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24)トコトリエノールは骨格筋の再生を促進する

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術24

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【寿命と健康寿命の差は約10年間】

 人間が生まれてから死ぬまでの時間を「寿命」といいます。寿命のうちで、継続的な医療や介護に依存しないで自立した生活ができる生存期間のことを「健康寿命」と言います。寿命に対する健康寿命の割合を高くできれば、個人的には人生の質を高めることができ、社会的には医療や介護に要する負担を軽減できます。

加齢に伴い筋肉量の減少や諸臓器機能の低下が進行し、体は虚弱になり、いずれ自立できなくなって、最終的には寿命が尽きます。医療の進歩や栄養状態や公衆衛生の改善によって寿命は延びていますが、健康寿命が寿命と同じペースで延びていないことが重大な社会問題になっています。

平均寿命と健康寿命の間には約10年の開きがあります。平均寿命が80歳に対して健康寿命が70歳という関係です。この差はここ10年間全く縮まっていません。つまり、人口の高齢化が進み、平均寿命が延びるにつれて、継続的な医療や介護を要する高齢者が増えていることを意味し、社会の負担が増大していることを意味します。この状態を解決する方法は、寿命を短くすることはできないので、健康寿命を延ばすしかありません。

加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下した「虚弱」な状態を「フレイル」と言います。フレイルは「Frailty(虚弱)」の日本語訳です。健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態を指しますが、適切な治療や予防を行うことで要介護状態に進まずにすむ可能性があります。

加齢によって筋肉量が減少し、筋力低下や身体機能が低下することをサルコペニアと言います。サルコペニア(Sarcopenia)はギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ(sarco)」と喪失を意味する「ペニア(penia)」を合わせた造語です。主に加齢により全身の筋肉量と筋力が自然低下し、身体能力が低下した状態と定義されています。

このようなフレイルやサルコペニアやフレイルの症状や予兆が現れる前から筋力や臓器機能の低下を防ぐためのことを積極的に行うと、健康寿命を100歳以上まで延ばすことが可能になります。


【加齢と共に筋肉量が減っていく】

 若い人は実感したことは無いと思いますが、60歳を超えるようになると筋肉量の減少を実感するようになります。一般に、人の筋肉量は20歳代をピークにして加齢とともに徐々に減少していく傾向があり、60歳を超えるとその減少率は加速します。

体重に占める骨格筋の量の平均は20歳代で40〜45%程度ですが、40歳代で30〜35%、70歳代で25%程度になります。体重60kgの人が、20歳代で25kgの筋肉量が70歳代で15kgになるイメージです。50年間で筋肉量が40%減少する計算です。一般的に30歳代以降は1年間に0.5%から1%くらいの割合で筋肉量は加齢とともに減少すると言われています。

筋肉量が減ると、歩く速度が低下し、転びやすくなります。その結果、歩くときに杖を使うようになります。さらに筋肉量が低下すると自力で歩行できなくなり、車椅子が必要になります。

筋力の低下の度合いは個人差があります。若い頃から運動をして筋肉を鍛えている人は90歳を超えても自分で歩くことができます。一方、日頃から運動していないと、70歳代から杖や車椅子が必要になります。筋力が低下すると転びやすくなり、骨折して寝たきりになることもあります。

加齢による筋力の低下、特に下半身の筋肉(腸腰筋や大腿四頭筋)の減少を防ぐことが重要です。

その方法として、前回(23話)で解説した運動(有酸素運動+レジスタンス運動)、タンパク質の豊富な食事、NAD+前駆体(ニコチンアミド・リボシドやニコチンアミド・モノヌクレオチド)のサプリメントの組み合わせが有効です。さらに、ビタミンEの一種のトコトリエノールが筋肉の再生を促進するという報告があります。


【トコトリエノールは筋肉の再生を促進する】

 筋肉(骨格筋)の主な機能は運動や身体活動を可能とすることですが、さらに、骨格筋量を維持できている人は病気になりにくく、長生きする傾向があることも明らかになってきています。それは、骨格筋からマイオカインというホルモン様のタンパク質が産生され、このマイトカインはがんを含め多くの病気を予防する効果が明らかになっています。つまり、骨格筋量の維持は運動や身体活動だけでなく、私たちが病気を予防し、健康的な日常生活を送る上で極めて重要です。

骨格筋は筋線維が束をなした構造をとっています。筋線維は単核の筋芽細胞が融合することで形成された多核の細長い細胞で、収縮により力を生み出すことができます。

筋線維それ自体は分裂能を持たないため、傷害を負うと細胞を再生することができませんが、筋線維の再生を担う幹細胞を備えています。それが、筋線維の周囲に存在する筋衛星細胞と呼ばれる細胞で、筋線維が壊れると爆発的に増え、分化・融合して筋線維を再生します。

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図:筋肉を構成する筋線維は分裂しない。筋衛生細胞は骨格筋の幹細胞で、この筋衛生細胞が分裂して筋芽細胞に分化し、多数の筋芽細胞や癒合して筋管になり、成熟した筋管細胞から収縮能を持つ筋繊維が形成され、筋線維が多数束ねられて筋肉が完成する。


このような骨格筋の再生能力は加齢と共に低下します。高齢者における筋再生の遅れは、要介護や寝たきりを引き起こす要因となります。ビタミンEの一種のトコトリエノールが筋衛生細胞の老化を抑制し、再生能力を高めることが報告されています。以下のような報告があります。

Tocotrienol-Rich Fraction (TRF) Treatment Promotes Proliferation Capacity of Stress-Induced Premature Senescence Myoblasts and Modulates the Renewal of Satellite Cells: Microarray Analysis(トコトリエノールは、ストレス誘発性の早期老化筋芽細胞の増殖能を促進し、衛星細胞の再生を制御する:マイクロアレイ分析)Oxid Med Cell Longev. 2019; 2019: 9141343.

筋衛星細胞は、筋肉の喪失に応じた再生プロセスに関与しています。ビタミンEの異性体であるトコトリエノールは、細胞の老化を防ぐ効果があると報告されています。この研究では、ストレスで誘発した早期老化の性質を有するヒト骨格筋筋芽細胞に対するトコトリエノールの効果を検討しています。その結果、トリコトリエノールが衛生細胞の再生と筋芽細胞の増殖を促進することが明らかになったということです。


【トコトリエノールはビタミンEの一種】

 ビタミンEは脂溶性ビタミンの1種です。ビタミンEを1つの栄養素を思っている人が多いのですが、実際にはビタミンE分子には8種類の異性体から構成されています。すなわちアルファ (α)、 ベータ (β)、ガンマ (γ)、 デルタ (δ)-tocopherols (トコフェロール)と α、 β、γ、δ-tocotrienols (トコトリエノール:T3)の8種類で、これらは全てビタミンEになります。

ビタミンEはクロマンという環式化合物に炭素数16個の側鎖が付くという構造です。 クロマンにつくメチル基(CH3)の位置によってα、 β、 γ、 δに分けられます。

トコフェロールは二重結合の無い飽和したフィチル(Phytyl)基という脂肪族側鎖が付いています。 一方、トコトリエノールは3個の二重結合をもつ側鎖で、この構造はファルネシル(Farnesyl)基というイソプレノイドになっています(図)。

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図:ビタミンEはトコフェロールとトコトリエノールの2種類があり、クロマン(Chromane)というの分子式C9H10Oの環式化合物に炭素数16個の側鎖が付くという構造を持つ。クロマンにつくメチル基(CH3)の位置によってアルファ (α)、 ベータ (β)、ガンマ (γ)、 デルタ (δ)に分けられる。トコフェロールは二重結合の無い飽和した側鎖で、トコトリエノールは3個の二重結合をもつ側鎖で、この構造はイソプレノイドになっている。


 

トコフェロールは、マルチビタミンやビタミン E のサプリメ ントに含まれる一般的なビタミンEです。トコフェロールはナッツ類や種子類に天然成分として多く含まれており、食事から多く摂取されています。

トコトリエノールはトコフェロールの 40~60 倍の抗酸化作用があります。抗炎症作用や諸臓器の細胞を保護する作用もあります。トコトリエノールにはトコフェロールが有さない様々な薬効(抗炎症作用、抗がん作用、コレステロール低下作用、神経細胞保護作用、放射線保護作用など)を持つことから、近年多くの注目を集めています。

ベニニキ(Annatoo tree)の種子に含まれるベニノキ種子油は、トコフェロールをほとんど含有せず、デルタ(δ)トコトリエノールを90%、ガンマ(γ)トコトリエノールを10%含みます。

また、トコトリエロールは消化管からの吸収が悪いのですが、ガンマ・シクロデキストリンで包接すると消化管からの吸収を良くできます。そのような製品としてはシクロケムバイオ社のデルタ・トコトリエノールCDという製品が最も良いようです。

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図:ベニノキ種子抽出油に含まれるビタミンEはほとんどがトコトリエノール(T3)で、その内90%がδT3、10%がγT3。また、T3の効果阻害作用が報告されているαトコフェロールをほとんど含んでいない。


筋肉に対する効果だけでなく、トコトリエノールには、寿命を延ばす効果、脳機能を活性化して認知機能を高める効果、運動の持久力を高める効果など多くの健康作用が報告されています。サルコペニアやフレイルの予防の目的で運動をする時、トコトリエノールをサプリメントとして摂取する価値は高いようです。

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