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不倫裁判百選97 性風俗店で金銭をだまし取られた行為の違法性はどう判断される?地獄の沙汰も金次第でよいのか‥

0 はじめに

 原告にとって不倫が成立する状態、すなわち既婚者が性風俗店に通い、個人的に風俗嬢に金銭の貸付をする行為はどう扱われるのでしょうか。

貸し付けをした行為だけを切り出せば厳密には、お金の貸し借りだけなのでしょうか?今回は、被告は、原告には妻子があるにもかかわらず金銭を贈与することによって歓心を得て被告との不倫関係を築きこれを継続させようとしていたのだから、公序良俗に違反する貸付であったと主張している事例を検討してみます。

1 事案の概要と当事者の主張

 東京地方裁判所において平成29年9月29日に出された裁判例は、本件は,性風俗店で知り合った被告に計710万円を送金した原告が,被告によって金員を騙し取られたと主張して、貸金の返還ではなく不法行為責任を追及しています。厳密な意味では貸金ではないかもしれませんが、ほぼ貸付金相当の金額を請求している事例です。

当事者間に争いがない事実  (1) 原告は,平成25年11月,被告が勤務する東京都台東区千束に所在の性風俗店(いわゆるソープランド。以下「本件店舗」という。)を客として訪問し,被告と出会った。
  (2) 原告は,平成25年12月11日,本件店舗において再び被告と会い,自身の身の上話をした。
  (3) 原告は,平成25年12月19日,本件店舗において被告と会った。被告は,原告に対し,母が病気で脳腫瘍があり高額の医療費がかかっている旨を伝えた(真実は原告〈原文ママ〉の母が疾病に罹患している事実はなかった。)。
  (4) 原告は,平成26年1月11日,本件店舗において被告と会った。被告は,原告に対し,母の容体が悪く,お金がかかって大変である旨を伝えた。
  (5) 被告は,平成26年1月14日ころ,原告に対し,電子メールにより,インフルエンザに罹患し1週間外出禁止と言われている旨を伝えた。
  (6) 原告は,平成26年1月20日又は同月21日,本件店舗において被告の出勤枠を三枠分予約して,店舗外で被告と会った。その際,被告は,原告に対して,医療費の支払が大変である旨を伝えた。
  (7) 原告は,平成26年1月29日,被告を誘って,新宿御苑駅の近くで共に食事をした。その際に,被告が原告に対して体調が悪い旨を伝えると,原告は,必要なお金があったら言うようにと答えた。
  (8) 被告は,平成26年1月30日,原告に対し,「気が向いたら投資してやっていただけたらうれしいです」と記載した上で,振込先の預金口座を記載した電子メールを送信した。原告は,同日,この預金口座に30万円を送金した(以下「1月30日の30万円」という。)。
  (9) 被告は,平成26年2月9日,原告に対し,前日はクレジットカードの利用枠を現金化できる店を回っていたが,同月10日までに払う分として20万円以上が不足している旨を記載した電子メールを送信した。
  (10) 原告は,平成26年2月10日,被告に20万円を送金した(以下「2月10日の20万円」という。)。
  (11) 原告は,平成26年2月14日,本件店舗において,被告と会った。被告は,原告に対し,同月20日までに200万円を工面しなければならず,そのためにアダルトビデオに出演することを考えている旨を伝えた。原告は,同月14日,被告に200万円を送金した(以下「2月14日の200万円」という。)。
  (12) 被告は,平成26年3月4日,原告に対し,母親の容体が急変して熊本に帰りたいが同日及び同月6日は出勤予定となっているため両日とも丸一日の五枠分を予約して欲しい旨を伝えた。原告は,これに応じて,両日の被告の出勤枠を全て予約した。
  (13) 被告は,平成26年3月9日,原告に対し,熊本から東京に戻ったところであるが,帰りの飛行機に搭乗中に病院から母の容体が急変した旨の連絡があり,すぐに熊本に戻りたいもののお金がない旨を連絡した。
  (14) 原告は,平成26年3月9日に50万円を,同月10日に50万円を,それぞれ被告に送金した(以下,あわせて「3月10日の100万円」という。)。
  (15) 被告は,原告に対し,①平成26年3月11日に,祖父が死亡したためもう少し熊本に滞在する旨を,②同月12日に,通夜が同日,告別式が同月14日にそれぞれ予定されている旨を,③同月14日に,告別式が終わったことを伝えると共にアダルトビデオに出演しないという約束は守れそうにない旨を,④同月16日に,同月17日の便で東京に戻ってアダルトビデオの面接を受ける旨を,それぞれ連絡した。
  (16) 原告と被告は,平成26年3月17日,羽田空港において会った。被告は,原告に対し,祖父の葬儀費用として200万円に満たないくらいの金員が必要であり,それを捻出するためにアダルトビデオに出演することを考えている旨を伝えた。原告は,これを思いとどまるよう求め,同日,被告に300万円を送金した(以下「3月17日の300万円」という。)。
  (17) 被告は,平成26年4月5日,原告に対し,転居のための初期費用として50万3000円が必要であるとして,借用を依頼した。原告は,これに応じて,同月6日,被告に60万円を送金した(以下「4月6日の60万円」という。)。

(3)と(4)の理由に基づくかはわかりませんが、(11)が唐突に表れる印象です。(16)や(17)は明らかに理由が変遷しているように感じられますが‥

本件の争点
本件の争点は多岐にわたりますが、ここでは、妻子ある状態での貸し付けの適法性を見てみます。まさに不倫裁判百選の名に相当する部分を検討してみましょう。

 (被告の主張)
 原告は,妻子があるにもかかわらず,被告に金銭を贈与することによって歓心を得て被告との不倫関係を築き,これを継続させようとしていたのである。原告が被告に送金した計710万円の金員は,不法な原因に基づき給付されたものであり,原告がその返還等を求めることはできない。
 (原告の主張)
 原告は,母親の難病の治療に多額の医療費を要するという被告の説明を信じ,憐憫の情から金員を渡したものであり,愛人関係のようなものを求めたことは一度もない。原告には,何ら不法なものとして問題とされるような点はない。

原告の主張を拝見すると、被告の言い分を信じたのだから、愛人関係をもとめたことすらないとのことのようです。妻子に秘密裏で進められていたのかは気になりますが‥

2 裁判所の判断

裁判所は、被告の貸金に対する説明が虚偽であったことを事細かに指摘しています。そのうえで、

‥(前略)‥本件の不法行為は,被告が,自身に対して好意を抱く原告から金員を騙し取ったことを核心とするものであって,原告が被告に金員を渡していたことが公序良俗に違反する不法な行為に当たるとまでは認め難いから,本件の損害賠償請求が,民法708条を根拠として妨げられることはない。

と述べています。

上記判断に至る前段階では、ひとつひとつの被告のお金を受領するまでの経緯・説明を紐解いています。一つの説明は、

まず1月30日の30万円についてみると,これは,本件店舗において被告と知り合った後,被告に好意を抱き被告を予約することを繰り返すなどしていた原告が,主体的に支援を申し出たのに応じて,被告に送金されるに至ったものであるから(認定事実(1)ないし(4),(6),(7)),被告がこの送金を受けたことについて,原告との関係において不法行為が成立するとまでは認め難い。

確かに,被告は,原告に対して,真実は特段の疾病に罹患していない母につき,難病に罹患しており多額の医療費が必要となる旨の事実とは異なる説明をしている
が(認定事実(2)ないし(4)),多額の金員の授受を前提として性的なサービスが提供される本件店舗のような性風俗店においては,店舗に勤務する女性が男性客の同情や関心を得るために脚色した身の上話をしたり,男性客においても女性の歓心を買うために経済的な給付を申し出たりすることは特異な事象ではなく,脚色の程度や給付される経済的な利益の額が過度にわたらない限度においては,女性が脚色した話をして男性から金員を受け取ることがあったとしても,直ちに社会通念上許容されないものとして不法行為が成立することとなるものではない。

1月30日の30万円については,病人が,母であるのか,祖父及び叔母であるのかという点において事実との相違があるものの,病人とされているのはいずれにしても親族であることから,脚色の程度は必ずしも重大ではなく,また,原告が被告に送金した金員の額も30万円であって,本件店舗の1回当たりの料金6万5000円と比較して必ずしも多額とはいえないから,この授受について被告に不法行為が成立するとみることはできない。

多額とは言えないと言い切れるのか、脚色の程度は低いと言い切れるのかには疑問が残る判断です。他方で、

 (2) 他方で,2月14日の200万円,3月10日の100万円及び3月17日の300万円については,性風俗店に勤務する女性である被告とその男性客である原告との関係性を考慮しても,その金額自体が,両者の間で対価なく授受される金員としては,高額であるという感が否めない。

授受に至る経緯をみても,被告は,原告に対して,具体的な金額に言及するなどしながら,アダルトビデオに出演することを検討している旨や,母の容体が急変した旨を申し向けており(認定事実(9),(11),(13)),原告に早急に金員を支出させようとする意図が明確となっているから,被告による話の脚色の程度や態様は,性風俗店に通う男性客に対するものとしても,社会通念上許容され得る限度を超えたものとなっていたと言わざるを得ない

こうした事情を踏まえると,被告は,自身に好意を抱く原告が1月30日の30万円及び2月10日の20万円を送金してきたことに乗じて,原告に虚偽の事実を申し向けて,2月14日の200万円,3月10日の100万円及び3月17日の300万円を騙し取ったものとみるべきであり,被告が原告にこれらの送金をさせたことについては,不法行為が成立すると認められる。

3 若干の疑問

2月14日の200万円,3月10日の100万円及び3月17日の300万円の金銭交付のみ、不法行為が成立するとの判断は、どうしても金額の多寡に着目した判断に思われてなりません。

金額の高低が決定的な要素ではなく、どんな説明をして金員を移転させたか、のほうが重要ではないか。

原告に早急に金員を支出させようとする意図が明確なのであれば、被告による話の脚色の程度や態様が性風俗店に通う男性客に対するものとして逸脱しているのであれば、たとえ1円だけを交付させたとしても、不法行為が成立する関係に立つのではないか。行った行為に着目しているのだから、何百万円取られようと、1円だろうと、行った行為の性質は同じだと思えてなりません。

 


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