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不倫裁判百選79「あしたもあえるかな」「あいたいなあ」

0 はじめに

ハートマーク付きのメールを見たら、「あしたもあえるかな」「あいたいなあ」の文面を発見した。

こんな事態に陥ったとき、不貞関係の存在を疑うことはある意味当然ではないか。しかし、慰謝料請求を認めていない裁判例をご紹介します。その理由を探ることで、何が足りないのか?

1 事案の概要

不倫裁判百選では、ラインのやメールの記載から、不貞行為の存否を判断するケースを多く扱ってきました。しかし、これだけ、では、難しい可能性があることも多くの裁判例から明らかになってきたように思います。

2 争点及び当事者の主張(不貞の有無及び慰謝料額)

福岡地方裁判所行橋支部において平成30年3月13日に出された裁判例は、不貞関係の存在を認めていません。きわどいメールの記載だけでは、難しいとも言えそうな例です。

(1) 原告の主張
 ‥(前略)‥
ウ 被告は,Aと不貞関係を持ったことを否認している。しかし,次のような事情に照らせば,被告とAが不貞関係を持ったことは優に推認できるというべきである。
(ア) Aは,平成29年2月頃から午前5時頃から外出するようになった。また,Aは,自宅でも携帯電話を離さず持ち,しきりにメールのやりとりをしていた。原告がAに早朝外出しないように話しても,ストレス解消になるなどとして外出し続けた。
(イ) 被告は,平成29年2月10日,Aに対し,「あしたもあえるかな」,「あいたいなあ」などと,ハートマークを付けたメールを送信していた。
(ウ) Aも,原告に対し,被告と会っていることを認めている。
エ) Aと前夫の間の娘は,平成29年3月上旬,原告に対し,男の存在があるみたいだと述べている。
(オ) Aは,被告の住所地のアパート(以下「被告自宅」という。)近くの駐車場に,Aが使用している車両(北九州○○○こ○○○○,大分○○○み○○○○)を駐車し,自宅から持ち出した布団を乗せている。その後,Aは,自宅を出て,被告自宅(大分県中津市〈以下省略〉。以下「大分県」の記載を省略する。)の近隣の建物(同市〈以下省略〉。以下「Aアパート」という。)に居住するようになった。
(カ) 被告は,平成29年4月頃,Aアパートの合鍵を所持し,Aアパートに出入りしていた‥(以下略)‥ 
(2) 被告の主張
‥(前略)‥
 ウ 被告は,大川病院に通院していたが,Aも平成27年6月頃から大川病院に通院していた。被告は,土曜日,日曜日を除きほぼ毎日デイケアに通うようになったが,Aもデイケアに通うようになり,Aから夫婦関係の悩みを聞かされるようになったが,Aは被告と話をすることで精神的に落ち着くと話していた。
 被告は,その後,大川病院のデイケアに通わなくなったが,Aは,被告に話を聞いてほしいとメールを送信してきた。被告は,自分でよければ話を聞くとAに返事をし,Aと朝方に話をするようになった。その中で,被告は,Aに会いたいとのメールを送信しているが,恋愛感情があったものでなく,会って話をするという関係にすぎない‥(中略)‥
 以上のとおり,被告は,Aの話を聞くことはあったが,恋愛感情もなく,不貞関係にあったことはない。

会いたい、とハート付きで送っても、恋愛感情がない、との抗弁はありえるのか?

3 当裁判所の判断

裁判所は、不貞関係の存在を認めていません。 

(1) 前記認定事実のとおり,Aが被告自宅へ早朝に赴いて二時間くらい話をすることがあり,Aが別居した後は,被告自宅に出入りしたり,被告がAアパートに出入りすることがあったなどの事実が認められる
しかし,被告とAが不貞関係を持ったと窺わせる客観的な証拠はない。そして,上記各事実を総合しても,被告とAが不貞関係を持ったと推認できない。原告は,ハートマークの絵文字を付けて会いたいなどとのメールを被告が送信したことや,Aの娘がAに男の存在があると思うと述べたこと,Aが自宅から持ち出した布団を自動車に乗せて被告自宅に出入りしていたことなどの事実も指摘し,被告とAとの不貞関係が推認されるなどと主張するが,原告が主張する事情を最大限に考慮しても,被告とAとの不貞関係を推認できない。
  (2) これに対し,被告は,Aが原告との婚姻関係について相談するために話をしていたにすぎないと主張し,被告本人及び証人Aもその旨の供述をするところ,これに反する証拠はない。

4 若干の疑問

やはり、証拠の議論を展開しています。

メール以外に、窺わせる客観的な証拠はないと述べ、また、「各事実を総合しても,被告とAが不貞関係を持ったと推認できない。原告は,ハートマークの絵文字を付けて会いたいなどとのメールを被告が送信したことや,Aの娘がAに男の存在があると思うと述べたこと,Aが自宅から持ち出した布団を自動車に乗せて被告自宅に出入りしていたこと」‥「原告が主張する事情を最大限に考慮しても,被告とAとの不貞関係を推認できない。」と論じています。

メールの意味付けを考えると、配偶者ある男女間においてこのようなメールを発見したら、だれもが不貞行為が存在するのを確信するはずではないか。たしかに、肉体関係の存在と、記載通りのメールがその時刻時間に送られた事実との間には距離があるようにも思われるが、被告自宅に出入りしたり,被告がAアパートに出入りすることがあったなどの事実も一緒に認めている以上は、不貞行為の立証に至っているのではないか?

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