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不倫裁判百選91妻は,夫との間で,じゃれ合う中で冗談で相互に容姿や体臭を揶揄したことがあった。夫は,時には,そのことを内心気にすることもあったが,妻にはそのことを告げなかった。

0 はじめに

夫婦関係が破綻していない、円満な状態にあっては、不貞慰謝料請求をしても認容額が大きくならない傾向にあります。本件も44万円の支払いを命じるにとどまっています。

しかし、原告は,Aとの間で,じゃれ合う中で冗談で相互に容姿や体臭を揶揄したことがあった。Aは,時には,そのことを内心気にすることもあったが,原告にはそのことを告げなかった、これらの事情は、夫婦関係が円満だとみるべきか?

1 事案の概要と当事者の主張

東京地方裁判所において平成30年1月23日に出された裁判例は、440万円の請求金額が44万円に縮減されています。円満だと判断された事例です。

(1) 原告(昭和44年○月○日生)とA(昭和44年○月○日生)は,勤務先のa株式会社(以下「a社」という。)で知り合い,平成14年10月8日に婚姻の届出をし,原告はその前後に同社を退職した。(甲1,58,乙6,9)
  (2) Aは,平成20年4月頃,原告の出身地である茨城県土浦市内に自宅として購入したマンション(以下「本件マンション」という。)に原告とともに転居した。(甲1,乙2,11)
  (3) Aは,平成22年11月頃,a社の福岡営業所に所長として転勤することになり,Aの出身地である福岡市に単身赴任した。福岡営業所には所長を除き,従業員が4人程度勤務していた。(甲1,10,乙9)
  (4) 被告(昭和57年○月○日生)は,遅くとも平成24年までにa社にパート従業員として採用されて福岡営業所に勤務するようになり,Aのアシスタントと経理補助を担当していた。(乙10,弁論の全趣旨)‥(以下略)‥  

原告の退社した会社に勤めていた、単身赴任先の若いアシスタントが被告なようです。

2 争点に関する当事者の主張

原告の主張は、うちはラブラブな家庭です。
被告の主張は、私は別で彼氏がいるのでお宅の旦那には興味がありませんとするものです。

 争点(1)(婚姻関係の破綻)について
 (被告の主張)

 被告は,Aとの間で平成28年1月に交際を始めたが(ただし,性交渉に及んだことはない。),その頃までに原告とAの婚姻関係は破綻していた。すなわち,平成24年10月にAが福岡に滞在していた原告に離婚を切り出し,同年12月中旬に原告が福岡を去ってからは,原告が福岡を訪れることはなく,原告とAは別居状態となった‥(中略)‥
 (原告の主張)
 原告とAの婚姻関係は現在も破綻していない。すなわち,Aが福岡に転勤してからも,原告は福岡を長期間訪れてAと仲睦まじい日常生活を送っていた。加えて,Aが平成24年10月にいったん離婚を切り出してからも,原告とAは,食事がおいしかったことや夕食の準備等といった日常生活に関するメールのやり取りを続けていた上,原告とAは,同年11月3日にはレストランで食事をして結婚記念日(挙式の日)を祝った。同年12月以降も原告とAが離婚を前提とする別居に及んだことはなく,両名とも復縁の希望を抱いていた。原告とAは,互いに体調等を気遣うメールのやり取りを続け,Aも平成27年7月までは原告に給与の振込先であるA名義の銀行口座の管理を委ねていたことに加え,原告が現在もAとの復縁を心から希望していることからすれば,原告とAの婚姻関係は破綻していないというべきである。

3 当裁判所の判断

(1)ア 原告とAは,婚姻後比較的円満に生活しており,平成15年から平成19年までの間,毎年年末にAの母が原告とAの自宅に宿泊した。また,原告は,Aから依頼を受け,Aの母に1回2,3万円程度の仕送りを年数回行った。他方,原告の母は,茨城県内に居住していたが,原告とAの自宅に泊まることはなかった。(甲58,60)
   イ 原告は,婚姻後期間が経過するうちに,Aになるべく早く帰宅することや,家計を管理する立場から原告が不要と考える支出を控えるように求めることが増え,Aが遅くに帰宅したり,キャバクラのために出費をすると,時には,機嫌を損ねることもあった。(甲10,57,59,60,乙9,原告本人)
   ウ Aは,原告に感情的な態度を示すことはほとんどなかったが,内心では原告がAの仕事上の都合,付合いなどを理解しようとしないとして不満に感じており,原告から度々節約を求められてエアコンの購入を控えたり,原告の家計管理が細かく,交際費を思いどおり支出できず,不自由を感じる場合があった。(甲10,59,証人A)
   エ 原告は,Aとの間で,じゃれ合う中で冗談で相互に容姿や体臭を揶揄したことがあった。Aは,時には,そのことを内心気にすることもあったが,原告にはそのことを告げなかった。(甲10,57,59,60,弁論の全趣旨)
  (2) Aが平成22年11月頃に福岡市に単身赴任後,原告は,年3,4回の頻度でAの下を訪れ,1年のうち半年以上を福岡で過ごすようになり,Aと週末に外食・外出をすることもめずらしくなく,Aの出張に伴い九州各地を旅行したこともあり,Aとともに,平成23年から平成24年にかけて年1回ないし数回,Aの母又は父と会うことがあった。他方,Aが本件マンションの原告の下を訪れる機会は乏しく,Aは,原告が不在の方が自由に生活できると感じており,1人暮らしを快適に感じていた。(甲58,63[枝番を含む。],93の1ないし98,101[枝番を含む。],原告本人)
  (3) 原告は,平成24年9月頃になると,Aの原告に対する態度が冷淡であると感じるとともに,Aが予定どおり帰宅しない,あるいはすぐに帰宅せずに駐車した自動車内で電話をかけていたなどとして不満を募らせ,同年10月21日午後7時56分頃,かぜで発熱していたAの寝顔を写真に収め,「ざまあみろ。」などと小声で口走った。Aは,これに気付いていたが,寝たふりをしたままやり過ごし,翌日以降も原告の言動について言及することはなかったが,原告に対する嫌悪感を強めた。(甲60,64の1ないし64の3,64の5,103,証人A,原告本人)
  (4) Aは,平成24年10月23日頃,原告に対し,原告のことが嫌いになったとして,離婚して福岡市の自宅から出て行くことを求めたが,原告が号泣したため,その時点ではそれ以上具体的な話をせず,原告の希望により,同年11月3日,原告とレストランで食事をして結婚記念日を一応祝ったほか,食事の準備等の日常生活に関するメールのやり取りを行っていたが,深夜になるまで帰宅しないことが多くなり,夫婦間の直接の会話が乏しい状況となった。(甲21ないし27,58ないし60)‥(中略)‥
 
争点(1)(婚姻関係の破綻)について
  (1) 被告は,平成28年1月以前に原告とAの婚姻関係が破綻していた旨主張するので,まず,原告と被告の別居時期について検討する。
 前記1(5)の事実によれば,原告は,平成24年12月に本件マンションに戻っているが,その際,平成25年2月頃に再度,福岡市を訪れることを予定しており直ちに別居状態に至ったとはいえない。しかしながら,原告は,その後,同居の再開に拒否的であったAの意向を受け,同月になっても同居を再開するため福岡市を訪れていないのであって,原告とAは同月をもって別居に至ったと認められる。
  (2) そこで,平成25年2月の別居を前提として,原告とAの婚姻関係が平成28年1月以前に破綻したと認められるか判断するに,原告とAの別居期間は,平成25年2月から平成27年12月まで2年11か月であるが,婚姻届出後の同居期間は平成14年10月から平成25年1月まで10年4か月に及んでおり,別居期間自体から直ちに原告とAの婚姻関係が破綻したと認めることは困難である。そして,Aは,原告の婚姻生活における態度,価値観に不満を抱いてはいたものの,原告とAの価値観の相違が婚姻生活において必ずしも顕在化する状況ではなかったため,原告とAの間で同居中に調整が図られたことがなかったことに加え,別居後も原告とAとの間で,定期的にメールのやり取りが続いており,原告が婚姻関係の修復のための努力を払っていたことに照らせば,Aが原告に離婚協議書の送付,離婚届の直接の交付,夫婦関係調整調停の申立てを行い,離婚に向けた働きかけを次第に強めており,婚姻関係の継続に向けた意思が乏しかったと認められることを考慮しても,原告とAの婚姻関係は,平成28年1月の時点で破綻の危機に瀕していたと認められるにとどまり,既に破綻していたとまではなお認めるに足りない。
 
争点(原告の損害額)について
(1) 被告の不法行為と相当因果関係が認められる原告の損害について判断する。
 ① 精神的損害 40万円
 証拠(甲62,原告本人)によれば,原告は,被告とAとの間の不法行為により,精神的苦痛を受けたことが認められる。その程度は小さくない一方,被告とAが交際を開始したことが明らかな平成28年1月頃の時点で原告とAの婚姻関係は破綻の危機に瀕していたことに加え,本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,原告の精神的損害に対する慰謝料を40万円と認めるのが相当である。

原告の婚姻生活における態度,価値観に不満を抱いてはいたものの,原告とAの価値観の相違が婚姻生活において必ずしも顕在化する状況ではなかったため,原告とAの間で同居中に調整が図られたことがなかったことに加え,別居後も原告とAとの間で,定期的にメールのやり取りをしていたことを指摘して、夫婦関係の円満を判断しています。

しかし‥本当か?疑問は残ります。


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