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23)有酸素運動とレジスタンス運動

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術23

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【有酸素運動はミトコンドリアでATPを産生する】

 骨格筋が収縮するときのエネルギー源はATP(アデノシン三リン酸)です。ATPがADP(アデノシン二リン酸)とリン酸に分解されるときに発生するエネルギーが筋肉の収縮に使用されます。ATPの貯蔵量は少なく、数秒程度で使いきってしまうので、エネルギーを使ってADPをATPに再合成します。

ATP再合成の仕組みにはクレアチンリン酸系、解糖系、有酸素系の3種類があります。

クレアチンリン酸はクレアチンにリン酸が結合した物質で、骨格筋のエネルギー貯蔵物質として働きます。クレアチンキナーゼによってリン酸基が外され、ADPを無酸素的にATPに再合成します。最高の運動強度で約10秒間持続可能で、100メートル競争では主にこの系でエネルギーが産生されます。

解糖系は細胞質でグルコースからピルビン酸を経て乳酸に分解される過程でグルコース1分子あたり2分子のATPを産生します。解糖系は酸素を使わず、最高の運動強度で持続時間は1~2分間程度で、1〜2分程度の中距離走は主に解糖系でエネルギーを産生します。

有酸素系は酸素を使ってミトコンドリアで長時間にわたってATPを産生します。グルコースや脂肪酸などを分解してアセチルCoAが生成され、TCA回路(クエン酸回路)と電子伝達系による酸化的リン酸化によってATPが産生されます。1分子のグルコースあたり32〜38分子のATPが産生されます。

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図:ADPからATPの再合成の仕組みにはクレアチンリン酸系、解糖系、有酸素系の3種類がある。最高の運動強度でクレアチニンリン酸系は約10秒間持続可能で、解糖系は1〜2分程度持続できる。この2つは無酸素でATPを再合成できる。2分以上の運動には酸素を使ったミトコンドリアでのATP再合成が必要になる。


主としてこの有酸素系から多くのエネルギーを取り出す運動が有酸素運動であり、有酸素系以外(クレアチンリン酸系と解糖系)からエネルギーを取り出す運動が無酸素運動になります。

運動中に体内に取り込まれる酸素の最大量を「最大酸素摂取量(VO2MAX)」と言います。VO2MAXはV = 量(volume)、O2 = 酸素、MAX = 最大限(maximum)に由来しています。最大酸素摂取量(VO2MAX)は骨格筋の中のミトコンドリアの量と機能に比例します。

加齢に伴って骨格筋の筋肉量が減少し、心臓や骨格筋のミトコンドリアの量と機能が低下します。その結果、最大酸素摂取量は低下し、持久力が低下するのです。つまり、持久力を高めるには、ミトコンドリアの量と働きを高める必要があります。


【赤い筋肉にはミトコンドリアが多い】

 筋肉は白筋(速筋)と赤筋(遅筋)が混在して構成されています。

 赤筋はミオグロビンが多いので赤い色をしています。ミオグロビンは筋肉中にあって酸素分子を代謝に必要な時まで貯蔵する色素タンパク質で、赤い色をしています。赤筋はミトコンドリアが多いのが特徴です。つまり、赤筋は酸素を使ってミトコンドリアでATPを産生する筋肉で、長距離走などの持久力が必要な有酸素運動に適した筋肉です。ミトコンドリアを使うので、糖だけでなく脂肪酸もエネルギー源にできます。

一方、白筋(速筋)はミオグロビンが少ないため白い色で、ミトコンドリアも少ない筋肉です。白筋(速筋)は筋肉が運動する際に酸素の使用量が少ない筋肉です。無酸素運動である短距離走やジャンプといった瞬発力が必要な運動に向いています。

マグロやカツオなどの回遊魚は長距離を移動するために筋肉における赤筋(遅筋)の割合が多くなり、赤い身(赤身)になります。反対にヒラメやカレイなどの白身魚は海を動きまわらないため白筋(速筋)の割合が多くなり、白い身になります。

減量するときには体脂肪を燃焼させる必要があるので、無酸素運動のダッシュより有酸素運動のジョギングの方が有効ということになります。

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図:白筋(速筋)はミオグロビンとミトコンドリアが少なく、短距離走などの無酸素運動で使われる。赤筋(遅筋)はミオグロビン(酸素を貯蔵する赤い色素タンパク質)が多いので赤く見え、ミトコンドリアが多く、酸素を使ったATP産生を行うので、長距離走のような有酸素運動に使われる。白筋と赤筋の中間をピンク筋(混合筋)という。


筋トレをするときに使う筋肉は速筋(白筋)で、瞬時に大きな力を発揮しますが、短時間しか持続しません。一方、ウォーキングやジョギングなどの長い時間をかけて行う運動は遅筋(赤筋)を使います。遅筋を使った運動は有酸素運動で脂肪を燃焼することができます。

筋力アップが目的の場合は、無酸素運動の筋トレで速筋(白筋)を鍛え、脂肪燃焼が目的の場合は、ウォーキングやジョギングや水泳などの有酸素運動で遅筋(赤筋)を鍛えるのがお勧めです。

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図:遅筋(赤筋)はマグロなどの赤身魚が持つ筋肉で、ウォーキングやサイクリングなどの有酸素運動で使用される。一方、速筋(白筋)はヒラメなどの白身魚が持つ筋肉で、ダンベル運動やベンチプレスのようなレジスタンス運動(筋肉に負荷をかける運動)で使用される。


【有酸素運動と無酸素運動】

 有酸素運動は酸素を必要とする運動です。脂肪をエネルギー源として消費するため、肥満やメタボリック症候群の人には皮下脂肪や内臓脂肪を減少させる効果が期待できます。有酸素運動の代表的なものはウォーキングやジョギング、サイクリング、水泳、エアロビクスなどがあります。これらの運動は長時間継続して行うことで遅筋(赤筋)が鍛えられます。

無酸素運動は、酸素を使わない運動です。高強度の無酸素運動ができるのは1〜3分程度です。無酸素運動の代表的なものは短距離走やベンチプレスなどのレジスタンス運動(筋肉に負荷をかける運動)があります。無酸素運動には速筋(白筋)が使用されます。

速筋(白筋)は加齢とともに衰えやすいのが特徴ですが、無酸素運動を行うと年齢に関係なく速筋の筋肉量と筋力を高めることができます。

加齢とともに、筋肉のミトコンドリアの量が減少して遅筋(赤筋)の量が減ると持久力が低下します。その結果、歩く速度が遅くなり、長時間歩くことができなくなります。一方、速筋(白筋)が減ると筋力が低下し、転びやすくなり、重いものを持てなくなります。

つまり、加齢に伴う持久力と筋力の低下を防ぐには有酸素運動と無酸素運動(レジスタンス運動)の両方が必要です。持久力の向上と脂肪燃焼が目的の場合は有酸素運動、筋肉を増やすなら無酸素運動が有効といえます。


【白筋で作られた乳酸は赤筋や心筋のミトコンドリアで使われる】

 白筋(速筋)は、グルコース(ブドウ糖)を解糖系で分解してATPを作ります。白筋は無酸素運動で使われる筋肉で、ミトコンドリアとミオグロビンが少ないので、酸素を使わない解糖系でATPを産生し、その結果乳酸が溜まります。

この乳酸は静脈に入って循環し、心臓や赤筋のミトコンドリアで代謝されてATP産生に使われます。この場合、骨格筋組織の中でも、白筋で作られた乳酸が近くの赤筋のミトコンドリアでエネルギー源として利用されます。

このように、乳酸は細胞間で積極的な交換(移動)が行われており、これを乳酸シャトル(Lactate Shuttle)と呼んでいます。シャトル(Shuttle)というのは「近距離間の定期往復便」、「折り返し運転」、「定期往復バス」といった意味があります。乳酸シャトルは局所での乳酸のやり取りのことを意味します。

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図:運動時に主として白筋(速筋)線維でグルコースの分解によって産生された乳酸は、心臓や赤筋(遅筋)線維のミトコンドリアにおいてエネルギー源として利用される。骨格筋組織内で白筋と赤筋の間で乳酸のやり取りが行われており、これを乳酸シャトル(Lactate Shuttle)という。


このような乳酸の交換は,骨格筋の白筋(速筋)繊維と赤筋(遅筋)繊維の間の他に、グリア細胞とニューロン(神経細胞),精子細胞と支持細胞,がん細胞とがん間質細胞(線維芽細胞など)の間で行われていることが明らかになっています。

乳酸を細胞膜やミトコンドリア膜を通して運び、出し入れする仕事をする膜タンパク質のモノカルボン酸トランスポーターが1990年代の初めに発見され、このモノカルボン酸トランスポーターを介して、乳酸が細胞内と細胞間で交換している乳酸シャトルの存在が明らかになり、乳酸の考え方が劇的に変化したのです。


【サルコペニアの予防にはレジスタンス運動が必要】

 加齢によって筋肉量が減少し、筋力低下や身体機能が低下することサルコペニアと言います。
サルコペニア(Sarcopenia)はギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ(sarx/sarco)=筋肉」と喪失を意味する「ペニア(penia)=喪失」を合わせた造語です。主に加齢により全身の筋肉量と筋力が自然低下し、身体能力が低下した状態と定義されています。

人の筋肉量は40歳を境にして徐々に減少していく傾向があり、60歳を超えるとその減少率は加速します。サルコペニアは、タンパク質の摂取不足と運動量の減少によって、作られる筋肉よりも分解される筋肉の方が多くなることが原因です。サルコペニアの予防にはタンパク質摂取と運動量を増やすことが基本になります。

加齢に伴うサルコペニアの予防には心肺機能や骨格筋の働きを高める有酸素運動の他に、筋肉量を増やすレジスタンス運動が必要です。レジスタンス運動とは、筋肉に負荷をかける筋力トレーニングのことです。筋力は一定の負荷をかけることで維持され、繰り返し行うことで筋肉量を増やすことができます。

主なレジスタンス運動としては、自分の体重で負荷をかけるスクワット(大腿四頭筋や大臀筋を鍛える)や腕立て伏せ(上腕三頭筋と体幹を鍛える)、チューブやダンベルなどの道具を使って行う運動があります。

有酸素運動とレジスタンス運動に加えて、バランス運動(片足立ち、バランスボール運動)や柔軟性運動(ストレッチ)も組み合わせると、加齢による運動機能の低下を予防できます。

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図:高齢者におけるサルコペニアの予防と治療には有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、エアロバイクなど)、レジスタンス運動(ダンベル運動、スクワット、腕立て伏せなど)、バランス運動(片足立ち、バランスボール運動)、柔軟性運動(ストレッチ)などを組み合わせて行う。


【タンパク質とNAD+前駆体の補充は高齢者の運動療法の効果を高める】

 サルコペニア予防のためにレジスタンス運動は効果がありますが、低栄養の場合は逆に運動がマイナスとなります。低栄養状態でレジスタンス運動などを行うと1日に必要なエネルギーやカロリーが消費され、逆に筋肉量が減少してしまうのです。

運動後にタンパク質やアミノ酸を摂取することで筋肉量は増加し、サルコペニア予防に効果があるとされ、さらに有酸素運動を組み入れることで効果は増大すると言われています。

食事中のタンパク質は消化管でアミノ酸に分解されて吸収されます。タンパク質の多い食事やアミノ酸のサプリメントなどでアミノ酸の摂取を増やすとレジスタンス運動による筋肉量を増やす効果を高めることができます。
マグロやカツオなど長距離を高速で泳ぐ回遊魚は赤身の筋肉である遅筋(赤筋)が多いのが特徴です。遅筋(赤筋)にはミトコンドリアが多いので、ミトコンドリアを保護する抗酸化物質やミトコンドリア機能を良くする成分も豊富です。マグロやカツオの筋肉には抗疲労効果があるアンセリンが豊富です。アンセリンは、動物の筋肉中に含まれている2種類のアミノ酸が結合した物質で、激しい運動により発生する水素イオンや乳酸による酸性化を抑えていると考えられています。アンセリンは哺乳動物の骨格筋や鳥肉にも多く含まれます。

筋肉の原料となるアミノ酸だけでなく、ミトコンドリアの働きを良くする成分や抗疲労成分も一緒に摂取できるマグロやカツオを日頃から多く食べる方が良いかもしれません。

これからの高齢化社会において、できるだけ長い期間自分で動けるようにするには、筋肉量とミトコンドリアの機能を高めることが重要になります。加齢に伴う筋肉量の減少と筋肉のミトコンドリアの量と機能を維持するためには、日頃から筋力トレーニング(レジスタンス運動)や持久力トレーニング(有酸素運動)を行うことが重要です。

しかし高齢者では、運動だけでは必ずしも身体機能と心肺機能の期待される改善が得られるわけではありません。運動トレーニングに対する応答の違いの理由は、ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD +)代謝における加齢に伴う調節異常が関与している可能性が示唆されています。NAD+が低下していると、いくら運動しても筋力の増強や持久力の向上が得られないことが報告されています。つまり、筋肉のNAD+の量が多いほど筋力を高める効果が高い可能性が報告されています。
以下のような研究報告があります。

Nicotinamide riboside:A missing piece in the puzzle of exercise therapy for older adults?(ニコチンアミドリボシド:高齢者のための運動療法のパズルの欠けている部分?)
Exp Gerontol. 2020 Aug;137:110972.

ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD +)は、エネルギー産生およびシグナル伝達経路における必須の酵素補因子です。体内のNAD+のレベルは、慢性および退行性疾患(心血管疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋ジストロフィーなど)において低下しており、老化にともなって体内のNAD+レベルは低下します。 

運動は安静時よりも高いエネルギー消費を必要とするため、NAD +不足の状態ではエネルギー代謝が低下し、運動反応が不十分になる可能性があります。

NAD+前駆体のニコチンアミド・リボシドが、NAD +代謝の恒常性を改善し、動物のさまざまな臓器におけるエネルギー代謝と細胞機能を回復する効果が示されています。

この論文では、身体運動とニコチンアミド・リボシドの補充を併用すると、運動能力と骨格筋および心血管機能に対する運動の効果を増強できることが報告されています。

サルコペニアの予防や治療のために運動を行うのであれば、NAD +前駆体のサプリメントを日頃から摂取してNAD+の体内量を増やしておくと、運動による筋肉増強や健康作用をさらに高めることができます。逆にいうと、NAD+の体内量が低い状態で運動を行なっても、運動による筋力増強や心肺機能の向上の効果は低いということです。せっかくの努力と苦労が報われないということです。

NAD+前駆体のニコチンアミド・リボシドやニコチンアミド・モノヌクレオチドはサプリメントとして販売されています。以前はかなり高額でしたが、最近はかなり安くなっています。

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図:生き物には寿命(生まれてから死ぬまでの時間)があり(①)、時間とともに老化が進む(②)。体内の生命活動に必須の補酵素のニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide:NAD+)の体内量は老化の進行とともに減少する(③)。NAD+の前駆物質であるニコチンアミド・リボシド(nicotinamide riboside:NR ④)やニコチンアミド・モノヌクレオチド(nicotinamide mononucleotide:NMN ⑤)をサプリメントとして補充すると、体内のNAD+量を増やし(⑥)、体を若返らせ、寿命を延ばす効果が期待できる(⑥)。


加齢に伴う筋力や運動機能の低下を効率的に防ぐには、有酸素運動とレジスタンス運動とタンパク質(魚ならカツオやマグロ)とNAD+前駆体(ニコチンアミド・リボシドやニコチンアミド・モノヌクレオチド)の組み合わせが有効といえます。この組み合わせは、高齢者だけでなく、スポーツ選手が筋力を高める目的でも役立ちます。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ



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