する公共の場にプライベートな個室空間をつくることで、「排せつ」のためのプライバシーを守るだけでなく、利用者の循生を守る大切な役割を持ちます。共生社会の実現と社会的障壁の除去を基本理念に掲げるバリアフリー新法では、公共卜イレには一般のトイレに加えて、車いす使用者や人工肛門・人工膀脱を保有するオストメイトに対応したトイレの設僅が義務付けられています。また、高齢者・障がい者・乳幼児連れ利用者などに配慮したトイレや、知的障がい者・発達障がい者・高齢者同士の異性介助、トランスジェンダーなど性的マイノリティに配慮した男女共用トイレが求められるなど、公共トイレヘのニーズは多様化しています。

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2.道具の環境化とストリ ートファニチュア

 GK設計は、「道具の環境化」を研究テーマの一つとしてインダストリアルデザインが対象とする「道具」を都市環境に展開することで、アノニマスで点的な「道具」による広場の創出を志向してきました。

 都市環境において 「道具」とは、機能的・構造的な 「独立性」と、どこに移動しても機能を変化させない 「可動性」を備えた 「街の家具」です。

 GK設計は、土木構造物や建築物とは異なる多種多様な 「道具」の体系を「ストリートファニチュア」として位置付け、国内外の都市環境において、ストリートファニチュアが果たす役割を研究し、その姿をかたちづくってきました。公共トイレもその一つです。

3.大阪万博とストリートファニチュア

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 1970年に開催された大阪万博において、国内初となったストリートファニチュア計画は、GKの榮久庵憲司をディレクターとし、剣持勇デザイン研究所、トータルデザインアソシェーツ、GKインダストリアルデザイン研究所の共同でデザインされました。博覧会場の屋外に設置される、案内や守衛のための有人のブースから、休憩所のシェルターやベンチ、水飲みやゴミ箱、電話ボックスや自動販売機、案内サインなど、様々なストリートファニチュアを対象としました。

 その中に、いざという時に即座に移動し設置することができる「移動ファニチュア」として、車両を利用した「移動トイレ」の開発があり、それは、牽引するコンテナの車台に水洗トイレや上水タンクを設置し、車台の下部には汚水を貯留するタンクを備えたものでした。このトレーラーハウス型のユニットトイレは、「可動性」を追求したトイレの原型となるものです。

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4.〈アーバントイレ〉と〈withCUBE〉の開発

 大阪万博での活動を契機に、GKはその後、数々の博覧会や、多様な都市景観に適応できる汎用性と展開性を備えた、様々なストリートファニチュア製品のデザインを手掛けてきました。その中でも公共トイレの開発には継続的に関わっています。

 ここでは特に、建築材料・住宅設備機器業界最大手であり、水回り製品のリーディング企業でもある株式会社LIXILの製品開発において、GK設計がデザインを担当した公共トイレの開発を取り上げます。

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 1992年に発売された〈アーバントイレ〉※1は、個室単位でユニット化されたプレハプの公共水洗トイレです。あらかじめ工場で組み立てたユニットを設置場所へ搬送し、複数のユニットを連結して簡易に施工することができます。また、下水設備のない場所でも、浄化槽と組み合わせることで、場所を選ばず設置や増設が可能です。

〈アーバントイレ〉は、景観に調和する陶壁タイルの外観、ユニット化による内装の使いやすさや清掃のしやすさ、設置場所を問わない施工性などによって、4Kのイメージを払拭し、その名の通り、都市環境における公共トイレのあり方を問う製品となっています。

※1:アーバントイレは現在では販売しておりません

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 2020 年2月、公共トイレの今日的な課題に対する新たな提案として、〈withCUBE〉が発表されました。 この製品は、最新のシャワートイレや洗面器などで構成された快適なトイレ空間を、どこでも簡単に必要な数だけ設置できるアメニティブースとして、〈アーバントイレ〉をハード・ソフトの両面から継承・進化した製品です。

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〈withCUBE〉は、排水圧送ポンプの採用により、排水管付近での設置の制約がほとんどなく、基礎工事が不要で運搬や配管の接続だけとなり、短期間での設置が可能となりました。また、設懺・維持管理・撤収までをレンタル契約とし、定期的な清掃サービスや給水の自動管理により、常に清潔で快適な利用環境を保つことができます。 これらによって、設置後の利用ニーズや施設環境の変化に応じ、 ユニット単位で移設や増設・撤収に適宜対応できる優れた「独立性」と「可動性」を備えています。

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5.多機能トイレの「機能分散」

〈withCUBE〉は、ユニットトイレの設置や維持の性能だけではなく、多様な人々に配慮した公共トイレとして、多機能トイレのあり方を見直す「機能分散」のかたちを、今後、提示することができます。

 車いす使用者用トイレに、オストメイト用設備やおむつ替えシート、ベビーチェアなどさまざまなバリアフリー設備を集約した「多機能トイレ」は、車いす使用者だけでなく、高齢者や子ども連れなどの利用が集中し、車いす使用者が使いたい時に利用できないことが課題となっています。そのため、「多機能トイレ」への利用集中を緩和する副次的なトイレとして、一般のトイレに各種バリアフリー設備を備える「機能分散」が必要となっています。

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〈withCUBE〉では、車いす使用者用トイレに適応するユニットと標準サイズのユニットを、一般的なトイレブースよりも広く設定しています。例えば、洗面器を設けた標準ユニットと車いす使用者用トイレに適応するユニットに各種バリアフリー設備を分散配置することで、 「機能分散」に対応することができます。

 また、車いす使用者の利用の選択肢を標準ユニットにも広げる「機能分散」の妥当性を検証するため、原寸モックアップにより、車いす使用者による排せつの模擬動作の検証と利用者評価を行いました。全ての車いす使用者の利用は困難でしたが、ユニット内での切り返しにより、手動車いすと一部の電動車いす使用者の利用が可能であることが確認されました。〈withCUBE〉は、各種ユニットの組み合わせ配置によって、多様な利用者への配慮と、車いす使用者の利用の選択肢を広げ、「機能分散」を図ることができます。

6.道具が街のレジリエンスを高める

〈withCUBE〉は、公共トイレとして、機能的・構造的な「独立性」と、どこへ移動しても機能を変化させない「可動性」を備えることで、都市の新たな役割を担う可能性を持っています。

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 例えば防災の観点からは、公園で日常的に利用されている公共トイレを、災害時には、離れた被災地の避難所に一時的に移設することが考えられます。また、給排水や電源設備を組み合わせることで、設計環境に左右されない、オフグリッドで完全に自立したトイレとしての設置が可能です。さらには、トイレとしての機能拡充だけでなく、スケルトンインフィルのユニット構造を活かし、シャワ ー室や授乳室、更衣室、祈祷室など、新たなアメニティ機能への展開が想定されます。

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まとめ

〈withCUBE〉は、土木構造物や建築物とは異なる新たなストリートファニチュアとして、その特性を活かし、利用者と都市環境の間で、臨機応変に適応することができます。一旦作ったら終わりではなく、あらかじめ、多様な利用ニー ズや施設の運営、維持管理の変化に対応できる機能性を持たせたデザインによって、幅広く活用できる柔軟性が大切です。

 地域に暮らす人々やコミュニティが、街路や広場などの公共空間に着目し、多様な人々の活動を支える開かれた居場所として活用する動きが進んでいます。

 公共空間の使い手も使われ方も多様化する中で、都市環境の整備のあり方や仕組みが問われています。利用者と都市環境の間で、臨機応変に変化する柔軟性を発揮する「道具」として、多様性社会における持続可能性のあるストリートファニチュアを開発していくことが、今後も重要です。(加藤完治)


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● その他のGKがデザインした災害関係のものづくり紹介 (一部)
○ エマージェンシーユニット&QS72(GK設計)
○ ポータブル蓄電システム(GKID)
○ にげましょう 絵本(GK京都)
○ ハザードマップ(GK京都)
○逃げトレ 訓練アプリ(GK京都)
○ 2011 XTW250 陵駆(GKダイナミックス)
○ 西宮市津波避難サイン群(GK設計)

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