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89)高麗人参は加齢による運動パフォーマンス低下を軽減する

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術89

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【生命はATPを使ってエネルギーのやり取りを行う】

生物は、細胞が活動するエネルギーとしてATPという物質を使います。ATPはAdenosine Triphosphate(アデノシン3リン酸)の略です。ATPはアデニンという物質にリボースという糖がついたアデノシンに、化学エネルギー物質のリン酸が3個結合したものです。

ATPは分子内に2個の高エネルギーリン酸結合を持ち、ATPがエネルギーとして使用されるとADP(アデノシン2リン酸)とAMP(アデノシン1リン酸)が増えます。リン酸1分子を放出する過程でエネルギーが産生されます。このようにリン酸分子が離れたり、結合したりすることで、エネルギーの放出や貯蔵を行うことができます。(下図)。

図:ATP(アデノシン3リン酸)は塩基のアデニンにリボースが結合し、そのリボースに3つのリン酸基が並んで結合している分子。ATPから加水分解によってリン酸基が外れるときにエネルギーが放出される。細胞は化学的な仕事を行うために必要なエネルギーの獲得と移動に関してATPを使用しており、ATPは生体内のエネルギー通貨として機能している。



【1日に自分の体重以上のATPを再合成している】

ATPの貯蔵量は少なく数秒程度で使い切ってしまうため、体内では絶えずATP合成が行われています。ATPの産生が止まると、心臓は止まり、数分で死にます。青酸カリ(シアン化カリウム)はミトコンドリアでの酸素呼吸を阻害してATP産生をできなくするので、数分で死に至るのです。

1日に産生されるATPの総量は体重に匹敵する(あるいはそれ以上)と考えられています。

グルコース(ブドウ糖)の分子量は180で、ATPの分子量は507です。1分子のグルコースがミトコンドリアで酸素を使って完全に分解されると、32〜38分子のATPが産生されます。

グルコース1gは約4キロカロリーの熱量を産生しています。2000キロカロリーを全てグルコースで賄うと500gのグルコースになります。500グラムのグルコースは2.8モルになり、1モルのグルコースから32モルのATPが作られるとすると約90モルのATPが作られ、これは507g x 90モル=約45kgになります。つまり、この計算だと1日に45kgのATPを産生していることになります。

ATPの加水分解で得られるエネルギーは、ATP1モル当たり7.3キロカロリーです。

ATP → ADP + リン酸 + 7.3キロカロリー/mol
です。


1日の消費カロリーを2000キロカロリーとすると、274モルのATPが必要になり、274モルのATPは約140kgになります。
 
いずれにしても、人間は1日に自分の体重に相当する量のATPを産生していることになります。しかしこれは、ATPをゼロから1日に数十kgを生成しているのではなく、ADPを使い回して、ADPにエネルギーとリン酸を使ってATPを再合成しているだけです。

実際に体内に常時存在するATPは約100グラム程度です。つまり、ATP ⇆ ADP + リン酸という回路反応を繰り返し、ADPは1日に1000回以上使い回されていてATPに再合成されています。(下図)

図:食物の分解(異化)によって生成されるエネルギー(①)を使ってADPにリン酸を結合させてATPが合成される(②)。ATPが加水分解されてリン酸を放出する過程でエネルギーが産生され(③)、生命活動に使用される(④)。細胞はADPを再利用してATPを再合成している。ATPは瞬時に使用され、1日に再合成されるATP量は数十kgになる。



【加齢とともに心臓や筋肉のATP産生が低下する】

運動中に体内に取り込まれる酸素の最大量を「最大酸素摂取量(VO2MAX)」と言います。VO2MAXはV = 量(volume)、O2 = 酸素、MAX = 最大限(maximum)に由来しています。

加齢に伴って最大酸素消費量(VO2MAX)は低下していきます。加齢に伴って骨格筋の筋肉量が減少し、心臓や骨格筋のミトコンドリアの量と機能が低下し、ミトコンドリアでの酸素呼吸が減少するからです。その結果、歩行速度が遅くなり、歩行距離が短くなり、持久力が低下します。(下図)

図:加齢に伴って骨格筋の筋肉量が減少し、骨格筋や心筋のミトコンドリアの量と機能が低下する。その結果、最大酸素摂取量は減少し、運動機能は低下する。
 
 
老化に伴う運動能力や脳機能(記憶力や認知力)の低下の原因としてミトコンドリア機能の低下が極めて重要であることが明らかになっています。ミトコンドリアは赤血球以外の全ての細胞にある細胞内小器官です。細胞が生きていく上で必要なエネルギーの産生や物質代謝の中心の働きを担っています。体の老化に伴って細胞のミトコンドリア機能が低下し、これが心臓や骨格筋や神経系やその他の臓器の機能低下の主な原因になっています。

心臓や骨格筋や神経系は組織の酸素消費量が多い臓器です。これらの臓器ではミトコンドリアで酸素呼吸によって細胞を動かすエネルギーであるATPを産生しています。老化に伴って、これらの臓器の酸素消費量が減っていきます。ミトコンドリアの働きが低下し、酸素消費が減り、ATP産生量が低下するからです。その結果、運動機能や脳機能が低下します。

ミトコンドリアの機能が低下するとATPの産生が減少し、心臓や骨格筋や神経系など多くの組織・臓器の機能が低下するのです。したがって、体の老化に伴う生理機能の低下を予防するには、ミトコンドリアの量と機能を高めることが重要と考えられます。



【高麗人参は運動能力を高める】

人参の学名はPanax ginsengといいますが、このPanaxという属名はギリシャ語のPan(万能)とacos(薬)から名付けられたものであり、ヨーロッパでも古くからその多彩な薬効が注目されていたようです。なお、野菜のニンジンはセリ科の植物で全く別のものです。

図:高麗人参は朝鮮人参や薬用人参とも呼ばれ、昔の高麗国(朝鮮半島)に自生していたウコギ科の多年草で、夏に赤い実をつける(図左)。現在は栽培されており、4~6年目の根が薬用に使用される。根(図右)は多くの薬効成分を含み、古く4~5千年前より不老長寿の薬草として使用されてきた。
 
 
高麗人参(Panax ginseng)やアメリカ人参やシベリア人参などのウコギ科に属する植物は、薬用植物の中でも最も古くから尊重されてきました。中国では4000年以上も前から、高麗人参を病気の治療に盛んに用いています。
人参の臨床的効果は、胃腸の消化吸収機能を高め、種々のストレスに対する生体の非特異的抵抗性を強くすると考えられます。

タンパク質の合成や新陳代謝や血液循環を高め、血中の免疫グロブリンを増加させ、マクロファージ(体内の異物を細胞内に取り込み消化する食細胞の一つ)や好中球の貪食能を高めて免疫力を増強します。男性ホルモン増強作用、細胞寿命延長作用、抗腫瘍作用、精神安定、精神賦活作用なども報告されており、まさに自然治癒力を高める全ての条件が含まれています。


ソ連のブレクマン(Brekhman)教授は「種々のストレス刺激に対する非特異的な抵抗力を増し、生体の働きを助ける」作用から、薬用人参をAdaptogen(適応促進薬)と呼びました。イギリスのフルダー(Fulder)博士は「生体の生理機能を調和させるハーモナイザー(調和薬)」であるといっています。

運動能力や精神活動を高めることは、1950年代から60年代に行なわれたブレクマン教授らの実験で証明されています。すなわち、人参エキスを投与した兵士は、プラセボ(偽薬)を投与された兵士よりも早く走り、人参エキスを投与された通信士は、プラセボを投与された通信士よりも、有意に早く文章を伝え、しかも間違いが少なかったという結果が出されています。

マウスを遊泳させて溺れるまでの時間を測定して耐久性を比較する実験では、人参エキスの投与によって疲労するまでの時間が用量依存的に明らかな増加を示しました。ある研究では、運動の30分前にニンジンを投与したマウスでは、プラセボ群と比べて疲労するまでの時間が183%長かったという結果が得られています。



【高麗人参は心臓や筋肉のミトコンドリアのエネルギー産生能を高める】

筋肉(骨格筋)の主な機能は運動や身体活動を可能とすることですが、さらに、骨格筋量を維持できている人は病気になりにくく、長生きする傾向があることも明らかになってきています。それは、骨格筋からマイオカインというホルモン様のタンパク質が産生され、このマイトカインはがんを含め多くの病気を予防する効果が明らかになっています。つまり、骨格筋量の維持は運動や身体活動だけでなく、私たちが病気を予防し、健康的な日常生活を送る上で極めて重要です。

骨格筋は筋線維が束をなした構造をとっています。筋線維は単核の筋芽細胞が融合することで形成された多核の細長い細胞で、収縮により力を生み出すことができます。

筋線維それ自体は分裂能を持たないため、傷害を負うと細胞を再生することができませんが、筋線維の再生を担う幹細胞を備えています。それが、筋線維の周囲に存在する筋衛星細胞と呼ばれる細胞で、筋線維が壊れると爆発的に増え、分化・融合して筋線維を再生します。

図:筋肉を構成する筋線維は分裂しない。筋衛星細胞は骨格筋の幹細胞で、この筋衛星細胞が分裂して筋芽細胞に分化し、多数の筋芽細胞や癒合して筋管になり、成熟した筋管細胞から収縮能を持つ筋線維が形成され、筋線維が多数束ねられて筋肉が完成する。


このような骨格筋の再生能力は加齢と共に低下します。高齢者における筋再生の遅れは、要介護や寝たきりを引き起こす要因となります。高麗人参を加熱処理して作られる紅参が、筋芽細胞のミトコンドリアのATP産生を増やし、筋肉細胞への分化を刺激することが報告されています。以下のような報告があります。

Red Ginseng Improves Exercise Endurance by Promoting Mitochondrial Biogenesis and Myoblast Differentiation.(紅参は、ミトコンドリアの生合成と筋芽細胞の分化を促進することにより、運動持久力を向上させる)Molecules. 2020 Feb; 25(4): 865.

【要旨】
紅参は、がん、糖尿病、神経変性疾患、炎症性疾患など多くの病気に対して治療効果を発揮することが報告されている。 しかし、運動持久力と骨格筋機能に対する紅参の効果は不明である。この報告では、紅参が運動持久力に影響を与えるかどうかを検討し、その分子メカニズムを調べた。
  マウスに紅参抽出エキスを与え、水泳運動を行い、疲労するまでの時間を測定した。紅参抽出エキスを与えられたマウスは、水泳の持久力が大幅に延長した。

紅参抽出エキス治療は、筋芽細胞のATP産生レベルを高めることも観察された。紅参抽出エキスは、ミトコンドリア生合成調節因子のNRF-1、TFAM、およびPGC-1αのmRNA発現を増加させた。この作用はミトコンドリア DNA を増加させ、ミトコンドリアのエネルギー生成能力を増強した。
重要なことに、紅参抽出エキス投与はp38とAMPKのリン酸化を誘導し、培養筋芽細胞と生体内の筋肉組織の両方でPGC1αの発現を亢進した。さらに、紅参抽出エキス治療は C2C12筋芽細胞の筋肉細胞への分化を刺激した。

私たちの研究結果は、紅参が運動持久力を改善することを示しており、骨格筋機能と運動パフォーマンスのサポートに応用できる可能性があることを示唆している。
 
 
 
紅参は、生の高麗人参を蒸して乾燥させることを複数回繰り返すことによって生成されます。普通の高麗人参と比較して、紅参には多くの優れた生物活性が存在することが報告されています。人参に加熱処理を加えると成分に変化が起こるからと考えられています。
 
骨格筋の発生は、間葉系幹細胞(筋衛星細胞)が筋芽細胞へと分化し、筋芽細胞が相互に癒合して多核の筋管へと分化を遂げ、最終的に収縮能力を有する筋線維と成熟します。紅参抽出エキスは筋芽細胞の筋肉細胞への分化を促進する作用があるので、筋肉量を増やす効果が期待できます。

さらにミトコンドリア新生を刺激する遺伝子(PGC-1αなど)の発現を亢進してミトコンドリアのエネルギー産生を増やす効果があるという結果です。
 
骨格筋の機能は、シグナル伝達経路の複雑な相互作用によって厳密に制御されています。ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ コアクチベーター 1α (PGC-1α) は、ミトコンドリアのエネルギー代謝と筋肉機能を調節するマスター転写コアクチベーターであり、その発現は加齢とともに減少し、運動トレーニングによって増加ます。

PGC-1α は、ミトコンドリア生合成、酸化的筋線維形成、血管新生など、持久力トレーニング後に見られる変化の原因であり、運動能力の全体的な増加に寄与します。筋細胞におけるPGC-1αの過剰発現は、ミトコンドリアDNAのコピー数と呼吸能力を増加させます。
 
AMP 活性化プロテインキナーゼ (AMPK) は、骨格筋の代謝と機能のもう 1 つの中心的な調節因子です。AMPK は、人間とげっ歯類の両方で運動トレーニングによって同様にリン酸化され、活性化されます。AMPK は、骨格筋におけるミトコンドリア生合成に必要であり、運動能力を高めます。AMPKの活性化は、筋繊維の再生を増加させることにより、運動持久力とミトコンドリアの活動を促進します。
 
日頃から運動を行うと同時に、人参(特に紅参)を摂取することは、筋肉の再生を高め、加齢に伴う筋肉量と運動パフォーマンスの低下を阻止できます。



【高麗人参には自然治癒力を高める多くの薬効成分が含まれている】

漢方では、高麗人参は「気」の量を増す薬(補気薬という)の代表です。「気」というのは、生体エネルギーを表わす漢方の考え方で、気の量が不足すると、疲れやすく、倦怠感や抵抗力低下が起こります。高麗人参は体のエネルギーを増やすことによって、体の抵抗力や自然治癒力を高めると考えています。


体の抵抗力や自然治癒力を高める高麗人参の作用は、一つの成分によるものでなく、多くの成分が関与していて複雑です。治癒力を高める代表的成分はサポニンと呼ばれる物質です。 

サポニンは英語で、フランス語ではシャボンといい、泡立つものという意味です。サポニン自体はいろいろの植物に含まれていますが、人参サポニンはジンセノサイドというステロイドホルモンと似た構造をもつサポニンが主成分で、10種類以上のジンセノサイドが知られています。種類によってその薬理作用は異なり、一つの成分が同じ組織においても複数の作用を示すなど、薬用人参全体で極めて複雑な薬理作用を呈する理由の一つになっています。

人参サポニンはタンパク合成を促進し、新陳代謝と免疫力を高めます。人参サポニンの中にはがん細胞を殺し、転移を抑制するものも報告されています。サポニンには抗酸化作用もあり、発がん物質による遺伝子の変異を抑える作用(抗変異原性)を持つ人参サポニンも報告されています。また細胞膜と反応して細胞膜上のレセプター(受容体)などの蛋白と作用して細胞の機能にも作用します。

サポニン以外にも、セスキテルペンなどの精油成分、多糖体、ペプチドグリカン、アミノ酸、ヌクレオシドなども種々の効果に関連しています。

消化吸収機能を高め、体力や抵抗力を高めて種々のストレスに対する適応能力を高めることができるので、虚弱体質自体を治す効果も期待できます。このように複数のメカニズムで体の自然治癒力を高めるような西洋薬はありません。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


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