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143)NAD+前駆物質ニコチンアミドリボシドはサルコペニアを予防する

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術143

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【筋衛星細胞が増殖・分化して骨格筋が再生する】

筋肉(骨格筋)の主な機能は運動や身体活動を可能とすることですが、さらに、骨格筋量を維持できている人は病気になりにくく、長生きする傾向があることも明らかになってきています。
 
それは、骨格筋からマイオカインというホルモン様のタンパク質が産生され、このマイオカインはがんを含め多くの病気を予防する効果が明らかになっています。
 
つまり、骨格筋量の維持は運動や身体活動だけでなく、私たちが病気を予防し、健康的な日常生活を送る上で極めて重要です。

骨格筋は筋線維が束をなした構造をとっています。筋線維(Myofiber)は単核の筋芽細胞(Myoblast)が融合することで形成された多核の細長い細胞で、収縮により力を生み出すことができます。

筋線維それ自体は分裂能を持たないため、傷害を負うと細胞を再生することができませんが、筋線維の再生を担う幹細胞を備えています。
それが、筋線維の周囲に存在する筋衛星細胞(Satellite cells)と呼ばれる細胞で、筋線維が壊れると爆発的に増え、分化・融合して筋線維を再生します。(下図)


図:筋肉を構成する筋線維は分裂しない。筋衛星細胞(Satellite cell)は骨格筋の幹細胞で、この筋衛星細胞が分裂して筋芽細胞に分化し、多数の筋芽細胞や癒合して筋管になり、成熟した筋管細胞から収縮能を持つ筋繊維が形成され、筋線維が多数束ねられて筋肉が完成する。
 
 
 
筋肉の衛星細胞は、成熟した骨格筋細胞(筋繊維)の外側に位置する小さな細胞です。筋肉が傷ついたり、運動によってストレスを受けたりすると、衛星細胞は活性化され、増殖し、筋肉細胞に分化し、最終的に筋繊維の修復や増強に寄与します。これにより、筋肉は損傷から回復し、時にはそのサイズや力を増加させることができます。

加齢とともに衛星細胞の数や機能は低下する傾向があります。これは加齢に伴う筋力の低下や筋肉量の減少の一因とされています。



【タンパク質とNAD+前駆体の補充は高齢者の運動療法の効果を高める】

骨格筋の再生能力は加齢と共に低下します。高齢者における筋再生の遅れは、要介護や寝たきりを引き起こす要因となります。筋衛星細胞の老化を抑制し、再生能力を高めることができればサルコペニアを防ぐことができます。
 
サルコペニア予防のためにレジスタンス運動は効果があります。レジスタンス運動とは、筋肉に負荷をかける動きを繰り返し行う運動です。自分の体重(自重)やゴム製のチューブ、ダンベルなどで筋肉に負荷をかけます。

しかし低栄養の場合は、逆に運動がマイナスとなります。低栄養状態でレジスタンス運動を行うと1日に必要なエネルギーやカロリーが消費され、逆に筋肉量が減少してしまうのです。
 
運動後にタンパク質やアミノ酸を摂取することで筋肉量は増加し、サルコペニア予防に効果があるとされ、さらに有酸素運動を組み入れることで効果は増大すると言われています。

食事中のタンパク質は消化管でアミノ酸に分解されて吸収されます。タンパク質の多い食事やアミノ酸のサプリメントなどでアミノ酸の摂取を増やすとレジスタンス運動による筋肉量を増やす効果を高めることができます。
これからの高齢化社会において、できるだけ長い期間自分で動けるようにするには、筋肉量とミトコンドリアの機能を高めることが重要になります。加齢に伴う筋肉量の減少と筋肉のミトコンドリアの量と機能を維持するためには、日頃から筋力トレーニング(レジスタンス運動)や持久力トレーニング(有酸素運動)を行うことが重要です。

しかし高齢者では、運動だけでは必ずしも身体機能と心肺機能の期待される改善が得られるわけではありません。運動トレーニングに対する応答の違いの理由は、ニコチンアミドアデニン・ジヌクレオチド(NAD+)の加齢に伴う減少が関与している可能性が示唆されています。

NAD+が低下していると、いくら運動しても筋力の増強や持久力の向上が得られないことが報告されています。つまり、筋肉のNAD+の量が多いほど筋力を高める効果が高い可能性が報告されています。以下のような研究報告があります。

Nicotinamide riboside:A missing piece in the puzzle of exercise therapy for older adults?(ニコチンアミドリボシド:高齢者のための運動療法のパズルの欠けている部分?)Exp Gerontol. 2020 Aug;137:110972.

ニコチンアミドアデニン・ジヌクレオチド(NAD+)は、エネルギー産生およびシグナル伝達経路における必須の酵素補因子です(後述)。体内のNAD+のレベルは、慢性および退行性疾患(心血管疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋ジストロフィーなど)において低下しており、老化にともなって体内のNAD+レベルは低下します。 

運動は安静時よりも高いエネルギー消費を必要とするため、NAD+不足の状態ではエネルギー代謝が低下し、運動反応が不十分になる可能性があります。NAD+前駆体のニコチンアミド・リボシドが、NAD+代謝の恒常性を改善し、動物のさまざまな臓器におけるエネルギー代謝と細胞機能を回復する効果が示されています。 

この論文では、身体運動とニコチンアミド・リボシドの補充を併用すると、運動能力と骨格筋および心血管機能に対する運動の効果を増強できることを報告しています。
 
サルコペニアの予防や治療のために運動を行うのであれば、NAD+前駆体のサプリメントを日頃から摂取してNAD+の体内量を増やしておくと、運動による筋肉増強や健康作用をさらに高めることができるという話です。
 
逆にいうと、NAD+の体内量が低い状態で運動を行なっても、運動による筋力増強や心肺機能の向上の効果は低いということです。せっかくの努力と苦労が報われないということです。

NAD+前駆体のニコチンアミド・リボシドやニコチンアミド・モノヌクレオチドはサプリメントとして販売されています。以前はかなり高額でしたが、最近はかなり安くなっています。ただ、成分が入っていない製品が販売されているというニュースもありますので、信頼できる製品を購入することが重要です。
 
いずれにしろ、高齢者の筋力増強の目的で運動を行うとき、ニコチンアミド・リボシドの併用は有効と言えます。

図:高齢者でも、ニコチンアミド・リボシドのサプリメトとレジスタンス運動で筋肉量を増やすことができる。



【加齢と共に筋肉量が減っていく】

加齢に伴い筋肉量の減少や諸臓器機能の低下が進行し、体は虚弱になり、いずれ自立できなくなって、最終的には寿命が尽きます。
加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下した「虚弱」な状態を「フレイル」と言います。フレイルは「Frailty(虚弱)」の日本語訳です。健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態を指しますが、適切な治療や予防を行うことで要介護状態に進まずにすむ可能性があります。

加齢によって筋肉量が減少し、筋力低下や身体機能が低下することをサルコペニアと言います。サルコペニア(Sarcopenia)はギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ(sarco)」と喪失を意味する「ペニア(penia)」を合わせた造語です。主に加齢により全身の筋肉量と筋力が自然低下し、身体能力が低下した状態と定義されています。

一般に、人の筋肉量は20歳代をピークにして加齢とともに徐々に減少していく傾向があり、60歳を超えるとその減少率は加速します。
 
体重に占める骨格筋の量の平均は20歳代で40〜45%程度ですが、40歳代で30〜35%、70歳代で25%程度になります。体重60kgの人が、20歳代で25kgの筋肉量が70歳代で15kgになるイメージです。50年間で筋肉量が40%減少する計算です。一般的に30歳代以降は1年間に0.5%から1%くらいの割合で筋肉量は加齢とともに減少すると言われています。


図:筋肉量は20歳代から30歳代をピークにして加齢とともに減少する。その減少率は60歳以降顕著になる。
 
筋肉量が減ると、歩く速度が低下し、転びやすくなります。その結果、歩くときに杖を使うようになります。さらに筋肉量が低下すると自力で歩行できなくなり、車椅子が必要になります。さらに筋力が低下すると寝たきりになります。


図:加齢と共に筋肉量が減少すると、歩行時につまずいて転ぶようになり、杖が必要になる。さらに筋力が低下すると自立歩行が困難になって車椅子や寝たきりになる。
 
筋力の低下の度合いは個人差があります。若い頃から運動をして筋肉を鍛えている人は90歳を超えても自分で歩くことができます。一方、日頃から運動していないと、70歳代から杖や車椅子が必要になります。筋力が低下すると転びやすくなり、骨折して寝たきりになることもあります。
 
加齢による筋力の低下、特に下半身の筋肉(腸腰筋や大腿四頭筋)の減少を防ぐことが重要です。その方法として、運動(有酸素運動+レジスタンス運動)とタンパク質の豊富な食事が有効です。その他、筋肉のミトコンドリアの働きを高めるNAD+前駆体(ニコチンアミド・リボシドやニコチンアミド・モノヌクレオチド)のサプリメントも有効です。

加齢に伴って筋肉細胞を含めて細胞のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (NAD+) レベルの低下が起こり、ミトコンドリア機能の低下が起こり、細胞や組織や臓器の機能が低下してフレイルやサルコペニアを引き起こします。NAD+前駆体(ニコチンアミド・リボシドやニコチンアミド・モノヌクレオチド)の補充がサルコペニアの予防や治療に有効であることは多くの前臨床試験で確認されています。


図:加齢に伴うフレイル(虚弱)やサルコペニア(筋力低下)の原因はミトコンドリアにある。加齢に伴うNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の減少はミトコンドリア機能低下の主要な原因となっている。



【サルコペニアの筋肉はNAD+が低下している】

以下のような論文があります。スイス、シンガポール、英国、オーストラリアの40人以上の研究者が参加した研究です。

Mitochondrial oxidative capacity and NAD+ biosynthesis are reduced in human sarcopenia across ethnicities.(ヒトのサルコペニアでは、人種を問わずミトコンドリアの酸化能力と NAD+生合成が低下する)Nat Commun. 2019; 10: 5808.

シンガポール、英国、ジャマイカの高齢男性119人の筋生検で、サルコペニアと年齢を一致させた対照のゲノム全体の転写変化を比較しています。
 
サルコペニア患者は、ミトコンドリアの減少、ミトコンドリア呼吸酵素複合体の発現と活性の低下、そしてサルコペニア筋におけるNAD+レベルの低下が認められました。ヒト高齢者のサルコペニアにおける骨格筋の量と機能の低下において、ミトコンドリアの酸化能力と NAD+生合成が低下する代謝の変化が、民族を超えて認められたという結果です。
 
加齢による組織NAD+の減少は前臨床モデルで十分に実証されており、ヒトでも皮膚や脳のNAD+ が生涯を通じて減少することが明らかになっています。加齢に伴う筋肉組織のNAD+の減少とミトコンドリア機能の低下がサルコペニアの原因として重要であることを示しています。したがって、NAD+前駆体のサプリメントでの補充がサルコペニアの予防や治療に役立つ可能性を示唆しています。



【NAD+は体内の化学反応を活性化する補酵素】

私たちの体内では、生きていくために様々な化学反応が起こっています。食事からの栄養を分解してエネルギーを産生し、細胞分裂で細胞を増やす際には細胞を構成するタンパク質や脂質やDNAを新たに合成する必要があります。
 
このような体内での化学反応は酵素というタンパク質が行います。酵素(enzyme)は、生体で起こる化学反応に対して触媒として機能する分子です。

例えば、酵母がブドウ糖(グルコース)を分解してアルコールを産生する反応(アルコール発酵)では、12種類の化学反応が見られ、それぞれの化学反応には別々の酵素がかかわっています。
 
解糖(glycolysis)では10種類の酵素が作用して1分子のグルコースから2分子のピルビン酸に分解されます。「glyco」は「糖」、「lysis」は「分ける」という意味で、解糖(glycolysis)は1分子のグルコースを2分子のピルビン酸に分けるという意味です。
 
解糖では1分子のグルコース当たり、2分子のNAD+をNADHに変換し、2分子のATPが生成されます。1分子のピルビン酸からピルビン酸デカルボキシラーゼによって1分子の二酸化炭素が取り除かれ、アセトアルデヒドが作られます。
 
アセトアルデヒドは還元型NADHの電子によって速やかに還元されてエタノール(C2H5OH)となります。この反応はアルコール脱水素酵素が触媒します。
 
つまり、アルコール発酵の12の化学反応には12種類の酵素が必要というわけで、これらの酵素はすべて純粋なタンパク質として酵母の中に入っています。


図:1分子のグルコース(C6H12O6)が解糖系で2分子のピルビン酸(C3H4O3)に分解され(①)、この間に2分子のATPが産生される(②)。解糖系では脱水素酵素の働きで水素原子が外され、外された水素原子は水素イオンと電子に分かれ、補酵素であるNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)と結合し、NADH + H+ になる(③)。ピルビン酸に脱炭酸酵素が働き、二酸化炭素(CO2)が取り去られ、アセトアルデヒド(C2H4O)になる(④)。アセトアルデヒドはNADH + H+ の水素と結合して(⑤)エタノール(C2H5OH)に変化する(⑥)。つまり、アルコール発酵では1分子のグルコースから2分子のエタノールと2分子の二酸化炭素ができ、2分子のATPが産生される。
 


多くの酵素の中にはタンパク質のみで活性を発現するものもありますが、活性発現にはある種の低分子の有機化合物を必要とするものもあります。このように酵素作用の発現に必須の低分子有機化合物を補酵素(Coenzyme;コエンザイム)と呼びます。
 
上述のアルコール発酵では、NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が補酵素です。補酵素の多くはビタミンから生体内で作られています。特にビタミンB群やナイアシンは生体内でさまざまな酵素の活性発現に必要な補酵素として機能します。
 
ビタミンB群やナイアシンの欠乏は補酵素の欠乏を引き起こして、これらの補酵素が必要な各酵素の活性が低下し、生命活動の低下が起こります。

NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)はナイアシンというビタミンから体内で合成されます。NAD+は解糖系だけでなく、ミトコンドリアでのエネルギー産生反応にも必要は因子です。NAD+レベルは加齢とともに低下し、加齢に関連する疾患の発症に重要な役割を担っていることが明らかになっています。
 
NAD+の細胞内レベルを上昇させる方法は、動物モデルで老化を遅らせ、筋肉機能を回復させ、脳での神経再生を促進し、代謝性疾患を改善することが示されています。



【ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (NAD) は補酵素として多くの酵素反応に関与する】

ニコチン酸とニコチン酸アミドは総称してナイアシン (Niacin) 、あるいはビタミンB3とも言います。水溶性ビタミンのビタミンB複合体の一つで、糖質や脂質やタンパク質の代謝に不可欠です。


ナイアシンは電子伝達体のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (NAD) やニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸 (NADP) に変換され、酸化還元反応 (電子が供与体分子から受容体分子に転移する反応) に関与する酵素の補酵素として機能しています。


脱水素酵素ではNAD+を補酵素とし、NAD+が水素の受け取り手となっています。NAD+の構造の中で酸化還元反応に関与しているのはニコチンアミドの部分です。酸化型のNAD+が水素と電子を受け取って還元型のNADHになります。


図;NAD+が水素(H+)と電子(e-)を受け取ってNADHになる(①)。NAD+は還元型基質から水素を受け取り(②)、その基質を酸化し、還元型のNADHとH+を生成する(③)。NADH+H+は、他の物質の還元に使われる(④)。
 

NAD+は、全ての真核生物と多くの古細菌、真正細菌で用いられる電子伝達体です。さまざまな脱水素酵素の補酵素として機能し、酸化型 (NAD+) および還元型 (NADH) の2つの状態を取ります。

NAD+は生物のおもな酸化還元反応の多くにおいて必須成分(補酵素)であり、好気呼吸(酸化的リン酸化)の中心的な役割を担っています。
 
前述のアルコール発酵では、解糖系で還元されたNADH(還元型ニコチンアミドジヌクレオチド)を酸化型のNAD+に戻すために、アルコール脱水素酵素でアセトアルデヒドをエタノールに変換することによって反応を持続できます。NAD+が無いとアルコール発酵は起こらないことになります。



【加齢とともにNAD+は減少する】

加齢とともにニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)量が低下し、NAD+量の低下が老化および老化関連疾患と密接な関わりを持つことが示されています。


図:加齢とともに組織のタンパク質重量当たりのNAD+は減少する。NAD+の減少が、老化に伴う臓器や組織の機能低下の主な原因となっている。
 

ニコチンアミドリボシド(nicotinamide riboside:NR)やニコチンアミドモノヌクレオチド(nicotinamide mononucleotide:NMN)などのNAD+中間代謝産物のサプリメントからの補充は、NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の血中レベルを高めます。


図:ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide:NAD+)はトリプトファンやニコチン酸やニコチンアミドなどから生成するルートもあるが、特にNAD+の前駆物質であるニコチンアミド・モノヌクレオチド(nicotinamide mononucleotide:NMN)とニコチンアミド・リボシド(nicotinamideriboside:NR)をサプリメントとして摂取すると体内のNAD+を増やすことができる。



【ニコチンアミドリボシドの摂取は血液中のNAD+を増やす】

 ニコチンアミドリボシドをサプリメントで補充すると血液中のNAD+を増やすことができます。
以下のような報告があります。

An open-label, non-randomized study of the pharmacokinetics of the nutritional supplement nicotinamide riboside (NR) and its effects on blood NAD+ levels in healthy volunteers.(健康なボランティアにおける栄養補助食品ニコチンアミドリボシド(NR)の薬物動態と血中NAD +濃度に対する影響に関する非盲検非ランダム化研究)PLoS One. 2017; 12(12): e0186459.

【要旨の抜粋】

目的:この研究は、人間におけるニコチンアミドリボシドの経口投与における薬物動態と血液中のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)レベルに対するニコチンアミドリボシドの影響を検討した。

 背景:ミトコンドリア機能障害は心不全の発症と進行に重要な役割を果たすが、ミトコンドリアを標的とした治療法は行われていない。

最近のマウスを使った研究では、NADH / NAD+比の不均衡と、心筋を含む複数の組織のミトコンドリア機能障害との関連が報告されている。さらに、NAD+前駆体であるニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)は心機能を改善し、別のNAD+前駆体であるニコチンアミドリボシド(NR)は筋肉、肝臓、褐色脂肪のミトコンドリア機能を改善した。したがって、人間におけるニコチンリボシドの薬物動態研究は、将来の臨床試験にとって重要である。

 方法:8人の健康なボランティアを対象としたこの非盲検非ランダム化研究では、1日目と2日目に250 mgのニコチンアミドリボシドを経口投与し、7日目と8日目に最大用量1000 mgを1日2回に増量した。9日目の朝に1000 mg のニコチンアミドリボシドを投与した後、被験者は24時間の薬物動態研究を完了した。全血中のニコチンアミドリボシドのレベル、臨床血液化学、およびNAD +レベルを分析した。

 結果:経口ニコチンアミドリボシドは忍容性が良好で、有害事象は認められなかった。ニコチンアミドリボシド(p = 0.03)とNAD +(p = 0.001)の両方で、投与前に比較して有意な増加が観察された。NAD+は100%の増加を認めた。 ニコチンアミドリボシドおよびNAD+レベルの投与前から投与後9日目までの絶対変化は、高い相関を認めた。

 結論:人間において、ニコチンアミドリボシドは血液中のNAD+を増加させるため、ニコチンアミドリボシドは遺伝性および/または後天性疾患によるミトコンドリア機能障害の患者の治療法としての可能性がある。

 

この研究では、1日目と2日目は1日250mgを1回、3日目と4日目は250mgを1日2回(1日500mg)、5日目と6日目は500mgを1日2回(1日1000mg)、7日目と8日目は1000mgを1日2回(1日2000mg)と増やして投与しています。

9日目の朝に1000mgを投与した時点を0時としてそれ以降24時間の血中濃度を測定しました。

投与前に比べて、9日目にはNAD+の血中濃度は平均100%(35〜168%)の上昇を認めました。この研究ではニコチンアミドリボシド服用による副作用は認められていません。

ニコチンアミドリボシドを毎日500mgから2グラム程度を摂取すると、骨格筋や心臓や神経系などの老化性疾患の進行予防に役立つ可能性は高いと言えます。

短期間の摂取では、あまり効果がありません。長期間の摂取で有意な効果が出てくるという報告があります。つまり、日頃から500mgから1000mg程度のニコチンアミドリボシドの摂取は加齢に伴うフレイルやサルコペニアの予防と治療に効果が期待でき、健康寿命の延長に有効と言えます。


図:生き物には寿命(生まれてから死ぬまでの時間)があり(①)、時間とともに老化が進む(②)。体内の生命活動に必須の補酵素のニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide:NAD+)の体内量は老化の進行とともに減少する(③)。NAD+の前駆物質であるニコチンアミド・リボシド(nicotinamide riboside:NR ④)やニコチンアミド・モノヌクレオチド(nicotinamide mononucleotide:NMN ⑤)をサプリメントとして補充すると、体内のNAD+量を増やし(⑥)、体を若返らせ、寿命を延ばす効果が期待できる(⑦)

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