見出し画像

セリフォス島の「穴蔵チーズ」

ギリシャはチーズの消費量がもっとも多い国のひとつ。日々の食卓にチーズは欠かせません。


ギリシャのチーズと言うとフェタチーズ以外は世界ではあまり知られていませんが、他にもおいしいチーズがいろいろあるんですよ。フェタチーズやそれに類似するチーズ、リコッタチーズのようなフレッシュチーズ、熟成させたもの・そうでないもの含むスプレッドタイプのチーズ、マイルド~塩辛いものまでさまざまなセミハード&ハードチーズ……。日本で販売されているのは、フェタのほか、ケファロティリ、ケファログラヴィエラ、グラヴィエラといったハードチーズぐらいでしょうか。


ちょっと面白いローカルチーズもいろいろあるのですが、今回はセリフォス島のハードチーズをご紹介します。

セリフォス島はエーゲ海の真ん中辺りに点在する島々からなるキクラデス諸島に属します。同じキクラデス諸島ではサントリーニ島やミコノス島が有名ですね。

画像5


ティリ・トゥ・ラクゥ(穴のチーズ)と呼ばれるこのチーズ。名前の通り地面に掘った穴に入れて熟成してあります。

現在では島のチーズ工房で作られ、アテネでも一部のデリやチーズショップで購入できるのですが、かなり前にセリフォス島でいつもバカンスを過ごしている知人が持ってきてくれたことがありました。知人がくれたものは、いかにも昔ながらの手作りチーズという感じで、ぎょっとするような見た目(トップ画像)。古くは土にそのまま(?)埋めたという話も聞いたのですが、べっとり付いているのは泥ではないですよ。

原料は、羊乳と山羊乳をブレンドしたものが一般的です。春、復活祭前の断食期間に絞った乳を使うのが伝統で、この時期の乳は脂肪分が高く味もいいとされます。動物性食品の摂取が禁じられる断食期間中は乳製品も食べられないので、どちらにせよチーズを作って保存するぐらいしかなかったのでは……とも思いますが。

ティリ・トゥ・ラクゥはギリシャのスタンダードなチーズのひとつであるケファロティリ(イタリアのペコリーノと少し似ています)のようなハードチーズなのですが、セリフォス島のこれは熟成過程がユニーク。

断食期間に仕込み、チーズを埋める作業が行われるのは、キリストの升天祭の日です。まず、この時点である程度乾燥した状態となっているチーズにワインの澱かを塗り付けます。もしくはオリーブオイルの澱を使う場合も。これを島のハーブとともに素焼きの壷やその他容器に詰め、地面に深く掘った穴に埋めます。セリフォス島の古い家には、床にチーズ用の穴があるところも多かったのだそうです。

チーズを掘り起こすのは、9月の十字架挙栄祭の日というのが伝統です(人によっては、もう少し長く熟成させます)。農作業や漁、食品の生産に宗教が結びついているのは世界の多くの文化で見られますが、技術が発展していなかった時代は神頼みの意味も大きかったのでしょう。

画像1

もちろん神頼みだけでなく、長く培ってきた生活の知恵も。ギリシャの多くの島がそうであるように、セリフォス島はごつごつとした岩がちで乾燥した島。夏は雨も降らず強い陽射しに焼かれカラカラに乾いてしまうような場所です。そのような土地で夏の間チーズを熟成させるのに、地面の中は適度な湿気と温度を保つベストな環境なのでしょう。とは言え、この方法が広く見られるわけではなく、セリフォス島とお隣のシフノス島ぐらいのようですが、だからこそこのユニークなチーズは知る人ぞ知る美味なのです。

画像2

さて、穴に埋めておいたチーズは十字架挙栄祭の頃にはうまく熟成が進んでいます。知人がくれたセリフォス島のチーズは紙に包まれた状態で、開いてみるとこんな感じ。白カビがついているのが見えますが、これはチーズが完成した目安となります。

画像3

泥のようなコーティングを洗い落とし、乾かした状態にしました。底面が少し粉っぽいのが見えるでしょうか?ミモレットなどダニを利用したチーズがありますが、これもダニの作用が(狙ってはない気がしますが)多少は熟成を助けているのかも。

画像4

中は細かい気泡がいっぱい入っていて、硬さは長期熟成されたパルミジャーノ程度。塩気は少し強めで、ピリッとした刺激を感じさせるような力強く複雑な味わいです。小さく割るように切って、ウゾやラキ、チプロといった強いお酒や甘口のワインと一緒にちびちび食べるのがおすすめ。また、個性強めですがすりおろしてパスタなどにも使えます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?