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87)豆乳ヨーグルトと植物エストロゲン

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術87

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【植物エストロゲンは人間の健康に役立っている】

 野菜や薬草などの植物から女性ホルモンのエストロゲンと似た作用を持つ成分が多数見つかっており、これらを「植物エストロゲン(フィトエストロゲン)」と総称します。多くはエストロゲンと類似の構造を持ち、人間や動物の細胞のエストロゲン受容体に結合してエストロゲン類似の作用を発揮します。場合によってはエストロゲン受容体と正規のエストロゲンとの結合を阻害してエストロゲンの働きを邪魔する場合もあります。

植物エストロゲンとして最もよく知られているのが、大豆に含まれるイソフラボンです。大豆製食品を多く摂取すると前立腺がんや乳がんの発生率が低下することが知られていますが、その主な理由は、大豆イソフラボン(ゲニステインやダイゼインなど)がエストロゲン様作用を持つからです。

図:大豆に含まれるイソフラボン(ゲニステイン、ダイゼイン)は女性ホルモン(エストラジオール)と構造が似ている
 


米国におけるある疫学研究では、豆乳を1日1回以上摂取する人では前立腺がんの発生頻度が70%減少することが報告されています。大豆イソフラボンのゲニステイン(genistein)、ダイゼイン(daizein)およびその代謝産物はエストロゲン活性を持ち、前立腺がん細胞の増殖を抑制し、アンドロゲン受容体の遺伝子発現を抑制し、動物実験で移植した前立腺がん細胞の発育を抑える効果などが報告されています。

大豆製品の摂取が多い地域では前立腺がんの発生頻度が低いという疫学的研究結果は多数報告されています。

また、前立腺がんの予防に効果があると報告されているザクロジュースや亜麻の種子(flaxseed)も植物エストロゲンが多く含まれています。


エストロゲンは乳がんの発生や増殖を促進しますが、乳がんが発生するような体内のエストロゲン濃度が高いときは、植物エストロゲンは体内のエストロゲンと拮抗的に働いて抗エストロゲン作用を示すため、乳がんの発生を予防する効果があります。

また、閉経によって体内のエストロゲン濃度が低下すると、植物エストロゲンはエストロゲン様作用を示し、ホルモン補充療法と同じ効果を示し、更年期障害の症状を緩和する効果を発揮します。大豆を常食するアジア人女性は欧米人に比べて更年期障害に悩む人が少ないのは、大豆に含まれる植物エストロゲンのためだという意見もあります。
 
閉経後の女性では、エストロゲン分泌の減少に伴う骨量の減少により、高コレステロール血症や動脈硬化の発生率が急激に上昇することが知られており、骨粗鬆症のリスクも高くなります。更年期になるとホルモンバランスが乱れるため、のぼせや発汗、肩こり、関節痛、動悸などの更年期症状が現れます。イソフラボンは、そのプロエストロゲン効果のために、これらの症状に対して有効であることが示されています
 
タイやミャンマーの山岳地帯に生息するマメ科クズ属のプエラリア(Pueraria mirifica)には強力なエストロゲン作用をもつミロエステロール(Miroesterol)などの植物エストロゲンが多量に含まれており、更年期障害の緩和や美肌効果や乳房を大きくする(豊胸)目的でサプリメントとして利用されています。

エストロゲンが低下すると骨粗しょう症を起こしやすくなるので、大豆イソフラボンなどの植物エストロゲンは骨粗しょう症の治療や予防にも利用されています。

漢方薬に使われる生薬の薬効にも植物エストロゲンが関与しているものがあります。

このように、植物エストロゲンは人間の健康維持や病気の治療や美容に役立っています。



【植物エストロゲンは植物が草食動物から身を守る手段の一つ】

 植物エストロゲンを持つ植物は300種類以上あるといわれています。その中でも、クロ-バ-や大豆などのマメ科の植物には多量に含まれていることが知られています。生薬では葛根湯(かっこんとう)に使われる葛根(カッコン:クズの根)や高麗人参や甘草などに含まれています。

植物がなぜエストロゲン作用を持った物質を作り出すのかという理由についてはいろいろと説があります。人間のがん予防や更年期障害の治療や豊胸の効果のために植物がエストロゲン作用をもった物質をわざわざ作り出してくれているはずがありません。植物は自分に何らかのメリットがあるから植物エストロゲンを合目的的に産生していることは常識的に推測できます。

その理由として最も妥当だと認められている説は、「植物を食べる草食動物の過剰繁殖を防ぐ目的で、草食動物の生殖能力を低下させる(不妊にする)ために植物エストロゲンを利用している」というものです。以下のような論文があります。

Phytochemical mimicry of reproductive hormones and modulation of herbivore fertility by phytoestrogens.(植物エストロゲンによる生殖ホルモンの植物化学的類似性と草食動物の繁殖力の制御)Enviromental Health Perspectives. 78: 171-175, 1988

植物エストロゲンはエストロゲン(女性ホルモン)に似た作用をするので、動物が植物エストロゲンを含む植物を食べ過ぎると、生殖機能が狂わされ、不妊になって繁殖できなくなります。

植物エストロゲンによって草食動物が不妊になるということは現実として起こっており、よく知られているのが1940年代初めにオ-ストラリア西部で発生したヒツジの「クロ-バ-病」です。

健康そのもののヒツジたちが、なかなか妊娠せず、妊娠しても流産するようになりました。その原因は牧草としてヨーロッパから持ち込まれたクローバーで、そのクローバーにはフォルモノネティン(Formononetin)などの植物エストロゲンが多量に含まれ、このクローバーをヒツジが食べたために、不妊や流産の原因となったことが明らかになりました。

つまり、クローバーは草を食べる捕食者からの防御として、フォルモノネティンという強力なフィトエストロゲンを作りだし、捕食者(クローバーにとってはヒツジ)を不妊にしてヒツジの数を減らすことによって生存・繁殖を有利にするという戦略と取っているというわけです。

図:レッドクローバーはフォルモノネティン(Formononetin)などの植物エストロゲンを多く含み、ヒツジなどの草食動物を不妊にする作用がある。植物は自らの生存・繁殖の手段の一つとして、植物を食べる草食動物の繁殖を制限するために植物エストロゲンを産生していると考えられている。人間の健康維持やがん予防に役立つ植物エストロゲンも、過剰に摂取すると内分泌かく乱物質となって副作用を引き起こすので注意が必要。
 
 

植物エストロゲンによる草食動物の不妊の例はヒツジとクローバーの関係だけではなく、アルファルファ(ムラサキウマゴヤシ)による牛の不妊、サブタレニアン・クローバーによるモルモットやヒツジの不妊、ラジノクローバーによるマウスやウサギの不妊などが報告されています。これらは家畜や実験動物での研究から明らかになっていますが、野生の草食動物についてはほとんど研究されていないのが実情です。植物エストロゲンによる植物の生き残り戦略は自然界では広く行われている可能性が指摘されています。

ヒツジを不妊にしたレッドクローバーは、更年期障害の治療や豊胸のサプリメントとして販売されています。レッドクローバーはヒツジを不妊にするほどのエストロゲン作用を持つので、更年期障害や美容に効果が期待できると考えられています。しかし、植物エストロゲン自体は、植物毒の一種である点に注意が必要です。

毒と薬は基本的には同じで、薬も過剰に服用すれば毒になり、毒も適量を使えば薬になります。植物エストロゲンも同じです。過剰に服用すればホルモンバランスを乱し、不妊などの原因となります。適量を使えば、美容やがん予防や更年期障害の治療に使えることになります。



【豆乳を発酵させると健康作用が強くなる】

 豆乳などの大豆製品には、大豆タンパクやイソフラボンなどの機能性成分が豊富に含まれており、機能性食品のベースとして魅力的な素材です。

前述の様に、大豆の有効成分の中でもイソフラボンが注目されています。イソフラボンは、女性ホルモンの構造に似た構造を持つことが知られており、エストロゲン受容体に結合することによるエストロゲン作用、またはエストロゲンがその受容体に結合するのを阻害することによる抗エストロゲン作用のいずれかを発揮する可能性があります。

さらに、イソフラボンには、エストロゲン受容体とは独立して作用する他の生理学的効果 (チロシンキナーゼ阻害、血管新生阻害作用、ナチュラルキラー (NK) 細胞の活性化、抗酸化効果など)も報告されています。
 
大豆に含まれるイソフラボンは主にゲニステインとダイゼインです。グリシテインも少量含まれます。これらのイソフラボンは糖が結合したグリコシド(配糖体)として存在します。

グリコシドは腸内の細菌の酵素によって加水分解され、グルコース(ブドウ糖)が除去されてアグリコン(配糖体のうち糖以外の成分)が生成されます。(下図)

図:大豆イソフラボンは主にグルコースが結合した配糖体の形で存在する。腸内細菌のβ-グルコシダーゼで糖部分が除去され、それぞれのアグリコンとして消化管から吸収され、体内組織に分布して様々な薬効を発揮する。
 
 

配糖体が体内に吸収されるためには、配糖体からアグリコンに変換されることが重要です。大豆中のイソフラボンはほとんどが配糖体として存在しており、体内に吸収されません。腸内細菌などの働きによって糖が外れ、アグリコン型のイソフラボンに変換されると、体内に吸収され機能を発揮します。 

豆乳を乳酸菌で発酵させると、配糖体型のイソフラボンがアグリコン型のイソフラボンに変換されます。発酵豆乳(豆乳ヨーグルト)は多くの製品が市販されています。

自分で作ることも簡単です。固形成分が8%以上の豆乳を購入して、乳酸菌を入れて発酵させると1日から2日で豆乳ヨーグルトができます。乳酸がタンパク質を凝固して固まります。

豆乳専用の種菌も販売されていますが、市販されている豆乳ヨーグルトや牛乳で使ったヨーグルトの上澄みや、乳酸菌飲料を適量入れても作れます。乳酸菌の種類によって味や風味が少し異なり、いろんな乳酸菌を試してみると面白いと思います。作り方はインターネットで検索すればすぐ分かります。(下図)

図:固形成分が8%以上の豆乳を使うとよく固まる(①)。豆乳ヨーグルト専用の種菌も販売されている(②)。豆乳に乳酸菌を入れて蓋をして室温に放置すると1〜2日で固まり、豆乳ヨーグルトができる(③)。市販されている豆乳ヨーグルトや牛乳で作ったヨーグルトの上澄み液や、乳酸菌飲料を適量入れても豆乳ヨーグルトができる(④)。
 
 
 
腸内細菌叢で乳酸菌が増えると腸内環境が良くなり、免疫力が高まります。乳酸菌は豆乳中の糖質を分解して乳酸に変換するので、糖質制限やケトン食を実践している場合もメリットがあります。

大豆イソフラボンは多くの健康作用を有するので、牛乳で作ったヨーグルトより健康的です。乳がんや前立腺がんだけでなく、多くのがんの予防にもなります。更年期障害、骨粗鬆症、動脈硬化、高尿酸血症、メタボリック症候群を改善する効果があリます。美容(しみ、脱毛の予防)にも有効です。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


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