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135)肉食ががんを増やす理由:鉄と酸負荷と腸内細菌

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術135

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【赤身肉と加工肉は発がん性がある】

世界保健機関(WHO)の付属組織で人間への発がんリスクの評価を専門に行っている国際がん研究機関(IARC)は、発がんリスクを5段階に分けて報告しています。
 
たばこ、紫外線、B型・C型肝炎ウイルス、放射線、アスベストなどは発がんリスクがある(Group 1)と分類されています。ディーゼルエンジンの排ガスは発がんリスクの可能性が高い(Group 2A)、ガソリンエンジンの排ガスは発がんリスクの可能性がある(Group 2B)に分類されています。
 
国際がん研究機関(IARC)は2015年10月26日に、ハムやベーコンなどの加工肉を毎日50g食べ続けると大腸がんの発生率を18%高めるという結論を発表しています。
 
10か国22人の専門家による会議で赤身肉(牛・豚・羊などの肉)と加工肉の人への発がん性についての評価が検討され、その結果、加工肉について「人に対して発がん性がある(Group1)」と、主に大腸がんに対する疫学研究の証拠に基づいて判定されました。
 
前述のように、発がんリスクのGroup 1には、たばこ、紫外線、B型・C型肝炎ウイルス、放射線、アスベストなどが含まれています。つまり、発がん作用が確実な部類です。
 
赤身肉については疫学研究からの証拠は限定的ながら、メカニズムを裏付ける相応の証拠があることから、「おそらく人に対して発がん性がある(Group2A)」と判定しています。
 
すでに2007年に世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)による評価報告書で、赤身肉と加工肉の摂取は大腸がんのリスクを上げることが「確実」と判定されており、赤身肉は調理後の重量で週500g以内、加工肉はできるだけ控えるように、と勧告しています。つまり、ステーキやハンバーグを週に2回以上、牛丼を毎日1回食べるような食生活は大腸がんや膵臓がんや乳がんなど西洋型のがんの発生リスクを高めることは確実です。
加工肉(ソーセージ、ハム、ベーコン、ホットドッグなど)や赤身肉(牛肉や豚肉や羊肉など)は膵臓がんや乳がんの発生率も高めます。
 
ハワイあるいはロサンゼルス在住の白人、ハワイ原住民、日系など5つの民族グループに属する男女計約20万例を対象として、食事と膵がん発生率との関係を検討した研究結果が報告されています。
 
平均7年間の追跡期間に膵がんが発生したのは482例で、加工肉の摂取量が最も多いグループは最も少ないグループよりも膵がんリスクが67%高く、また赤身の豚肉および牛肉の摂取量が多いグループは約50%高かったという結果でした。鶏肉、魚肉、乳製品および卵の摂取量のほか、脂肪ないしコレステロールの総摂取量と膵がんリスクとの間には何ら関係は認められなかったということです。 
 
ある疫学研究では、赤身肉を1日1.5食分摂取していた女性は、1週間に3食分未満の女性に比較してホルモン受容体陽性乳がんの罹患率が約2倍高かったという報告があります。



【鉄は発がんリスクを高める】

鉄は様々な生体反応に必須の物質ですが、過剰になると活性酸素発生の触媒作用を発揮することによって細胞の酸化傷害を引き起こし、発がんのリスクを上げることが明らかになっています。 
 
鉄の代謝異常で細胞内に鉄が多く蓄積する遺伝性疾患や、慢性炎症などでフリーの鉄イオンが増える状況では、細胞のがん化が促進することが明らかになっています。
 
人間では定期的に除鉄を行うとがん発生が抑制されることが明らかになっています。つまり、献血のようにして定期的に瀉血して、体内の過剰な鉄を減らすことはがん予防に有効であることが示されています。さらに、鉄による酸化傷害を防ぐことは細胞の老化の進行の抑制にも有効です。 
 
細胞内ではミトコンドリアで酸素を使ってエネルギー(ATP)を産生する過程で活性酸素が発生します。2価のフリーの鉄は過酸化水素(H2O2)と反応してより有毒なヒドロキシルラジカルを生じ、DNA障害、脂質酸化、細胞死などを引き起こします。 
 
鉄は電子の授受を容易に行いうることから種々の酵素の活性中心として働いており,地球上のほぼすべての生物にとってその生存に必須な元素です。 しかし一方で,二価鉄(Fe2+)が過剰に存在すると,その高い反応性ゆえにフリーラジカルの産生を促進し細胞に対する傷害性をもたらすということです。 つまり、鉄は「両刃の剣」であり、鉄は不足しても過剰でも生体に悪影響を及ぼすため、生体においては鉄の量がつねに適切な量になるよう厳密に調節される必要があるのです。
 
赤身の肉に多く含まれるヘモグロビンやミオグロビンのヘムやヘミン(2価の鉄元素とプロフィリンの錯体)がフリーラジカルの発生を促進させて、発がんリスクを高めるということです。ヘムやヘミンは飽和脂肪酸と反応して脂質ラジカルの産生を高めるので、動物性脂肪と赤身の肉は、相乗的に発がんを促進することになります。
 
赤身肉より加工肉の発がん性が高いのは、保存料や発色剤として使用されている「亜硝酸ナトリウム」などの添加物と肉の成分が反応して発がん作用のある物質を生成するからです。添加物を使用しないで加工した肉であれば、赤身肉に起因する発がんリスクのみになります。

多くのがんの発生と循環器系疾患やその他多くの病気の予防の観点から加工肉と赤身の肉の摂取は減らす方が良いことは確かです。これらを食べるときは、野菜や果物を一緒にたくさん食べると、発がんのリスクは低減できます。オリーブオイルは酸化しにくいので、調理用の油は他の油よりオリーブオイルが推奨されます。
 
鶏肉や魚は発がんリスクを高めません。タンパク質は鶏肉や魚や豆類から摂取することが推奨されます。



【肉食は酸負荷を高めてがんの発生を促進する】

人間の体は弱アルカリ性です。体は酸性の物質を多く作っていますが、肺は呼吸により炭酸ガスとして排泄し、腎臓は尿を酸性にすることにより排泄しています。したがって、腎臓や肺の働きが低下すると、体は酸性に傾きます。
 
体内の酸塩基平衡は食事の影響を受けることが知られています。食品は栄養成分に応じて体に酸性またはアルカリ性の負荷をかけますが、体はこの負荷を緩衝して、安定した血液pHを維持します。一般に、「野菜や果物は体をアルカリ化し、肉は酸性化する」と言います。
 
高タンパク食品(肉、魚、乳製品)は有機酸と硫酸の生成を増加させ、酸の負荷を増加させます。野菜や果物のようにクエン酸カリウムやリンゴ酸カリウムなどのカリウム塩が豊富な食品は、重炭酸カリウムに代謝され、体液をアルカリ化する効果があります。

果物や野菜などのアルカリ性食品が少なく、肉や魚や乳製品などの酸性食品を多く含む食事は、血液が酸性に傾いた状態(代謝性アシドーシス)を導き、そのことが様々な病気の発症に影響を与える可能性が指摘されています。
 
食事の酸塩基バランスを表す指標に潜在的腎臓酸負荷(potential renal acid load : PRAL)があります。PRALは以下の式で算出されます。
 
PRAL(mEq/d)=0.4888×たんぱく質(g/d)+0.0366×リン(mg/d)-0.0205×カリウム(mg/d)-0.0125×カルシウム(mg/d)-0.0263×マグネシウム(mg/d)
 
つまり、食事中のタンパク質とリンの量は潜在的腎臓酸負荷(PRAL)を増やし、カリウム、カルシウム、マグネシウムはPRALを減らします。
 
動物性タンパク質は、イオウ含有アミノ酸であるメチオニンとシステインを多く含み、体内で硫酸と水素イオンを形成するため、食事の酸の最大の供給源です。動物の肉や卵も、体内で水素イオンを形成する成分を多く含みます。動物性タンパク質、特に肉、卵、チーズは、体内で大量の酸を形成する原因となります。
 
果物や野菜は、クエン酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩などの有機アニオンを多く含み、体内で重炭酸塩に変換されます。重炭酸塩は、酸を中和する塩基です。
 
したがって、動物性食品は正の潜在的腎酸負荷(PRAL)ですが、植物性食品は負のPRALを持っています。さまざまな食品のPRALを下の表に示します。一般的に、肉、魚、乳製品、穀類は食事性酸負荷を高め、野菜と果物と豆類はアルカリ性食品と言えます。油脂類は酸負荷はほとんどありません。


表:様々な食品の可食部100g当たりの潜在的腎臓酸負荷(potential renal acid load:PRAL)を示す。PRALがプラスは酸性食品で、マイナスはアルカリ食品になる。(参考:Nutrient. 2020 Apr; 12(4): 1007)


食事の潜在的腎臓酸負荷を測定してがん発生率との関連を解析した研究があります。例えば、9万人以上のアメリカ成人を平均9年間追跡したコホート研究では、この追跡期間に337人が膵臓がんになり、食事の酸負荷との関連を解析しています。その結果、食事の酸負荷が多いほど、膵臓がんの発症リスクが高くなることが示されました。
(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2021 May;30(5):1009-1019.)

膵臓がんのリスク要因として飲酒や喫煙や糖尿病や肥満があります。これらの要因があるとより若い時点で膵臓がんになります。高齢者の膵臓がんは加齢(高齢)という要因が最も強くなります。
 
この研究で、「食事性酸負荷と膵臓がんのリスクとの正の関連性は、65歳以上の被験者よりも65歳未満の被験者でより顕著であった」という結果が得られています。発がんにおける食事性酸負荷の影響が、加齢の影響が少ない若い人に相対的に大きくなるためです。
 
食事の酸負荷が乳がんのリスクに関連していることも報告されています。食事の潜在的腎臓酸負荷(PRAL)が高い上位4分の1の群は、PRALが低い下位4分の1の群と比べて、乳がんの発症リスクが1.21倍になるという結果が得られています。(Int J Cancer. 2019 Apr 15;144(8):1834-1843.)
 
酸負荷が大きい食事はいろんながんの発生リスクを高める可能性があります。さらに最近の研究では、食事性酸負荷が動脈硬化や糖尿病など生活習慣に起因する疾患に対して影響を及ぼす可能性が示唆されています。

したがって、がんや動脈硬化や糖尿病などの予防において、アルカリ性食品によって食事性の酸負荷を減らし、血液や体液のアルカリ化能を高めることはメリットがあります。



【肉食は腸内の悪玉菌を増やす】

腸内細菌とは、腸の中に棲み、様々な働きをしている菌のことです。腸内細菌はビタミンやミネラル、タンパク質などを合成しながら、腸の活動を調整し、人間の生命維持活動に役立っています。
 
その腸内細菌の中で、人間の健康にとってよい働きをするものを善玉菌(有益菌)、悪い働きをするものを悪玉菌(有害菌)と呼んでいます。善玉菌の代表はアシドフィルス菌(Lactobacillus acidophilus)とビフィズス菌(Bifidobacterium bifidum)です。これらは乳酸桿菌属(Lactobacillus)の細菌で、乳酸を作る腸内細菌です。
 
反対に悪玉菌の代表と言えばウェルシュ菌やクロストリジウム菌などの腐敗菌です。腐敗菌は便秘や下痢の原因になり、タンパク質を分解して発がん物質を作ったり、老化を早めたりすると言われています。
 
腸内細菌は、腸管内の物質代謝を通して人の発がんに重要な影響を及ぼします。ウェルシュ菌やクロストリジウム菌などのいわゆる悪玉菌といわれている腐敗菌は、腸内のタンパク質やアミノ酸を腐敗させて発がん物質を産生します。一方ビフィズス菌などの乳酸菌は、悪玉菌の増殖を抑制し、また発がん物質の産生を抑制し、免疫力増強作用なども有しているため、大腸がんのみならず多くの種類のがんの予防に有効であることが知られています。(下図)


図:ウェルシュ菌やクロストリジウム菌などのいわゆる悪玉菌といわれている腐敗菌は、腸内のタンパク質やアミノ酸を腐敗させて発がん物質を産生する。一方ビフィズス菌などの乳酸菌は、悪玉菌の増殖を抑制し、免疫力増強作用なども有している。乳酸菌製品(プロバイオティクス)や乳酸菌の成長を促進するプレバイオティクス(フルクトオリゴ糖など)は腸内環境を良くして、様々な健康作用を発揮する。

 以上のように、肉食は、鉄の摂取を増やし、体の酸性化を促進し、腸内細菌の腐敗菌(悪玉菌)を増やすなど、様々な理由でがんの発生を増やすと言えます。

一方、野菜や豆類の多い食事は、体をアルカリ化し、食物繊維が腸内細菌の善玉菌を増やし、フラボノイドなどのポリフェノールが体の酸化や老化を防ぐなど、多くの理由でがんや老化性疾患の予防に有効です。

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