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【GK Report 特集:パブリックトランスポーテーションのあした】 意識を創る 芳賀・宇都宮のトータルデザイン

現在、栃木県宇都宮市の芳賀・宇都宮LRTは2023年春の開業予定に向け工事が着々と進んでおります。今回はパブリックトランスポーテーションの明日と題し、トータルデザインの観点から芳賀・宇都宮LRTについて紹介致します。(GK Repot.39)


1. ネットワーク型コンパクトシティとLRT

 栃木県宇都宮市は、1993年度に新交通システムの検討を開始し、2007年度に「ネットワーク型コンパクトシティ」の都市構想を掲げました。このネットワーク型コンパクトシティの形成に向けた取り組みの基軸として、東西基幹公共交通LRT(Light Rail Transit)整備を位置付けています。

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 LRTを宇都宮市における東西の基幹交通とし、沿線の結節点(トランジットセンター)でバスや地域内交通などと接続することによって、面的な交通ネットワークの形成と都市の集約化を目指しています。

 2018年5月、芳賀・宇都宮LRTの起工式が執り行われ、2023年春の開業に向けて各種整備や様々な事業が進められ、GKデザイングループは、GK設計・GKインダストリアルデザイン・GKグラフィックスの3社で連携し、2016年度より「芳賀・宇都宮LRTトータルデザイン」に参画しています。

2. LRTによる未来のモビリティ都市の創造

 芳賀・宇都宮LRTのトータルデザインコンセプトは『雷都を未来へ』です。これは雷都の物語とともに、稲光や雷を受け実った稲の豊穣を表すシンボルカラー「黄色」をまとい公表されました。

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 芳賀・宇都宮は雷が多い地域です。気象観測データにおいても、宇都宮の年間の雷日数は関東地方で最も多く、「雷都」と呼称されます。地域の人々は、この雷を「雷様(らいさま)」と呼び、不快で危険という負の存在ではなく、大地に実りをもたらす「恵み」の存在として受け止めてきました。

 芳賀・宇都宮の風土を未来へ継承していく役割を担っていくものとして、『雷都を未来へ』をこの街独自の トータルデザインコンセプトとしました。


<芳賀・宇都宮LRTトータルデザインの特徴>

3. 「全線新設」─市民の意識を創る

 GKデザイングループはこれまでも富山ライトレールなどLRTに関わった経験がありますが、全線新設、すなわち今まで路面電車も運行していなかった地域に新たに導入するLRTのトータルデザインは、これまでの取り組みと決定的に異なる、新たな経験でした。それは、開業の周知や利用促進以前に、そもそもこれまで「公共交通を利用する」という選択肢自体がなかった人々に、LRTの存在を知ってもらい、LRTを選んでもらい、LRTが走るまちをも誇りに感じてもらえるようにするということです。

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 私たちは芳賀・宇都宮LRTのトータルデザインを、車両・停留場・サインなどハードを総合的にデザインするだけでなく、開業後の乗車体験を見据え、開業に至るまでの市民の意識を、一歩一歩段階を踏みながら創出するものとして捉えています。それは、デザインプロセスなどへの参加を通じた、市民のLRTによるまちづくりやまちの未来を考える機会の創出、市民へのサービスからのアプローチなど多岐に渡ります。

4.「チーム」 ─ ロードマップをともに描く

 今回のプロジェクトでは、宇都宮市所管部署を中心に、LRTによるまちづくりに関わる人々が「チーム」として動くことを意識しています。このチームには地域・行政・デザイナーの三者が含まれており、全員がひとつのロードマップをともに描きながら各々の専門性を最大限に発揮し、トータルデザインを行うことを目指しています。また、GKデザイングループ内では、ソフト・ハードの担当者同士が、リアルタイムで、必要なときに直接コミュニケーションを取ることができる環境で臨んでいます。このような密な協力体制も、車両や各種施設の計画を踏まえて、効果的なタイミングで市民参加プログラムを組み立てていく「チーム」として、重要な要素だと考えております。

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3. 「車両=まちの顔」─車両に想いを託す

 LRT車両は、都市間を疾走する鉄道車両とは違って地域内を走るため、市民の日常に密接に関わっていきます。そのため車両デザインには、乗車に至るまでの意識づくりと、開業後の乗車体験をつなぐこと、さらには「雷都」を未来へと牽引する意志を体現したコンセプトを託しました。

 ソフト事業の最初の山として実施した車両デザイン決定への市民参加は、多くの人に向けた、LRTによるまちづくりの周知という意味を持っていました。選定手法については、子どもからお年寄りまでより多くの市民が参加できるよう、複数デザイン案から一案を選ぶというシンプルなアンケート方式が採用されました。

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 アンケートは、単に人気投票をするのではなく、LRTによるまちづくりに触れるきっかけをつくることを目的としていました。単に好きな「絵」を選ぶのではなく、コンセプトを一旦消化した上で判断してもらえるよう、2つのステップを設定し、コンセプト『雷都を未来へ』の考え方を伝える文章を一通り読んでから、デザイン案選定を行うことができるように構築しました。

 こうして、デザイナーの専門性が発揮された車両デザインに市民の意志によって命が吹き込まれ、芳賀・宇都宮LRTの車両デザインが決定しました。新たなまちの顔の誕生によって、市民の意識が大きく変わることとなりました。


4. まとめ:地域公共交通と豊かな風土の協奏

 人間の価値観や意識というものは、何かのきっかけや経験によって大きく変化し得ます。筆者自身もそのことを実感した経験があります。

 ライフスタイルの変化に伴い地域公共交通のひとつであるバスの利用が増えました。これまでは、定時性・速達性という面で劣るというイメージの下、そもそも利用していませんでしたが、今では高頻度で利用するユーザーになりました。定時性の面で検索アプリなどがサポートしてくれることも利用頻度の向上の要因となっていますが、階段などの上下移動なく乗降できる気軽さ、車窓からのまちの風景や乗り合わせた客同士の近い距離感が生み出すコミュニケーションが、外出の一つの楽しみとなりました。

 現在、公共交通を取り巻く環境では、事業者間を超えたシームレスなサービスが基盤として展開されつつあります。地域内の移動において、徒歩・自家用車・タクシー・バス・LRT、さらには交通の枠組みを超え、多様なサービスが並列に比較、選択できるようになったとき、私たちは何を判断基準に選んでいくのでしょうか

昨今、休日の移動回数は、20代が70代の移動回数を下回るという調査結果もあります。ライフ/ワークスタイルのカスタマイズ化、また物流サービスの高度化の下、そもそも私たちは外出する意義を失いかけていないでしょうか。

 人々がいない街、そこに風景はない。

 市民や工業団地へと向かう通勤・出張者などが、ゆったりとした気持ちで車窓を眺めながら過ごす姿、停留場での会話。時を重ねて変化してゆく沿線の景色。乗る人、運ぶ人、つくる人、そして豊かな風土の協奏によって育てられていく風景。それをともに描きたいです。(若尾講介)

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