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40)地中海料理は健康寿命を延ばす(その1):オートファジーの活性化

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術40

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【地中海料理は心臓病や認知症を予防する】

 国によってがんの種類も心臓病の発症率も異なります。この違いは食生活にあることは多くの研究者が認めています。それでは、どのような食事が良いかということになります。一般的には、「精製度の低い穀物や大豆や野菜や果物を多く摂取する」、「肉と動物性脂肪は少なくする」というのが健康的な食事のコンセンサスです。

肉や動物性脂肪の取り過ぎが肥満や動脈硬化を引き起こし、糖尿病や心臓病やメタボリック症候群を増やすことは良く知られています。赤身の肉や動物性脂肪の摂取が大腸がんや乳がんや前立腺がんなど欧米型のがんの発生リスクを高めると考えられており、近年の日本におけるこれら欧米型のがんの増加は食事が欧米化しているためだと言われています。

魚油に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)や大豆に含まれるイソフラボンのがん予防効果に関しては多くの研究があります。

日本食の場合は塩分が多いのが欠点ですが、欧米の食事に比べて魚や大豆製食品やキノコ類や海草類が多く、赤身の肉や動物性脂肪が少ないという点では健康的です。大豆製食品(豆腐や納豆など)や魚の油を多く摂取することは、がんや動脈硬化性疾患の予防に効果があります。

日本食以上に、循環器疾患やがんに対する予防効果が優れていると言われているのが地中海料理です。地中海料理とは、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペインなどのヨーロッパや北アフリカ諸国の地中海沿岸の料理で、野菜や果物や豆類や魚介類が豊富で、オリーブオイルをふんだんに使うのが特徴です。適量の赤ワインを飲むことも心血管リスクの低減に関与していると言われています。
 

地中海沿岸地域の人たちは、このような食生活のおかげで心臓病による死亡率が低いと言われています。地中海料理ががんやアルツハイマー病などの神経変性性疾患のリスクを減少させるという研究結果も出ています。
ギリシャの研究では、地中海式料理を多く食べている人は、全てのがんの死亡率が低下することが報告されています。(N Engl J Med. 348(26):2599-608.2003年)
 

西欧諸国において地中海式料理にすると、がんの発生率は大腸がんは25%、乳がんは15%、前立腺がんと膵臓がんと子宮内膜がんは10%、それぞれ減少するという試算もあります。(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 9:869–873.2000年)


【地中海料理はオートファジーを活性化する成分が豊富】

 地中海式の食事は、果物や野菜からの広範囲の抗酸化物質、ポリフェノール(レスベラトロール、プテロスチルベンなど)、スペルミジンの摂取、および魚介類(アスタキサンチン、健康な脂肪酸)の中程度から大量の摂取が特徴です。地中海料理とは対照的に、西洋型の食事は、不健康な脂肪酸(飽和脂肪酸やオメガ6系不飽和脂肪酸)、赤身の肉、お菓子、高度に加工された食品の大量消費により、健康に悪影響を与えています。
2010年以来、地中海式食事は、その有益な特性により、ユネスコによって人類の遺産と見なされています。

オリーブオイルにはポリフェノール類、フラボノイド、リグナンなどの抗酸化作用や抗炎症作用やがん予防効果を持った成分が豊富に含まれます。オリーブオイルには一価不飽和脂肪酸のオレイン酸が豊富で、一価不飽和脂肪酸は多価不飽和脂肪酸に比べて酸化されにくく、オレイン酸自体に様々な健康作用があります。

オリーブオイルに含まれるポリフェノール類として、オレウロペイン、チロソール、ヒドロキシチロソールなどが知られており、オリーブオイルの高い抗酸化作用はこれらに由来していると考えられています。
さらに、オレウロペインとヒドロキシチロソールはどちらもオートファジー(Autophagy)を活性化することが報告されています。
 

スペルミジンは、微生物、植物、動物を含むすべての生細胞に存在するポリアミンです。スペルミジンは、ピーマン、カリフラワー、ブロッコリー、ナッツ、小麦胚芽、キノコ、大豆などの植物由来食品に含まれます。チーズや赤ワインにも多く含まれます。

スペルミジンは、抗酸化作用、抗炎症作用、および心臓保護作用を発揮し、さらに高次の脳機能を維持する効果があります。外因性スペルミジンの投与がオートファジーを亢進して老化を抑制する作用が報告されています。
海藻類や魚介類に多く含まれるアスタキサンチンはカロテノイドの一種です。海洋微生物、藻類、真菌、酵母、エビやロブスターのような甲殻類、サケのような赤みがかった色の魚に含まれます。アスタキサンチンがオートファジーを活性化することが報告されています。
 

地中海料理はオートファジーを活性化する成分が豊富な食事で、この作用が抗老化や寿命延長と関連していることが指摘されています。


【オートファジーは細胞を若返らせる】

 細胞内のタンパク質は絶えず分解して新しいタンパク質と入れ替わっています。このタンパク質の若返りに重要な役割を担っているのがオートファジーという現象です。  
 

オートファジー(Autophagy)という用語はギリシャ語の「自分」(オート;auto)と「食べる」(ファジー:phagy)を組み合わせた用語で、文字通り「自分を食べる」という意味を持ちます。日本語では「自食作用」と訳されています。  
 

オートファジーは細胞内の一部を少しづつ分解する細胞内のリサイクルのようなものです。例えば、私たちは食事から1日50~100グラム程度のタンパク質を食べています。一方、私たちの体内では、1日に200グラム程度の自分のタンパク質をアミノ酸に分解し、それに相当するタンパク質を合成しています。つまり、口から食べているタンパク質より、ずっと多い量の自分のタンパク質を食べているのです(下図)。

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図:体内ではオートファジーによって1日に200グラム程度の自分のタンパク質をアミノ酸に分解し、それに相当するタンパク質を合成することによって、細胞内のタンパク質の若返りを行っている。  


定期的な断食(絶食)や継続的なカロリー制限を行うと体が若返ります。その理由は断食やカロリー制限をするとオートファジーが亢進して、細胞が若返るからです。
 

オートファジー (Autophagy) は細胞内タンパクや小器官を二重の脂質膜で包み込み、これをリソソームに輸送して分解する仕組みです。
 

細胞が飢餓条件下におかれると、細胞質に隔離膜と呼ばれる扁平な小胞が現れます。その後、膜は細胞質内の異常タンパク質や細胞内小器官を取り込みながら伸長し、先端どうしが融合して、オートファゴソームが形成されます。 オートファゴソームがリソソームと融合して内包物は分解されます。自己消化で得られたアミノ酸や脂肪酸などは栄養源として再利用されます(下図)。

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図:小胞体から分離した隔離膜と呼ばれる扁平な小胞が現れ(①)、異常なタンパク質や細胞内小器官を取り込む(②)。その後、膜は細胞質を取り込みながら伸長し、先端どうしが融合して、オートファゴソームが形成される(③)。 オートファゴソーム内にはミトコンドリアなどの大きな細部内器官も含まれる。オートファゴソームがリソソームと融合すると(④)、内包物は分解される(⑤)。自己消化で得られたアミノ酸、脂肪酸、核酸は栄養源として再利用される。


細胞は栄養飢餓に陥るとオートファジーにより細胞質内のタンパク質や小器官(ミトコンドリアや小胞体など)の一部を分解および再利用し、細胞の生存に必要なエネルギーやアミノ酸を得ています。
 

さらに、オートファジーを使い老廃物や損傷したミトコンドリア、病原体、異常タンパク質を除去しており、それにより神経変性疾患、がん、糖尿病、心不全、各種の炎症や感染症など、さまざまな疾患の発症を抑制していることが明らかになっています。つまり、オートファジーは細胞内の老化した成分を除去して細胞を若返らせる作用があります。断食が細胞を若返らせるメカニズムもオートファジーの亢進が重要です。
 

オートファジーが抑制されると腫瘍が発生しやすくなります。これは、細胞内に異常タンパク質や不良ミトコンドリアが蓄積することが引き金になると考えられています。


【ミトコンドリアはオートファジーで若返っている】

 自動車が故障して止まったり、車体に傷をつけた場合、人間が修理しなければ元の状態に戻れません。しかし、生き物は、傷ついたり病気になっても、自分で元の状態に治すことができます。骨折したり、怪我をしても、その傷は時間が経つと自然に治ります。生き物には、再生力や回復力や治癒力があるからです。

細胞は、自分(細胞)を若返らせるようなこともやっています。例えば、ダメージを受けたり古くなったミトコンドリアを廃棄し、新しいミトコンドリアを増やすことによって、細胞内のミトコンドリアを若返らせています。

ミトコンドリアの完全性を維持し、正常なミトコンドリア機能を確保するために、細胞内ではミトコンドリアの品質を管理するメカニズムが存在します。細胞に備わったミトコンドリア品質管理システムを利用して、ミトコンドリアの正常な機能を回復させ、損傷したミトコンドリアの構成要素を排除および交換することにより、ミトコンドリアの機能を正常化させ、病的な細胞を正常に戻すことができます。
 

オートファジーの機序でミトコンドリアを分解することをミトファジー(Mitophagy)と言います。
Mitophagyはミトコンドリア(Mito)をオートファジー(Autophagy)で分解するという意味です。カロリー制限や絶食はミトファジーを亢進して異常なミトコンドリアの除去を亢進します。


【スペルミジン(Spermidine)はオートファジーを促進して細胞を若返らせる】

 ポリアミンは2つ以上のアミノ基(-NH2)を持つ物質で体内でアミノ酸から合成されます。炭化水素基とアミノ基が結合した化合物はアミンと呼ばれます。ポリ(poly)は複数を意味する接頭語で、ポリアミンというのは複数(2つ以上)のアミノ基を有する炭化水素です。
 

体内には20種類以上のポリアミンが存在しますが、代表的なポリアミンとして スペルミジン,スペルミン,プトレスシンが挙げられます(下図)。

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図:ポリアミンは2つ以上のアミノ基(-NH2)持つ。


ポリアミンはすべての動物やヒトの細胞内で,成長期に盛んに合成されます。 核酸やタンパク質の合成を促進する作用があります。ポリアミンがないと細胞は増殖ができません。ポリアミンはアミノ基によるプラスの電荷で、核酸類と強く結合しており、核酸の立体構造の維持に関与すると考えられています。生体内では前立腺、膵臓、唾液腺など、精子や酵素を作る組織に多く含まれます。
 

さらに、スペルミジンは発毛促進作用、抗炎症作用に基く動脈硬化抑制作用など様々な機能を合わせ持っています。髪の毛や爪の成長を促進し、艶を促進するので、美容やアンチエイジング(抗老化)のサプリメント素材としても注目されています。

スペルミジンの外来性補給は、マウスを含むさまざまなモデル生物の加齢および加齢性疾患にさまざまな有益な効果を発揮します。たとえば、スペルミジンの摂食は寿命を延ばし、心臓と神経を保護し、抗腫瘍性免疫応答を刺激し、メモリーT細胞形成を刺激することで免疫老化を回避する効果があります。
 

これらの老化防止効果の多くは、オートファジーの活性化を通じてタンパク質恒常性を確保するスペルミジンの作用と関連があると考えられています。
 

がん、神経変性、心血管疾患などの加齢に伴う状態は、有毒な物質の細胞内蓄積に直接関係しており、オートファジーによるその除去は、加齢性疾患の発症と進展を予防します。

スペルミジンは、オートファジーの主要な負の調節因子の1つであるEP300を含むいくつかのアセチルトランスフェラーゼの阻害を通じてオートファジーを誘発します。
 

動物実験で、オートファジーを起こしにくくする遺伝子改変は、寿命に対するスペルミジンの有益な効果を無効にします。これはスペルミジンの寿命延長効果にオートファジーの活性化が関与していることを意味します。


【体内のスペルミジン量は加齢とともに減少する】

 スペルミジンは動物や植物や微生物などほとんどの生き物に存在するので、私たちは食事からスペルミジンを摂取しています。私たちは、1日に平均10mg程度のスペルミジンを食事から摂取していますが、食事の内容によって食事から摂取するスペルミジンの量は大きな個人差があります。

胎児や新生児の細胞ではスペルミジンを含めポリアミンの合成能力が高く、細胞の増殖能も高くなっています。また,ポリアミンは母乳にも多く含まれている事がわかっています。
 

しかし、加齢とともにポリアミンの体内産生量は減少します。年齢を重ねるごとにスペルミジンやスペルミンを合成する酵素の量や活性が低下するためです。したがって、高齢者がポリアミンの原料であるアルギニンやオルニチンをサプリメントとして摂取しても,スペルミンやスペルミジンの合成量や体内量が増加するわけではありません。したがって,スペルミンやスペルミジンは高齢者では不足する傾向にあります。これが、スペルミジンを多く含む食品やサプリメントを摂取するメリットの理由です。


【スペルミジンの多い食事は寿命を延ばす】 

 前述のように、スペルミジンはオートファジーを刺激する作用があります。細胞のオートファジーを促進すると、老化した細胞成分や細胞内小器官を若返らせる効果があります。

スペルミジンの外来性の補給は、酵母、線虫、ハエ、マウスなどの多くの種において寿命と健康寿命を延ばします。人間でも、スペルミジンレベルは加齢とともに低下し、内因性スペルミジン濃度の低下と加齢に伴う生体機能低下との関連の可能性が示唆されています。
 

最近の疫学データはこの概念を支持しており、スペルミジンが豊富な食品によるポリアミンの摂取増加は、心血管疾患とがんに関連する死亡率を減少させることを示しています。
 

食事からのスペルミジンの摂取が多いと寿命が延びることが複数の疫学研究で明らかになっています。以下のような報告があります。

Higher spermidine intake is linked to lower mortality: a prospective population-based study.(スペルミジン摂取量の増加は死亡率の低下に関連している:人口ベースの前向き研究)Am J Clin Nutr. 2018 Aug 1;108(2):371-380.

【要旨の抜粋】
背景: いくつかの動物モデルにおいて、スペルミジンの投与が生存率を増加することが示されている。

目的: 食事中のスペルミジン含有量とヒトの死亡率との間の潜在的な関連性を検討した。

方法: この住民参加の前向きコホート研究には、45〜84歳の829人の参加者が含まれ、その49.9%が男性であった。食事は、1995年、2000年、2005年、および2010年に栄養士が実施した食物摂取頻度アンケート(2540項目の評価)を繰り返して評価された。1995年から2015年までの追跡調査中に、341人が死亡した。

結果: すべての原因による死亡率(1000人年あたりの死亡数)は、スペルミジン摂取量が少ない下位3分の1の群が40.5(95%信頼区間:36.1〜44.7)、中央の3分の1の群が23.7(95%信頼区間:20.0〜27.0)、摂取量の多い上位3分の1の群が15.1(95%区間:12.6〜17.8)でった。年齢、性別、およびカロリー摂取量を調整した20年間の累積死亡率はスペルミジン摂取量が少ない下位3分の1の群が0.48(95%信頼区間:0.45〜0.51)、中間の群が0.41(95%信頼区間:0.38〜0.45)、摂取量の多い上位3分の1の群が0.38(95%信頼区間:0.34〜0.41)であった。
スペルミジン摂取量が平均から1-SD(標準偏差)の増加当たりの、年齢、性別、カロリー比を調整した全死因死亡のハザード比は0.74(95%信頼区間:0.66〜0.83; P <0.001)であった。
スペルミジン摂取量の上位3分の1と下位3分の1の群の間の死亡リスクの差は、5.7歳(95%信頼区間:3.6〜8.1歳)の年齢差に相当するものであった。

結論: 私たちの調査結果は、スペルミジンが豊富な食事が人間の生存率の増加に関連しているという概念に疫学的な支持を与えている。


スペルミジンの摂取量が多いと、45歳以上の集団で、20年間の死亡率が半分以下になることを示唆しています。スペルミジンを多く摂取すると、5歳以上も延命する可能性を示唆しています。

ポリアミンの分子量は250以下で、低分子のアミノ酸と同程度なので、小腸から効率よく吸収され、血中に移行して生体内で効率良く利用されます。また、スペルミジンやスペルミンを分解する酵素は腸内には無いため、大部分がそのままの形で腸管から吸収され、全身の組織や臓器に分布される事がわかっています。

スペルミジンの体内での合成量は加齢とともに低下します。スペルミジンの多い納豆、味噌、チーズ、鶏のレバー、マッシュルーム、マンゴー、ドリアンなどを多く食べることは有効です。さらにサプリメントでの補充も有効です。サプリメントとしてはスペルミジン含有の多い小麦胚芽を材料にして、スペルミジンを濃縮した製品が販売されています。

このようなサプリメントや食事から、スペルミジンを1日に20mg程度摂取すると、認知症や心臓疾患の発症を予防し、寿命を延ばす効果が期待できます。髪の毛や爪の成長促進や艶を高めるので、美容にも有効です。
 

地中海料理はスペルミジンが豊富で、さらにオリーブオイルやアスタキサンチンもオートファジーを活性化するので、老化抑制と寿命を延ばす効果が期待できると言えます。(下図)。

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図:ダメージを受けたり老化したミトコンドリアはミトファジーによって分解される。地中海料理にはスペルミジンなどオートファジーを活性化する成分が豊富で、異常を起こしたミトコンドリアを分解して細胞を若返らせる効果がある。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ

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