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不倫裁判百選87単なる友人関係であれば,深夜始発電車を待たねばならない状況にあったとしても,駅周辺の宿泊施設等を確保する?

0 はじめに

妻や旦那が、不貞行為をしたことを自白する、認める音声などの証拠は、どの程度不貞行為の証拠となるのか?

一方が自白しただけでも、これを重視している裁判例をご紹介いたします。しかも、いったん自白を認めたあとは、なし崩し的にメールなどの記載を引用し、不貞行為の存在を認めています。

1 事案の概要と当事者の主張

東京地方裁判所において平成25年10月25日に出された裁判例は、不貞行為によって夫婦関係が破綻したのか、それとも夫婦関係が破綻しているところに不貞行為があったのかが大きな争点になっています。

今回、原告(男性)と被告(男性)で、どちらも結婚しています。P3は、原告の妻で、被告と不倫した女性です。

【原告】
ア 被告(男性)は,平成24年4月14日,P3(女性)ほか5名と東京都渋谷区αで飲み会を行った後,P3は被告の自宅に宿泊し,性交渉を持った。その後,被告とP3は,同月17日,21日,24日,同年5月2日,6日,8日にも性交渉を持った。
イ 原告(男性)は,P3(原告の妻)の行動に不審を持ち,同人の友人にその旨相談したところ,上記のとおり,P3が被告の自宅に宿泊したことが明らかとなった。そこで,原告は,同年5月末頃,P3に被告との関係を問い詰め,かつ,被告に対し,代理人弁護士を通じて,P3との交際の中止を求める通知を出すなどした。原告は,被告に対し,不貞行為に基づき損害賠償請求をすることにしたところ,P3は自宅を出て実家に戻り,原告と別居状態となった。
ウ 以上のとおりであり,被告とP3は同年4月14日性交渉に至った後も更に同行為を重ねた。原告とP3の夫婦関係は円満であったが,上記不貞行為により,平成24年5月末に同関係は破綻した。

【被告】
ア 被告が,原告主張の飲み会に参加したことは認める。同飲み会において,P3は,出席者全員の前で,原告が過去3年にわたる婚姻生活において不誠実であったことなどを話し,既に離婚を決意していること,その旨原告に伝えていることなどを告白した。深酒に及んだP3は,終電を逃してしまったが,タクシーに乗って遠方(埼玉県入間市)の自宅に戻ることを望まなかった。
被告は、αに近い家族同居向けの公務員官舎に単身で居住していたことから,P3が話した夫婦の状況に同情し,P3を自宅の空いている部屋に泊めることにした。しかし,P3は翌朝早々には被告の自宅を出ており,その間,性交渉などなかった
イ その後の平成24年5月頃までの間,被告は,原告とP3の夫婦関係が完全に破綻している旨のP3の話を信じて,P3と電子メールを交換したり,食事をするなどしたが,この際もP3との間で性交渉はなかった。 
ウ 被告は,原告がP3と被告の不貞を疑っていることなどを聞いたことから,同年5月下旬頃までに,P3との関わりを絶った。

3 裁判所の判断

‥(中略)‥
(3)被告の同僚であるP4(以下「P4」という。)は,平成22年12月頃,行きつけのαにあるスナックに一人で来ていたP3と知合い,その後P3といわゆる飲み友達の関係を続けていた。P4は,平成24年1月頃,被告と飲んでいる店にP3を誘い,同人を被告に紹介して3名で食事をするなどした。被告は,この際,P3に配偶者がいることを知った。(乙6~8,証人P4,証人P3,被告本人,弁論の全趣旨)
(4)P3は,P4や被告と会って酒を飲んだ際には,原告に対する愚痴を言い,P4や被告らがそれをなだめた。P3の愚痴は,子どもが欲しいのに原告がセックスレスで協力してくれない,P3がガンに罹患しており子どもができるかどうか不安なのに原告にその理解が全くないなどというものだった。その上で,P3は,P4や被告に対して,男として原告の態度をどう思うかなどと尋ねるなどした。(乙6,証人P4)
(5)被告は,平成24年4月14日(土曜日),P3ほか5名と東京都渋谷区αのイタリアンレストランで食事をした後,午後9時頃からカラオケスナックで二次会を開き,翌同月15日午前1時頃まで酒を飲むなどした。その後,蕎麦屋で蕎麦を食べた後,午前3時頃までに皆帰ることになり,P4と同じ官舎に自宅のある被告は,αで始発電車を待つというP3と別れて,P4とともに徒歩で自宅に向かった。(乙6~8,証人P4,証人P3,被告本人)
(6)ア 次いで,被告及びP4が自宅に到着する頃までの間に,P3から連絡を受けた被告は,被告の自宅にP3を宿泊させることとして,自宅前でP3と合流し,P4と別れて,P3と自宅官舎に入った。その後,被告は,自宅において,P3と性交渉を持つに至った。(甲10,乙4,乙6~8,証人P4,証人P3,被告本人)
イ 被告とP3との間において不貞行為があったかについては争いがあり,被告及びP3ともにこれを否定する。

(ア)しかし,P3は,平成24年6月16日,自宅における原告との会話の際に,同人に対し,被告との性交渉の存在を認めている(甲10,乙4)。
 この点につき,P3は,原告(夫)から厳しく問い詰められたことから,事実でないのに被告との性交渉の存在を認めた趣旨の供述をする。しかし,上記証拠によれば,原告とP3の上記会話は,両名が対等の立場で話し合ったもので,原告が一方的にP3を問い詰める状況にはないものというべきであり,P3は,同会話において,被告との性交渉の存在を否定することが十分可能であったと考えられる。
にもかかわらず,P3は,被告との性交渉を認めており,また,原告から問われてもいないのに,P3自ら,「私が,その,他の人とHをしたっていうこと許してくれなきゃ,私も,一生許さない。」(甲10の10末尾~11頁冒頭))など,被告との性交渉の存在を前提とする発言を複数回行っている。以上によれば,事実でないのに上記性交渉の存在を認めたとするP3の供述は信用できず,むしろ,P3は原告との間の上記会話において,事実を語ったものと認められる。
(イ)被告とP3とは,同人が被告の自宅に宿泊して以降,急速に親密となり,同年5月頃までの間,二人で食事やドライブに行くなどしたこと,この間に両名で送受信された電子メールの内容をみると,「P3にはセルライトなんか無いでしょう。脂肪が割れる奴でしょう〈中略〉今度,よーく見てあげるね」(甲8の番号(以下,本項において同じ。)2),「僕(被告)もP3と離れたくない。」(32),「僕的には,P3は最高に良い女だと言っています。」(47)」,「(被告)には毎日会いたいな。」(48),「私もきちんと別れて居ないから何とも言えないけど,(被告)の事,大好きです。」(69),「(被告)はP3を待っているからね P3大好きだから。」(70),「ついでにKissしてもらわなくちゃ」「ついでに,じゃあなく,もれなく付けましょう」(75,76),「抱っこもしてくれる?」「もちろん,もれなくついてきます」(77,78)など,宿泊を契機として相思相愛の関係となったことが明らかであり,ひるがえって両名間において宿泊時に性交渉が存在したことを窺わせる。被告は,上記電子メールの内容は,悪ふざけの度が過ぎたもので真意ではない趣旨の供述をするが,この間に両名が頻繁に会っていたことなどを考え合わせると,上記被告の供述は信用できない(P3自身,原告との会話の中で,上記電子メールの内容からしても被告とP3の間に性交渉があったと言われてもやむを得ない旨発言している(甲10の6頁)。)。
(ウ)P3が被告の自宅に宿泊するに至った経緯をみても,その後の性交渉の存在を否定すべき事情は見当たらない。すなわち,P3は,飲み会が終了して皆が解散し,いったんは被告らと別れたにもかかわらず,直後に,被告らに連絡をして,結局,被告の自宅に宿泊するに至っている。被告やP3が供述するように,同人らが単なる友人関係であれば,P3が深夜始発電車を待たねばならない状況にあったとしても,P5駅周辺の宿泊施設等を確保するものと考えられる(被告は,P3に夫がいることを知っていたのであるから尚更である。)。にもかかわらず,P3は何らの躊躇なく被告の自宅に宿泊することにし,被告もこれを許したもので,かかる経緯は両名が互いに好意を持っていたことを推認させ,その後の性交渉の存在を否定すべき事情は見当たらない‥(以下略)‥

4 若干の検討

判決文は、P3が被告との不貞行為を認めた音声をきっかけとして、その後メールの記載を不貞行為ありき、で考えているように読めます。

そうだとすれば、音声の内容や録音状況に関しては、詳細に見なければならないと思われます。音声の内容をきいて、原告とP3の上記会話は,両名が対等の立場で話し合ったもので,原告が一方的にP3を問い詰める状況にはないとまで言い切れるのか?は疑問が残ります。

とくに、同会話において,被告との性交渉の存在を否定することが十分可能であったともいいますが、裁判の現場では不利益な事実を自らが認めてしまっていると、特に不利に扱われる傾向にあることがよくわかります。にしても、単なる友人関係であれば,深夜始発電車を待たねばならない状況にあったとしても,駅周辺の宿泊施設等を確保する?とまではいいすぎではないか‥?



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