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【GK Report 特集:社会課題とデザイン】 地域と共創するまちづくり

第54回日本サインデザイン賞において「富山駅路面電車南北接続開業記念事業のプロモーション・サイン」が金賞・諏訪光洋賞・高橋俊宏賞を受賞しました。  本稿では、サインデザインに留まらないGK設計が富山市のまちづくりに長年携わってきたトータルデザインの考え方を紹介致します。(GK Repot.37

1. 富山市のまちづくりとGK

 近年、日本各地で「コンパクトシティ」の実現に向けた都市施策が進められています。いわゆるスプロール化と呼ばれる低密度な市街地の拡散に歯止めをかけ、集約的に豊かな都市機能の充足を図ろうとするもので、その手法は多岐に渡ります。

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 富山市は鉄軌道をはじめとする公共交通を活性化させ、その沿線に居住、商業、業務、文化等の都市の諸機能を集積させることでこれを実現しようとしており、日本国内において「公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくり」を先駆的に進めてきた都市であります。

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 全国初の本格的LRT(Light Rail Transit)となった富山ライトレールに始まり、市内電車環状線化、そして、北陸新幹線開業に伴う市内電車の富山駅乗り入れと、それに続く路面電車南北接続事業などです。
 このリポートが発行されている頃、2020年3月には、神通川の治水や明治41年に開業された富山駅により、長年南北に分断されていた市街地が一体化されます。

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 富山市における路面電車の南北接続事業は、「富山市民百年の夢」とも称される大業です。創業以来幅広い分野でデザイン活動を行ってきたGKデザイングループは、この新鋭な都市政策を背景とした仕事に、トータルデザインという考え方をもって、始動期から関わりを持つことができました。私たちにとっても、この事業に長期に渡り関わることができたことは感慨深いことです。

2. GKのトータルデザインが目指してきたこと

 私たちが行ってきたトータルデザインの目標は、都市政策や開発事業が意図する思想や事業プロセスを可視化し、それを享受する市民や事業関係者たちに共感を与え、愛着や誇りを感じる意識─「シビックプライド」を育んでもらうことにあります。そして何より富山では、コンパクトシティを実現しようとする公共交通沿線で、魅力的な人と人との関係づくりを創ることが狙いです。

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 私たちGKデザイングループのアドバンテージは、市民参画や広報のために展開するコミュニケーションデザインや、車両デザインをはじめとするプロダクトデザインの専門知識と経験から、環境整備事業全般を一貫したデザインとして総合プロデュースできることであり、富山においては、それを通貫して実践することができました。本稿では、路面電車ネットワークの最終章となる南北接続事業の完成を前に、GKが携わることのできた地域コラボレーションワークについて取り上げます。

3. 地域と共に育むデザイン

 私たちが携わったプロジェクトは、先に完成した市内環状線沿線の大手モール地区の活性化を目的に行われた、市民参画プロジェクトでした。そこでは、地元有志を中心としたメンバーによる沿道活性化のためのまちづくり活動が進められており、私たちもこれに参画し、ワークショップ(以後:WS)でのファシリテーションを行うこととなりました。

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 いくつかの活性化プロジェクトを検討する中、市の事業として、沿道の各種イベントでの賑わいづくりのための装備としての大型バナーなどの整備予算が採択されました。そしてWSでの紆余曲折の議論の末、パーミル(‰)と名付けたイベントを実施し、大型バナーを活用することになりました。

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 それは、大手モールで行われる地域イベントに1,000人の来客を動員しようとするもので、市内各所のプレイベントサテライトで市民や来訪者に切り絵を作ってもらい、その切り絵をコラージュ的にレイアウトしたバナーを大手モールに掲出し、イベント当日、記念品授与と各自が作った切り絵の返却を行います。

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 切り絵を作った参加者ひとりひとりが目標1,000人のうちの一人、すなわち‰(1,000分の1)というシナリオでした。パーミルは地元デザイナーでもある島津環境グラフィックス代表の島津勝弘氏の発案によるもので、彼が地域で持つ人的ネットワークをフルに活用してくれたことにより可能となりました。地元関係者や市の職員はもとより、そのネットワークにより、まちづくりに関わる地元デザイナーやコーディネイター、富山大学等、学校関係者などの協働が、このイベントを成功させる大きな要因となりました。

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 このように、これまで富山で行ってきたトータルデザインの背景には、地域デザイナーとの長年のコラボレーションワークがあります。トータルデザインが目指すシビックプライドの醸成には、日常的な地域との関係づくりと、我がまち意識が欠かせません。遠隔地から富山のデザインを考える視点とは別に、地元感覚や人脈のネットワークが必要ということです。地元デザイナーも「気にかける」デザインを実現する意味でも、地域のプロフェッショナルとの協働ワークは大きな意味を持ちます

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 この度の路面電車南北接続事業開業イベントでも、テーマコピー「TOYAMA つながる、ひろがる。」のキービジュアルは、本事業を応援する地元民間事業者による選考会で選出された地元デザイナーの手に委ねるものとし、その発案を元に広報、環境演出などのアプリケーション展開を行うものとしています。

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4. 未来のまちづくりにデザインが貢献できること

 路面電車南北接続事業の完了に伴い富山市の「公共交通活性化によるコンパクトなまちづくり」のLRTネットワークがほぼ完成したことになります。そして富山市は、さらにその先の未来のまちづくりを見据えています。 

 市はすでに、内閣府が推進する「SDGs未来都市」の選定を受け、「持続可能な付加価値創造都市」の実現という新たな目標に向けて歩み出しています。それは、これまでに築き上げたコンパクトシティを礎に、「経済」「社会」「環境」の3つの価値の統合的向上により新しい未来社会の実現を目指すものであり、そこには企業や地域の活性化、健康・医療、子育て・教育、低炭素・エネルギーの有効利用など、多岐にわたる行動目標が掲げられています。

 そしてその実現には、より広範で多様なステークホルダーと連携して進める分野横断的、かつ、複合的なパートナーシップが不可欠となります。SDGsが描く未来社会には、すべての人々が「未来を共に創る」という当事者意識を持って考え、行動していくことが大切だからです。

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まとめ

 GKデザイングループはこれまで様々な社会課題に対し、デザインによる具現的なモノづくりを通じて解決策を提案してきました。しかし、今回紹介したプロジェクトには、単なるモノのカタチとして現すことができないデザインの姿が存在します。これまでよりさらに複雑化し、多面的となる未来社会のまちづくりに対し、私たちデザイナーは今、どのようにデザインを立案し着地させ、その姿や運用をいかに持続させることができるか、ということが問われています

 次代のトータルデザインへの展望として、 GKデザイングループの創造集団としての総合力を礎にしつつ、地域や異分野との共創により築き上げるコラボレーションワークの可能性に大きな夢を描いています。


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● その他のGKがデザインした富山のものづくり紹介 (一部)         
○ 富山LRTトータルデザイン(GK設計+GKID)
○ 新交通「Boule BaaS」(GK設計+GK京都)
○ とほ活啓発事業(GK設計+GK京都)
○ 高齢者移動把握専用端末おでかけっち(GK京都)
○ 夜間景観実証実験「夜の水彩カフェテラス」(GK設計)          ○ 富山ライトレール ポートラム新車両(GK設計+GKID)
○ 富岩水上ライン(GKID)  

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