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57)ビタミンD補充は寿命を延ばす

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術57

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【冬はビタミンD不足に注意】

 冬は日照時間が短くなります。会社でデスクワーク主体で、早朝に出社し昼休みも外出しないような人は、冬の間はほとんど日光を浴びないようになります。例えば、朝6時から夕方6時までビルの中に閉じこもっている仕事環境だと、日の出と日没の時刻から判断して、東京では11月初めから3月末ころまでほとんど日光を浴びないことになります。

ビタミンDは日光の紫外線によって皮膚で作られますが、窓ガラスを通した日光では、ビタミンDを作る紫外線のUV-B(波長280~315 nm)はガラスを通過しないため、ガラス越しの日光を浴びても皮膚でビタミンDを作ることができません。ビタミンDは、食物からも摂取できますが、ビタミンDが他のビタミンと違うところは、日光を浴びることによって体内で合成されることです。 

 ビタミンDは、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)とD3(コレカルシフェロール)の総称です。ビタミンD2は植物に含まれるエルゴステロールから生成され、ビタミンD3は動物の体内でコレステロールから生成されます。ビタミンD2はキノコなどの植物性食品に含まれ、特に白キクラゲや干し椎茸に多く含まれています。ビタミンD3は魚に多く含まれています。
 
日光に当たれば、体内で十分な量のビタミンD3が生成されます。すなわち、日光に含まれるUV-B帯域(波長280~315 nm)の紫外線が皮膚に当たると、表皮内で7-デヒドロコレステロール(プロビタミンD3)からプレビタミンD3を経てビタミンD3が生成されます。7-デヒドロコレステロールはコレステロールから体内で生成されるので、紫外線を含んだ日光に当たることでビタミンDは体内で作られるビタミンということになります。

体内で生成されたビタミンD3と食物から摂取したビタミンD2およびD3は肝臓で25位が水酸化されて25(OH)ビタミンD(カルシジオール)に変換され、さらに腎臓などで1α位が水酸化されて活性型の1,25(OH)2-ビタミンDになります。
 
元来ビタミン(vitamin)というのは、生命に必要なアミンの意味で、微量で生体の正常な発育や物質代謝を調節し、生体機能不可欠な有機化合物で、普通は動物体内では生合成されないもので、食物などから摂取する必要があります。しかしビタミンDは例外で、体内で合成できます。

図:体内でコレステロールから合成されるプロビタミンD3(7-dehydrocholesterol)は皮膚で紫外線(HV-B)照射を受けてビタミンD3(Cholecalciferol)へ変換される(①)。ビタミンD3は食品やサプリメントからも摂取される(②)。ビタミンD3は肝臓で25-ヒドロキシラーゼ(25-hydroxylase)によって25(OH)ビタミンD3(Calcidiol)に変換され(③)、さらに腎臓で、1α-ヒドロキシラーゼ(1-alpha hydroxylase)によって活性型ビタミンD3である1,25(OH)2ビタミンD3(Calcitriol)になる(④)。活性型ビタミンD3は、核内受容体への結合による遺伝子発現の調節や、細胞膜のビタミンD受容体への結合によるシグナル伝達系の活性化のメカニズムによって(⑤)、骨形成やカルシウム代謝、炎症、免疫、発がん、細胞増殖、分化、アポトーシスなど様々な生理機能の調節に関与する(⑥)。



ビタミンDはカルシウムの代謝を調節し、骨や歯の発育や維持に重要な役割を担っています。ビタミンDが欠乏すると、骨の形成異常が起こり、小児期に発症するものを「くる病」、成人期以降に発症するものを「骨軟化症」と呼んでいますが、これらは骨の石灰化がうまくいかず、骨が軟らかくなる病気です。
 
ビタミンDには、骨を強くして骨折を予防する効果だけでなく、がん予防効果や感染症に対する抵抗力増強にも重要な作用を持つことが明らかになっています。ビタミンDは体内で生成されることと、体の発育や健康維持に重要な役割を持つことからビタミンというよりホルモンに近いと言えます。 

日光に当たれば、体内で十分な量のビタミンD3が生成されます。日照時間の短い緯度の高いところに住んでいる人は体内のビタミンDの濃度が低い傾向にあります。また、ビタミンD含有量の多い魚やキノコの摂取量が少ない場合もビタミンD欠乏の原因になります。家に閉じこもることの多い高齢者は、ビタミンD欠乏になりやすいので、サプリメントで補うメリットは高いと言えます。ビタミンDの不足は感染症や心臓病のリスクを高めることが明らかになっているからです。


【ビタミンD欠乏はうつ病と自殺を増やす】

 ビタミンD欠乏は抑うつ症状を引き起こすことが指摘されています。ビタミンD欠乏がうつ病の発症率を8〜14%増やし、自殺を50%増やすという報告があります。ビタミンD3の補充は、抑うつ症状を軽減し、精神状態を良くするという報告もあります。以下のような報告があります。

 Association between low serum 25-hydroxyvitamin D and depression in a large sample of healthy adults: the Cooper Center longitudinal study.(健康成人の大量サンプルにおける血清25‐ヒドロキシビタミンDの低値とうつ病との関連:クーパーセンター縦断的研究)Mayo Clin Proc. 2011 Nov;86(11):1050-5.

 【要旨】
目的:クーパークリニックからの患者の大規模なデータベースで血清ビタミンDレベルとうつ病の間の関連を調査した。

 患者と方法:2006年11月27日から2010年10月4日までにクーパークリニックで診察を受けた12,594人の参加者を解析した。血清25-ヒドロキシビタミンD [25(OH)D]を分析し、抑うつ状態自己評価尺度(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale :CES-D)を使ってうつ状態を評価した。うつ病の既往のある人とない人は、CES-Dスコアに関して2つの異なる集団を表していたので、それらは別々に分析された。

 結果:総サンプルでは、ビタミンD濃度が高いほど、CES-Dスコアに基づく現在のうつ病のリスクが有意に低下した(オッズ比0.92、95%信頼区間:0.87-0.97)。うつ病の病歴のある人ではうつ病リスクの低下はより強かった(オッズ比0.90;95%信頼区間:0.82-0.98)。うつ歴を持たない人では有意ではなかった(オッズ比0.95:95%信頼区間:0.89- 1.02).

 結論:ビタミンD濃度の低下は、特にうつ病の既往歴のある人において、うつ症状の発症リスクと関連することが示された。これらの所見は、うつ病の病歴を持つプライマリケア患者がビタミンDレベルの評価のための重要なターゲットになることを示唆している。

 

CES-D(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)は米国国立精神衛生研究所でうつ病の疫学研究用に開発された自己評価尺度です。
 
クーパー・クリニック(Cooper Clinic)は、米国のテキサス州ダラスにあり、エアロビクスの父と言われるケネス・クーパー(Kenneth H. Cooper)博士によって1970年に設立されたクリニックです。エアロビクスセンターなどがあり、健康増進や病気の予防と治療における運動療法や予防医学の先駆けのクリニックです。
 
このクーパー・クリニックに登録している人の血液データと精神状態を解析して、「ビタミンD濃度の低下は、特にうつ病の既往歴のある人において、うつ症状の発症リスクと関連する」ことが示されたという報告です。

ビタミンD欠乏が自殺を増やすと言う報告もあります。

 Low vitamin D status and suicide: a case-control study of active duty military service members.(低ビタミンD状態と自殺:現役軍人のケースコントロール研究)PLoS One. 2013; 8(1): e51543.

 多くの国において、ビタミンDの血中濃度が最も低くなる春に自殺率が最も高くなることが、多くの疫学研究で示されています。そこで、体内のビタミンDレベルの指標である25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)の血中濃度と自殺率の関連を、米国の現役軍人を対象に、前向き症例対照試験で検討しています。

自殺する24ヶ月以内に採血していてビタミンD濃度を測定できる症例群(n=495)と、軍での階級、年齢、性別をマッチさせた対照群(n=495)を採血した季節で調節して比較しています。
 
その結果、血中の25(OH)Dの低下は自殺率の上昇と関連していることを報告しています。


【夏に手術を受けた人の再発率は低い?】

 血中の25(OH)ビタミンD濃度は、食品からのビタミンDの摂取量と、体内で産生されたビタミンDの総量を反映しています。したがって、体内のビタミンDの量を評価するときには、この25(OH)ビタミンD の血中濃度が指標になります。

25(OH)ビタミンDの血中濃度とがんの発生率の関係を調査した疫学的研究では、大腸がんや乳がんなどで、血中の25(OH)ビタミンD の濃度が高いほど、がんの発生率が低下することが報告されています。

例えば、日本の国立がんセンターのがん予防・検診研究センターの研究では、日本人約38000人を対象に、あらかじめ血中25(OH)ビタミンD濃度を4段階のレベルにわけ、その後11.5年間に大腸がんになった患者フループと、ならなかった対照者グループにおいて、血中25(OH)ビタミンD濃度と大腸がんの発生率との関係を調べています。その結果、25(OH)ビタミンDが最低(22.9 ng/ml未満)のグループはそれ以上(22.9 ng/ml以上)の3つのグループに比べ、直腸がんのリスクが男性で4.6倍、女性で2.7倍高いという結果が得られています。 (Br J Cancer, 97: 446-451, 2007)  

米国のマサチューセッツ総合病院で早期(ステージIA~IIB)の肺がんの手術を受けた456人の解析では、5年間の無再発生存率が、夏に手術を受けた患者グループでは53%に対して、冬に手術を受けた患者グループでは40%でした。さらに、夏に手術を受け食事からのビタミンD摂取の多い患者の5年間無再発生存率が56%に対して、冬に手術を受け食事からのビタミンD摂取の少ない人のそれは23%でした。(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 14: 2303-2309, 2005)

大腸がんでも、夏や秋に手術を受けた患者は、冬に手術を受けた患者よりも生存率が高いという報告があります。

 活性型の1,25(OH)ビタミンDは細胞の増殖や分化や死に関する複数の遺伝子の働きを調節する作用があり、がん細胞の増殖や転移を抑制し、アポトーシスという細胞死を誘導する作用が確かめられています。このようなビタミンDの作用ががん予防効果に関与していると推測されています。 

【ビタミンD3の補充は死亡率を減らす?】

 人間の死亡率は100%です(他の生き物も同じです)。いずれ何らかの原因(病気や老衰や事故など)で必ず死にます。「ビタミンD3が死亡率(mortality)を減らす」というのは、「ある一定期間の死亡確率が低下する」ということです。

血清中のビタミンD濃度が低い下位5分の1のグループの人は、ビタミンD濃度が高い上位5分の1に比べて、死亡確率が1.5倍くらいになるというコホート試験の結果が得られています。

これは、50歳の人が、ビタミンDが不足している場合は余命が20年に対して、ビタミンDの濃度が高ければ余命が30年になるというレベルの差になります。体内のビタミンDの大半は体内で産生されるものですが、ビタミンDが欠乏している人は多く、食事やサプリメントからのビタミンDの摂取量増加が寿命を延ばすかどうかが注目されています。

「ビタミンDの血清濃度が高い人は循環器疾患やがんの死亡率が低く、全死因死亡率も減少する」ことを示すメタ解析の結果が複数の研究グループから報告されています。いずれも、ビタミンDの血中濃度が高い方が死亡率が低下することが明らかになっています。例えば、次のような報告があります。

Vitamin D and mortality: meta-analysis of individual participant data from a large consortium of cohort studies from Europe and the United States.(ビタミンDと死亡率:欧州と米国からの大規模共同研究によるコホート研究からの個々の参加者のデータのメタ解析)BMJ. 2014 Jun 17;348:g3656.

 この論文は、体内のビタミンDの量の指標となる血清中の25-ヒドロキシビタミンD [25(OH)D]濃度と死亡率との関係を検討した欧州と米国で行われた8つの前向きコホート研究の結果をメタ解析しています。

皮膚で生成されたビタミンD3や食事やサプリメントで摂取したビタミンD3は肝臓で25位が水酸化されて25-ヒドロキシビタミンD3になり、さらに腎臓で1位が水酸化されて1,25-ジヒドロキシビタミンD3 [1,25(OH)2D3]になります。この1,25(OH)2D3が活性型で核内のビタミンD受容体に結合して遺伝子発現などに作用します。

活性型の1,25-ジヒドロキシビタミンD3 は半減期が数時間と短いのに対して、25-ヒドロキシビタミンD3の半減期は3週間程度で、濃度は1,25(OH)2D3の1000倍程度なので、25(OH)D3が体内のビタミンDの貯蔵量の指標として使われています。

 前向き(prospective)なコホート研究(Cohort study)は、ある状態の人たちが将来どのような病気になるかを、現在から未来に向かって解析を行う研究のことです。ビタミンDと死亡率との研究では、ある地域住民に対して血液中のビタミンDの濃度を測定し、数年から数十年間追跡して、死亡率をビタミンDの濃度別に比較するような研究です。

メタ解析(メタアナリシス:meta-analysis)とは、過去に行われた複数の研究結果を統合し、統計的に総合評価を行う方法です。一つ一つの研究では症例数が少なくて統計的に差がでなくても、そのような研究データをまとめて統計的に処理すれば、より信頼性の高い結果が得られます。一般的に、メタ解析で有効性が示されれば、かなりエビデンスが高いという評価になります。

 この論文では、8つのコホート研究の結果をメタ解析しています。対象は50~79歳の男女計26,018人で、追跡期間中6695人が死亡しています。このうち心血管疾患による死亡は2624人、がんによる死亡は2227人でした。

25-OHビタミンDの濃度が高い上位5分の1のグループに比較して、25-OHビタミンDの濃度が低い下位5分の1のグループの全死因死亡率のリスク比は1.57(95%信頼区間:1.36-1.81)でした。

心血管疾患のリスク比も同様な値で、25-OHビタミンDの濃度が低い人は心血管疾患での死亡率が高くなっています。この場合、研究が開始になったとき既に心血管疾患に罹っていた人もそうでない人も同様の結果でした。

一方、がんによる死亡の場合は、研究開始時にがんの罹患経験がない人では、25-OHビタミンDの濃度の違いによるリスクの違いは認められていませんが、がんの既往歴がある人だけを対象にすると、25-OHビタミンDの濃度の高い上位5分の1のグループに比較して25-OHビタミンDの濃度の低い下位5分の1のグループの人の死亡リスクは1.70(95%信頼区間:1.00-2.88)でした。

これは、ビタミンDが高い状態は、がんの発生を減らさないが、がんになってからの延命には効果があることを示唆しています。つまり、ビタミンDが再発を予防するとか、がん細胞の増殖を抑制するなどの作用によって、がんサバイバーを対象にした解析では、ビタミンDが多い方が生存期間が長くなるということです。

この論文の結論は、「25OHビタミンDの血清濃度は、国や性別や季節によって顕著に異なるが、25OHビタミンDの濃度が低いと、全死因死亡率および心血管系疾患の死亡率、がんの既往のある人のがん死亡率が高くなるのは確実である」となっています。

 

同様なメタ解析は他にも多数あります。多くの論文の中で最も信頼できると思われるコクラン・コラボレーション(The Cochrane Collaboration)によるレビューもあります。

Vitamin D supplementation for prevention of mortality in adults.(成人における死亡の予防のためのビタミンDの補充)Cochrane Database Syst Rev. 2014 Jan 10;1:CD007470.


多数のコホート試験や臨床試験の結果をメタ解析して、このレヴューの著者らの結論(AUTHORS' CONCLUSIONS)は次のようになっています。

『ビタミンD3は高齢者の死亡率を減少させる効果がある。しかし、ビタミンD2とアルファカルシドール(alfacalcidol)とカルシトリオール(calcitriol)には死亡率を低下させる効果は認めない。』

 ビタミンDに関する多くの研究で、ほぼコンセンサスが得られている点は以下のようにまとめることができます。


1)ビタミンD3には全死因死亡率、心血管系疾患の死亡率、がんの既往のある人のがん死亡率を減らす。(呼吸器疾患による死亡率も減らすことが報告されています。)
 

2)植物由来のビタミンD2(ergocalciferol)と活性型ビタミンD3のアルファカルシドール(1-ヒドロキシビタミンD3)とカルシトリオール(1,25-ジヒドロキシビタミンD3)には死亡率を低下させる効果は認めない。
 

3)ビタミンD3にはがんの発生を予防する効果はない(予防効果があるという結果も多く発表されている)。しかし、がんの既往のある人のがん死亡率は低下させる。
 

循環器疾患の場合は、血中の25-OHビタミンD3が低いほど、循環器疾患の発生率も死亡率も高いのですが、がんの場合には、25-OHビタミンD3のレベルとがん発生率との間には関連がありません(ビタミンDはがんの発生を予防しない)。

しかし、がんサバイバー(がんと診断されてから死亡するまでの全てのがん患者)においては、ビタミンDが低いほど死亡率が高くなることが多くの研究で明らかになっています。つまり、がんサバイバーにとってはビタミンD3のサプリメントは有益である可能性が高いと言えます。

(ビタミンD3ががんを予防する効果を示す報告もありますが、最近のメタ解析ではがん予防効果はあっても弱いようです)


【ビタミンD3の血中濃度が高いと大腸がんや乳がんの死亡率が低下する】

 血清中の25-ヒドロキシビタミンD3(25-OHビタミンD3)の濃度は体内のビタミンDの量を示す指標です。25-OHビタミンD3の濃度とがん死亡率の関係が大腸がんや乳がんで検討されています。以下のような論文があります。

Serum 25-hydroxyvitamin D levels and survival in colorectal and breast cancer patients: systematic review and meta-analysis of prospective cohort studies.(結直腸がんと乳がん患者における血清25-ヒドロキシビタミンDの濃度と生存率の関係:前向きコホート研究の系統的レヴューとメタ解析)Eur J Cancer. 50(8):1510-21.2014年


【要旨】
研究の目的:結腸直腸がんと乳がんの患者において、血清中の25-ヒドロキシビタミンD (25(OH)D)の濃度と生存率の間の関連があるかどうかを検討した。

 方法:結腸直腸がんと乳がんの患者を対象にして、血清25(OH)D濃度と生存率の関連を検討した前向きコホート研究に関する文献の検索を行い、それらの結果を集計して統計的に解析し、ハザード比を求めた。

 結果:結腸直腸がん患者を対象にした5つの臨床試験(患者総数2330人)と乳がん患者を対象にした5つの臨床試験(患者総数4413人)が、血清中の25(OH)Dのレベルを2~5段階に分類して生存率を比較していた。結腸直腸がん患者では、25(OH)Dレベルが最も低いグループに対して最も高いグループの全死因死亡率のハザード比は0.71(95%信頼区間:0.55-0.91)、結腸直腸がんによる死亡率のハザード比は0.65 (95%信頼区間:0.49-0.86)であった。
乳がん患者では、25(OH)Dレベルが最も低いグループに対して最も高いグループの全死因死亡率のハザード比は0.62(95%信頼区間:0.49-0.78)、乳がんによる死亡率のハザード比は0.58 (95%信頼区間:0.38-0.84)であった。

 結論:結腸直腸がんの患者と乳がんの患者において、血清中の25(OH)Dの高値(>75nmol/L)は死亡率の低下と関連していた。結腸直腸がん患者と乳がん患者において、診断時や治療の開始前に血清中の25(OH)Dレベルが低い(<50nmol/L)場合に、ビタミンDをサプリメントで補うことで生存率を改善できるかどうかを検討するランダム化比較対照試験を実施する必要がある。

 
もともと25-OHビタミンD3の血清濃度が高い人が、さらにサプリメントでビタミンD3を多く摂取してがん死亡率をさらに低下できるかどうかはまだデータがありません。しかし、25-OHビタミンD3の血清濃度が低い人(50 nmol/L以下)の場合はサプリメントでの補充は生存率を1.5倍から2倍くらいに高める可能性は高いようです。(25-OHビタミンD3の50nmol/Lは25ng/ml)


【ビタミンDの耐用上限量は日本では1日4000 IUとなっている】

 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報によると日本のビタミンDの1日摂取目安量(不足状態にならない量)は成人で 8.5μg(340 IU)、耐容上限量(過剰摂取による健康障害を起こさない量)は成人で1日100μg(4000 IU)になっています。
 
このサイトでの2014年7月の時点での記載は「日本のビタミンDの1日所要量は成人で 100 IU(2.5μg)、許容上限所要量は成人で1日2000 IU(50μg)」になっていました。つまり、所要量や上限量を上げています。

がんの代替療法では1日に4000 IU(100μg)から10,000 IU (250 μg)程度を使用しています。米国のサプリメントでは1カプセルが5,000 IUや10,000 IUの製品も販売されています。
 
大量(1日50,000 IU)に服用して進行膵臓がんの増殖が抑えられたという症例報告もあります。

The Incidental Use of High-Dose Vitamin D3 in Pancreatic Cancer(膵臓がんにおける高用量のビタミンD3の偶発的使用)Case Reports in Pancreatic CancerVol. 2, No. 1, Published Online:1 May 2016https://doi.org/10.1089/crpc.2016.0003

 83歳女性の膵臓がん患者が、ビタミンD3のサプリメントを通常の量の10倍以上に相等する1日に50,000 IUを自分の判断で服用したところ、他の治療を受けずにがんの進行が長期間(報告するまでの10ヶ月間)止まったという症例報告です。副作用は全く認められていません。

進行した膵臓がんの代替療法として1日1万単位程度のビタミンD3の服用を試してみる価値はあると思います。
 
がん患者さんは、1日2000~4000 IUのビタミンD3の摂取は有益だと言えます。進行がんの場合、1日10,000~40,000 IUくらいの大量投与を試してみる価値はあります。

以下のような臨床試験が報告されています。

Vitamin D supplementation improves SIRT1, Irisin, and glucose indices in overweight or obese type 2 diabetic patients: a double-blind randomized placebo-controlled clinical trial(ビタミンDの補給は、過体重または肥満の2型糖尿病患者のSIRT1、イリシン、およびグルコース指数を改善する:二重盲検無作為化プラセボ対照臨床試験)
BMC Fam Pract. 2020 Feb 7;21(1):26.

 この報告は、90人の2型糖尿病の男性と女性を対象とした臨床試験で、ビタミンDの補充が長寿遺伝子のサーチュイン1(SIRT1)を増加させ、続いてPPAR-γコアクチベーター1α(PGC-1α)およびイリシンレベルを増加させ、これらの改善によりインスリン抵抗性が低下することを報告しています。

 ビタミンDの補充は1週間に50,000 IUで、8週間の投与を行なっています。1日に7,000 IUを8週間服用したことになります。
 
ビタミンDはAMP活性化プロテインキナーゼを活性化するので、長寿遺伝子のサーチュイン1を活性化し、ミトコンドリア新生を促進するPPAR-γコアクチベーター1α(PGC-1α)や、体の抵抗性を高める転写因子のFOXOを活性化するので、寿命を延ばすことも理解できます。(下図)

つまり、日頃から4000 IUから8000 IUくらいのビタミンD3のサプリメントを摂取することは寿命を延ばす効果が期待できます。

図:ビタミンD3はカルモジュリンキナーゼキナーゼβ (CaMKKβ)を活性化し(①)、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化する(②)。AMPK活性化はNAD+/NADH比を高め(③)、サーチュイン1を活性化する(④)。AMPKはPGC-1α(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α)をリン酸化し(⑤)、さらにサーチュイン1で脱アセチル化されて活性化する(⑥)。サーチュイン1はFOXOファミリーなどの転写因子を脱アセチル化して活性化する(⑦)。活性化したPGC-1αはミトコンドリア新生を亢進し(⑧)、FOXOは抗酸化力などのストレス抵抗性を亢進する(⑨)。これらの作用は抗老化と寿命延長の効果を発揮する(⑩)。(図中のPはリン酸化、Acはアセチル基を示す)

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


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