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39)メラトニンはサルコペニアを予防する

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術39

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【加齢と共に筋肉量が減っていく】

 加齢に伴い筋肉量の減少や諸臓器機能の低下が進行し、体は虚弱になり、いずれ自立できなくなって、最終的には寿命が尽きます。
 

加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下した「虚弱」な状態を「フレイル」と言います。フレイルは「Frailty(虚弱)」の日本語訳です。健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態を指しますが、適切な治療や予防を行うことで要介護状態に進まずにすむ可能性があります。
 

加齢によって筋肉量が減少し、筋力低下や身体機能が低下することをサルコペニアと言います。サルコペニア(Sarcopenia)はギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ(sarco)」と喪失を意味する「ペニア(penia)」を合わせた造語です。主に加齢により全身の筋肉量と筋力が自然低下し、身体能力が低下した状態と定義されています。

一般に、人の筋肉量は20歳代をピークにして加齢とともに徐々に減少していく傾向があり、60歳を超えるとその減少率は加速します。
 

体重に占める骨格筋の量の平均は20歳代で40〜45%程度ですが、40歳代で30〜35%、70歳代で25%程度になります。体重60kgの人が、20歳代で25kgの筋肉量が70歳代で15kgになるイメージです。50年間で筋肉量が40%減少する計算です。一般的に30歳代以降は1年間に0.5%から1%くらいの割合で筋肉量は加齢とともに減少すると言われています。

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図:筋肉量は20歳代から30歳代をピークにして加齢とともに減少する。その減少率は60歳以降顕著になる。


筋肉量が減ると、歩く速度が低下し、転びやすくなります。その結果、歩くときに杖を使うようになります。さらに筋肉量が低下すると自力で歩行できなくなり、車椅子が必要になります。さらに筋力が低下すると寝たきりになります。

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図:加齢と共に筋肉量が減少すると、歩行時につまずいて転ぶようになり、杖が必要になる。さらに筋力が低下すると自立歩行が困難になって車椅子や寝たきりになる。

 

筋力の低下の度合いは個人差があります。若い頃から運動をして筋肉を鍛えている人は90歳を超えても自分で歩くことができます。一方、日頃から運動していないと、70歳代から杖や車椅子が必要になります。筋力が低下すると転びやすくなり、骨折して寝たきりになることもあります。
 

加齢による筋力の低下、特に下半身の筋肉(腸腰筋や大腿四頭筋)の減少を防ぐことが重要です。その方法として、運動(有酸素運動+レジスタンス運動)とタンパク質の豊富な食事が有効です。その他、筋肉のミトコンドリアの働きを高めるNAD+前駆体(ニコチンアミド・リボシドやニコチンアミド・モノヌクレオチド)のサプリメントも有効です。メラトニンがサルコペニアを予防するという報告もあります。


【メラトニンはサルコペニアを予防する】

 サルコペニアの予防は、日頃の運動(有酸素運動+レジスタンス運動)とタンパク質の多い食事が有効です。薬物で治療が可能であれば良いのですが、現時点でサルコペニアの予防や治療に有効な薬は知られていません。サプリメントのメラトニンにサルコペニアを予防する効果が指摘されています。以下は最近の総説論文です。

The role of melatonin in sarcopenia: Advances and application prospects(サルコペニアにおけるメラトニンの役割:進歩と応用の展望)Exp Gerontol. 2021 Jul 1;149:111319.
【要旨の抜粋】
サルコペニアは加齢性疾患であり、高齢者の深刻な健康問題になっている。転倒や脱力感や機能障害のリスクが大幅に高まるだけでなく、自分の世話をする能力も低下する。サルコペニアは、高齢者の生活の質と疾患の予後に直接影響を与える。しかし、この病気に対する薬物介入は不足している。

メラトニンは、体内で生成される生物学的ホルモンであり、抗酸化作用など多くの生物学的効果がある。もともとは睡眠補助剤として使用されていたが、現在では新しい適応症の数が増えている。サルコペニアへの効果も注目され始めている。
 

メラトニンは骨格筋細胞のミトコンドリアを保護し、筋線維の数を維持できることが知られている。老化した筋肉組織の病理学的変化を部分的に逆転させ、サルコペニア患者の筋力を高める。

細胞の老化の過程において多数のマイクロRNAが発現し、サルコペニアなどの加齢性疾患の生物学的要因となっている。多くの研究がメラトニンとマイクロRNAの間の相互作用を発見し、メラトニンがサルコペニアの治療に使用できることを示唆している。
 

高齢者における炎症関連miRNA-483の発現増加は、メラトニン分泌の年齢依存性低下の原因である可能性があり、サルコペニアの発生に関与している可能性がある。メラトニンはサルコペニアと密接に関連しており、サルコペニアに幅広い効果があり、サルコペニアの予防と治療に応用できる可能性がある。


細胞の老化にマイクロRNAが関与していることが明らかになっています。マイクロRNA(miRNA)はゲノムにコードされる約22塩基の小分子RNAであり、それ自体に対し部分相補的な配列をもつ標的mRNAからの翻訳を抑制することにより遺伝子発現を制御しています。老化に伴うマイクロRNAの発現がメラトニンの産生を低下させる可能性を指摘しています。メラトニンのサプリメントでの補充がサルコペニアを改善する可能性を指摘しています。
以下のような論文もあります。

Melatonin as a Potential Agent in the Treatment of Sarcopenia(サルコペニアの治療における潜在的な薬剤としてのメラトニン)Int J Mol Sci. 2016 Oct; 17(10): 1771.

【要旨】
世界人口の高齢化が加速していることを考えると、サルコペニアは今世紀に流行する可能性がある。この状態には現在、予防や治療の手段が無い。
 

メラトニンは非常に効果的で遍在的に作用する抗酸化物質であり、フリーラジカルを消去する作用があり、通常はすべての生物で産生される。
 

この分子は、子供の抗けいれん作用から慢性閉塞性肺疾患の肺への保護効果まで、膨大な数の生物学的プロセスに関与している。このレビューでは、メラトニンがサルコペニアを特徴付ける各症状を軽減または予防するのに有益であることを示唆するデータを要約する。

世界的な規模で人口の高齢化が進行しています。老化は、ゆっくりと持続的な機能低下を引き起こす多因子プロセスです。この段階的な生理学的悪化は、生活の質を損ない、介護者や医療提供者への要求を高め、社会の負担を増やします。
 

すべての退行性プロセスの中で、可動性の制限(運動障害)の発生は最も一般的なものの1つです。この運動障害は、サルコペニアと呼ばれる加齢に伴う筋肉量の減少と関連しています。
 

サルコペニアは筋肉量の低下を指すだけではなく、加齢に伴う骨格筋の質の低下、血液循環や酸素消費能力の低下、筋肉組織への脂肪浸潤や骨密度の低下なども関連しています。
 

サルコペニア筋は、主にミトコンドリア機能障害とラジカル捕捉能力の低下による酸化ストレスに起因する細胞機能障害を示します。また、衛星細胞の数の大幅な減少による細胞代謝回転の減少、プロテアソームのタンパク質分解活性の変化、オートファジー調節不全、さらにはアポトーシスの変化も含まれます。
 

メラトニンがサルコペニアに関連するいくつかの障害の発症を抑制する可能性が複数の研究者から指摘されています。メラトニンにはさまざまな有益な効果があり、老化した人口のサルコペニアに必然的につながる有害なプロセスの発達を遅らせたり、重症度を軽減したりする可能性があります。サルコペニアの軽減に関するメラトニンの有効性の証拠が増えています。


【メラトニンは細菌や植物にも存在する】

 メラトニンは細菌やプランクトンや植物を含めて、自然界に広く存在し、生物の進化において、最も古くから存在する生体活性物質の一つと考えられています。
 

メラトニンは多くの生物において、睡眠の制御や体の日内リズムの調整に働いていますが、その他にも多彩な生理活性を持っています。
 

メラトニンは光を感知して体内に昼夜のシグナルを送るセンサーとして働きます。哺乳動物では、メラトニンは光刺激を受けた視交叉上核からのシグナルによって脳の松果体から分泌され、視床下部に作用して睡眠が始まります。
 

抗酸化物質としては、自然界で最も強力なフリーラジカル消去活性を有すると言われています。植物では、油の多い種子に多く含まれ、紫外線が多く当たる植物に多いという報告があります。   

メラトニンは細胞の生体防御やストレス抵抗性や増殖や生存などに重要な働きを行っているのですが、その作用機序などは十分に解明されていません。いずれにしても、生物進化の過程において、かなり早い段階からメラトニンが重要な生理作用を担ってきたことは確かです。人体においても多彩な健康作用が確認されています。(下図)。

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図:メラトニンには多彩な健康作用が報告されている。(参考:Ital J Pediatr. 2013; 39: 61.[PMCID: PMC3850896])


【メラトニンは日本ではサプリメントとして認可されていない】

 世の中には何千、何万という種類のサプリメントが販売されています。抗老化や若返りの効能において、メラトニンはかなり上位にくるサプリメントです。個人的意見としては、トップに位置づけても良いと思うほどエビデンスがあり、その研究論文は最近も増えています(下図)。

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図: PubMed(アメリカ国立医学図書館の国立生物工学情報センターが運営する医学・生物学分野の学術文献検索サービス)で「Melatonin」で検索すると28000件以上の論文がヒットする(2021年9月時点)。メラトニンが発見された1958年の論文から、1996年には年間500報を超え、最近では1年間に1800以上のメラトニンに関する論文が発表されている。


米国ではサプリメント(dietary supplement)として販売されており、ドラッグストアーなどで誰でも容易に購入できます。
 

日本ではメラトニン製剤は医薬品に区分されているためサプリメントとしては製造や販売はできません。

メラトニンを利用する方法として、個人輸入で入手するか、米国渡航時に入手するなどがあります。個人使用の場合は、原則として1度に2ヶ月分までは輸入できることになっています。インターネット上では、メラトニンの個人輸入を代行するサイトも数多くあります。
 

メラトニンはがんの発症を予防し、感染症に対する抵抗力を高め、抗老化作用や寿命延長作用など多くの健康作用があります。加齢とともに体内でのメラトニンの産生量は低下します。
サプリメントで1日10mgから40mg程度のメラトニンを補充することは十分な根拠があります。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ

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