右手の中に
冬、指先が真っ赤にかじかんで…。
寒さは例外なくそこにも訪れる。
スラム街の奥深く。雪こそめったに降らないものの、割れた窓ガラスから吹き込む風は冷たく、コンクリート打ちっ放しの壁や床はしんしんと冷える。
そんな床に座布団を敷いて、編み物に没頭するリン。
『リン、どうでもいいけどそこに居ると邪魔だよ?歩いてたら蹴っちゃうんだけど。』
リンが座り込んでいるのはキッチン。
『だってランちゃん寒いでしょ?リンちゃんがそばにいてあげるんでしよvV』
『むしろそこに座ってるリンが寒いんじゃない?床は冷えるし。っていうかキッチンじゃそれ汚れるんじゃないか?』
『大丈夫大丈夫★だってランちゃん殆どキッチン汚さないもん!』
ニカッと笑ってリンはまた編み物に集中し始める。邪魔だが言ってもきかない相手をよそに、ランは自分の作業をすることにする。キッチンは作業者には暖かい場所だ。
火を使うしお湯を使う。
鍋の火を見て、野菜に包丁を入れ、合間を縫って使った調理器具を洗う。
つまり動き回るから自らも産熱する。
作業が一段落しふと気がつくと、ランの額にはうっすら汗さえ浮かんで居た。
『リン、ほら立って。私はもう終わるから、リンも……あーあ』
立たせようとリンの手をとると、その手はしん…と冷たくて。
キッチンの足元の寒さを物語っていた。
『そんな冷たい手じゃ、編み物なんかはかどらないんじゃないかい?』
『キャハ☆ランちゃんの手ぇはあったかいでしねぃvV』
『笑い事じゃないだろ?ほら、手』
右手にリンの冷たい左手を握り締める。
一瞬ひんやりしてから、徐々に体温が分かたれる。
『ぁわぁわ…ランちゃんが冷たくなっちゃうでしよ?』
『私は大丈夫だから。リンこそもう感覚ないんだろ。強がらないの』
ゆっくり染み渡る幸福感。
寒さもたまにはいいかもしれない。
右手のなかには大切な左手を…。
ラン+リン
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