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61)甘い果物は老化と発がんを促進する(その2):果糖はがんを促進する

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術61

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【果物の摂取量が多い人は健康的な生活習慣を実践している人が多い】

 がんの発生や再発を予防する食事として、「野菜や果物を多く摂取する」ことが推奨されています。このような植物性の食品の豊富な食事は健康的であることは多くの研究者が認めています。しかし、野菜や果物を多く摂取してもがん予防効果は極めて限定的、あるいは効果は認めないという研究結果も多く報告されています。 
 
昔の研究では、野菜や果物の摂取が多いほどがんが少ないという結果が得られています。しかし、野菜や果物の摂取量の多いグループは摂取量が少ないグループに比較して、喫煙率や飲酒量や摂取カロリーや肥満の程度が低く、運動量が多いというデータがあります。

野菜や果物の摂取と、がんの発生の両方に関連している因子があると、結果に影響する可能性があります。このような因子を交絡因子と言います。その代表が喫煙と飲酒です。
 

喫煙や飲酒の多い人は野菜や果物の摂取が少ないというはっきりとしたデータがあります。例えば、米国のデータ(NIH-AARP Diet and Health Study)では、男性で果物の摂取の多い上位20%の集団では喫煙者は4.12%ですが、果物の摂取が最も低い下位20%の集団には喫煙者が21.8%います。男性で野菜の摂取の多い上位20%の集団には喫煙者は6.2%ですが、野菜の摂取が少ない下位20%の集団には喫煙者が16.9%もいます。女性でも同様です。アルコールの摂取の多い人が野菜や果物の摂取が少ないのも喫煙と同じ程度の差があります。

また、野菜や果物の摂取が多いグループは摂取が少ないグループと比べて、総摂取カロリーが低い、肥満が少ない(BIMが25以下の人の割合で評価)、運動を良くしている、学歴が高い(大学や大学院を卒業した割合で評価)という違いにも差が出ています。
 

つまり、野菜や果物を日頃から多く食べている人々は食事だけでなく、いろんな面で健康的な生活を実践している人が多い傾向にあります。
 

タバコやアルコールに出費が多い人は、果物まで手がでにくいのかもしれませんし、果物を多く食べている人(多く食べれる人)は、経済的に裕福で、他の環境も良好である可能性もあります。このように、野菜や果物の摂取が多いグループでがんの発生率が低いという結果が出ても、発がんに関連する交絡因子の影響を除外しておかないと間違った解釈になる可能性があります。

野菜や果物ががんを予防する直接的効果を持つのではなく、がん予防に良い生活習慣(禁煙、禁酒、運動、標準体重維持、カロリー制限など)の指標に過ぎない可能性が指摘されています。
そして、食事とがんに関する最近のコホート研究の多くで、野菜や果物の摂取ががんを減らす効果は確認されていません。果物を多く食べる(食べれる)人たちは、喫煙率や飲酒量が低く、経済的にも裕福(したがって、他の生活環境も良好)なので、がんが少ない可能性が指摘されています。(下図)

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図:野菜や果物の摂取が多いほどがんが少ないという疫学研究の結果が得られている。しかし、野菜や果物の摂取量の多いグループは摂取量が少ないグループに比較して、喫煙率や飲酒量や摂取カロリーや肥満の程度が低く、運動量が多いというデータがある。野菜や果物ががんを予防する直接的効果を持つのではなく、がん予防に良い生活習慣(禁煙、禁酒、運動、標準体重維持、カロリー制限など)の指標に過ぎないという指摘もある。これらの交絡因子の影響を排除すると、食事とがんに関する最近のコホート研究の多くで、野菜や果物の摂取ががんを減らす効果は確認されていない。


【果糖(フルクトース)のがん促進作用】

 フルクトースは、腸から吸収されると門脈から肝臓に達し、肝細胞に入るとグルコースよりも速やかにフルクトキナーゼによりリン酸化されてフルクトース-1-リン酸を生成し、フルクトース-1,6-ビスリン酸を経て解糖系に入ります。糖新生によりグルコースにも変換されます。フルクトースは中性脂肪の合成を促進し、その速度はグルコースの2倍以上と言われています。

 

フルクトースのグリセミック指数は19±2ですので、砂糖の4分の1、グルコースの5分の1程度です。したがって、インスリンの分泌を刺激しにくいので、がん細胞の増殖を促進しないのではないかと思われがちです。
しかし、培養細胞を使って、培養液の糖質をグルコースにした場合とフルクトースにした場合で、増殖速度は変わらなかったという実験結果が報告されています。


さらに、フルクトースが多いとがん細胞内でトランスケトラーゼという酵素が誘導され、解糖系から分かれて核酸(DNAやRNA)合成に必要はペントース・リン酸回路を促進するという報告があります。DNAやRNAの合成が促進することはがん細胞の増殖に有利になります。


また、フルクトースの細胞内への流入に必要はトランスポーター(輸送担体)であるGLUT5は乳腺の正常細胞でも発現していないが、乳がん細胞ではGLUT5が過剰発現しているという報告があります。乳がんでグルコースと同様にフルクトースも多く利用していることを示しています。

さらに、乳がん細胞の培養液にフルクトースを添加すると、乳がん細胞の性状がより悪化することが報告されています。細胞内にはタンパク質に糖が結合した糖タンパク質が多数存在しますが、その結合した糖の種類によってタンパク質の性状が変わります。それは、レクチンという接着タンパク質に対する親和性が糖の種類によって変化するからです。乳がんの培養細胞にフルクトースを添加して培養すると浸潤や転移が亢進したという報告があります。


その他、飲料水にフルクトースを添加するなどの方法でフルクトースの摂取量を増やすと、化学発がん剤による発がんが促進されるという動物発がんの実験や、がん組織の発育が促進されるという移植腫瘍を用いた動物実験の結果なども報告されています。

甘い果物には、フルクトースとグルコースが一緒に含まれています。フルクトースはインスリンの分泌を少ししか刺激しませんが、グルコースと一緒に摂取してグルコースによってインスリン分泌が亢進すると、フルクトースのがん促進効果はさらに増強されます。
  
つまり、フルクトースとグルコースの摂取量が多いと、相乗的にがん細胞の増殖を促進することになり、果物に含まれる糖分(グルコースとフルクトースを含む)はご飯やパン(グルコースのみ)よりもがんを促進する作用が強い可能性があると言えます。

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図:果物に多く含まれるフルクトース(果糖)は、細胞内で複数の経路で解糖系へ入り、グルコース(ブドウ糖)と同様にエネルギー産生や物質合成に使用される。フルクトースはグルコースより核酸(DNAやRNA)と脂肪酸の合成を促進する作用が強い。また、細胞内の糖タンパク質にフルクトースが取込まれると、その糖タンパク質の性状が変化し、がん細胞の浸潤や転移能が亢進するという報告もある。つまり、フルクトースとグルコースの摂取量が多いと、相乗的にがん細胞の増殖を促進する。果物に含まれる糖分(グルコース+フルクトース+スクロース)はデンプン主体のご飯やパンよりもがんを促進する作用が強いかもしれない。



【100%果物ジュースががんの発生を増やす】

 砂糖の入った飲料だけでなく、100%果物ジュースの消費もがん促進作用があることがフランスで行われた大規模疫学調査で明らかになっています。以下のような論文があります。

Sugary drink consumption and risk of cancer: results from NutriNet-Santé prospective cohort.(甘い飲み物の消費とがんのリスク:NutriNet-Santé前向きコホートの結果)BMJ. 2019; 366: l2408.

ニュトリネット・サンテ(NutriNet-Santé)コホート研究はパリ第13大学(Paris 13 University)の栄養疫学研究チームやフランス国立保健医学研究所などの研究者が参加している大規模疫学研究です。
参加者たちには6か月ごとにオンライン上で、24時間以内に飲食したものに関してアンケートに回答し、調査期間中のある種の食品の摂取量増加と発症リスクや死亡リスク増加の間の関連を前向きに調査しています。
 

このコホート研究から、「超加工食品の摂取率が10%増加すると死亡率も15%増加していた」という論文も発表されています。(Consumption of ultra-processed foods and cancer risk: results from NutriNet-Sante prospective cohort. BMJ 2018;360:k322)

この論文では、このニュトリネット・サンテ(NutriNet-Santé)コホート研究の参加者の一部が解析対象になっています。
砂糖の多い飲料は肥満を増やし、2型糖尿病や高血圧や心臓疾患のリスクを高めることは多くの疫学研究で明らかになっていますが、がんとの関係は今まであまり検討されていませんでした。
しかし、肥満や糖尿病ががんの発生率を高めることは多くの疫学研究で明らかになっていますので、砂糖の多い飲料ががんの発生を増やす可能性は推測されます。そこで、砂糖の多い飲料の摂取量とがんの発生率の直接の関連を調べる疫学研究が行われており、この論文もその一つです。

砂糖入り飲料、100%フルーツジュースおよび人工甘味料入り飲料の消費の評価には、3,300項目の食品および飲料に関して、参加者の日常的な消費状況が記録されました。飲料のタイプごとに、男女別の消費量をそれぞれ4段階に分けて解析しています。
10万1,257例(平均年齢42.2±14.4歳)のうち、女性が7万9,724例(78.7%)を占め、男性は2万1,533例(21.3%)でした。飲料のタイプ別の割合は、砂糖入り飲料(100%果物ジュースを除く)が36%、100%果物ジュースが45%で、人工甘味料入り飲料は19%でした。
追跡期間中央値5.1年(49万3,884人年)の間に、2,193例が初発のがんを発症しました。内訳は、乳がんが693例(閉経前283例、閉経後410例)、前立腺がんが291例、大腸がんは166例で、診断時の平均年齢は58.5±12.0歳でした。

砂糖入り飲料の消費は、全がんで「消費量100mL/日増加のハザード比が1.18」という結果でした。これは「1日100mLの摂取量増加につきがん全体の発生率が1.18倍になる」ということです。
乳がんの場合は、砂糖入り飲料が1日100mLの摂取量増加につき乳がん発生リスクが1.22倍になるという結果です。これは砂糖入り飲料を1日に500mL消費すると乳がんの発生率が約2倍になることを意味します。
さらに、100%果物ジュースの消費は全がん(消費量100mL/日増加のハザード比:1.12、95%CI:1.03~1.23、p=0.007)のリスクと有意な関連を示しました。つまり、100%果物ジュースを1日に800mLの消費で全がんの発生率が約2倍になる計算です。



【がん細胞はフルクトース輸送担体のGLUT5の発現が増えている】

 食品中の糖質は消化管内で単糖類(グルコース、フルクトース、ガラクトースなど)まで消化されて消化管粘膜から吸収され、さらに肝臓や筋肉やその他の全身の細胞に輸送され細胞に取り込まれます。
これらの糖は細胞中へ無条件で取り込まれるわけではありません。単糖類が細胞膜を通過するときに糖輸送体(sugar transporter) といわれる膜タンパク質が糖の輸送を媒介します。促進拡散によって糖を輸送するもの(GLUT類)とNaイオン依存性能動輸送によるもの(SGLT類)があります。
 

多数の種類がありますが、極めて単純に説明すると、グルコース(ブドウ糖)の取込みはGLUT1が媒介し、フルクトース(果糖)はGLUT5が行います。グルコースはエネルギー源として全ての細胞に必要なので、グルコースを効率良く取り込ませるGLUT1は全ての動物細胞に発現し、特にグルコース要求度の高い細胞に多く存在します。がん細胞はGLUT1が過剰に発現しているのが特徴です。

一方、GLUT5はフルクトース(果糖)に特異的な促進拡散型輸送体であり,グルコースやガラクトースなどの単糖は輸送しません。フルクトース(果糖)の輸送を担うGLUT5は、糖吸収が活発な小腸の空腸部の粘膜上皮細胞に多く発現し、精巣や腎臓や脂肪組織や骨格筋に少量が発現しています。
基本的に多くの正常細胞には発現していませんが、がん細胞にはGLUT5が過剰に発現していることが多くのがん種で報告されています。つまり、がん細胞ではフルクトースの取り込みも亢進しているのです。

一般的に、がん細胞はGLUT1の発現が亢進し、グルコースの取込みが増えています。そのため、がん組織ではグルコースの供給が枯渇しやすい状況にあります。その場合、アミノ酸の取込みを亢進して、エネルギー産生や物質合成に利用します。
このような栄養要求性の高いがん細胞では、GLUT5の発現を亢進してフルクトースの取込みを増やし、エネルギー産生や物質合成に使用しています。
つまり、グルコースだけでなくフルクトースもがん細胞の増殖と浸潤を促進しているのです。
がん細胞にGLUT5の発現が亢進していることが最近の多くの研究で明らかになっています。

発がん実験で果糖が発がんを促進することは以前から数多く報告されています。例えば以下のような報告があります。


Enhancement of hepatocarcinogenesis in rats by dietary fructose.(食餌中の果糖によるラットの肝臓発がんの促進)Carcinogenesis. 1989 Jul;10(7):1247-52.

この報告では、発がん物質のN-nitrosomorpholineをラットに7週間投与したのち、フルクトースを120g/mlの濃度で添加した水と食餌を自由に摂取させるグループと、普通の水と食餌を自由に摂取させるグループの2群に分けて、肝臓がんの発生率を比較しています。
その結果、肝臓がんの発生率は普通の水を摂取した群が24%であったのに対して、フルクトース添加の水を摂取した群では46%に増加しました。つまり、果糖の摂取量が多いほど、がんの発生が促進されるということです。



【甘い果物は糖類が多く含まれる】

 果物には多くの糖が含まれています。その糖もすぐに吸収されるグルコース(ブドウ糖)やフルクトース(果糖)やスクロース(蔗糖)などの糖類です。
 

多くの果物は100グラム当たり10〜20グラム程度の糖質を含みます(下表)。レモンやグレープフルーツでも100グラム当たり8〜10グラムの糖質を含みます。リンゴやブドウや梨は100グラム当たり10グラム以上の糖質を含み、バナナは100グラム当たり20グラム以上の糖質を含みます。

スイカは可食部の90%が水分で、タンパク質が0.6%、脂肪が0.4%で、残りの9%がグルコースやフルクトースや蔗糖などの砂糖類です。

蜂蜜は砂糖よりも健康に良いと考えられていますが、蜂蜜100g中にはフルクトースが42.4g、グルコースが33.8g含まれています。蜂蜜も摂り過ぎるとがんを促進します。

果物の中でアボカドは例外で、100g当たりの糖質は1g以下で、食物繊維を5g以上含み、脂質が15g以上で、オリーブオイルと同じオレイン酸が豊富です。

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表:主な果物の可食部100g中の糖質、食物繊維、蛋白質、脂質の含有量とエネルギー量を示す。アボカド以外の果物には糖質が多い。(五訂日本食品標準成分表より作成)


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表:食品中のブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ショ糖(スクロース)、全砂糖の含量(可食部100g当たりのグラム数)。果物や蜂蜜には果糖や砂糖が多く含まれている。(出典:FASEB J. 4: 2652-2660, 1990年)



【「果物はがん予防に良い」は間違い】

 果物ならいくら食べても大丈夫と考えているがん患者は多いと思います。しかし、甘い果物には果糖、ブドウ糖、ショ糖(果糖とブドウ糖が結合)が多く含まれており、糖質摂取量の観点から問題が多いのも事実です。さらに、果糖はブドウ糖以上にがんを促進することが明らかになっています。
つまり、果物ならいくら食べても問題ないという間違った考えの人が結構いるようです。そのような内容を記載をした書籍もあります。しかし、
甘い果物や、フルクトースの多く入った蜂蜜や飲料や甘味料の摂取は、ブドウ糖以上にがんを促進する可能性があることを知っておく必要があります。

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図:フルクトース(果糖)は肝臓の中性脂肪の合成を亢進し、高脂血症や動脈硬化を引き起こす(①)。フルクトースはタンパク質を糖化して、動脈硬化や皮膚の老化を促進する(②)。フルクトースはインスリン抵抗性を引き起こし(③)、脂肪合成を亢進して肥満やメタボリック症候群の発症を促進する(④)。インスリン抵抗性は2型糖尿病を引き起こす(⑤)。フルクトースはペントース・リン酸経路のトランスケトラーゼの活性を高め、核酸合成を亢進する(⑥)。フルクトースは炎症や活性酸素の産生を高め、酸化ストレスを亢進する(⑦)。これらの複合的な作用によって、フルクトースはがん細胞の発生や増殖や転移を促進する(⑧)。フルクトースは強い甘味を有するので、脳内報酬系を刺激し、甘味依存(甘味中毒)の状態から抜け出すのは困難で、甘い食べ物を止めることができない(⑨)。フルクトースを多く含む甘い果物や蜂蜜の取り過ぎは、がんや循環器疾患のリスクを高める。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ

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