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春の味覚、ハネムスカリの球根

「春の味覚と言えば?」と聞くと、筍や山菜、菜の花など思い浮かべる人が多いでしょう。日本と同じく野草をよく食べるギリシャでも、少しほろ苦い春の味は、この時期の楽しみです。

クレタ島の野生アーティチョーク


下処理で出る捨てる部分の多さが筍を思い出させるアーティチョークは、栽培種が主だけどトゲトゲで小さな野生のものが特別なごちそう。細くてひょろっとした野生アスパラや、それに見た目が似たツタの新芽、まだ花を咲かせる前のヒナゲシの葉っぱなど、アテネの街暮らしでも青空市場で探せば結構いろいろ手に入るのが嬉しいです。
春は復活祭前の長い節食期間もあり、きちんと守っている人はほぼ菜食のストイックな食生活となるのですが、冬が終わりよき季節へ向かっていく歓びを感じさせる春の野草たちは食卓に彩りを添えてくれるような気がします。


ハネムスカリの球根の味は?

ころんとした姿と淡いピンク色が可愛いハネムスカリの球根は、今の時期楽しみにしているもののひとつ。その年によって出回る時期が少し変わってくるけど、大体2月ぐらいからでしょうか。青空市場をくまなく見て回ると、掘り起こして泥がついたままの小さな球根が売られているのを目にすることがあるでしょう。それが、ハネムスカリの球根。地方によって違う呼び名もあるけれど、一般的にはただヴォルヴィ(球根)と呼ばれます。

水に晒して苦味抜き後、何度か茹でこぼす


泥んこの球根を剥いて、さらに水に浸けたり何度も茹でこぼしたりと手間がかかるのですが、なぜか私はこれが好きで、見かけるとつい買ってしまいます。ちなみに、下処理なしのそのままだと苦くて食べられたものじゃないですよ。日本人の味覚に合うものかはよくわからないけど、口に広がる淡い花のような香りと苦味は春そのもののような味わいです。

古代では媚薬だった球根


ハネムスカリの球根は、古代ギリシャやローマの時代から食べられていました。医食同源のような考えはこちらでもあって、多くの食材は古代では薬としても扱われていましたが、ハネムスカリの球根は催淫効果があるとされ、「食べる媚薬」のような扱いだったそうです。そのような効能が謳われなくなってからもハネムスカリ球根を食べる食文化は途絶えていないのは、この食材がギリシャでどれだけ愛されているかを証明しているでしょう。以前ギリシャ人の味覚について書いたことがありますが、ギリシャ人は苦味も結構好きなようで、苦い野草や青菜など好んで食べます。ハネムスカリ球根については地方によって差はありますが、特にクレタ島(クレタではアスコルドゥラコスと呼ばれる)などで多く食べられています。
地中海沿岸地域に自生するハネムスカリですが、食材として見なされている国は多くないようで、ギリシャとイタリアが主。イタリアではプーリア地方など一部の地域で食べられるようです。

これはペロポネソス半島半島スパルタ産


ギリシャで売られているハネムスカリ球根は国産よりも輸入品が今では多く、モロッコなど北アフリカ産のも見かけるため、あちらでも食べるのかずっと気になっていました。モロッコの農水省作成のPDF(※)にじゃがいもと一緒にマッシュした料理のレシピがひとつ載っているのをようやく見つけたのですが、モロッコで採れた球根はほぼ輸出用にされるとのことで、現地ではあまり食べないようです。

※モロッコ政府作成のPDF(ハネムスカリはp.208)
https://www.agriculture.gov.ma/sites/default/files/terroirs-of-morocco.pdf

ハネムスカリ球根の食べ方


ハネムスカリの球根は、ギリシャでは主に酢漬けにして食べられます。地方ではそれ以外に煮込みに入れたりするところもあるようですが、レストランではあまり遭遇しないもののように思います。アテネで食べようと思うと、スーパーや地方特産品を扱うグルメ食品店で瓶詰めや量り売りの酢漬けを探すか、クレタ料理レストランで見つかりやすいです。

茹でただけの球根のサラダ。ドライキュアの黒オリーブとの相性が素晴らしい


酢漬けの作り方は下記リンクの記事に詳しく書いています。

ギリシャのレシピを見ていると、茹でた球根にワインビネガーをそのまま注ぐ作り方だったりします。この作り方だとかなり酸っぱくなってしまったので、私は水とビネガー(割合は保存期間などにより加減)をあわせる方法。この時書いたレシピには砂糖も使ってますが、入れなくてもいいです。

クレタ島の山羊肉の料理。苦い野草と酢漬けの球根がよく合う


食卓のアクセントとなるピクルスは、そのままおつまみにもいいし、料理の口直しや薬味的にも。クレタ島の山のタベルナで山羊のシンプルな煮込みを食べたことがありますが、ちょっと脂っこい肉の料理を、一緒に頼んだハネムスカリ球根のピクルスがさっぱりさせてくれてよいものでした。

塩とビネガーに漬けたのち、オイル漬けにするとさらに美味しい


ビネガー控えめでもピクルスだとそれなりに酸っぱいので、球根そのものの味を楽しみたいなら温サラダのような食べ方もおすすめです。長期保存できるピクルスはちょこちょこいろんなものとあわせて食べるのが楽しみですが、茹でたてに塩やオリーブオイルだけで食べるのはまた格別。

これはフレッシュなそら豆と球根のピクルスを煮たもの

いつか作ろうと長年思い続けていて、今年やっと試した「球根とそら豆」も、しみじみ美味しいものでした。この組み合わせはフレッシュなそら豆で以前やったことはあったのだけど、昔買った野草の本で見た乾燥そら豆のが気になっていたのです。


私流、球根を使ったモダンギリシャ料理


好きな食材は最大限に楽しみたいので、ハネムスカリ球根の料理アイデアもよく降ってくることがあります。思い浮かぶものはどれも “古くて新しい” モダンギリシャ料理のカテゴリにあてはまるものなのですが、似た料理がすでにあったりするのを後で発見することもあり面白いです。たとえばタコとハネムスカリ球根のスティファド。この2つの素材を一緒に煮込んだ料理はどこかの島の郷土料理として存在するらしいです。
ブログには他にもいろんな料理を載せていて全部拾いきれませんが、いくつかリンクを貼っておくので興味のある方はご覧ください。
 



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