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競技用ケトルベルは他のケトルベルと比較して何が違うのか

 ケトルベルスポーツでは、ルールに定められた専用のケトルベルを使用します。競技用のケトルベルと、他のケトルベルはどのように違うのかの考察です。

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(写真1:競技用ケトルベル)

 こちらがケトルベルスポーツで使用される競技用ケトルベルです。競技の公平性を保つために大きさが厳格に定められております。そのため重さが変わっても大きさが変わることはありません。

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(写真2:黒ベル)

 そしてこちらはよくスポーツクラブ等で見られるタイプのケトルベル。(便宜的に黒ベルと呼びます。)重さが変わると、その分大きさも変わります。超高重量の黒ベルの場合、競技用ケトルベルよりもボディの大きさが大きくなる場合もありますが、この記事では割愛いたします。

競技用ケトルベルと黒ベルの特性比較
 これらのケトルベルで1番の違いはケトルベルのボディ(球体部分)の大きさです。比較すると競技用のケトルベルはボディの大きさが大きいです。大きさが変わることで運動動作にも影響します。以下、スナッチを行う時を例にして黒ベルと競技用ケトルベルの特性を比較してみます。

スナッチをする際の黒ベルの特性
 黒ベルを使用してケトルベルのスナッチを行う時。競技用ケトルベルと比較して黒ベルはボディの大きさが小さいため空気抵抗の影響が小さくなり素早く挙上することが可能になります。また肩関節(支点)からケトルベルの重心の位置(荷重点)までの距離も短いのでスナッチの際のケトルベルの円孤軌道の総延長も短くなります。

スナッチをする際の競技用ケトルベルの特性
 競技用のケトルベルは黒ベルと比較してケトルベルのボディの大きさが大きいため空気抵抗の影響を受けることになります。また肩関節(支点)からケトルベルの重心の位置(荷重点)までの距離も長いので、ケトルベルの円弧軌道の総延長も長くなり、そのため一つの動作を完了する時間は必然的に長くなります。支点から荷重点までの距離が長くなるため、同じ重さの黒ベルと比較するとより強い力学的負荷(力のモーメント)が加わることになります。力のモーメントはとは物体を回転させようとする力。ここでは、スナッチの円弧軌道上を通りながら下に落ちようとする力とも言えます。

力のモーメント=「力」×「距離」
力のモーメント=物体を回転させようとする力

 支点から荷重点までの距離が長くなるにつれて同じケトルベル重量でも身体にかかる力学的負荷は大きくなります。それを避けるために多くのケトルベルスポーツアスリートは、身体を後ろに「逸らす」ようにしてスナッチをします。こうすることによって身体をカウンターウェイトとして利用し、ケトルベルの重量に抵抗しようとします。また左右の足の重心の位置も変わります。右手でスナッチをする時には左足に重心があり、左手でスナッチをする時には右足に重心があります。

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(写真3:渡辺陽介。身体を後ろに逸らすようにスナッチをしている)

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(写真4:Sergey Lyubimskiy。身体を斜め後ろに逸らすようにスナッチをしている)

 分かりやすく身近な例で例えると、買い物袋を体に近い位置で持つのと遠い位置で持つのとでは、後者の方が買い物袋の重さは変わらなくても身体にかかる負荷は大きくなります。またその買い物袋を身体の前方の位置で持つ際も、体をやや後ろに逸らした方が身体にかかる負荷は小さくなります。

 競技用ケトルベルを挙上する時にはこの支店から荷重点までの距離が長くなるので、言い換えると「円弧軌道上をケトルベルが遠心力を用いて前方に推進する力が強い」のです。したがって「カウンターウェイトとして利用できる重量が増幅するので、大きく体を逸らすことが出来る様になる」のです。またカウンターウェイトとして利用できる重量が増幅するので、左右の脚の重心位置も変えやすいと言えます。

同じ重量のケトルベルを同じテクニックでスナッチした時の特性の比較

黒ベルと競技用ケトルベルの特性の比較

ジャークする際の黒ベルと競技用ケトルベルの特性の比較
 ジャークする際、黒ベルの場合はボディの大きさが小さいため、必然的にケトルベルを持つ手(支点)とボディの位置(荷重点)までの距離が短くなります。競技用ケトルベルの場合はこの距離が長くなります。つまり力のモーメントは競技用ケトルベルの方が大きくなります。この場合、前腕を垂直にしてケトルベルを保持する際、競技用ケトルベルを持った場合の方が「ケトルベルがボディ方向に回転し落下しようとする力が大きい」と言えます。これに抵抗するために、多くのケトルベルスポーツアスリートは胸の前で肘を曲げてケトルベルを保持する際、ケトルベルのボディと逆方向に前腕を倒すようにして(まるで腕相撲をするようにして)抵抗します。2つのケトルベルを持つ場合には、手と両肘で三角形が出来ます。

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 またケトルベルを胸の前で保持する際は、「ケトルベルが前方方向に落下しようとする力のモーメント」も加わります。それに抵抗するために多くのケトルベルスポーツアスリートは体を後ろに逸らすようにしてケトルベルを保持します。

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ラックポジション2

 横から見た時には前腕は地面に対して垂直になるように保持します。


筆者
 渡辺陽介
 パーソナルトレーナー。現役のケトルベルスポーツアスリート。
 2017年 IUKLケトルベルスポーツ世界大会 優勝
 2018年 IUKLケトルベルスポーツアジア大会 優勝
 2019年 IUKLケトルベルスポーツアジア大会 優勝
 いずれも63kg級 アマチュアクラス ロングサイクルで出場


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