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不倫判例百選58金の切れ目"と"不倫の切れ目

0 はじめに

金の切れ目が不倫の切れ目、ではなく、自然に不倫関係が切れたあと、貸金返還請求をしたら、どう判断されるのか。

実は、不倫関係を維持する目的でお金のやり取りがある場合、無効な契約である、と反論することができます。

しかし、不倫関係の維持ではない場合にまで、これを維持することはできるのでしょうか?

1 事実関係の整理

水戸地方裁判所において昭和54年10月2日に出された判決は、不倫関係を維持する経緯で貸し付けがなされた金銭の返還請求をしている事例です。

原告は会社役員であるが、昭和四九年四月下旬ころ、県庁の職員に案内され、被告が経営している小料理店「初恋」で客として飲酒したことにより、被告と知り合つた。
当時、被告は夫と離婚し三人の子供をかかえて店をやつていたので、原告に対しその身上話や、借金で苦労をしている話等相当立ち入つた話をした。その後、日を経ず再度原告は「初恋」に飲みに来たが、当時被告は土地の問題で民事調停をしていること等話したところ、原告は借金等を尋ねそれを払つてやつてもよい口振りであつたので、被告は同夜原告に妻子のいることを知りながら、当時七〇才に近い原告とホテルへ行き肉体関係を持つた。その後原告はしばしば「初恋」を訪れ、月二回位の割合で被告と関係を持ち、昭和五〇年一二月ころ自然に切れるまで右関係が続いた。

お金のトラブルで不倫関係が解消されたというよりも、自然に切れた、ことは前提になっています。

‥(中略)‥支払に窮していた被告は、原告に対し右事情を話し、五〇万円の出捐を求めた。原告はこれを承諾し同年八月ころ貸付か贈与かその趣旨を明示せず、従つて弁済期日や利息を定めることもなく五〇万円を被告に交付した。
被告は昭和五一年三月二五日から昭和五二年三月二五日までの間に五万円宛九回にわたつて、取立に来た原告に返済したが、もらつた積りであつたので、ばからしくなりその後は支払を拒絶した。

この裁判例では、不倫慰謝料請求ではなく、原告が不倫相手に貸したお金が争点になっています。

裁判所は、これは不倫関係であるからこう、などと判断する機関ではないのです。そうでなくて、原告の主張した事実関係や請求に理由があるものか、を判断する機関なのです。

2 裁判所の判断

右認定によれば、昭和五一年三月ころ原・被告間に少くとも被告が受領した金員合計一二八万円を、毎月五万円宛原告に返済する旨の合意が成立したものというべく、原告の訴旨も右合意に基づく請求と認められるところ、被告は右返還の合意は不法原因給付の返還を認める結果となるから、公序良俗に反し無効である旨主張する。 

被告は、不法原因給付、を請求を認めないことを根拠としています。不法原因給付とは、民法708条に定められています。

簡単に言うと、お金などを受領しても、法に反する形で移転した財産であれば、返せ、などの権利は発生しないとするものです。

裁判所は以下のように判断しています。

そこで考えるに、前記認定に徴すれば、原告が合計一二八万円を交付したのは、肉体関係にある被告の歓心を買う趣旨にあつたことは推認に難くないところがあるが‥(中略)‥そして原告は、被告経営の「初恋」にしばしば訪れ飲酒したが、老令でかつ糖尿病であつたから、口先は免も角、本心では継続的、恒常的に被告と情交関係を持ち、その経済的援助をする、いわゆる妾として世話するまでの意思はなかつたものと認められる。

 してみると、本件一二八万円の出捐は情交関係にあつたことが、その動機の一因をなしているとしても、不倫な関係を維持するため原告より被告に贈与または貸与されたとまでは言い難く仮りに不法原因給付としても、被告の積極的な働きかけによるものであり、また不法原因給付とされる目的物について契約を解除して交付されたものの返還の契約をすることは有効と解されるから、前記返還の合意が無効である旨の被告の抗弁は採用しない

3 若干の検討

本件の判示内容は、お金の交付の趣旨を、「妾」を持つ意味ではなかったことを指摘しています。

一方で、肉体関係にある被告の歓心を買う趣旨にあつたことは推認に難くないところがあるとも論じています。仮に、肉体関係にある被告の歓心をえるため→金銭の交付に至っていたのであれば、不法原因給付となる可能性はあるでしょう。

特に、本件の事実関係は、不倫関係の断絶ののちの貸金返還請求であることを判断していません。

では、逆に、縁の切れ目=金の切れ目であったら、どうだったのか。この場合には、不法原因給付であると考えられる可能性は高かったのではないでしょうか。





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