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不倫裁判百選81抱き合ったり、キスをしたりしていたら?

0 はじめに

不倫裁判百選では、どこからが不貞行為になるのか、これまでも多くその境界線を探ってきました。

抱き合ったり、キスをしていたにとどまる場合でも、不法行為が成立し、慰謝料支払い義務が生じるのか?

1 事案の概要

東京地方裁判所において平成28年9月16日に出された裁判例は、原告妻が不倫相手である女性を訴えたケースです。

直接肉体関係がある旨のやり取りをしていないケースであるのが特徴です。

被告は、独身の女性であり、Aの勤務先の同僚である。
被告は、平成25年12月ころ、Aと共に自動車又は電車により外出をしたことがあった。当時、原告は31歳、被告は44歳、Aは32歳であった。(甲12、弁論の全趣旨)
原告とAは、平成26年2月から、及び、同年8月から、それぞれ一時別居していた。

よくある、妻が不倫相手の女性に対し訴訟提起した事例です。

2 争点と当事者の主張

(原告の主張)
 ア 被告は、少なくとも平成25年9月ころから、Aと肉体関係を含む極めて親密な交際を継続していた。被告とAとの間において肉体関係が存在したことは、Aが原告に内緒で被告と浮気していたことを認めていること(甲1)、原告とAが別居していた平成26年2月以降、肉体関係の存在を前提とするかのような内容の電子メール(甲2の1の1ないし2の3)がやり取りされていることなどから明らかである。被告は、Aに配偶者がいることを知りながら、Aと肉体関係を持っていたのであるから、被告の行為は原告に対する不法行為を構成する。
イ 仮に肉体関係が存在しなかったとしても、被告とAの交際においては、①Aが被告を抱きしめる(甲2の2)、②Aが被告の裸を見る(甲8、9)、③Aが被告のいろいろなところを触る、④密室で密会を繰り返す(甲11、12)、⑤生理がいつ終わるのかを確認する(乙2)、⑥好意を伝える電子メールを送り合う(甲2の1の5、2の3)、⑦キスをする、⑧共にデートに出かける(甲11、12)ことなどが行われていた。
(被告の主張)                          ア 被告がAと休日等に二人で会ったり、手をつないだりしたことはあったものの、肉体関係などの違法な行為に及んだ事実はない。被告の行動に不適切な面があったことは確かであるが、肉体関係やそれに準じる行為には及んでおらず、交際期間は長くても平成25年12月ころから平成26年9月ころまでという短期間にすぎないから、原告との関係で不法行為が成立することはない。
イ 被告とAとの間において肉体関係が存在しなかったことは、平成26年4月21日にAが被告に「将来エッチするよ」と記載した電子メール(乙2)を送信しており、同日時点では肉体関係を持っていなかったことが前提とされていることから明らかである。Aが作成した書面(甲1)は、自宅において、原告、その母及び姉から詰問された際に、被告と食事に出かけたり、二人で会ったりしたことを認めつつ、肉体関係はないと説明したところ、肉体関係がなくても二人で出かけるなどすれば浮気だから浮気をしたと書けと強く迫られ、その旨を記載させられたものにすぎない。
…(中略)‥被告がAから「Yの体はホントに綺麗だよ、水曜日も見ちゃおっと、おやすみー」という趣旨の文言(甲8)を記載した電子メールを受信したことは事実であるが、これは離れたところにいて被告を見えるはずのないAがふざけて送信したものであり、現実に被告がAに体を見せたことがあったわけではない。被告が「脱ぐと近くに感じる」との文言(甲9)を記載した電子メールをAから受信した事実はない。‥(中略)‥被告がAから「Yの体はホントに綺麗だよ、水曜日も見ちゃおっと、おやすみー」という趣旨の文言(甲8)を記載した電子メールを受信したことは事実であるが、これは離れたところにいて被告を見えるはずのないAがふざけて送信したものであり、現実に被告がAに体を見せたことがあったわけではない‥(以下略)‥

3 裁判所の判断

裁判所は、不貞行為こそ認めないもの、それでも不法行為が成立すると判断し、慰謝料の支払いを命じました。

(1) 不法行為の成否
ア 前記認定事実を踏まえて、被告とAが肉体関係を持っていた事実の存否について検討すると、両者は、平成25年12月以降、二人で食事やカラオケに出かけ、また、休日に自動車に乗って外出し、その際に、腕を組んだり、手をつないだりして歩いていた(認定事実(3))のみならず、平成27年5月又は6月ころに交際を終了するまでの間に、抱き合ったり、キスをしたりしたほか、Aが服の上から被告の体を覗き見し、又は、服の上から被告の体を触ったこともあったのである(認定事実(10))から、その交際は相当親密なものであったと考えられる。
 しかし、Aと被告の双方が肉体関係を持ったことを明確に否定している(乙1、証人A)上、原告が探偵に依頼して300万円程度をかけて繰り返し行った調査によっても、肉体関係の存在を明らかにする事実は確認されなかったこと(甲11、12、19の1ないし19の4、原告本人)などからすると、前記のとおり、被告とAとの交際が相当親密なものであったことを十分に斟酌しても、両者が肉体関係を持っていたと断じるには、なお合理的な疑いが残るというべきである‥(中略)‥
 結局のところ、被告とAが肉体関係を持っていた疑いは払しょくし切れないものの、肉体関係が存在したとまで認めるに足りる証拠は存在しないといわざるを得ない。
イ もっとも、被告とAとの交際は、平成25年12月以降、1年半近くにわたって継続していた(認定事実(3)、(10))上、肉体関係が存在していたとまでは認められないものの、前記のとおり、抱き合ったり、キスをしたりしていたほか、Aが服の上から被告の体を触ったこともあったのであるから、その態様は、配偶者のある異性との交際として社会通念上許容される限度を逸脱していたといわざるを得ない。被告は、Aに配偶者がいることを認識しつつ(認定事実(2))、Aとの交際を継続していたのであるから、被告の行為は、交際相手の配偶者である原告との関係において、不法行為を構成するというべきである。

4 若干の疑問

判決文は、「抱き合ったり、キスをしたりしていた」ことのみならず、ほか、Aが服の上から被告の体を触ったこともあったのであるから、その態様は、配偶者のある異性との交際として社会通念上許容される限度を逸脱していたと述べます。

慰謝料の支払いを命じた判断には納得ができるが、配偶者ある異性との交際として許容される限度を不明確にしているのではないか。抱き合う、キスをする、服の上から体を触る一連の行為は社会通念上許容される限度を逸脱するのか、それとも、一つの要素でも逸脱するのか。

私個人は、抱き合ったりキスをする行為自体があれば、逸脱しているといえるのではないか?と考えています。

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