153)夜間のスマホは乳がんを増やす
体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術153
ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。
【光の強さが発がん率に影響する】
マウスなど動物に化学発がん剤を投与してがんを発生させる実験や、がん細胞を移植する実験で、動物が受ける光(照明)の強さががん細胞の発生や増殖に影響することが指摘されています。
例えば、以下のような報告があります。
マウスを使った移植腫瘍の実験で、マウスを入れるケージ(cage:マウスを飼育するカゴ)を棚に並べて置きます。ケージが置かれた場所によってマウスが受ける光強度が違ってきます。ラック(棚)の上部に置かれたケージは天井の光源に近いため、マウスが受ける光強度は強くなるという関係です。
割り当てられたケージ位置での2週間の順応期間の後、動物に悪性黒色腫細胞または肺がん細胞のいずれかを皮下移植しました。腫瘍細胞移植の18日後(悪性黒色腫)または21日後(肺がん)に腫瘍の重量を測定しました。その結果、照明が中等度の場合が最もがん細胞の増殖を抑制され、照明が強い場合と弱い場合は同様にがん細胞の増殖が促進される結果でした。
【明るい部屋で眠る女性は太りやすい】
寝室の照明やテレビをつけっぱなしにして眠る女性は、太りやすい可能性があるという研究結果が、米国立環境衛生科学研究所から報告されています。
この研究は、睡眠中の人工光への曝露が肥満のリスクに関連しているかどうかを明らかにする目的で行われました。2003年7月から2009年3月までの間に米国全50州およびプエルトリコで登録された35〜74歳の女性を対象とし、がんまたは心血管疾患の病歴が無く、交代制勤務者でなく、昼寝をしない、妊娠していない43,722人の女性(平均年齢55.4歳)を対象に解析されました。
人工光への暴露の程度は、試験の登録時に夜間の睡眠時の人工光の状況を、「光なし」、「小さな光」、「部屋の外の光」、「テレビをつけているか明かりをつけたまま」に分類して記録し、平均で5.7年間追跡しました。
分析の結果、何らかの照明をつけたまま眠っていた女性では、そうでない女性に比べて肥満リスクが19%高いことが示されました。特に、就寝中に寝室の照明やテレビをつけっぱなしにしていた女性では、照明やテレビをつけないで寝た女性に比べて、5年間で体重が5kg以上増える確率が17%高く、過体重リスクは22%、肥満リスクは33%高かったという結果でした。
女性の体重増加には、照明の強さも影響しました。例えば、照明やテレビとは異なり、光が弱い常夜灯の使用と体重増加との間に関連はみられませんでした。さらに、食生活や身体活動などを考慮しても、これらの関連に変わりはなかったことから、就寝中の照明を消すことが女性の体重増加や肥満の予防に重要な可能性が示されました。
夜間の人工照明によって、自然な睡眠・覚醒サイクルが乱れる可能性があり、それが体の代謝やホルモン分泌や自律神経などにも影響して、肥満になりやすい状況になる可能性が推定されています。肥満はがんや糖尿病のリスクにもなるので、近代におけるがんや糖尿病の増加の原因の一つとして「夜間の人工照明の曝露」は重要だという指摘もあります。
【メラトニンは加齢によって分泌量が低下する】
メラトニンは1958年にエール大学のLernerらによって牛の脳の松果体から単離され、1959年に構造がN-アセチル-5-トリプタミン(N-acetyl-5-methoxytryptamine)と決定された松果体ホルモンです。松果体は脳のほぼ真ん中にある松かさに似たトウモロコシ1粒くらいの大きさの器官です。
メラトニンは睡眠覚醒サイクルなどの概日リズム調節に重要な役割を果たしていることが明らかにされています。夜暗くなると、松果体からメラトニンが分泌され始め、血中のメラトニンが増えると睡魔が襲ってきます。そして、生体リズムは睡眠や体息に適したものに調整されます。
朝、太陽光線が目に入ると、松果体にその刺激が伝わりメラトニンの分泌が抑制されます。 これによって覚醒スイッチがONとなり、諸々の生体機能は昼間の活動に適応した状態になります(図)。
図:メラトニンは脳の松果体から分泌される(①)。夕方になって暗くなると松果体からメラトニンの産生が始まる(②)。夜間にメラトニンの血中濃度が上昇し、真夜中(午前2時から5時ころ)にピークに達する(③)。夜間のメラトニンの濃度は日中の5〜10倍に達する。メラトニンは分泌開始から10~12時間で分泌を中止し、急激に血中濃度が低下し、午前7時ころに最低になって覚醒する(④)
メラトニンの原料は必須アミノ酸のトリプトファンです。トリプトファンに2種類の酵素が働いてセロトニンに変わります(トリプトファン → 5-ヒドロキシトリプトファン → セロトニン)。
セロトニンは神経細胞と神経細胞のつなぎ目(シナプス)で情報伝達の役目をする神経伝達物質の一つです。このセロトニンに2種類の酵素が働いてメラトニンが合成されます(セロトニン → N-アセチルセロトニン → メラトニン)。
セロトニン → メラトニンという段階は、体内時計(視交叉上核)からの指令が来ないとスタートしない仕組みになっています。すなわち、目から入った光の情報は視神経を通って脳にある視交叉上核に伝えられ、さらに神経によって交感神経の上頸神経節を経由して松果体に連絡が入ってメラトニンの合成が制御されます。
松果体に分布する交感神経は夜間興奮して多量のノルアドレナリンを放出し、それによって松果体細胞のメラトニン代謝に関与する酵素の一つ、N‐アセチルトランスフェラーゼの生成が促進される結果、松果体は夜間多量のメラトニンを産生放出します。視交叉上核が体内時計の中枢です。(図)
図:視床下部の視交叉上核(①)から出た神経線維はいくつかのニューロン連鎖ののち交感神経の上頸神経節(②)に達し,その節後線維は松果体(③)に分布する。松果体の交感神経から放出されるノルアドレナリンはメラトニン合成に関与する酵素の一つのN‐アセチルトランスフェラーゼの生成を促進し、多量のメラトニンを産生放出する(④)。この経路は網膜に光刺激が入ると阻害される(⑤)。夜間に網膜に光刺激が入らなくなるとメラトニンの合成が刺激される(⑥)。
メラトニンの産生は加齢とともに分泌量が減少します。60歳以上になると夜間のメラトニンの増加もほとんど認めなくなります。これが、高齢者が感染症やがんの発症を起こしやすくなる理由の一つという意見もあります。
したがって、メラトニンをサプリメントとして補うことは、加齢とともに低下する抗酸化力や免疫監視機構の働きを若いレベルに維持する効果が期待できます。マウスやラットを使った実験では、メラトニンの補充で寿命を延ばせることが報告されています。
【加齢によるメラトニン低下が乳がんの成長を促進する】
加齢に伴う体内のメラトニンの減少が乳がんの発症を促進する可能性が示唆されています。若年(2ヶ月)、成体(12ヶ月)、老齢(20ヶ月)の雌ラットにおける乳腺腫瘍の成長と、メラトニンとメラトニン受容体MT1の両方の減少との間に逆相関が存在するかどうかを検討した研究があります。(Curr Aging Sci. 2013 Feb;6(1):125-33.)
夜間ピーク時の血清メラトニンレベルは若いラットと比較して、成体では29%の減少、老齢ラットでは75%の減少を認めました。若いラットでは、夜間の松果体のメラトニン含有量は昼間のレベルの19倍でしたが、老齢ラットでは、夜間のメラトニンレベルは昼間の7倍でした。夜間および早朝のMT1受容体レベルは、若年および成体ラットの子宮と比較して、老齢ラットの子宮で有意に低下していました。
発がん物質によって誘発された腫瘍の増殖は、若年または成体ラットに比べて老齢ラットでは有意な増加を示しました。外因性メラトニンの投与による腫瘍成長に対する阻害率は、成体および若齢ラットでそれぞれ48%および66%であったのに対して、老齢ラットでは33%の抑制でした。外因性メラトニンに対する腫瘍増殖の抑制効果の減少は老齢マウスにおけるMT1受容体発現の減少と相関していました。
これらの実験結果は、加齢に伴う腫瘍増殖の促進が、メラトニンとメラトニン受容体の加齢に伴う減少が関連することを示唆しています。さらに、メラトニンとメラトニン受容体の低下が、外来性にメラトニンを投与した場合の、腫瘍増殖の抑制の感受性が老齢動物において低下している原因となっていることが示唆されました。
老齢になると、メラトニンとメラトニン受容体が減少し、メラトニンによる腫瘍抑制のメカニズムが働かなくなっているということです。
【夜間のスマホ使用が乳がんを増やす】
夜の時間帯に強い光を浴びると、メラトニンの産生が減って寝つきが悪くなります。昼夜サイクルを無視した生活をすると体内時計の調子が狂い、体調を損ねる原因となります。 夜間に光を浴び続けると、メラトニンの分泌が低下し、免疫力が低下し、がんの発生が増えることが報告されています。
がんとの関連においては、特に乳がんとの関連が研究されています。例えば、夜間の照明が、メラトニンの分泌の低下を引き起こし、乳がんの発症に関与している可能性を指摘する「乳がん発生のメラトニン仮説」も提唱されています。
盲目の人には乳がんが少ないという報告や、夜間勤務の人には乳がんが多いという報告があり、これらはメラトニンが多く分泌される状況にあると乳がんの発生が抑えられ、夜間勤務のようにメラトニンの分泌が抑えられると乳がんが発生しやすい可能性を示唆しています。
最近では、パソコンやスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)や液晶テレビなどの画面から出る青色の光「ブルーライト」を夜間に強く曝露されると、メラトニンの産生を減らして、がんの発生を増やす可能性が指摘されています。以下のような報告があります。
人間の目に光として感じる波長範囲の電磁波を可視光線(visible light)と言います。
波長によって異なる色感覚を与え、紫(380-430 nm)、青(430-490 nm)、緑(490-550 nm)、黄(550-590 nm)、橙(590-640 nm)、赤(640-770 nm)として認識されます。
人間の視覚が色を認識するのは、網膜の視細胞である錐体にあるヨドプシンと呼ばれるタンパク質の働きによります。人間の錐体には3種類あり、それぞれ青、緑、赤色の光を認識し、これらの3種類の錐体によって、すべての色を表現することができます。
可視光線のうち、波長の短いほどエネルギーが強く、いわゆるブルーライトと言われる380nmから500nmの波長の可視光線はパソコンやスマートフォンなどのLEDディスプレイ(発光ダイオードを用いた液晶画面)から多く発せられています。
ブルーライトは紫外線と波長が近い光で、可視光線の中でも非常にエネルギーが高く、網膜にまで到達し、網膜色素変性症などの網膜傷害の原因になっています。さらに、メラトニンの産生を抑制する作用が強いことも指摘されています。
図:可視光線の中でも波長の短いブルーライト(青色光)は、パソコンやスマートフォンなどのLEDディスプレイから多く発せられ、その健康被害が問題になっている。
BRCA1(breast cancer susceptibility gene I、乳がん感受性遺伝子I)とBRCA2(breast cancer susceptibility gene II)は、家族性(遺伝性)の乳がんの原因遺伝子として同定されました。これらの遺伝子の変異は遺伝子不安定性を生じ、乳がんや卵巣がんを引き起こす原因になります。80歳までに乳がんになる確率は、BRCA1に変異がある場合は72%、BRCA2に変異がある場合は69%というデータがあります。
日本で推計年間9万人が発症する乳がんの5~10%は遺伝性とされ、中でもBRCA1とBRCA2という遺伝子のいずれかに変異があるために発症するケースが多いと言われています。
遺伝子変異が原因で乳がんを発症した患者について、がんになっていない側の乳房も再発予防を目的に切除することが推奨されています。遺伝性乳がんの素因がある人が乳房の予防的切除を行わない場合は、乳がんの発症リスクを減らすことが大切です。
夜間のスマホやパソコンや液晶テレビはメラトニンの産生を減らして、乳がん発生のリスクを高めることが指摘されています。ブルーライトを減らす眼鏡やブルーライトをカットするアプリなどを利用することが大切だと提言しています。
図:パソコンやスマートフォンや液晶テレビなどの画面から出る青色の光「ブルーライト」に夜間に強く曝露されると(①)、松果体からのメラトニンの産生が減少して(②)、がん(特に乳がん)の発生を増やす可能性や、抗がん剤治療やホルモン療法に対する抵抗性を高める可能性が指摘されている(③)。白色光の照明中にも青色光が入っているので(④)、夜間の明るい照明もメラトニンの産生を減らして、がんの発生や体調不良の原因になっている。
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