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不倫裁判百選80「昨日は愛し合ってよかったわ」

0  はじめに

不倫裁判百選では、メールやラインなどのやりとりでも、請求が認められる件を多く扱ってきました。「昨日は愛し合ってよかったわ」と記載したメールは、決定的なものになるのか?

1 事案の概要

東京地方裁判所において平成28年10月28日に出された裁判例は、請求を棄却しています。

慰謝料請求ができるケースとできないケースは何が違うのか?

(1) 原告とAは,昭和60年11月に婚姻し,両者の間には,昭和61年○月に長女が,昭和63年○月に長男が,それぞれ出生した。(甲1)
(2) 被告は,平成12年ころ,Aに対し,「昨日は愛し合えてよかったわ」と記載した電子メールを送信した。(甲6,原告本人,被告本人)
(3) 被告とAは,遅くとも平成26年の年末ころから,被告の現住所において同居している。
(4) 被告は,平成27年6月30日,原告から,不貞行為に関する慰謝料として500万円の支払を求める旨記載した通知書(甲2)を受領した。被告及びAは,同年7月1日,原告訴訟代理人弁護士と面談した。
 当時,原告は50歳,被告は52歳,Aは51歳であった。(甲1,5)

2 争点と当事者の主張

(1) 争点(1)(不法行為の成否)
 (原告の主張)
 ア 原告は,平成12年ころに,Aの携帯電話を見て前提事実(2)の電子メールを発見し,被告がAと不貞行為に及んでいることに気付いた。
 イ Aは,平成20年に家族で転居した以降,完全に自宅に寄り付かなくなり,被告の現住所において,被告と同居して,不貞行為を継続している。
 ウ 原告とAは,平成26年の9月又は10月までは,子やペットのことに関して連絡を取り合っていたほか,原告の誕生日に集まることもあり,そのころまでは,両者の婚姻関係は円満であった。
エ Aと不貞行為に及んだ被告の行為は,原告に対する不法行為となる。

(被告の主張)
ア 被告がAと肉体関係を持った事実はない。
イ 平成20年以降に,ホームページの作成又は管理の作業のために,Aが被告の自宅兼仕事場である被告の居室に出入りしたことはあったが,仕事をしていただけである。同居の事実はなく,肉体関係もない。
 ウ 被告が,平成26年の年末以降,Aと同居しているのは事実であるが,原告にマンションを引き払われて住む場所もなく,体調不良であったAを不憫に思い,友人として,体調が回復するまで住居を提供しているにすぎない。また,原告とAとの間においては,その時点において離婚に向けた話し合いが進んでおり,夫婦として修復が不可能な状態に至っていた。
エ したがって,被告に不法行為は成立しない。

3 裁判所の判断

実は本件では、メールの記載をもってしても、不貞行為を認めていません。

(1) 前記認定事実を踏まえて,まず,平成12年ころに,被告がAに対して「昨日は愛し合えてよかったわ」と記載した電子メールを送信した時点(認定事実(4))において,被告がAと肉体関係を持っていた事実の存否について検討すると,当該電子メールの記載内容自体が多義的であり,ふざけ合って送信していたという被告の弁解(被告本人)も一概には不合理と言い切れない上,ほかに両者の間において肉体関係が存在したことを推認させる客観的な証拠は何ら存在しないから,当該時点において肉体関係が存在したと認めることはできない。
  (2) 次に,平成24年ころにAが居住する部屋を引き払った以降については,Aは,被告の居室において夜を明かすこともあったのである(認定事実(10))から,両者が被告の居室において肉体関係を持っていた疑いも払拭し切れない(なお,平成12年ころ以降,この時点までの間に,両者が肉体関係を持っていたことを推認させる事実や証拠はない。)。
 もっとも,Aは,平成12年ころからは外泊をすることが多くなり,平成20年3月ころからは全く原告宅に宿泊していなかったのである(認定事実(5),(8),(10))から,原告とAとの婚姻関係は,形骸化が進行しており,Aが原告宅に全く宿泊しない状態が4年程度にわたって継続していた平成24年ころの時点においては,もはや修復が著しく困難な破綻状態に至っていたとみるべきである。この点,これほどの長期間にわたって別居状態が継続することは,夫婦関係の維持又は継続において重大な支障となる事情であるから,Aが,日中に原告宅を訪問したり(認定事実(10)),平成26年10月までは原告に生活費を渡したりしていたこと(認定事実(13))などを考慮しても,前記の認定が左右されるものではない。
 そうすると,仮に平成24年ころ以降に被告がAと肉体関係を持った事実があったとしても,それは原告の権利を侵害するものではないから,違法性を欠き不法行為とはならない。

4 若干の疑問

ちょっと無理がある判断ではないか?と考えています。

まず、判決文は「当該電子メールの記載内容自体が多義的であり,ふざけ合って送信していたという被告の弁解(被告本人)も一概には不合理と言い切れない」と指摘するものの、他に肉体関係が存在する証拠がないと言い切ります。

確かに、多義的ではあるが、愛し合えてよかった、とは、若干一義的な要素もあるのではないか?と思われます。そのうえで、「次に,平成24年ころにAが居住する部屋を引き払った以降については,Aは,被告の居室において夜を明かすこともあったのである(認定事実(10))から,両者が被告の居室において肉体関係を持っていた疑いも払拭し切れない」とまで指摘しつつも、なお,平成12年ころ以降,この時点までの間に,両者が肉体関係を持っていたことを推認させる事実や証拠はない」と論じ、やはり他の証拠の不存在に言及しています。

不貞行為の証拠を積み上げるなら、直接証拠として、ある意味きわどい動画を用意する必要が生じましょうが、これは至難の業です(ときおりありますが・・)。

さらにいうと、愛し合えてよかった、同じ屋根の下で夜を明かした、ここまでの事実がそろえば、不貞関係の存在を認めることはできそうであるが・・さらに、「もっとも,Aは,平成12年ころからは外泊をすることが多くなり,平成20年3月ころからは全く原告宅に宿泊していなかった」とまであると、家に戻っていない。この事実こそ多義的であるが、それこそ、被告とAが愛し合っていた?可能性は高いのではないか・・最後に、判決文は

ふざけ合って送信していたという被告の弁解(被告本人)も一概には不合理と言い切れない上,ほかに両者の間において肉体関係が存在したことを推認させる客観的な証拠は何ら存在しないから,当該時点において肉体関係が存在したと認めることはできない。


やはり証拠に結びつけて本件を理解しています。過度に証拠に結びつけて考えてしまうと、土台、不貞行為の立証は不可能になってしまうのではないか・・?


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